ポケ迷宮。
ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。
焔に沈むは罪か手向けか(2/2)
緑と茶の二色が大部分を支配している森の中に、唐突に石を重ねて築き上げられた砦が現れる。東にある街に向かう人物をある時は見守り、ある時は追い払うために建てられたはずの建物は蔦が絡まり苔があちこちに生えており、威圧感はとうに剥がれ落ちてしまっている。
六年前から使われていないらしい砦。それは盗賊に襲われている街を見捨てた前領主への複雑な思いもあるのかもしれないし、三つも砦が必要無いからと実用的な観点から捨てられたものなのかもしれない。ゼッタと仲間内で呼んでいるのは、その使われなくなった砦の一つである。
既にオブジェクトと化している砦は人の出入りは殆ど無い。殆ど無いと言うのは、旅人や傭兵、往来している商人がたまに休憩や雨宿りに使っているらしいからである。
一直線にここには来れなかった。時折矢を番えてはタクティクスカードの力を借りて雷を落として位置を知らせていた。実際ミゼルを追いかけてきた男はそれでだいぶ森の奥に引き込んで、今頃は近隣の集落辺りまで迷い込んでいるはずだ。
手にした弓を改めて握り締める。物心付いた頃から慣れ親しんだ感覚を確かめて砦にこっそりと近付いた。中から人の気配がしている。
ヒュイはもう辿り着いているのだろうか、と足跡を観察しようとし――
「――はだしのミゼル! いるのは解っている。手にしてる武器を捨てろ」
中から、声がした。またしても懐かしい響きを持つ二つ名を伴っており、自然と眉間に皺が寄った。
一方的な相手の脅しに答える気はまだない。弓と矢を手にしたまま砦の入口に足を踏み入れた。
砦に置かれた一番手前の部屋、割れた石壁の隙間から光が細く差し込んでいる。剣を手にした男が立っていた。蓄えた不精髭が角ばった顔に乗り、黄土色の刈り上げた髪が暗闇に浮かんで見える。顔に刻まれた皺が影を作り、鬼相を助長している。
男の側には不可解な絡まり方をしている蔦の塊があり、その中に埋もれるように人間の顔があった。巌のような顔が傾いて、それでも無邪気な表情を見せる瞳は完全に閉じてしまっている。
「ヒュイ!」
「安心しろ、気絶してるだけだ」
ミゼルはほぞを噛んだ。自分の打ち込んだ稲妻は、奴らの目をくらますことすら敵わなかったのか。
「もう一度言う。手にしてる武器を、捨てろ」
男は胸元から一枚のタクティクスカードをこちらにちらつかせた。無数の木の葉に埋もれ一部のように描かれている人物は樹木の精霊を象っている。森の中で大きな力を発揮するアイヴィウィップ……奴がミゼルにそのカードを使わないのは、ミゼルが男にカードを使わないのと同じ理由らしい。森の中を縦横無尽に駆け巡る狩人には、彼のカードは通じない。
だが、仲間のヒュイは別だ。
「解ったよ」
手にした弓と矢を足元に投げ捨て、腰元のナイフを真横へと投げ捨て、空になった両手を上げる。
「カードもあるだろ? それも出せ」
「はいはい」舌打ちを漏らしながら、懐に仕舞い込んだタクティクスカードを投げる。カードはヒュイと男の足元へと飛んでいった。「おっさんの狙いは何? オイラ、昨日の恨みならもう買い終えたと思ってんだけど」
「質問に答える前に、まずは俺の部下一人がてめえの雷にやられたんだ――その清算だ」
男の言葉を聞き終わるか否かで背中に強い衝撃を受けて、視界に割れた石畳が急接近する。前のめりに倒れる――咄嗟に両手をついて庇ったので顔は平気だったが、右掌に石の破片が突き刺さったらしく、痛みが走った。腰元に括り付けた矢筒から乾いた音を立てて矢が飛び出て地面に散らばる。
「無様だな、逃げ足が速いのがはだしのミゼルの特権だったろうに、こんなどんくさい仲間がいたせいでよ」
一方的な物言いに、ミゼルは鼻で笑った。
「女には力で膝尽かせようとして、男には卑怯なことして膝尽かせようとするアンタがそんな風に煽るのはどーかと思うけどな」
「てめ……っ!」
後ろから蹴り飛ばしてきた男がこちらの後頭部を床に押し付けた。足で乱暴に踏んできているらしい、というのはすぐに判った。それと、さっきまで追いかけっこして撒いたと思っていた男だってことも理解した。上手く撒けていなかった……その悔しさと痛みで歯の隙間から漏れる呻き声を抑え込んでいるうちに、「止めろ」と冷静な静止の声でようやく頭の重みが離れた。
「……わざわざその呼び名で呼んでるってのには理由があんだろ。オイラがスリしてた頃の恨みを返したいって話なら、そこのぐるぐる巻きにしてる奴は関係ねーよ」
頭の中でスッた奴らの顔を思い出してみてはいるが、思い当たる節はない。大体、自分が狙っていたのは当時弱い立場の人々を虐げていた貴族や富豪である。目の前の男が仮にそうだとして、ここまで着崩れして傭兵や賊といった肩書が似合うような風貌になっていたのであれば、自分の想像力で補うのは難しい。
しかし、その考えは次の言葉によって打ち消された。
「俺が用があるのはスリをしていた裸足の男じゃない」
「なんだって?」
「裸足だった時代はもう一つあんだろ? 仲間を大切にしていたグラムブレイズの一員さんよ」
「……」
この因縁のある街がそうさせているのか。
昨日の今日でその名前をまた聞くことになるとは、ミゼルには思いもよらなかった。
昨夕セリカに絡んでいた男。その時点で抱かれた悪感情は大したものではなかったのは間違いない。
しかし、相手方が用があるのはミゼルファミリーのミゼルではなく、グラムブレイズのミゼルであり、そうなると俄然話は変わってくる。
「覚えているだろう、この街でてめえのリーダーが首を撥ねた男を」
「……ああ」
胸元に受けた衝撃と頬に擦り付けられ床や砂が、血が上り始めていた頭を冷やしていく。段々と奴の思惑が見えてきた。
「てめえと同じ得物を持ってた」
「……アンタが持ってるタクティクスカードを持ってた」
「俺が言いたいこと……解るよな、はだしのミゼル?」
当時の賊を率いていた頭目は少なくとも二十代、今のミゼルとそう変わらないくらいだ。となれば、こんな質問を投げてくる五十代の男の正体は自ずと絞り込まれてくる。
「……お前みたいな目をした奴を知ってたよ。怨恨でしつこく追ってくる奴のことはさ」苦虫を噛み潰したような声が出た。「あんたの身内だったってわけだ、そのリーダーが」
確信めいたミゼルの呟きに、壮年の男は冷笑する。
「そうだ。俺はあの賊の長をしてた奴の父親だ」
父親――もうとうの昔に自分の手から零れた温もりが、どんなものだったかを思い起こすのは何時ぶりか。自分とは縁遠い言葉に、歪んだ口から出た声が冷え切った石床へ落ちる。
「けっ、そうかよ」
「てめえ、ベザの親父にその態度はなんだ!」
ミゼルを押し倒してきた男が鳩尾を蹴り上げた。瞬間息が詰まり、直後に堰を切ったように喉から荒い呼気が吐き出される。ヒュイが起きてたらさぞ情けない声で自分のことを呼んだに違いないと頭の片隅でぼんやりと考えた。自分を慕っている奴に不甲斐ない姿を見せなくて良かった。
ベザ、と呼ばれた男はどうやらグラムブレイズに対する積憤が相当あるらしい。
何か、時間稼ぎをしなければ。
痛みに耐えている振りをして瞼を震わせ、こめかみの辺りの感触を確認する。実行は……出来る。
(……賭けてみるか)
頭の中で最悪の事態を想定しながら、ミゼルは口を開いた。
「それで、グラムブレイズで片棒を担いでたオイラで憂さ晴らしでもしたいってことか?」
「言葉は正しく使え。てめえらが先に恨まれるようなことを売ってきた」
「はっ、売り込んできたのは賊の方だぜ。賊は街を焼いて破壊して回っていた。食糧や金目のものを奪うのに街に火を放ってた」段々話していて記憶が鮮明になってきた。現実の感覚が麻痺していくと同時に、あの街を裸足で走り抜けた記憶の中の痛みが増していく。「そのせいで家族も家も失った子だっていた。おっさんはその行動を正義だったとでも言うつもりなのか? オイラにはそれが正気とは思えないね」
床に突っ伏しながら喋っていると、それだけで体力を使う。床から体温も奪われる。行動を起こすのであれば早い方が良いのかもしれない。
だが、彼との会話を続けたい気持ちの方が自分の中では勝った。今の自分が抱いている思いの形を確かめたかっただけかもしれないし、過去の思い出に感傷的になりたかっただけかもしれない。
実際、目前の男ベザが話した言葉はあの時の記憶を鮮明に想起させるのに十分だった。
「あの街はあのクソな伯爵にへつらう者達が住んでいた。重税を課して、ただその金は自分の足元とあの街にだけ並べて、帝国での地位を上げるためだけに使われてた」
自然と、舌打ちが漏れた。
「本当に同じ言い訳すんだな、あの時の賊と」
「言い訳じゃねえ、事実だ」
無表情で言うベザの顔にあの時の頭目の顔が被って見えた。
捕らえられた頭目は山吹色のスカーフを首元に巻いた弓使い。その周囲を囲うグラムブレイズの中心人物達。その時の口論の内容も、ガーロット団長が首を落とした瞬間も――
+++++
朝飛び起きるなり、セリカは追われるように身支度を始めていた。
もう既に起きて身なりを整えていたエリシアは、二度寝上等の普段とはかけ離れた団長の姿に気圧されながら声をかける。
「姉さん?」
髪の毛を梳くと寝癖はあっという間に直って愛らしい顔が現れる。適度に焼かれた肌の上に髪の毛と同じ灰茶色の瞳が乗っている。
「エリシア、飯食べたら自警団の詰め所に行くよ」
「何か思い当たる仕事でもありました?」
彼女の唐突な提案にエリシアは冷静に返答する。傭兵たるもの、何処に美味しい話が転がっているとも限らない。それは商人や貴族だけでなく、その私兵団や自警団といった組織だった所もまた、同様である。
拠点に帰るまでの小銭稼ぎに確信したものなのだろうかと思ったが、一拍遅れて帰ってきた答えは曖昧なものだった。
「ある、かもしれない」
髪の毛を首元で一つで結わえ、普段から被っている黒のテンガロンハットを睨みつけながらセリカは言葉を落とした。普段の底抜けに明るい団長がしないような憂いを帯びた表情だった。
目的地である自警団の詰め所は街の南西の路地沿いにあった。
中に入るとカウンターの奥に十人程姿が見えた。皆が一様に黄緑色の腕章を付けている。朝から雑談を交えながら、ある者はパンを咥えながら、武器の手入れをしていて緊張感はあまり無い。部屋の奥には何十人もの装備品が用意されており、それが装備種ごとにきちんと整頓されている。窓際に張られた掲示板には何枚もの手配書が張られている。
全員がこちらを見るなり興味深げな視線を投げてきて、それから一番手前に座っていた三十代後半と思われる女性が席を立った。
「何か御用でしょうか?」
セリカは手配書を親の仇のように睨みつけている。
「ねえ、あの掲示板のさ、左下の紙ちょっと見せてくれない? それじゃない、その右の、そうそれ」何枚も肖像画が貼られた紙の中から、セリカが指定したものは文章しか書いていなかった。「これ、子供って書いてあるわ……エリシア、読んで」
団長は字の勉強中で満足に文章を読めない。エリシアは代わりに手にとって内容を読み上げた。
「人攫い……キッドナップ。旧帝国西部で街の子供を誘拐している男。年齢五十程で剣を背負い、橙色のスカーフを巻いている……この男の賞金、安くないですね」
