ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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グノーシア小説1作目。

 あまりにゲームにハマりすぎて創作意欲がふつふつと沸いて書いてしまいました。


 セツとレムナンがゆったり出てくるだけのSSです。
 レムナンの過去がほんのりネタバレがあります。

 カップリングではありません。せっちゃん汎だし。


 では、「私と君のオルゴール」です。

19'8'27 加筆修正
20'8'12 拍手コメント返信
20'9'28 拍手コメント返信





私と君のオルゴール



 頭の端に居座り続ける激しい感情に、セツは頭を押さえた。
(やっぱりこれは慣れないな)
 最初の頃こそ完全に振り回されていたが、何回か繰り返している内に少しずつ思想を制御出来るようになってきていた。
 ――人間を消して異星体グノースの元へ送り出す。それが人間を救うことだ。
 制御出来てきたと言っても、この衝動に快楽と眩暈を覚えるのはどれだけ繰り返そうが治らなかった。
 一体どれだけこの船の乗員を消し去ったのか。両手両足で数えられなくなるまで数えていたが、虚しさしか残らなかったし、同じ船に乗る彼らの顔を見るのが耐えられなくなって止めた。まだ自分だって人間でいたい。
 セツが無機質な廊下を歩いて食堂の前を通り過ぎようとしたところで、不意に耳にその音が届いた。
 聴いたことの無い音色だった。高さの異なる金属音がゆったりとした旋律を作っている。金属音と言っても決して不快な音ではなく一つひとつが丸みのある音をしており、余韻が逆に心地良かった。
 懐かしくも聴こえるその曲に目を閉じかけた時、音楽はゆっくりと速度を落とした後に唐突に途切れ、沈黙が訪れた。
 何が原因なのかと食堂を覗き込む。セツは積極的に未知の事象には、たとえ小変な出来事であっても首を突っ込むようにしてきた。ループの謎、グノーシアの謎……何がきっかけで解明されるかが判らないのだから。
 覗いてみたは良いものの、その存在を認識するのに少しの時間が必要だった。それほどにその人物の存在は希薄で捉えにくかった。壁の色と同じ色をした白髪の髪が軽く揺れる。自分よりも大きなはずの背中は、しかしいつも丸まっていて正確な身長を把握している者はいないだろう。その背中の向こうで彼は何やらこそこそと手を動かしていた。
「レムナン、それは何?」
「ひ、」
 口元までを覆った少々不恰好なフードの向こうから若干くぐもった声が漏れ、彼の手に持ったドライバーが鈍い音を立てて飛ぶ。テーブル、続けて椅子、床と派手に回転しながら落ちて、自分の靴に当たって動きを止めた。
「ごめん、集中しているところ話しかけてしまって」
「い、いえ……すいません、僕、その、全然、気付かなくて……ごめんなさい……」
「突然話しかけた私が悪いから、レムナンが謝らなくても」
「……すいません」
 これ以上は際限なく続くような気がしたので、セツは足元に転がったドライバーを拾い上げながら、
「隣、良い?」
 口調を和らげドライバーを差し出した。彼の正面に座るのが一番近いにも関わらず、わざわざ彼の隣を指す。
 こくりと頷いてくれたので、セツは彼の右隣にそっと腰を下ろした。ここならば目を合わせて会話する必要も無いし、声が小さくても聞き取れる。
 彼は目を合わせて話す事をあまりしないし、揚々と喋るところも見たことが無い。別のループでの彼から聞いた話によると、彼は言葉に出来ないような酷い虐待を受けていた事があったらしい。人に対して恐怖心があるのはその後遺症なのだろう。
