ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

2024/05    04« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »06
ブレイズ小説4本目。
 ユニオンシリーズのパッケージ発売おめでとう!

 「狂戦士の叫び」~「歴史は夜、動く」の間の話になります。
 ミゼル中心のあったかもしれない温か話。なーんつって。
 いつにも増して捏造だらけです。
 1.5万字ほどあります。

 それでは、「弓を探して三百歩」です、どうぞ。







弓を探して三百歩


 幼い頃は世界の全てが敵に見えていた。
 物心ついた時から自分を守るものは一つも無くて、生きていくために盗みをはたらかなければいけなかった。食べる物、身体を温める物、そして仲間ですら、全てが拾ったもので構成されていた。落ちている金目になりそうな物を拾っては身体に巻いた布と肌の間に入れて、それでなんとか生きていくという行為が許される。
 屋根も服もあるような人達から見れば、自分達は人の物を奪わない蟻んこよりも余程に害悪な虫のようなものだった。
 そのはずだったのに。
「うーん、そんなオイラが団なんかにいるのは不思議な感じだよなあ……」
 そこそこ上等な鋼で出来た剣の本数を数え、裸足でぺたぺたと滑らかな木板を足の指先で感じながらミゼルは呟いた。仮にこの剣を売ったら一週間分の食事にはなるだろうなあとひもじい思考が勝手に働いてしまうのは癖のようなものか。
「……」
 聞いていたのかいないのか、隣の女性は特に反応を示さずに黙々と矢の在庫を数えている。ひんやりとした鉄のような銀色の髪がさらさらと流れて彼女の顔を象っている。
「なあ、ジルヴァ」沈黙に耐え切れなくなってミゼルは再度声をかけた。「おい、無視するなって」
「……無視はしていない。用件があるならそれだけ言え」
 一瞬怒られたのかとも思ったが、特に怒っている様子は彼女から感じない。用件かと言われると全くそんなものはないのだが、無言で作業をするのも今更なので手元の紙に武器の増減量を書き込みながら、ついぺらぺらと口が回った。
「いや、だから縁って不思議だよなーって……ほら、オイラは元々貧しくてスリしてたような奴だし、ジルヴァは隣国の裏側にいたわけだろ? それがこうして帝国の貴族様の私兵してて、人に感謝されたりお金が出るのがほら、不思議だなってよ」
 どれだけ喋っても返事が一向に帰ってこない。隣を見るとやはり黙々と表情を変えずに作業を進めていた。なんか自分の声が雑音かなんかだと思われてないだろうか。
 しかし明らかに自分よりも倍近い速度でこなしているのを見ると、別にそういうわけではないのだがなんだか自分が女の子と二人きりでいて浮かれているようで申し訳ない気持ちになってきて、自分も半目で手元の紙を睨みつつ作業を進めようとしたところで、
「……私も、戸惑っている」ぽつりと水滴が落ちるように素朴に呟いた。「ここにいるとこの辺りがもやもやするのだ……」
 と今度は突然胸元を押さえたのでミゼルは返事があったことに加えて二重の意味で戸惑った。普段はあまり女性らしいとは感じないのだが、あまり物音を立てないように肌に合った服装が彼女のラインを際立たせているのを意識してしまう。
 心の中で大きく咳払いしなんとか平常心を保ってミゼルは口を開いた。
「そいつはさ、もやもやじゃなくてほかほかだぜ、多分」
「ほか……?」
 ミゼルの声が若干上ずったが、ジルヴァは気にせずに内容を復唱した。
「心があったかいってやつ。誰かに優しくしたり、されたりすると気持ちいいだろ?」
「よく……解らない」
 そう言う彼女は相変わらず感情の薄い声と表情で解りにくいところはあるが、理解しようと真剣に悩んでいるのは伝わってくる。ミゼルは小刻みに頷きながら続けた。
「ジルヴァには今までそんな経験が無かったからさ、戸惑ってるだけだ」
「……そんなものか」
「そんなものそんなもの」
 会話をしているうちに武器のチェックも丁度区切りがついたので、お喋りついでにミゼルは手を差し出して画板を手に取る。
「このリスト、オイラからネシアに渡しとくよ。うん、丁度ネシアに用事あるしさ」
 最後の一言が効いたのか、彼女は画板を持つ手を緩めてくれた。それから伏し目がちにぼそりと「……すまない」と呟いた。
「こういう時は謝るんじゃなくてさ」
「あ、ありがとう……」
「おう」
 安心させるように歯を見せて笑いかける。ジルヴァにはぷいと顔を逸らされてしまったが、短い髪のせいで耳が赤くなっているのが判った。初々しい反応である。
 我ながら良いこと言ったなあなんてしたり顔のまま、ミゼルはジルヴァと第二武器庫を出た。