「ねえ、お姉さん」セリカはカウンターに手配書を叩き付けた。「これ自警団協力で捕まえたら、こっち五割欲しいんだけど」
「五……!?」
顔すら描いてない手配書の人物の確保で人を借りてるとはいえ五割は少な過ぎる。通常の相場なら九割貰ってもいいくらいなのに。提案されている自警団の女性の方が危険性の高い物事なのかと面食らってしまっている。
「早くしないと今回の商品連れてかれるよ、行くの、行かないの?」
団長は気早く自警団の出入り口にいる。深く被った帽子で表情は見えないが、普段聞く彼女の声から考えられないくらい氷のように冷めていた。
「む、向かいます! ――おい!」
カウンターの女性は有無を言わさない迫力に押されつつも、セリカに負けず劣らず張りのある声を自警団員に向けて投げていた。武器を磨いていた一人の男の口からパンが零れ落ちて蚊の鳴くような声を漏らしていた。
詰め所の出入り口で背中を預けるセリカに、エリシアは問うた。
「姉さん……私の想像ですけど、もしかして昨日の男が?」
「……多分」
「依頼を断ったのって、これに気付いたからなんですか?」
昨夕からどうもセリカの様子がおかしかったのは、あの緑髪のチャラい男と話したせいかと疑っていたのだが、ベザとの話のせいなのだろうか。
「……多分ね、多分そう。そうよ、銀貨二十枚よりこっちのが報酬良いし、あのおっさん自体もマジで気に食わなかったし」
歯切れ悪く吐き捨ててセリカは帽子の鍔を上げる。そこには唇の端を釣り上げて確信を得ているように笑ういつも通りの団長の姿があった。
そこは昨日、セリカと街に入る前に通ってきた街道だった。クレドの森と呼ばれるとにかく樹と雑草で鬱蒼とした森で、手入れされている街道を除けば薄暗く深い混沌とした自然が続いている。迷い込んだら二度と出られないような気すらしてきて、幽霊の類が苦手なエリシアは正直言うとあまり長居したくはない場所だ。そこかしこから甘い香りが鼻孔を擽るのも、虚構の世界に誘われているようで気味が悪かった。
自警団五人はこの景色には慣れているようで、毅然とした足取りでセリカの後を追っている。
「ここ」
セリカが唐突に歩を止めて、道から外れた木々が行く手を遮っている方角を指差した。周囲の景色となんら変わりない。手入れのされていない雑草が身長と同じくらい伸びていて、林立している樹木は剪定もされておらず、枯れた枝や伸びきった蔦が絡み合っている。
「ほら、判んない?」
誰も明確に反応を示さないのでじれったそうにセリカは声をあげる。再度セリカの視線と指を追いかけ、
「……あ」
エリシアの呟きを皮切りに、自警団員達はそれに近付いていった。
巧妙に隠されたそれは二台の馬車だった。年季の入った馬車で、壁はその一部を継ぎ接ぎして原型を留めている。最も、普段から旅慣れている荷車であれば何の変哲もない、何処にでもある外観である。自警団員が念入りに二台の荷車を見回し、やがて一人の驚愕の声をあげた。
「人が……子供がいます……!」
自警団員の男が扉を開けようとして鍵に気付く。「良い、壊せ」隣にいた男が手にした剣の柄で扉を叩き壊した。
一台の荷車の中には子供が二人いた。もう一台の方は保存食が積み上げられているだけだったので、検閲を受けた時の対策に売買したものなのか、普段の積み荷はこちらなのだろう。
セリカとエリシアは自警団の感謝の言葉を浴びたものの、自分にはまだ腑に落ちないことがあった。
「でもなんでここに野ざらしに? 動くなら暗闇の中で……もっと朝早くでないと怪しまれます。道に出るのを見られるのはまずいですし。商人に化けるにしても出発少し遅いですよね?」
「……やっぱり」
「姉さん?」
得心のいった様子のセリカに声をかけようとした矢先、腹の底が揺さぶられるような地響きと轟音が聞こえた。その場の皆が咄嗟に振り返る。街路の方からだ。
「雷? でも……」
今日の天気は青々とした快晴、あれは自然の雷ではない。誰かが……弓矢使いが戦いの最中で起こす雷ではないか。
自然と、夕べに出会った青年のことを思い出す。若木のような黄緑色の髪をヘッドバンドで止めた、手荒な物言いを受けていた自分達を助け、セリカを泣かせていた青年のこと。
(まさか……)
エリシアの頭の中で一つ一つの散らばっていた単語が繋がっていく。弓使い、雷、剣士、中年の男……。
「自警団! 三人ついてこい! それとお前は一番元気な方抱えて!」
「姉さん!?」
セリカが草むらを掻き分けて唐突に走り出した。突然の声掛けに互いに顔を合わせて様子を伺っていたが、詰め所のカウンター応対してくれた女性が走り出したのと自分が走り出したのが殆ど同時だった。
「こいつ、昨日の……」
街路に飛び出てすぐの所に一人の男が膝をついていた。昨日絡んできた中年の男の取り巻きだ。警戒して武器を構えながら近付くが、男は大きく動かない。苦悶に歪んだ表情で身体を痙攣させているのは正常とは言えなかった。先程の雷が正確にこの男を打ち抜いて、身体を麻痺させているようだ。
再度、覆い茂った森の奥から轟音と稲光が響いた。先へ行こうにも森の中に不要に入っては出れなくなってしまう。おいそれと追跡は難しい。
「待って、こっちに足跡が二つある」
自警団の女性が声を上げた。
指し示したのは西の方角、街路は更に森の奥へと続いていた。
+++++
「……まだそんなこと言ってるんだな、ベザ」
「あん?」
抵抗も無くミゼルの口から出たのは、男への軽蔑だった。
脳内に鮮明に浮かんだ六年前の街はひどく雑然としていた。規則的に配置されている通りには火事で無残な姿になった家の瓦礫が雪崩れ、食糧庫はひしゃげて中には煤に塗れた野菜の切れ端が残るのみ。ただその中身を奪うために盗賊は街を荒らし回り、火を放っていた。その横暴な振る舞いに街の人々が抗う様子も無かったのは、自警団が既に解散していたからだ。当然である、武器を持った集団に、武器も手にしたことのない人達が応戦したところで、結果は見えている。
六年前、実際に目撃したミゼルには、口が裂けてもあの街を襲った賊に非は無い、なんて言えないが、百のうち百、全てが賊が悪いわけではない、とは言える。それは貧困に喘ぎ、家族を亡くし、窃盗をしていた自分だってよく知っている。そうしないと今日の水も食料も手に入らない世の中だったから。
「当時の帝国は確かに腐ってたさ。どうしようもなかった。だから立ち上がった、だから戦ってた。戦う目的ははっきりしてた。守りたいものがあったんだ」
そしてそれは、あの時の頭目も同じだったはずだ。立ち上がった時は志があった。理念があった。
だが、グラムブレイズとは決定的な差がある。
それは戦うべき相手だ。
近隣の街を襲っていた賊は、あの頃に反旗を盾に煽っていたパンドラと、規模の差はあれど何も変わらない。
「もうグラムブレイズは無い、オイラ達を苦しめていた帝国は無い。ここで今、オイラを痛めつけて、それでお前は何かを守れるのか?」
ベザは瞳孔を大きく広げた。
「ああ、守れるさ。息子が殺され、塞いでた嫁は後を追うように死んだ。悪人のレッテルを貼られたままだ。村の奴らの中でも率先して陣頭に立つ、果敢で気兼ねのいい奴だった、ただそれだけで殺された息子の無念が浮かばれるもんだ」
……馬鹿らしい。
そう、自分なら切り捨てられる。
そのはずなんだ。
だって。
「死んだ奴に念なんて無い。正当化だ、そんなもん」
その理論に囚われて、信仰して、血戦へと赴いた人達を知っている。
その思考が間違いだと気付いた奴はどうなった。
その思考が愚かだと気付かなかった奴はどうなった。
「勝った方が正義になるんだからな、負けた方が振る剣が正当化と言われるのも仕方ねえ」
「仕方ないんじゃない、勝った負けたなんてどうでもいい。当たり前のことを言ってんだ……死んだ奴のために戦ってねえよ、お前は自分のために戦ってんだ」
腹の奥に抑え込んで、ミゼルはベザを睨め付けた。
最初は昨日再会した女に似ていると思っていた。自分には消化しきれない感情に振り回されていた彼女に。
でもどうしてだか、今は違う人物が重なって見えていた。一人の悲劇をきっかけに、一人の想いを火種に、走り続けた者達が。
「被害者の面して、言い訳しないと生きていけない、そういう目をしてるぜ」
ベザの濁った漆黒の瞳が大きく開いて、剣が振り上がった。同じ、いやそれ以上の速度を持って迫り、
……衝撃に、身が縮こまる。
耳鳴りのような余韻が頭蓋骨に何秒も残り続けた。
反射で引き締まっていた全身を緩めると、ベザの振り上げた白刃が目前で黴た石を削り、石床にぶつかって不快な音を立てているのみであった。幸いなことにミゼルのことはまだいたぶる段階らしく、何も出来ない惨めなミゼルに対してベザは無感情に見下ろしている。
まあ、確かに今の自分は笑えるくらい情けない。刀身に映り込んだ自分の顔は片頬に擦り傷があり、左の口の端から血も滲んでいる。昨夕に洗ったばかりの髪にも砂粒が混じり込んでいる。
状況は良くはならない。緊張感が続けば続くほど、糸を保ち続けるのは厳しくなってくる。冷え切った床の隙間に生えた苔を眺めながらミゼルは細かく呼吸する。血の味がした唾液を呑み込んだ。
「……被害者の面だと?」ベザはミゼルの言葉を受けて平坦な声で呟く。「まるで俺達が加害者でしかないと言ってるようじゃねえか」
「そうだよ。オイラはそうとしか言ってねえよ」
ずっと向けられていた敵愾心が更に膨らんで砦の中を満たしたのを感じた。ベザの銅鑼声が徐々に音量をあげていく。
「それを幸運な道を歩いてきたお前が言うのか! お前と俺達とで何が違う! 圧政に喘いで、それに抗って! 俺達だって家族を食わすために戦ってたんだ! だがお前達は成功して、俺達は失敗した、その差はなんだ!」
一息で吠えた男の言葉は、しかし風化した砦の壁に吸収されていった。荒い呼吸が砦内の沈殿した空気に溶けていく。
ミゼルは手をつき上半身を反らして男を見上げる。戦慄きで剣柄が震えている。
「それだよ」
……結局この男の論理は独りよがりに凝り固まってしまっていた。だからこそ自分のような因縁のある相手だけではない、昨夜のセリカに対するような無関係な人間にも攻撃的になるのだろう。自棄になっている、と言うのが正しいかもしれない。
「心に余裕があって周りが見えてたら間違いに気付く。でもアンタはそうじゃない、敵を作らずにはいられないって奴なんだよ。だから負けたんだ」
「このっ……ミゼルッ!!」
男が床に突き刺さった剣を抜こうとしたよりも早く、ミゼルは口を開いた。
自分の身に付けているもう一枚のタクティクスカードに神経を集中させて。
「時の移ろいに消えゆく罪の――」
しかし、ミゼルの詠じた声は、突如としてかき消された。
「――その悲痛なる想い、敵を貫かん!」
背後から突然、清澄な女性の声が響き渡る。途端、辛うじてついていた両手で支えていた上半身が石床へと落ちて、顎をしたたかに打った。それだけならまだ良い、「うおっあぶねっ!」ベザの手を滑り落ちてきた剣が不愉快な金属音をかき鳴らして石畳の上を跳ね回り、あわやミゼルの指か手でも斬りつけそうなところで止まった。
ミゼルが命の危険を感じている間に、砦の外から乱入者が現れた。足音から数は……四人か五人。
一瞬何が起きたか判らなかったが感じたことのあるこの感覚は、頭が働くよりも早く身体が理解した。自分でもベザでもない正体不明の乱入者がタクティクスカードを使った。対象者の力を奪うカードを利用して、場を制圧しにきたのだ。