 事実、隣に腰を下ろしたのは良いものの、セツが何もアプローチをしなければ、このまま彼の手元の作業を眺めているだけで空間転移の時間になってしまう可能性があった。ただ、席を譲ってくれたということは嫌われてはいないようだというのは理解は出来たので、セツは驚かせないように作業が一息ついたところで口を開いた。
「さっき廊下で素敵な音が聴こえたんだけど、えっと、この箱から?」
 レムナンが触っているのは手にすっぽりと収まるくらいの硝子の箱だった。ライトブルーといった澄明な色を持ったその箱は蓋を開けると、不規則に棘の付いた円柱の金属物とコームの歯を並べたような、これまた金属の細い板がずらりと鎮座している。箱が鳴る、といえば軍用の通信機が真っ先に浮かぶが、今の時代こんな大仰な通信機なんて見たこともない。
「これは、オルゴール、って言って……楽器、でもありますし、絡繰りの一種、なんです」
「オルゴール? 初めて聞く……」
 自分の頭の中の辞書には無い単語だった。音楽は軍の音楽隊で奏でられるような士気を上げるための行進曲か、擬知体が即興で奏でる音楽、くらいしか耳にしたことがない気がする。思えば音楽について意識して育った覚えが無いから、もっと聴いているのかもしれないが、記憶に残っているものは無かった。
「そう、ですよね。少し……いえ、かなり……前時代的な物、なので……」
 自分も初めて見ましたし、とレムナンは独りごちに呟きながらオルゴールにそっと触れる。彼の言葉はたどたどしいが、中音域で声量も通常会話が出来る程度にはある……のを彼の首元のフードが少し不明瞭にさせているくらいで、決して聞き取りにくいわけではない。
「どうやって音を出すの?」
 先程から気になっていた純粋な疑問をぶつける。
「そう、ですね……」
彼はオルゴールを片手で押さえつけながら、箱の外部に取り付けられた丸く削られた金属板を掴みぐるりと半回転させる。手で叩いて鳴らすのかと漠然と考えていると、なんとレムナンが手を放した瞬間に、先程廊下で聴いていたあの音が奏でられ始めた。
「わ、勝手に鳴った」
 音だけでは無く、見た目の変化もあった。オルゴールの中身の半分を占めている金属の柱が回転している。円柱に刺さっている突起物が隣に寝そべるコームの歯のような板にぶつかると板がしなって、その変形に抗うようにまた板が元の位置に戻る。光景も不思議だったが、それ以上に不思議だったのは目の前の物体は誰も触っていないのに、通信しているわけでもないのに、独りでに音楽を奏でていることである。
「ここ、」細く角ばった、けれど少し作業で黒ずんだ指先で箱に収められた円柱を差しながら心持ち声のトーンを上げて、「ゼンマイ、を巻くと、シリンダーが回転して、この飛び出てる針、のような……これが、この板にぶつかって、板が元に戻る時に……鳴るんです」
 なるほど、改めて良く見ると確かに音の出るタイミングと金属板がしなって元に戻るタイミングと同時である。金属板によって音の高さが違うのは何故だろうと目を凝らすと、根本の切れ目が不自然に斜めへと走っていることで少しずつ板の長さが違うらしいのが確認できた。
 そうして眺めている間に、オルゴールは少しずつ拍子を落としてまた音が鳴り止む。
 そっと訪れた静寂に、セツは溜め息を吐いた。廊下を歩いていた時までは眩暈がしていてロクな考え事も出来なかったが、今は多少ではあるが心臓が脈打っているのを穏やかな気持ちで感じることが出来る。
「私は音楽に疎いから外れた事を言うかもしれないけど……凄く落ち着く音色だね。このまま目を閉じたら眠ってしまいそうだ」
「そう、ですね。僕もあまり……音楽に、詳しくは、ありませんが……これもオトメさん、の物、ですし」
 ぽつぽつと抑揚のない声で語ってくれた彼の話によると、オトメが自分の持ち物であるオルゴールを鳴らそうとしたらゼンマイが動かなかったため、その原因究明をレムナンが頼まれたということだった。