膝をついたベザの周囲に男が二人、各々の武器を構える。後ろからは「てめえ、何しやがる!」とミゼルを突き飛ばした男がどうやら誰かに取り押さえられてるらしい声が聞こえてきた。
あまりに唐突な事態に情報を整理し尽くす前に、
「動くな、ベザ。つっても、ま、動けないか」
砦の出入り口から、先程詠じた声とは別の、張りのある女性の声が男を貫いた。うつ伏せになっている上に足元にある入口はミゼルからは見えないが、今の声は昨夕に会ったセリカに間違いない。
何故ここにいるのか、その疑念はセリカの次に発された言葉で掻き消えた。
「アンタ、ここらを騒がせるキッドナップでしょ」
「なんだって……!?」
ベザよりも早く、ミゼルが声を上げる。それはここ数日、ミゼル達が追いかけていた獲物に他ならない。それが本当だとしたら、自分が捕らえようとしていた人物に追われていた上に逃げようとしていたというまぬけな構図になる。
ベザは片膝をついたまま、脱力した拳を震わせている。
「……なんのことだ」
ミゼルとのやり取りがヒートアップする前と同じように平坦な、感情を除いてベザは切り返した。しかし、セリカも同様の口調で言い放つ。
「惚けるな。アンタの年齢、武器、態度、チームカラー、それと……今の話を聞いて判ったわ」
「俺には判らねえよ」
「そう? じゃあ、アンタ達が口を塞いでた馬車の中身にでも喋ってもらう?」
得意気にベザに宣言した後に、「ほら」と誰かに呼びかけるように声が続いた。馬車の中身……つまり今回攫われた子供をセリカは確保していたらしい。
「うん、あのおじちゃん……弟と一緒に、僕達を暗いとこに閉じ込めた人」
その一言が出てからは、実に手際が良かった。黄緑色の腕章を付けた人物、街の自警団の一人がベザを拘束し、手枷を掛ける。
ミゼルも立ち上がろうとするが足に力が入らず、もう一人の自警団員が抱え込むように起こしてくれた。このタクティクスカードにある力をここまで引き出した自警団の女性には関心するが、指向性の無さだけはこれからの特訓で培ってもらいたい。
昨夕ぶりにようやく互いに正面から姿を見た。取り押さえられた際にやや乱れた服の隙間から、彼の色彩の重い服装に不釣り合いな山吹色の布が見え隠れしている。居丈高な外面には変わりはなく、夜闇よりも深い漆黒の瞳はミゼルの顔を鈍く映していた。慨然や失念といった感情はとうの昔に煮詰まってしまっているようだった。残っているのは、尚も燃え尽きることのない憎悪だけなのかもしれない。
「ベザ」ミゼルは呼び掛ける。「俺達は成功者なんかじゃない。実際、新生帝国は崩壊した。かつての仲間もいっぱい死んだ。後悔だって失敗だってあるし、今だって迷ってるよ。でも、仲間達に恥ずかしくないように歩いてるつもりだ」
ミゼルは足元に舞い落ちたタクティクスカードをふらつきながら拾った。無数の木の葉に沈み込む気高い樹木の精霊が描かれている。それを掌で包むように胸元に当てた。
「……お前はあの街の慰霊碑を見たことがないんだな」カードを男に向けて差し出し、「お前の息子の名前も、慰霊碑に書いてあるんだぜ。オイラはこれからも、花を添え続けるよ」
自警団員に連行されるまでの短い間、ベザからの応えは返ってこず、拾い上げたカードを受け取ることもなかった。
+++++
「うわっ」
手持ちの荷物から適当に投げ捨てた包帯と薬草を、床に座り込んだ彼は受け止めきれずに膝の上に落とした。
「怪我がみっともない、さっさと隠せ」
「はぁ? もっと言い方あんだろ、矢面に立った人間に対して。しかもお前らのせいで首落とされそうだったし」
「首落とされそうになったのはセリカのせいじゃない」
飲み水の入った水筒も足元に転がしておいた。それ以上介入する気はないので立ち上がって壁に背を預ける。
「こういう時って女の子が世話焼いてくれたりするんじゃねーのかなー」
「セリカは安い女じゃないんで」
「ちぇっ、甲斐性の無い女」
ミゼルが膨れっ面で文句を言いながらも、水で傷口を洗い流す。その手付きは慣れているが、身体に刻まれてる細かい擦り傷に時々呻いていた。新緑の色彩を一処に集めて根元から毛先にかけて刷毛で伸ばしたような真っ直ぐな髪も、砂や苔で汚れてしまっている。
その様子を何もするまでもなくぼーっと眺めていると、
「それで?」
前の繋がりが全くない接続詞を投げつけられ、セリカは反射的にオウム返しをする。
「それでって?」
「ベザって男の話の続きでもしたいんじゃないかと思った」前腕に巻いた包帯を、もう片方の手と口で器用に縛り上げながらミゼルは言った。「セリカ、いつからかわかんねーけど、話聞いてただろ」
平然と言われてセリカは唇を尖らせた。
「それが判ってて挑発してたんだ? ダサッ」
「なんとでも言え。オイラの座右の銘は命あっての物種だ」
「ダッサ」
「そんな心を込めて二回も言うなよ! ……ってて」
大きく口を開けると擦り傷が痛むらしく、口の端を押さえて呻く。
「大体、セリカ達が来なかったら死んでたんじゃないの?」
「いやいや、オイラにはちゃんと秘策があったから。勝てない戦はしないんだぜ」
「バッカじゃない、強がり?」
「まあ、そうかもなー」
砦の壁に背中を預けながら、ミゼルはこちらを見上げた。青丹色の人懐こさもある丸い両の瞳は、昨夕のテーブルで気さくに話していたものとは違う、いくつもの戦地を駆けた人間の目をしていた。
「最初はさ、ベザがセリカに似てるって思ったんだ。あの頃のセリカに」
どきりとした。セリカも、同じことを思っていたのだから。
足跡を追ってあの砦に着いた時には、既に取り込み中だった二人の会話が聞こえてきた。
グラムブレイズとして戦っていたミゼルと、そのグラムブレイズに粛清された人物の親と。その対峙は、過去の自分に重なった。
それに、ミゼルのその姿にも。
こんな傷だらけになってまで敵意を剥き出しにした奴の真意を確かめようとするその行動を見て、セリカの胸にも感じるものはあった。
青年は動揺したこちらの様子を観察するかのように細めていた双眸に、改めて人懐こさを取り戻して笑った。
「でも話していて全然違ったよ。あの男は他人の感情を全部閉ざしてるから、だから誰にでも攻撃的だった。多分、いつかこうなることを、破滅を望んでた。少なくとも、オイラはあの頃のセリカとは違うと思ってるし、今のセリカとはもっと違うって思うけど?」
と、ミゼルは薬草を麻袋から取り出しながら言った。
この青年の思い通りに話が進むのが気に食わなくて、セリカは腕を組んで吐き捨てた。
「ただムカついたのよ。子供と大人を離ればなれにさせてるっていうのを見て」
「それ、人攫いだって聞いてオイラも腑に落ちた」
不愛想に彼は言った。聞いたところによると、ミゼルは正に賞金のためにあの男を追いかけていたらしい。それを知らずに接敵してた上に殺されそうにまでなっている事実に、さっきまで自己嫌悪に陥って嘆いていたのである。賞金もセリカと街……に住む子供達に入る手筈なので、ミゼルの手に入るものは何もない。
その青年は、でもさ、と話を継ぐ。
「始まりは一緒だったかもしれない。親がいないとか、金が無いとか。貴族が憎い、皇帝が憎い、何でもいい。でもそこから行動をどう起こすかなんてそいつ次第だ。相手を間違えちゃいけない、それはあの崖での団長との飛び込み事件の時からセリカは出来てんじゃねえの?」
「な、なによそれ……」
グラムブレイズという一団がまだ存続していた当時、相打ち覚悟で迫った攻撃に失敗し崖から落下した自分を、わざわざ追いかけてまで助けた物好きがいた。そいつはセリカの育ての親を殺した悪者で、だからセリカはその復讐に殺そうと追いかけ回してたのだ。
「言っとくけどね、崖に落ちたのは正々堂々受け止めなかったガーロットが全部悪いんだから!」
ガーロットは、自分に訥弁と話した。
傭兵業や盗賊まがいのことをしなければいけない奴がいる、そんな選択をしなければいけない世界を変えるまで、自分は死なないと。
そして。
『俺の戦いの目的が無くなった時、その時は俺の命をくれてやる』
げにその言葉を信じていたかは、正直のところ判らない。気を失った自分の怪我を治療したなんて恩着せがましいシチュエーションの中で絆されたんだと指摘されれば否定は出来ない。
でも実際に昨日より今日、なんてすぐに世界は変わらないが、ガーロットが……いや、ガルカーサが為した革命を兆しとして、良い方向に変わってきているのは間違いない。
「ふん、ざまあみろよ。あんな悪党捕まえて、ガーロットがやるべきだったことをセリカ様がやってあげたんだから、絶対あの世で頭擦りつけるくらい土下座しまくってるに違いないわ」
セリカが突然吐いた悪態にぽかんとしていたミゼルだったが、「はは、そうかもな」と意地悪そうに笑みを浮かべる。
「安心したぜ。セリカは前を向いて歩けてるんだなって。なんかずっと気になってたからさ」
「……ミゼルって、本当にグラムブレイズの人間なのね」
「は? ここまで来てそれは殺生な」
青年が非難を口にした拍子に、渡した包帯がミゼルの手から転がり落ちてくねくねと折り重なった道を作っていく。「くそっ、あの女、カード使うの下手くそ過ぎるだろ……」
セリカの足に包帯の束がぶつかって止まった。自警団員が使っていた力を奪い取るタクティクスカードの影響が残っているようで、中途半端に開いた手が震えている。
セリカは組んでいた腕を解いて、拾い上げる。冷たい石床に腰を下ろし、「ほら、腕」と薬草も半ば強引に奪いながら指示を出した。ミゼルには抵抗する力も無いからか、なんとも形容しがたい顔で絶賛作業中だった右腕を伸ばした。うつ伏せになった時に付いたらしい擦り傷が細い腕の内側にいくつも刻まれている。
血や砂は洗い流してあったので、自分のベルトポーチから金属製の容器を取り出した。蓋を開けると外傷用に作られた黒褐色の軟膏が入っている。ミゼルが持ってる薬草よりは効くだろうと傷口に塗りながら、セリカは吐露する。
「そう簡単じゃなかった。ずっと心の中がぽっかり空いてるし、デイヴィド隊長の背中を見ていた頃を今でも思い出す。今この場にガーロットがいたらやっぱり殺したいって思うのかもしれない」
それから砦の外に目をやる。そこには今回一緒に行動を共にしている女性がいた。浅緑の波打った髪を揺らして、何やらミゼルより一回り大きい厳つい連れと楽しそうに話してる。平穏な一幕にセリカの口元は自然と緩んでいた。
「でも、その寂しさや辛さを仲間が埋めてくれてて、だから今にそんな不満は無くて……ただ、それだけよ」
完全に清算できてないと言えば嘘だ。でも、全く清算できてないと言うのも嘘だ。
自分が向こうの折衷案で妥協してあげたのに、向こうはもう自分のことなんて忘れてるような立場になって、そのまま消えていった。二度とセリカの願いを受け入れることだって出来やしない。消化なんてしようのない思いがぐるぐると腹の底を渦巻き続けていた。
「怨んでるか、ガーロットのこと」
だけど人間一人なんかに関係なく世界は移ろっている。少しずつ笑顔が増えている世界を見て、一人で閉じ籠もって憎しみや悲しみで悶々としてるのが馬鹿らしくなっていた。ベザとの違いを語るのだとしたら、きっとここなのだろう。そこで幸せな他人を怨むか、幸せな他人を受け入れるか、それだけなのである。
「……もう、どうでも良いよ。どうにもならないこと考えても、仕方無いでしょ」
「ふーん……」
意味ありげに頷かれたので、包帯を結び終えた所を思いっきり平手打ちしておいた。
「いって! 暴力すんな!」
叩かれた腕を抱えて半泣きで意味もなくふーふーと息を吹きかけている。いい気味だと更にセリカは畳み掛けた。
「次はアンタの番だかんね! セリカばっかり恥ずかしい目に合わせて!」
「いや別に恥ずかしいこと言ってねえだろ、良い話だなぁとか思ってたのに」
「怪我増やされたい?」
「んだよ、こえぇなぁ……」ヘッドバンドの上から髪を掻き揚げながら、青年はぼやいた。「しゃあないなぁ、何話したらいい」
「昨日の話の続き、アンタもしなさいよ」
「昨日って、後悔のことか?」
「他に何があんのよ」
「グリフォンの干し肉の感想聞いてないなって……いてっ、痛いって。解った、解ったって」
セリカが平手で叩いた鳩尾を押さえながら、声のトーンはそのままに口を開く。
「現金な話でさ、なんつうか、他人事だったんだよ。帝国軍に行かなかったのも勝手にしたことだしな。王国はやべぇ教団があったから悪だって信じてたけど、行ってみたら教団員なんて一握りだし。じゃあガルカーサがしたことは向こうからしたら他所から侵略して従わせて、流れなくていい血を流して、言ってみたら悪じゃん。それに気付いたら王国と戦えなくなった。戦う相手を間違えないようにしないとって。この選択をした今の自分を後悔はしてない」
目の前の男がさらっと身の上を話してきたのでセリカは閉口した。こんな空風みたいな身軽な男でもそれなりに背負ってるものはあるらしい。それもそうか、自分とほぼ変わらない歳の彼は、様々な事情で立場を変遷させている。
「っていうのもさ、なんか嘘かもなって思った」
「え?」
おもむろに頭に巻いていたヘッドバンドを外した。ひらり、と何かがミゼルの足元に落ちる。長方形の紙だ――よく見なくても、それはタクティクスカードである。描かれているのは石壁を背に立つフードの長髪の女性だった。あまり一般的なものではないがセリカも一度だけ任務中に見かけたことがある。弓を持った狩人だけが使える、対象者を石の姿へと変えるカード。なるほど、セリカ達が来なければこれで決着をつけるつもりだったらしい。
「これ、アンタがさっき言ってた秘策ってこと? ほんとにあったんだ、切り札」
「そうだ。オイラがこれを持ってるのを知ってるのはほんの一握り。そこにいるヒュイだって知らねえよ」
「そんなの……」
彼のいざという時に手の内を明かしてるようなものである。傭兵団と賞金稼ぎ、厳密には異なるが近い道を辿る商売敵なのだから、これを見せてくるミゼルの意図を図りかねた。
「これ、あんまベザに詠じたくはなかったんだ……これは石化魔法の掛かったカードでさ、話し合いに、ならないだろ」
言葉に躓きながら訥々と語る彼の様子に、セリカは何も言えず腕を組んで誤魔化した。
カードを使うのを渋っていた理由は、多分それだけじゃない。砦に踏み込む直前に、彼が何かを呟こうとしているのはこれが原因だったと今更ながらに納得した。その詠唱の内容は確か……。
(……時……罪……消える、か)
彼の言う、『詠じたくはない』に込められている感情を想像することは、勘繰り過ぎることだろうか。
だがそれを指摘する前に、ミゼルはヘッドバンドとカードを膝の上に乗せて、何故か背中を向けられた。セリカが何か言うよりも早く、頭を垂れたかと思いきや髪に手を突っ込んで、犬みたいに頭を振りながら砂を落とした。
「確かめたかったんだよ、自分の気持ちを。後悔してないんだって無理に思ってるだけなのかもしれないってことを。多分、あれからずっと、つっかえてて……」青年は先程の意見とは翻然としたことを続ける。「帝国軍の奴らと少しずつやってること違うなって思った時に、言えば良かったのかなって……死んだ奴を、屍を踏み越えて言い訳にするなよってことをさ。オイラは結局、逃げたから」
セリカはミゼルの傍に立て掛けられた弓を見つめた。弓のことは専門外だが、一見して木目がくすんでおり年季が入っている一方で、弦は適切な力加減で張られている。
「……でも、逃げたから生きてるんでしょ」
「そうだ。それが未練っていうかな。私兵団は楽しかったし、今の自分の一部になってる。だから否定は絶対したくない。じゃあ、忘れないけど、引き摺られないようにしよう、って、」中途半端に言葉を切ると、ぼさぼさに乱れた髪の毛そのまま、ミゼルはセリカの顔を見据える。険しかった青丹色の双眸に穏やかな色が灯った。「さっきちゃんと決意した。セリカ言ったろ、どうにもならないことを考えてもしょうがない、ってさ。オイラはそれ、正しいと思うぜ」
まだ清浄な少年のような、しかしやはり時と経験を感じさせる純粋に透明とは言えない笑みを浮かべる。顔に浮かんだ擦り傷や乱れた髪が痛々しさよりも生きている証を感じさせる。
と、砦の外から男女の大きな笑い声がした。振り向くと談笑していたはずのエリシアとミゼルの部下が、何に対してか判らないが腹を抱えて愉快そうに笑っている。あの二人や自警団員を砦から追い出したのは主にミゼルと自分の追撃ではあるのだが、それにしたって何を話しているのかちょっと気になる。「何盛り上がってんだか」とミゼルも自分の団員を見守るように独白して、髪を整えている。そういえば普段から良い男に会うか判らないと香水を付けたり化粧に念を入れていたエリシアには筋肉趣味があったなあなんて眺めていると、
「なあ、セリカ」ヘッドバンドを付け直したミゼルが声をかけてきた。「たまには情報交換し合ったりしないか。お前は傭兵で、オイラは賞金稼ぎ。悪い話じゃねーと思うけど」
「なによ、急に」
藪から棒に話を進める男に、セリカは気圧される。
「互いに商売上大事なのは情報だろ? 手紙でも良い、たまにはつるんでも良い。そういう間柄がいても損にならないと思うんだけど」
実際、彼の言うことは最もである。自分もデイヴィド隊長の傭兵団を完全に抜けてから自分の傭兵団を立ち上げて、ようやく見渡せる世界というのが理解してきた。世間の動きを捉えて金脈を見つけるには何をするにも質と量というものが必要である。この申し出は、彼の言う通り悪くはない。
「良いわよ、ミゼル」
「本当か!?」
「報酬は八二で」
「がめつい女だな!?」
「冗談よ。まあ、アンタ達が足引っ張ってきたらあり得るかもしれないけど」
「オイラ達だって伊達にここまで生きてねえよ。へへ、ありがとな」
二つ返事で頷いたことが余程彼には嬉しかったのか、初めてお祭りにでも来た子供のような満面の笑顔を浮かべた。単純な男だと思うと同時に、自然と頬が緩んでいる自分もいた。
また砦の外から自分達の連れの派手な笑い声がしている。一体どんな話をしているんだか、でも彼女らにまた会う機会もある、なんて言ったらどんな顔をするやら。
「よろしくな、セリカ」
「はいはい」
差し出された手。それは女である自分よりも大きくて骨ばった手で、一見するとデイヴィド隊長やガーロット、団の殆どの男の手よりも華奢で細身であったが、いくつもの戦場を渡ってきたのがよく解る。
セリカはその手を握り返すことはせず、その手に軟膏の入った容器を置いた。
「む?」
自分の考えていた斜め上の反応をされたからか、青年の頭の上には疑問符がいっぱい乗っている。
「あの……グリフォンの肉も美味しかったから」素っ気なく小声で言ってから、「アンタが使ってるその薬草よりもこっちの方が効きが良いから、それ使ってさっさとみっともない傷を治せ。こことか、こことか」自分の顔で右頬と顎を指差して勢いで押し付けた。
しばらく疑問符が彼の頭の上でふわふわしていたが、事態が飲み込めたと見るや否や、
「ふーん……」
とまたしてもしたり顔で言い出したので、返されていた包帯も投げつけた。
「絶交ッ」
「なんでだよ!?」
「その含み笑いがキモいからよ!」
「おま……もうちょい可愛げのある物言いしろよ……」
唇を尖らせつつも、ミゼルは大人しく軟膏の蓋を開けている。
その様子を横目に、セリカは首にかけたテンガロンハットの紐を握りしめた。
ずっと自問自答していた時があった。
デイヴィド隊長の敵を取らなかったのは正しかったのか。
自分が出した答えは正しかったのか。
実際にその先の未来を歩けるわけでもないから、答えなんてものは無い問いだ。だから曖昧なまま蓋をして、今日まで過ごしてきた。
『死んだ奴に念なんて無い。正当化だ、そんなもん』
答えを先延ばししてきたんじゃなくて、考えてもしょうがないんだ。そう、気持ちを整理することが出来たこともこの男に感謝すべきなのだろうけれど、それはまた今後の仕事のやり取りの中で示せば良いか。
数年ぶりに、真正面からデイヴィド隊長のことを偲ぶことが出来るかもしれない。
それから、ガーロットにも伝えたいことがある。あんな別れをしたから、あんな終わりを迎えたからこそ、伝えたいことがある。
テンガロンハットの紐から手を放す。セリカはその手を胸に当てた。
これまでと、これからの想いを込めて、花を手向けよう。
緑と茶の二色が大部分を支配している森の中に、唐突に石を重ねて築き上げられた砦が現れる。東にある街に向かう人物をある時は見守り、ある時は追い払うために建てられたはずの建物は蔦が絡まり苔があちこちに生えており、威圧感はとうに剥がれ落ちてしまっている。
六年前から使われていないらしい砦。それは盗賊に襲われている街を見捨てた前領主への複雑な思いもあるのかもしれないし、三つも砦が必要無いからと実用的な観点から捨てられたものなのかもしれない。ゼッタと仲間内で呼んでいるのは、その使われなくなった砦の一つである。
既にオブジェクトと化している砦は人の出入りは殆ど無い。殆ど無いと言うのは、旅人や傭兵、往来している商人がたまに休憩や雨宿りに使っているらしいからである。
一直線にここには来れなかった。時折矢を番えてはタクティクスカードの力を借りて雷を落として位置を知らせていた。実際ミゼルを追いかけてきた男はそれでだいぶ森の奥に引き込んで、今頃は近隣の集落辺りまで迷い込んでいるはずだ。
手にした弓を改めて握り締める。物心付いた頃から慣れ親しんだ感覚を確かめて砦にこっそりと近付いた。中から人の気配がしている。
ヒュイはもう辿り着いているのだろうか、と足跡を観察しようとし――
「――はだしのミゼル! いるのは解っている。手にしてる武器を捨てろ」
中から、声がした。またしても懐かしい響きを持つ二つ名を伴っており、自然と眉間に皺が寄った。
一方的な相手の脅しに答える気はまだない。弓と矢を手にしたまま砦の入口に足を踏み入れた。
砦に置かれた一番手前の部屋、割れた石壁の隙間から光が細く差し込んでいる。剣を手にした男が立っていた。蓄えた不精髭が角ばった顔に乗り、黄土色の刈り上げた髪が暗闇に浮かんで見える。顔に刻まれた皺が影を作り、鬼相を助長している。
男の側には不可解な絡まり方をしている蔦の塊があり、その中に埋もれるように人間の顔があった。巌のような顔が傾いて、それでも無邪気な表情を見せる瞳は完全に閉じてしまっている。
「ヒュイ!」
「安心しろ、気絶してるだけだ」
ミゼルはほぞを噛んだ。自分の打ち込んだ稲妻は、奴らの目をくらますことすら敵わなかったのか。
「もう一度言う。手にしてる武器を、捨てろ」