「少し、ここが錆びていたので……落としたら、動くようになりました」
「凄い、こんな細かいパーツ」
 指を指していた歯車は指の腹に乗せたが最後、ふっと息を吹きかけたら飛んでしまいそうな代物だった。飛んでいった場合は探知機でも使うかこの船を管理しているLeViに探してもらうことになるだろうと思われるので、触る勇気はほとんど無い。
「私も鳴らしてみても良い?」
「はい」
 硝子の箱に手を伸ばすとひんやりと冷たい。レムナンの手に包まれていた時よりも心持ち大きく見えるが、繊細な物であることに変わりはない。壊さないようにしながら、ゼンマイを回してみる。
 しかし目の前のオルゴールが音を奏でる事は無かった。箱の中で時が止まったように――奇しくもこの時セツの脳内では人間をグノースの元へ送り出す時に至る無音の空間を思い出した――、一切の装置が動かなかった。
「あ、あれ、鳴らないな……うそ、まさか壊した? せっかくレムナンが直したのに?」
 慌ててライトブルーの箱からさっと手を引いて、レムナンに視線を送る。相変わらず彼の目線は喉元辺りに向いて交わることは無かったが、「せ、セツさん、お、落ち着いて……」とまごつく自分を、彼なりに冷静に押し止められた。
「で、でも」
 こちらの台詞を遮るように、レムナンはぽつりと言葉を落とした。
「その、蓋を開けてみて、ください」
「蓋?」
 確かにオルゴールの硝子の箱には蓋があり、今は閉じてしまっている。一辺を蝶番で繋ぎ止められているそれをセツは恐る恐る持ち上げる。するとつい先程聞き惚れていた音色がまた何事も無かったかのように流れ始めた。
「蓋が開いて鳴るのか」目の前の早合点な人間などまるで顧みる事も無く、オルゴールはただただ自分のペースで音を奏でている。その様子を見てセツは胸を撫でおろした。「壊してなくて良かったー……」
 我ながら力無い声を漏らしていると、レムナンが何故か大きく顔を逸らした。一瞬何かの発作かと緊張したが、肩を小さく揺らす様を見て一つの結論に行きついた。
「あ、レムナン、今もしかして笑った?」
 頬を膨らませていると、完全に白髪に隠れて見えないところから、
「す、すいません」
 などと謝罪の言葉を言うので、すぐさまセツは口の端を上げて首を振る。
「別に怒ってないよ。必要以上に慌ててしまったのは確かだし……ふふっ、私の慌てよう、確かにおかしかったよね」
 二人の笑い声が食堂に控えめに響いた後、LeViから空間転移の時間が近付いてきたため自室へ戻るよう促すアナウンスが流れた。
 部屋に戻ろうかと席を立とうとした時、レムナンは手元のドライバーを弄りながら口を開いた。
「グノーシア騒ぎで、凄く、不安なんです。こう、して……手を、動かしてないと、気が紛れなくて……。多分、僕だけじゃなくて、他の皆さんも、そうだと、思うんです」
 普通の人の倍程の時間を掛けて、彼は喋った。その声色からは先程までの固い印象は少々薄らいでいるように感じた。その一言一言がそっと胸の内に広がっていく。
「セツさん、と、お話ができて良かったです。一緒に、終わらせましょう」
 相変わらず彼と自分の目線は交わる事は無かったが、それでも最初に話しかけた時以上に彼の態度は好意的に感じる事が出来た。
「……ああ、そうだね」
 セツは自分から、彼を視界の外へ追いやり返事をする。
 今回の自分に取って終わらせるとは、目の前の彼を含めた人間をグノースへ送る事なのだ。きっと、彼の終着点と自分の終着点は違う。
 あの不安定な時の空間で彼をグノースの元へ送れば彼は幸せになる。だが、彼は、まだ利用出来る。自分を信頼してくれている。
 そんな思考が自分の内から染み出てくるのを、自分には止められなくて。
 そう考えてしまう自分を、何処か受け入れている自分もいて。
 そんな自分が、嫌になる。