男は胸元から一枚のタクティクスカードをこちらにちらつかせた。無数の木の葉に埋もれ一部のように描かれている人物は樹木の精霊を象っている。森の中で大きな力を発揮するアイヴィウィップ……奴がミゼルにそのカードを使わないのは、ミゼルが男にカードを使わないのと同じ理由らしい。森の中を縦横無尽に駆け巡る狩人には、彼のカードは通じない。
だが、仲間のヒュイは別だ。
「解ったよ」
手にした弓と矢を足元に投げ捨て、腰元のナイフを真横へと投げ捨て、空になった両手を上げる。
「カードもあるだろ? それも出せ」
「はいはい」舌打ちを漏らしながら、懐に仕舞い込んだタクティクスカードを投げる。カードはヒュイと男の足元へと飛んでいった。「おっさんの狙いは何? オイラ、昨日の恨みならもう買い終えたと思ってんだけど」
「質問に答える前に、まずは俺の部下一人がてめえの雷にやられたんだ――その清算だ」
男の言葉を聞き終わるか否かで背中に強い衝撃を受けて、視界に割れた石畳が急接近する。前のめりに倒れる――咄嗟に両手をついて庇ったので顔は平気だったが、右掌に石の破片が突き刺さったらしく、痛みが走った。腰元に括り付けた矢筒から乾いた音を立てて矢が飛び出て地面に散らばる。
「無様だな、逃げ足が速いのがはだしのミゼルの特権だったろうに、こんなどんくさい仲間がいたせいでよ」
一方的な物言いに、ミゼルは鼻で笑った。
「女には力で膝尽かせようとして、男には卑怯なことして膝尽かせようとするアンタがそんな風に煽るのはどーかと思うけどな」
「てめ……っ!」
後ろから蹴り飛ばしてきた男がこちらの後頭部を床に押し付けた。足で乱暴に踏んできているらしい、というのはすぐに判った。それと、さっきまで追いかけっこして撒いたと思っていた男だってことも理解した。上手く撒けていなかった……その悔しさと痛みで歯の隙間から漏れる呻き声を抑え込んでいるうちに、「止めろ」と冷静な静止の声でようやく頭の重みが離れた。
「……わざわざその呼び名で呼んでるってのには理由があんだろ。オイラがスリしてた頃の恨みを返したいって話なら、そこのぐるぐる巻きにしてる奴は関係ねーよ」
頭の中でスッた奴らの顔を思い出してみてはいるが、思い当たる節はない。大体、自分が狙っていたのは当時弱い立場の人々を虐げていた貴族や富豪である。目の前の男が仮にそうだとして、ここまで着崩れして傭兵や賊といった肩書が似合うような風貌になっていたのであれば、自分の想像力で補うのは難しい。
しかし、その考えは次の言葉によって打ち消された。
「俺が用があるのはスリをしていた裸足の男じゃない」
「なんだって?」
「裸足だった時代はもう一つあんだろ? 仲間を大切にしていたグラムブレイズの一員さんよ」
「……」
この因縁のある街がそうさせているのか。
昨日の今日でその名前をまた聞くことになるとは、ミゼルには思いもよらなかった。
昨夕セリカに絡んでいた男。その時点で抱かれた悪感情は大したものではなかったのは間違いない。
しかし、相手方が用があるのはミゼルファミリーのミゼルではなく、グラムブレイズのミゼルであり、そうなると俄然話は変わってくる。
「覚えているだろう、この街でてめえのリーダーが首を撥ねた男を」
「……ああ」
胸元に受けた衝撃と頬に擦り付けられ床や砂が、血が上り始めていた頭を冷やしていく。段々と奴の思惑が見えてきた。
「てめえと同じ得物を持ってた」
「……アンタが持ってるタクティクスカードを持ってた」
「俺が言いたいこと……解るよな、はだしのミゼル?」
当時の賊を率いていた頭目は少なくとも二十代、今のミゼルとそう変わらないくらいだ。となれば、こんな質問を投げてくる五十代の男の正体は自ずと絞り込まれてくる。
「……お前みたいな目をした奴を知ってたよ。怨恨でしつこく追ってくる奴のことはさ」苦虫を噛み潰したような声が出た。「あんたの身内だったってわけだ、そのリーダーが」
確信めいたミゼルの呟きに、壮年の男は冷笑する。
「そうだ。俺はあの賊の長をしてた奴の父親だ」
父親――もうとうの昔に自分の手から零れた温もりが、どんなものだったかを思い起こすのは何時ぶりか。自分とは縁遠い言葉に、歪んだ口から出た声が冷え切った石床へ落ちる。
「けっ、そうかよ」
「てめえ、ベザの親父にその態度はなんだ!」
ミゼルを押し倒してきた男が鳩尾を蹴り上げた。瞬間息が詰まり、直後に堰を切ったように喉から荒い呼気が吐き出される。ヒュイが起きてたらさぞ情けない声で自分のことを呼んだに違いないと頭の片隅でぼんやりと考えた。自分を慕っている奴に不甲斐ない姿を見せなくて良かった。
ベザ、と呼ばれた男はどうやらグラムブレイズに対する積憤が相当あるらしい。
何か、時間稼ぎをしなければ。
痛みに耐えている振りをして瞼を震わせ、こめかみの辺りの感触を確認する。実行は……出来る。
(……賭けてみるか)
頭の中で最悪の事態を想定しながら、ミゼルは口を開いた。
「それで、グラムブレイズで片棒を担いでたオイラで憂さ晴らしでもしたいってことか?」
「言葉は正しく使え。てめえらが先に恨まれるようなことを売ってきた」
「はっ、売り込んできたのは賊の方だぜ。賊は街を焼いて破壊して回っていた。食糧や金目のものを奪うのに街に火を放ってた」段々話していて記憶が鮮明になってきた。現実の感覚が麻痺していくと同時に、あの街を裸足で走り抜けた記憶の中の痛みが増していく。「そのせいで家族も家も失った子だっていた。おっさんはその行動を正義だったとでも言うつもりなのか? オイラにはそれが正気とは思えないね」
床に突っ伏しながら喋っていると、それだけで体力を使う。床から体温も奪われる。行動を起こすのであれば早い方が良いのかもしれない。
だが、彼との会話を続けたい気持ちの方が自分の中では勝った。今の自分が抱いている思いの形を確かめたかっただけかもしれないし、過去の思い出に感傷的になりたかっただけかもしれない。
実際、目前の男ベザが話した言葉はあの時の記憶を鮮明に想起させるのに十分だった。
「あの街はあのクソな伯爵にへつらう者達が住んでいた。重税を課して、ただその金は自分の足元とあの街にだけ並べて、帝国での地位を上げるためだけに使われてた」
自然と、舌打ちが漏れた。
「本当に同じ言い訳すんだな、あの時の賊と」
「言い訳じゃねえ、事実だ」
無表情で言うベザの顔にあの時の頭目の顔が被って見えた。
捕らえられた頭目は山吹色のスカーフを首元に巻いた弓使い。その周囲を囲うグラムブレイズの中心人物達。その時の口論の内容も、ガーロット団長が首を落とした瞬間も――
+++++
朝飛び起きるなり、セリカは追われるように身支度を始めていた。
もう既に起きて身なりを整えていたエリシアは、二度寝上等の普段とはかけ離れた団長の姿に気圧されながら声をかける。
「姉さん?」
髪の毛を梳くと寝癖はあっという間に直って愛らしい顔が現れる。適度に焼かれた肌の上に髪の毛と同じ灰茶色の瞳が乗っている。
「エリシア、飯食べたら自警団の詰め所に行くよ」
「何か思い当たる仕事でもありました?」
彼女の唐突な提案にエリシアは冷静に返答する。傭兵たるもの、何処に美味しい話が転がっているとも限らない。それは商人や貴族だけでなく、その私兵団や自警団といった組織だった所もまた、同様である。
拠点に帰るまでの小銭稼ぎに確信したものなのだろうかと思ったが、一拍遅れて帰ってきた答えは曖昧なものだった。
「ある、かもしれない」
髪の毛を首元で一つで結わえ、普段から被っている黒のテンガロンハットを睨みつけながらセリカは言葉を落とした。普段の底抜けに明るい団長がしないような憂いを帯びた表情だった。
目的地である自警団の詰め所は街の南西の路地沿いにあった。
中に入るとカウンターの奥に十人程姿が見えた。皆が一様に黄緑色の腕章を付けている。朝から雑談を交えながら、ある者はパンを咥えながら、武器の手入れをしていて緊張感はあまり無い。部屋の奥には何十人もの装備品が用意されており、それが装備種ごとにきちんと整頓されている。窓際に張られた掲示板には何枚もの手配書が張られている。
全員がこちらを見るなり興味深げな視線を投げてきて、それから一番手前に座っていた三十代後半と思われる女性が席を立った。
「何か御用でしょうか?」
セリカは手配書を親の仇のように睨みつけている。
「ねえ、あの掲示板のさ、左下の紙ちょっと見せてくれない? それじゃない、その右の、そうそれ」何枚も肖像画が貼られた紙の中から、セリカが指定したものは文章しか書いていなかった。「これ、子供って書いてあるわ……エリシア、読んで」
団長は字の勉強中で満足に文章を読めない。エリシアは代わりに手にとって内容を読み上げた。
「人攫い……キッドナップ。旧帝国西部で街の子供を誘拐している男。年齢五十程で剣を背負い、橙色のスカーフを巻いている……この男の賞金、安くないですね」
「ねえ、お姉さん」セリカはカウンターに手配書を叩き付けた。「これ自警団協力で捕まえたら、こっち五割欲しいんだけど」
「五……!?」
顔すら描いてない手配書の人物の確保で人を借りてるとはいえ五割は少な過ぎる。通常の相場なら九割貰ってもいいくらいなのに。提案されている自警団の女性の方が危険性の高い物事なのかと面食らってしまっている。
「早くしないと今回の商品連れてかれるよ、行くの、行かないの?」
団長は気早く自警団の出入り口にいる。深く被った帽子で表情は見えないが、普段聞く彼女の声から考えられないくらい氷のように冷めていた。
「む、向かいます! ――おい!」
カウンターの女性は有無を言わさない迫力に押されつつも、セリカに負けず劣らず張りのある声を自警団員に向けて投げていた。武器を磨いていた一人の男の口からパンが零れ落ちて蚊の鳴くような声を漏らしていた。
詰め所の出入り口で背中を預けるセリカに、エリシアは問うた。
「姉さん……私の想像ですけど、もしかして昨日の男が?」
「……多分」
「依頼を断ったのって、これに気付いたからなんですか?」
昨夕からどうもセリカの様子がおかしかったのは、あの緑髪のチャラい男と話したせいかと疑っていたのだが、ベザとの話のせいなのだろうか。
「……多分ね、多分そう。そうよ、銀貨二十枚よりこっちのが報酬良いし、あのおっさん自体もマジで気に食わなかったし」
歯切れ悪く吐き捨ててセリカは帽子の鍔を上げる。そこには唇の端を釣り上げて確信を得ているように笑ういつも通りの団長の姿があった。
そこは昨日、セリカと街に入る前に通ってきた街道だった。クレドの森と呼ばれるとにかく樹と雑草で鬱蒼とした森で、手入れされている街道を除けば薄暗く深い混沌とした自然が続いている。迷い込んだら二度と出られないような気すらしてきて、幽霊の類が苦手なエリシアは正直言うとあまり長居したくはない場所だ。そこかしこから甘い香りが鼻孔を擽るのも、虚構の世界に誘われているようで気味が悪かった。
自警団五人はこの景色には慣れているようで、毅然とした足取りでセリカの後を追っている。
「ここ」
セリカが唐突に歩を止めて、道から外れた木々が行く手を遮っている方角を指差した。周囲の景色となんら変わりない。手入れのされていない雑草が身長と同じくらい伸びていて、林立している樹木は剪定もされておらず、枯れた枝や伸びきった蔦が絡み合っている。
「ほら、判んない?」
誰も明確に反応を示さないのでじれったそうにセリカは声をあげる。再度セリカの視線と指を追いかけ、
「……あ」
エリシアの呟きを皮切りに、自警団員達はそれに近付いていった。
巧妙に隠されたそれは二台の馬車だった。年季の入った馬車で、壁はその一部を継ぎ接ぎして原型を留めている。最も、普段から旅慣れている荷車であれば何の変哲もない、何処にでもある外観である。自警団員が念入りに二台の荷車を見回し、やがて一人の驚愕の声をあげた。
「人が……子供がいます……!」
自警団員の男が扉を開けようとして鍵に気付く。「良い、壊せ」隣にいた男が手にした剣の柄で扉を叩き壊した。
一台の荷車の中には子供が二人いた。もう一台の方は保存食が積み上げられているだけだったので、検閲を受けた時の対策に売買したものなのか、普段の積み荷はこちらなのだろう。
セリカとエリシアは自警団の感謝の言葉を浴びたものの、自分にはまだ腑に落ちないことがあった。
「でもなんでここに野ざらしに? 動くなら暗闇の中で……もっと朝早くでないと怪しまれます。道に出るのを見られるのはまずいですし。商人に化けるにしても出発少し遅いですよね?」
「……やっぱり」
「姉さん?」
得心のいった様子のセリカに声をかけようとした矢先、腹の底が揺さぶられるような地響きと轟音が聞こえた。その場の皆が咄嗟に振り返る。街路の方からだ。
「雷? でも……」
今日の天気は青々とした快晴、あれは自然の雷ではない。誰かが……弓矢使いが戦いの最中で起こす雷ではないか。
自然と、夕べに出会った青年のことを思い出す。若木のような黄緑色の髪をヘッドバンドで止めた、手荒な物言いを受けていた自分達を助け、セリカを泣かせていた青年のこと。
(まさか……)
エリシアの頭の中で一つ一つの散らばっていた単語が繋がっていく。弓使い、雷、剣士、中年の男……。
「自警団! 三人ついてこい! それとお前は一番元気な方抱えて!」
「姉さん!?」
セリカが草むらを掻き分けて唐突に走り出した。突然の声掛けに互いに顔を合わせて様子を伺っていたが、詰め所のカウンター応対してくれた女性が走り出したのと自分が走り出したのが殆ど同時だった。
「こいつ、昨日の……」
街路に飛び出てすぐの所に一人の男が膝をついていた。昨日絡んできた中年の男の取り巻きだ。警戒して武器を構えながら近付くが、男は大きく動かない。苦悶に歪んだ表情で身体を痙攣させているのは正常とは言えなかった。先程の雷が正確にこの男を打ち抜いて、身体を麻痺させているようだ。
再度、覆い茂った森の奥から轟音と稲光が響いた。先へ行こうにも森の中に不要に入っては出れなくなってしまう。おいそれと追跡は難しい。
「待って、こっちに足跡が二つある」
自警団の女性が声を上げた。
指し示したのは西の方角、街路は更に森の奥へと続いていた。
+++++
「……まだそんなこと言ってるんだな、ベザ」
「あん?」
抵抗も無くミゼルの口から出たのは、男への軽蔑だった。
脳内に鮮明に浮かんだ六年前の街はひどく雑然としていた。規則的に配置されている通りには火事で無残な姿になった家の瓦礫が雪崩れ、食糧庫はひしゃげて中には煤に塗れた野菜の切れ端が残るのみ。ただその中身を奪うために盗賊は街を荒らし回り、火を放っていた。その横暴な振る舞いに街の人々が抗う様子も無かったのは、自警団が既に解散していたからだ。当然である、武器を持った集団に、武器も手にしたことのない人達が応戦したところで、結果は見えている。
六年前、実際に目撃したミゼルには、口が裂けてもあの街を襲った賊に非は無い、なんて言えないが、百のうち百、全てが賊が悪いわけではない、とは言える。それは貧困に喘ぎ、家族を亡くし、窃盗をしていた自分だってよく知っている。そうしないと今日の水も食料も手に入らない世の中だったから。
「当時の帝国は確かに腐ってたさ。どうしようもなかった。だから立ち上がった、だから戦ってた。戦う目的ははっきりしてた。守りたいものがあったんだ」
そしてそれは、あの時の頭目も同じだったはずだ。立ち上がった時は志があった。理念があった。
だが、グラムブレイズとは決定的な差がある。
それは戦うべき相手だ。
近隣の街を襲っていた賊は、あの頃に反旗を盾に煽っていたパンドラと、規模の差はあれど何も変わらない。
「もうグラムブレイズは無い、オイラ達を苦しめていた帝国は無い。ここで今、オイラを痛めつけて、それでお前は何かを守れるのか?」
ベザは瞳孔を大きく広げた。
「ああ、守れるさ。息子が殺され、塞いでた嫁は後を追うように死んだ。悪人のレッテルを貼られたままだ。村の奴らの中でも率先して陣頭に立つ、果敢で気兼ねのいい奴だった、ただそれだけで殺された息子の無念が浮かばれるもんだ」
……馬鹿らしい。
そう、自分なら切り捨てられる。
そのはずなんだ。
だって。
「死んだ奴に念なんて無い。正当化だ、そんなもん」
その理論に囚われて、信仰して、血戦へと赴いた人達を知っている。
その思考が間違いだと気付いた奴はどうなった。
その思考が愚かだと気付かなかった奴はどうなった。
「勝った方が正義になるんだからな、負けた方が振る剣が正当化と言われるのも仕方ねえ」
「仕方ないんじゃない、勝った負けたなんてどうでもいい。当たり前のことを言ってんだ……死んだ奴のために戦ってねえよ、お前は自分のために戦ってんだ」
腹の奥に抑え込んで、ミゼルはベザを睨め付けた。
最初は昨日再会した女に似ていると思っていた。自分には消化しきれない感情に振り回されていた彼女に。
でもどうしてだか、今は違う人物が重なって見えていた。一人の悲劇をきっかけに、一人の想いを火種に、走り続けた者達が。
「被害者の面して、言い訳しないと生きていけない、そういう目をしてるぜ」
ベザの濁った漆黒の瞳が大きく開いて、剣が振り上がった。同じ、いやそれ以上の速度を持って迫り、
……衝撃に、身が縮こまる。
耳鳴りのような余韻が頭蓋骨に何秒も残り続けた。
反射で引き締まっていた全身を緩めると、ベザの振り上げた白刃が目前で黴た石を削り、石床にぶつかって不快な音を立てているのみであった。幸いなことにミゼルのことはまだいたぶる段階らしく、何も出来ない惨めなミゼルに対してベザは無感情に見下ろしている。
まあ、確かに今の自分は笑えるくらい情けない。刀身に映り込んだ自分の顔は片頬に擦り傷があり、左の口の端から血も滲んでいる。昨夕に洗ったばかりの髪にも砂粒が混じり込んでいる。
状況は良くはならない。緊張感が続けば続くほど、糸を保ち続けるのは厳しくなってくる。冷え切った床の隙間に生えた苔を眺めながらミゼルは細かく呼吸する。血の味がした唾液を呑み込んだ。
「……被害者の面だと?」ベザはミゼルの言葉を受けて平坦な声で呟く。「まるで俺達が加害者でしかないと言ってるようじゃねえか」
「そうだよ。オイラはそうとしか言ってねえよ」
ずっと向けられていた敵愾心が更に膨らんで砦の中を満たしたのを感じた。ベザの銅鑼声が徐々に音量をあげていく。
「それを幸運な道を歩いてきたお前が言うのか! お前と俺達とで何が違う! 圧政に喘いで、それに抗って! 俺達だって家族を食わすために戦ってたんだ! だがお前達は成功して、俺達は失敗した、その差はなんだ!」
一息で吠えた男の言葉は、しかし風化した砦の壁に吸収されていった。荒い呼吸が砦内の沈殿した空気に溶けていく。
ミゼルは手をつき上半身を反らして男を見上げる。戦慄きで剣柄が震えている。
「それだよ」
……結局この男の論理は独りよがりに凝り固まってしまっていた。だからこそ自分のような因縁のある相手だけではない、昨夜のセリカに対するような無関係な人間にも攻撃的になるのだろう。自棄になっている、と言うのが正しいかもしれない。
「心に余裕があって周りが見えてたら間違いに気付く。でもアンタはそうじゃない、敵を作らずにはいられないって奴なんだよ。だから負けたんだ」
「このっ……ミゼルッ!!」
男が床に突き刺さった剣を抜こうとしたよりも早く、ミゼルは口を開いた。
自分の身に付けているもう一枚のタクティクスカードに神経を集中させて。
「時の移ろいに消えゆく罪の――」
しかし、ミゼルの詠じた声は、突如としてかき消された。
「――その悲痛なる想い、敵を貫かん!」
背後から突然、清澄な女性の声が響き渡る。途端、辛うじてついていた両手で支えていた上半身が石床へと落ちて、顎をしたたかに打った。それだけならまだ良い、「うおっあぶねっ!」ベザの手を滑り落ちてきた剣が不愉快な金属音をかき鳴らして石畳の上を跳ね回り、あわやミゼルの指か手でも斬りつけそうなところで止まった。
ミゼルが命の危険を感じている間に、砦の外から乱入者が現れた。足音から数は……四人か五人。
一瞬何が起きたか判らなかったが感じたことのあるこの感覚は、頭が働くよりも早く身体が理解した。自分でもベザでもない正体不明の乱入者がタクティクスカードを使った。対象者の力を奪うカードを利用して、場を制圧しにきたのだ。
膝をついたベザの周囲に男が二人、各々の武器を構える。後ろからは「てめえ、何しやがる!」とミゼルを突き飛ばした男がどうやら誰かに取り押さえられてるらしい声が聞こえてきた。
あまりに唐突な事態に情報を整理し尽くす前に、
「動くな、ベザ。つっても、ま、動けないか」
砦の出入り口から、先程詠じた声とは別の、張りのある女性の声が男を貫いた。うつ伏せになっている上に足元にある入口はミゼルからは見えないが、今の声は昨夕に会ったセリカに間違いない。
何故ここにいるのか、その疑念はセリカの次に発された言葉で掻き消えた。
「アンタ、ここらを騒がせるキッドナップでしょ」
「なんだって……!?」
ベザよりも早く、ミゼルが声を上げる。それはここ数日、ミゼル達が追いかけていた獲物に他ならない。それが本当だとしたら、自分が捕らえようとしていた人物に追われていた上に逃げようとしていたというまぬけな構図になる。
ベザは片膝をついたまま、脱力した拳を震わせている。
「……なんのことだ」
ミゼルとのやり取りがヒートアップする前と同じように平坦な、感情を除いてベザは切り返した。しかし、セリカも同様の口調で言い放つ。
「惚けるな。アンタの年齢、武器、態度、チームカラー、それと……今の話を聞いて判ったわ」
「俺には判らねえよ」
「そう? じゃあ、アンタ達が口を塞いでた馬車の中身にでも喋ってもらう?」
得意気にベザに宣言した後に、「ほら」と誰かに呼びかけるように声が続いた。馬車の中身……つまり今回攫われた子供をセリカは確保していたらしい。
「うん、あのおじちゃん……弟と一緒に、僕達を暗いとこに閉じ込めた人」
その一言が出てからは、実に手際が良かった。黄緑色の腕章を付けた人物、街の自警団の一人がベザを拘束し、手枷を掛ける。
ミゼルも立ち上がろうとするが足に力が入らず、もう一人の自警団員が抱え込むように起こしてくれた。このタクティクスカードにある力をここまで引き出した自警団の女性には関心するが、指向性の無さだけはこれからの特訓で培ってもらいたい。
昨夕ぶりにようやく互いに正面から姿を見た。取り押さえられた際にやや乱れた服の隙間から、彼の色彩の重い服装に不釣り合いな山吹色の布が見え隠れしている。居丈高な外面には変わりはなく、夜闇よりも深い漆黒の瞳はミゼルの顔を鈍く映していた。慨然や失念といった感情はとうの昔に煮詰まってしまっているようだった。残っているのは、尚も燃え尽きることのない憎悪だけなのかもしれない。