+++++


「オトメさんが……!」
 レムナンの静かな驚きは、部屋に霧散する。彼の手の中のライトブルーの硝子の箱が指先が白くなる程握りしめられ、ポケットに仕舞われるのを見ていたのは恐らく自分だけだろう。
 この議論の場は昨日と比べて二人の人間がいない分、広く感じる。この光景を何度見てきたか、という思考が一瞬巡ってすぐに端に追いやった。
 誰も口を開かない重苦しい空気を払いのけるように、セツは手を挙げた。
「私が……」
 まだ、人間であるうちに。
 自分は必ず謎を突き止めたい。
「エンジニアだ」
 向かい側にいたレムナンがほっとしたように薄く笑んで、自分もそっと微笑み返した。
 まだ、人の笑顔で自分が笑えるうちに。
 まだ、小さな出来事に感動できるうちに。





※ここから言い訳エリア
・セツとレムナンの喋り方が難しいです。こんなんじゃねえよ!ってオルゴールぶん投げられそう
・オルゴールは手元にあったオクトパストラベラーのオルゴールを参考にしたらしいですよ
・ゲームは重たい気分にならないようにそこそこ明るめな雰囲気を作ってるのに、この小説でどんより重たくなってしまいました
・レムにゃんが役職持ちかどうかはご想像にお任せします
※ここまで言い訳エリア


 最近二周目でストーリー全台詞回収を目指し奔走しているヴィオと申します。
 ようやっと全員出てきたところまで来ましたが、回収できてる気が全くしないのは何故でしょうか……どっかに穴がありそうで……。


 今回心がけたのは、「ゲーム内イベントみたいな雰囲気で」っていうこと。
 いやー、自分が小説を書き始めるとあれもこれも盛り始めて最終的に超長くなっちゃうわけですが、今回はすっぱり!短く!お気軽に!文庫本10頁くらいで!読める!を追求。めづかれさん(グノーシアを作ったプチデポットのリーダー)にちょっと感化された、と思う。

 それでも書き始めたのは8月6日なので、なんと20日くらい経ってます。
 基本的には乱雑に会話を書いてから文章付け足すみたいなことしてました。


 自分はいつも小説書く時に、一番最初に手短にお話の展開を書くのですが、
 当初の予定では、

(ああやっぱり慣れないな)→グノセツが夜の散歩→食堂でオルゴールの修理をするレムナン→ちょっと落ち着くセツ→レムナンが消失しました

 となる予定でしたが、せっちゃんが突然何のいわれも無いオトメを消してしまいました。キュワ……。


 何故セツとレムナンなの?と言われそうですが。
 グノーシアのキャラは皆好きなのですが、中でも自分が一番好きなキャラであるセツとレムナンを絡ませたかっただけです。そう、俺得!ビバ俺得!ちなみにこの二人、作中だとジョナスも絡んだ三人での会話があったりなかったり。ただジョナス中心だったので、二人が絡んでたかっていうと……うん。


 まだまだグノーシアについては意欲しかないので、SSまた書くかもしれないし書かないかもしれない。
 またセツとレムナンだったらごめんなさい。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 もしよろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。

《執筆したグノ小説》
私と君のオルゴール(セツとレムナン中心のちょっと真面目なSS)
せっちゃん珍道中1 ~しげみち改造計画~(こんなことがあったかもしれないお話その1)
せっちゃん珍道中2 ~猫から繋がる絆~(こんなことがあったかもしれないお話その2)
彼女を知りたい蛾と、彼女を知る狂犬(セツとレムナン中心のちょっと真面目なSS)
せっちゃん珍道中3 ~グノーシア対策会議ババ抜き編~(こんなことがあったかもしれないお話その3)


>20'8'12 (名無し)さん 拍手コメント返信
 面白かったと言っていただけて作者冥利に尽きます。完全に自分の趣味と好みだけで出来ているものですので……最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

>20'8'28 とおりすがりさん 拍手コメント返信
 あわわわわわ……あまりの熱の入った拍手コメントにただただ感涙しております。面白かったと言っていただけるのが何よりの励ましになります、ありがとうございます!
 台詞も雰囲気も違和感ないと言っていただけて本当に嬉しいです……!台詞回収に四苦八苦していたのが昨日の事のようです。。セツとレムナンと、後、オトメにも!議論では優しく接してあげてください!

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