「ベザ」ミゼルは呼び掛ける。「俺達は成功者なんかじゃない。実際、新生帝国は崩壊した。かつての仲間もいっぱい死んだ。後悔だって失敗だってあるし、今だって迷ってるよ。でも、仲間達に恥ずかしくないように歩いてるつもりだ」
ミゼルは足元に舞い落ちたタクティクスカードをふらつきながら拾った。無数の木の葉に沈み込む気高い樹木の精霊が描かれている。それを掌で包むように胸元に当てた。
「……お前はあの街の慰霊碑を見たことがないんだな」カードを男に向けて差し出し、「お前の息子の名前も、慰霊碑に書いてあるんだぜ。オイラはこれからも、花を添え続けるよ」
自警団員に連行されるまでの短い間、ベザからの応えは返ってこず、拾い上げたカードを受け取ることもなかった。
+++++
「うわっ」
手持ちの荷物から適当に投げ捨てた包帯と薬草を、床に座り込んだ彼は受け止めきれずに膝の上に落とした。
「怪我がみっともない、さっさと隠せ」
「はぁ? もっと言い方あんだろ、矢面に立った人間に対して。しかもお前らのせいで首落とされそうだったし」
「首落とされそうになったのはセリカのせいじゃない」
飲み水の入った水筒も足元に転がしておいた。それ以上介入する気はないので立ち上がって壁に背を預ける。
「こういう時って女の子が世話焼いてくれたりするんじゃねーのかなー」
「セリカは安い女じゃないんで」
「ちぇっ、甲斐性の無い女」
ミゼルが膨れっ面で文句を言いながらも、水で傷口を洗い流す。その手付きは慣れているが、身体に刻まれてる細かい擦り傷に時々呻いていた。新緑の色彩を一処に集めて根元から毛先にかけて刷毛で伸ばしたような真っ直ぐな髪も、砂や苔で汚れてしまっている。
その様子を何もするまでもなくぼーっと眺めていると、
「それで?」
前の繋がりが全くない接続詞を投げつけられ、セリカは反射的にオウム返しをする。
「それでって?」
「ベザって男の話の続きでもしたいんじゃないかと思った」前腕に巻いた包帯を、もう片方の手と口で器用に縛り上げながらミゼルは言った。「セリカ、いつからかわかんねーけど、話聞いてただろ」
平然と言われてセリカは唇を尖らせた。
「それが判ってて挑発してたんだ? ダサッ」
「なんとでも言え。オイラの座右の銘は命あっての物種だ」
「ダッサ」
「そんな心を込めて二回も言うなよ! ……ってて」
大きく口を開けると擦り傷が痛むらしく、口の端を押さえて呻く。
「大体、セリカ達が来なかったら死んでたんじゃないの?」
「いやいや、オイラにはちゃんと秘策があったから。勝てない戦はしないんだぜ」
「バッカじゃない、強がり?」
「まあ、そうかもなー」
砦の壁に背中を預けながら、ミゼルはこちらを見上げた。青丹色の人懐こさもある丸い両の瞳は、昨夕のテーブルで気さくに話していたものとは違う、いくつもの戦地を駆けた人間の目をしていた。
「最初はさ、ベザがセリカに似てるって思ったんだ。あの頃のセリカに」
どきりとした。セリカも、同じことを思っていたのだから。
足跡を追ってあの砦に着いた時には、既に取り込み中だった二人の会話が聞こえてきた。
グラムブレイズとして戦っていたミゼルと、そのグラムブレイズに粛清された人物の親と。その対峙は、過去の自分に重なった。
それに、ミゼルのその姿にも。
こんな傷だらけになってまで敵意を剥き出しにした奴の真意を確かめようとするその行動を見て、セリカの胸にも感じるものはあった。
青年は動揺したこちらの様子を観察するかのように細めていた双眸に、改めて人懐こさを取り戻して笑った。
「でも話していて全然違ったよ。あの男は他人の感情を全部閉ざしてるから、だから誰にでも攻撃的だった。多分、いつかこうなることを、破滅を望んでた。少なくとも、オイラはあの頃のセリカとは違うと思ってるし、今のセリカとはもっと違うって思うけど?」
と、ミゼルは薬草を麻袋から取り出しながら言った。
この青年の思い通りに話が進むのが気に食わなくて、セリカは腕を組んで吐き捨てた。
「ただムカついたのよ。子供と大人を離ればなれにさせてるっていうのを見て」
「それ、人攫いだって聞いてオイラも腑に落ちた」
不愛想に彼は言った。聞いたところによると、ミゼルは正に賞金のためにあの男を追いかけていたらしい。それを知らずに接敵してた上に殺されそうにまでなっている事実に、さっきまで自己嫌悪に陥って嘆いていたのである。賞金もセリカと街……に住む子供達に入る手筈なので、ミゼルの手に入るものは何もない。
その青年は、でもさ、と話を継ぐ。
「始まりは一緒だったかもしれない。親がいないとか、金が無いとか。貴族が憎い、皇帝が憎い、何でもいい。でもそこから行動をどう起こすかなんてそいつ次第だ。相手を間違えちゃいけない、それはあの崖での団長との飛び込み事件の時からセリカは出来てんじゃねえの?」
「な、なによそれ……」
グラムブレイズという一団がまだ存続していた当時、相打ち覚悟で迫った攻撃に失敗し崖から落下した自分を、わざわざ追いかけてまで助けた物好きがいた。そいつはセリカの育ての親を殺した悪者で、だからセリカはその復讐に殺そうと追いかけ回してたのだ。
「言っとくけどね、崖に落ちたのは正々堂々受け止めなかったガーロットが全部悪いんだから!」
ガーロットは、自分に訥弁と話した。
傭兵業や盗賊まがいのことをしなければいけない奴がいる、そんな選択をしなければいけない世界を変えるまで、自分は死なないと。
そして。
『俺の戦いの目的が無くなった時、その時は俺の命をくれてやる』
げにその言葉を信じていたかは、正直のところ判らない。気を失った自分の怪我を治療したなんて恩着せがましいシチュエーションの中で絆されたんだと指摘されれば否定は出来ない。
でも実際に昨日より今日、なんてすぐに世界は変わらないが、ガーロットが……いや、ガルカーサが為した革命を兆しとして、良い方向に変わってきているのは間違いない。
「ふん、ざまあみろよ。あんな悪党捕まえて、ガーロットがやるべきだったことをセリカ様がやってあげたんだから、絶対あの世で頭擦りつけるくらい土下座しまくってるに違いないわ」
セリカが突然吐いた悪態にぽかんとしていたミゼルだったが、「はは、そうかもな」と意地悪そうに笑みを浮かべる。
「安心したぜ。セリカは前を向いて歩けてるんだなって。なんかずっと気になってたからさ」
「……ミゼルって、本当にグラムブレイズの人間なのね」
「は? ここまで来てそれは殺生な」
青年が非難を口にした拍子に、渡した包帯がミゼルの手から転がり落ちてくねくねと折り重なった道を作っていく。「くそっ、あの女、カード使うの下手くそ過ぎるだろ……」
セリカの足に包帯の束がぶつかって止まった。自警団員が使っていた力を奪い取るタクティクスカードの影響が残っているようで、中途半端に開いた手が震えている。
セリカは組んでいた腕を解いて、拾い上げる。冷たい石床に腰を下ろし、「ほら、腕」と薬草も半ば強引に奪いながら指示を出した。ミゼルには抵抗する力も無いからか、なんとも形容しがたい顔で絶賛作業中だった右腕を伸ばした。うつ伏せになった時に付いたらしい擦り傷が細い腕の内側にいくつも刻まれている。
血や砂は洗い流してあったので、自分のベルトポーチから金属製の容器を取り出した。蓋を開けると外傷用に作られた黒褐色の軟膏が入っている。ミゼルが持ってる薬草よりは効くだろうと傷口に塗りながら、セリカは吐露する。
「そう簡単じゃなかった。ずっと心の中がぽっかり空いてるし、デイヴィド隊長の背中を見ていた頃を今でも思い出す。今この場にガーロットがいたらやっぱり殺したいって思うのかもしれない」
それから砦の外に目をやる。そこには今回一緒に行動を共にしている女性がいた。浅緑の波打った髪を揺らして、何やらミゼルより一回り大きい厳つい連れと楽しそうに話してる。平穏な一幕にセリカの口元は自然と緩んでいた。
「でも、その寂しさや辛さを仲間が埋めてくれてて、だから今にそんな不満は無くて……ただ、それだけよ」
完全に清算できてないと言えば嘘だ。でも、全く清算できてないと言うのも嘘だ。
自分が向こうの折衷案で妥協してあげたのに、向こうはもう自分のことなんて忘れてるような立場になって、そのまま消えていった。二度とセリカの願いを受け入れることだって出来やしない。消化なんてしようのない思いがぐるぐると腹の底を渦巻き続けていた。
「怨んでるか、ガーロットのこと」
だけど人間一人なんかに関係なく世界は移ろっている。少しずつ笑顔が増えている世界を見て、一人で閉じ籠もって憎しみや悲しみで悶々としてるのが馬鹿らしくなっていた。ベザとの違いを語るのだとしたら、きっとここなのだろう。そこで幸せな他人を怨むか、幸せな他人を受け入れるか、それだけなのである。
「……もう、どうでも良いよ。どうにもならないこと考えても、仕方無いでしょ」
「ふーん……」
意味ありげに頷かれたので、包帯を結び終えた所を思いっきり平手打ちしておいた。
「いって! 暴力すんな!」
叩かれた腕を抱えて半泣きで意味もなくふーふーと息を吹きかけている。いい気味だと更にセリカは畳み掛けた。
「次はアンタの番だかんね! セリカばっかり恥ずかしい目に合わせて!」
「いや別に恥ずかしいこと言ってねえだろ、良い話だなぁとか思ってたのに」
「怪我増やされたい?」
「んだよ、こえぇなぁ……」ヘッドバンドの上から髪を掻き揚げながら、青年はぼやいた。「しゃあないなぁ、何話したらいい」
「昨日の話の続き、アンタもしなさいよ」
「昨日って、後悔のことか?」
「他に何があんのよ」
「グリフォンの干し肉の感想聞いてないなって……いてっ、痛いって。解った、解ったって」
セリカが平手で叩いた鳩尾を押さえながら、声のトーンはそのままに口を開く。
「現金な話でさ、なんつうか、他人事だったんだよ。帝国軍に行かなかったのも勝手にしたことだしな。王国はやべぇ教団があったから悪だって信じてたけど、行ってみたら教団員なんて一握りだし。じゃあガルカーサがしたことは向こうからしたら他所から侵略して従わせて、流れなくていい血を流して、言ってみたら悪じゃん。それに気付いたら王国と戦えなくなった。戦う相手を間違えないようにしないとって。この選択をした今の自分を後悔はしてない」
目の前の男がさらっと身の上を話してきたのでセリカは閉口した。こんな空風みたいな身軽な男でもそれなりに背負ってるものはあるらしい。それもそうか、自分とほぼ変わらない歳の彼は、様々な事情で立場を変遷させている。
「っていうのもさ、なんか嘘かもなって思った」
「え?」
おもむろに頭に巻いていたヘッドバンドを外した。ひらり、と何かがミゼルの足元に落ちる。長方形の紙だ――よく見なくても、それはタクティクスカードである。描かれているのは石壁を背に立つフードの長髪の女性だった。あまり一般的なものではないがセリカも一度だけ任務中に見かけたことがある。弓を持った狩人だけが使える、対象者を石の姿へと変えるカード。なるほど、セリカ達が来なければこれで決着をつけるつもりだったらしい。
「これ、アンタがさっき言ってた秘策ってこと? ほんとにあったんだ、切り札」
「そうだ。オイラがこれを持ってるのを知ってるのはほんの一握り。そこにいるヒュイだって知らねえよ」
「そんなの……」
彼のいざという時に手の内を明かしてるようなものである。傭兵団と賞金稼ぎ、厳密には異なるが近い道を辿る商売敵なのだから、これを見せてくるミゼルの意図を図りかねた。
「これ、あんまベザに詠じたくはなかったんだ……これは石化魔法の掛かったカードでさ、話し合いに、ならないだろ」
言葉に躓きながら訥々と語る彼の様子に、セリカは何も言えず腕を組んで誤魔化した。
カードを使うのを渋っていた理由は、多分それだけじゃない。砦に踏み込む直前に、彼が何かを呟こうとしているのはこれが原因だったと今更ながらに納得した。その詠唱の内容は確か……。
(……時……罪……消える、か)
彼の言う、『詠じたくはない』に込められている感情を想像することは、勘繰り過ぎることだろうか。
だがそれを指摘する前に、ミゼルはヘッドバンドとカードを膝の上に乗せて、何故か背中を向けられた。セリカが何か言うよりも早く、頭を垂れたかと思いきや髪に手を突っ込んで、犬みたいに頭を振りながら砂を落とした。
「確かめたかったんだよ、自分の気持ちを。後悔してないんだって無理に思ってるだけなのかもしれないってことを。多分、あれからずっと、つっかえてて……」青年は先程の意見とは翻然としたことを続ける。「帝国軍の奴らと少しずつやってること違うなって思った時に、言えば良かったのかなって……死んだ奴を、屍を踏み越えて言い訳にするなよってことをさ。オイラは結局、逃げたから」
セリカはミゼルの傍に立て掛けられた弓を見つめた。弓のことは専門外だが、一見して木目がくすんでおり年季が入っている一方で、弦は適切な力加減で張られている。
「……でも、逃げたから生きてるんでしょ」
「そうだ。それが未練っていうかな。私兵団は楽しかったし、今の自分の一部になってる。だから否定は絶対したくない。じゃあ、忘れないけど、引き摺られないようにしよう、って、」中途半端に言葉を切ると、ぼさぼさに乱れた髪の毛そのまま、ミゼルはセリカの顔を見据える。険しかった青丹色の双眸に穏やかな色が灯った。「さっきちゃんと決意した。セリカ言ったろ、どうにもならないことを考えてもしょうがない、ってさ。オイラはそれ、正しいと思うぜ」
まだ清浄な少年のような、しかしやはり時と経験を感じさせる純粋に透明とは言えない笑みを浮かべる。顔に浮かんだ擦り傷や乱れた髪が痛々しさよりも生きている証を感じさせる。
と、砦の外から男女の大きな笑い声がした。振り向くと談笑していたはずのエリシアとミゼルの部下が、何に対してか判らないが腹を抱えて愉快そうに笑っている。あの二人や自警団員を砦から追い出したのは主にミゼルと自分の追撃ではあるのだが、それにしたって何を話しているのかちょっと気になる。「何盛り上がってんだか」とミゼルも自分の団員を見守るように独白して、髪を整えている。そういえば普段から良い男に会うか判らないと香水を付けたり化粧に念を入れていたエリシアには筋肉趣味があったなあなんて眺めていると、
「なあ、セリカ」ヘッドバンドを付け直したミゼルが声をかけてきた。「たまには情報交換し合ったりしないか。お前は傭兵で、オイラは賞金稼ぎ。悪い話じゃねーと思うけど」
「なによ、急に」
藪から棒に話を進める男に、セリカは気圧される。
「互いに商売上大事なのは情報だろ? 手紙でも良い、たまにはつるんでも良い。そういう間柄がいても損にならないと思うんだけど」
実際、彼の言うことは最もである。自分もデイヴィド隊長の傭兵団を完全に抜けてから自分の傭兵団を立ち上げて、ようやく見渡せる世界というのが理解してきた。世間の動きを捉えて金脈を見つけるには何をするにも質と量というものが必要である。この申し出は、彼の言う通り悪くはない。
「良いわよ、ミゼル」
「本当か!?」
「報酬は八二で」
「がめつい女だな!?」
「冗談よ。まあ、アンタ達が足引っ張ってきたらあり得るかもしれないけど」
「オイラ達だって伊達にここまで生きてねえよ。へへ、ありがとな」
二つ返事で頷いたことが余程彼には嬉しかったのか、初めてお祭りにでも来た子供のような満面の笑顔を浮かべた。単純な男だと思うと同時に、自然と頬が緩んでいる自分もいた。
また砦の外から自分達の連れの派手な笑い声がしている。一体どんな話をしているんだか、でも彼女らにまた会う機会もある、なんて言ったらどんな顔をするやら。
「よろしくな、セリカ」
「はいはい」
差し出された手。それは女である自分よりも大きくて骨ばった手で、一見するとデイヴィド隊長やガーロット、団の殆どの男の手よりも華奢で細身であったが、いくつもの戦場を渡ってきたのがよく解る。
セリカはその手を握り返すことはせず、その手に軟膏の入った容器を置いた。
「む?」
自分の考えていた斜め上の反応をされたからか、青年の頭の上には疑問符がいっぱい乗っている。
「あの……グリフォンの肉も美味しかったから」素っ気なく小声で言ってから、「アンタが使ってるその薬草よりもこっちの方が効きが良いから、それ使ってさっさとみっともない傷を治せ。こことか、こことか」自分の顔で右頬と顎を指差して勢いで押し付けた。
しばらく疑問符が彼の頭の上でふわふわしていたが、事態が飲み込めたと見るや否や、
「ふーん……」
とまたしてもしたり顔で言い出したので、返されていた包帯も投げつけた。
「絶交ッ」
「なんでだよ!?」
「その含み笑いがキモいからよ!」
「おま……もうちょい可愛げのある物言いしろよ……」
唇を尖らせつつも、ミゼルは大人しく軟膏の蓋を開けている。
その様子を横目に、セリカは首にかけたテンガロンハットの紐を握りしめた。
ずっと自問自答していた時があった。
デイヴィド隊長の敵を取らなかったのは正しかったのか。
自分が出した答えは正しかったのか。
実際にその先の未来を歩けるわけでもないから、答えなんてものは無い問いだ。だから曖昧なまま蓋をして、今日まで過ごしてきた。
『死んだ奴に念なんて無い。正当化だ、そんなもん』
答えを先延ばししてきたんじゃなくて、考えてもしょうがないんだ。そう、気持ちを整理することが出来たこともこの男に感謝すべきなのだろうけれど、それはまた今後の仕事のやり取りの中で示せば良いか。
数年ぶりに、真正面からデイヴィド隊長のことを偲ぶことが出来るかもしれない。
それから、ガーロットにも伝えたいことがある。あんな別れをしたから、あんな終わりを迎えたからこそ、伝えたいことがある。
テンガロンハットの紐から手を放す。セリカはその手を胸に当てた。
これまでと、これからの想いを込めて、花を手向けよう。
※ここから言い訳エリア
・ミゼルの家族については捏造ですが、「子供の頃に靴も買ってもらえないほど貧乏~」の台詞から、親との思い出はあるはずと信じております
・街の名前が作中に出てこないので特につけずに進めました。名前ちゃんとついてるクレドの森大活躍
・スウィートベリーがここまで破壊力強いかはユグドラのみぞ知る
・なんでフェンサーが雷属性なのとか、なんでハンターにアイヴィウィップ効かないのとかはゲーム上の都合であるため、小説的には雰囲気で感じてください
・【急募】ゲームでのメデューサアイの使い道
※ここまで言い訳エリア
ブレイズ・ユニオン、15周年おめでとーございます!!うわー!!15周年だって!!!(挨拶)
時は戻って10周年の時、どうしても書きたくてずっと温めていたAルート後のジェノンメデューテをお送りしました(実際は間に合わなくて10.5周年の時にあげたけど)。
で、15周年という節目が来て、これまたやっぱりどうしても書きたい話を腰を据えて書こうと思い至りました。
それがこの、セリカとミゼルを中心としたAルート後のお話でした。
セリカ、と対立するそもそものガーロットというキャラクター。彼はAルートでジェノンが「弱いところが彼の強さだった」と言っている通り、精神的な弱さが描かれているキャラでもあります。だからこそグラムブレイズの面々が彼のことを支え合う関係になりたいと思うわけですが、結局Aルートだと、魔竜の影響でそれも無くなってしまう。
じゃあその優しさに触れたセリカはどういう感情を抱いて新生ブロンキア帝国の建国と崩壊を見たんだろうか、と思ったのがそもそものきっかけであります。ブレイズ本編より真人間かつ大人しくなってるセリカ、その塩梅はだいぶ難しいところではありました。
その相手方にミゼルを選んだのは、ユグユニで生存が確定していることと、ただただミゼルという男が好きだからです。既に4作目で半ギャグなミゼルの小説を書いたし、ついでは相当ミゼルのことを呟きまくってたり。色々な人に凡人扱いされるミゼルのこと、好き。
勿論、書くにあたってユグドラのミゼルの台詞も全て洗いざらい確認しましたが、「退却するぞ!」ばかりで和みました(戦闘台詞は某wikiさん、多謝)。
ミゼルについて考えさせられたのはこういうシーンがあったからというのもある。ミゼルはブレイズで経歴や性格がぺたぺたと後付けされたキャラであり、だからこそ、考える余地はいっぱいあるのかな、とも思っています。軍に残らないからこそ、ここのミゼルとソルティエの会話がなんというか、良いんですよね
後、ジェノンとラピスの会話も、後の展開を考えると考えさせられる
#ヴィオブレユニ pic.twitter.com/Dtj2nECayF
— ヴィオ (@chiika_kirby) July 18, 2023
なお、年齢はブレイズ当時にセリカが19歳、ミゼルが18歳なので、この6年後の小説ではセリカが25歳、ミゼルが24歳です。実はセリカのが年上です。良いよね。というかガーロット達から見てもセリカは年上です。良いよね。
ミゼルのことちっこいちっこい言ってますが、実はセリカのがちっこいです(ブレイズ当時でセリカ161cm、ミゼル167cm)。二人で立って歩くシーンがなくて身長差書けなかったのが心残り(そこ?)。
ブレイズはこれまでもいくつか書いてたけど緊張感&戦闘のあるシーンは本当に無かったので、新鮮な気持ちで書いておりました。タクティクスカードは言の葉を閉じ込めたものであり、詠唱は(ロマンなので)必須です。かっこいいよね、ね、ネシア君。
詠唱やカードの絵柄見て一瞬で紐づく、そんなあなたは若しやこの作品が好きですね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。
>25.5.28追記
長文・拙文を読んでいただきありがとうございます!は、早い!
セリカやミゼルはブレイズやユグドラの流れからして、なんというか、平穏な暮らしをするには心残りがあるんじゃないのかな、なんて思っていて。
実はセリカは元々中心に据えるつもりだったのですが、実はその相手にスレイプの案もあったりしました。ただやっぱり、凡人ミゼルが好き……。
元々二次創作なんて自己満足そのもので、それを公開するのは自己顕示欲という当然否定できない心情もあるわけですが、それでも同じ作品を好きでいらっしゃる方が「あ~!!」なんて思いを抱けているのでしたらこれ以上嬉しいことはありません。
これからもこの作品を好きでい続けたいなって強く思いました。こちらこそありがとうございます。
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・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり
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