 しかし勢いそのまま武器リストをネシアに渡すと豪語してきたが、ネシアに用事なんて全くないどころか、ミゼルは彼のことが少し苦手である。
 書庫で本を捜しているらしいネシアを見つけて、ミゼルは改めてその姿を観察する。
 紫色のフード付きのローブで身体の殆どを覆っていて、それも何故かボロ布である。魔法だかなんだかで謎の模様が描かれた金色の帯が浮かんでいて、手には同じ金色の枷がついていて、今日も今日とて二の腕くらいの大きな本が彼の傍でふわふわと浮遊している。体格は華奢であるものの身長はちょっと向こうの方が上なのが余計に恐怖心を掻き立てる。
 世の中の魔法使い然とした人間達は変わった奴らが多いが、ネシアは輪をかけて変わった人種だと思う。羅列した要素だけでも十分に近寄り難いわけだが、
「お願いしていた武器リストですね、ご苦労様です」
 足音をなるべく立てないように歩いていたのだが、話しかける前に話しかけられてミゼルは絶句する。やっぱり不思議で、不気味だなあと心の端で思うわけである。
 なんといっても彼は目が見えない。盲目らしいのだが、兼ねてからミゼルはネシアの顔がどんななのか見たことは無い。いつも目を隠すようにこれまた金属の眼帯をしている。百歩譲って人の気配は判るだろうが、一体どうやってこのリストの中身を確認しているのだろうか、なんていう野暮な話は彼には通用しない。そもそもこんな書庫にいること自体噛み合ってないし。
 だがこれでもミゼルの何倍も頭が良くて、私兵団の頭脳という立場にいる。歳はそんなに上には見えないが、とかくミゼルには予想もつかない作戦とか、知略に長けたことを考えだしては実現していくのである。当初怪しいと勘繰っていた仲間達も徐々に彼を受け入れており、自分も仲間だとは思っている。タイマンで接するのは得意では無いけれど。
「……おや?」急にネシアが声をあげたものだから、ミゼルはびくりと背を震わせた。「弓が一本足りませんね」
「へ?」
 ネシアが丁寧な手つきでこちらに紙を見せてくる。弓の一覧を指差されているが、心当たりが無い。首を更に傾げるとネシアは嘆息していかにも仕方無さそうにぼやいた。
「やれやれ、あなたが気付かないとは……あなたの手作りの弓が無くなっていますよ」
「え?」自分の手作りの弓と言えば、とある町で折った木の枝に拾い物の麻紐で弦を張った、お世辞にも使えるとは言い難い代物である。「あー……確かに見なかった……かな?」
「疑問形、ですか……まあジルヴァの数えですし間違いではないでしょうが……」
 自分の信頼の無さに一瞬憤りそうにもなったが、対比されているのがジルヴァだとなんだか妙に納得してしまう自分がいる。悲しいものである。
「まあ無いなら無いで構わない、とも言えないのが難しいところですね」
「え、なんでだよ? オイラが言うのもなんだけど、あんな弓要らないだろ」
 悲しさを重ねるほど空しいものはないが否定する理由もない。一層悲しいわけだが。
「そういう訳ではないのです」うーん、悲しさの上塗り。しかしそんなミゼルの心情を知らずかネシアは淡々と続けた。「武器庫に侵入されているという事実そのものが危ういんですよ」
「……確かに、そりゃそうだな」
 元々スリを生業にしていたから彼の言いたいことは判る。つまり隙がこの私兵団邸にはあるってことだ。盗みやすそうなところからしか盗まない、それは今後も生きていくための絶対条件なのである。貴族に比べて雑多で無限に生えてくるような連中の命なんて軽いもので、簡単にこの世から無くすことも出来る。命には明確に重さが存在するのだ。
「じゃあオイラがこっそり調べとくよ」
「ふむ……ではお願いします。原因が解らない限り波風は立たない方が良いですからね。今のところ無くなってるのはあなたの素朴な弓だけですし」
 一々癇に障る言い方をしてくる奴である。やっぱりネシアのことは苦手だ。
「素朴で悪かったな」
「フフフ……」
 得体は全く解らない人間でちょっと……かなり不気味ではあるがまあ楽しそうに笑うのでいっかとミゼルはネシアと別れた。

 引き受けたものの手掛かりは何も無いのでどうしたものか。まずミゼルは建物の外に出て第二武器庫の周辺の確認を始めた。ミゼルが調べていた第二武器庫は私兵団邸の中でも奥地で、すぐ傍には屋敷の塀がそそり立っている。かといって塀から壁に飛び移れるような距離でもない。上の方には有刺鉄線が引いてあるからよじ登れもしない。
 塀の中には木々が多く茂っていて頭上の太陽を懸命に遮っているが、光線を全て防ぎきれずミゼルを斑紋に染めている。
「侵入経路は無いと思うんだよな……あんなの人が通れねえし」
 第二武器庫の窓は小さな、換気のためのものが一つあるだけ。それもミゼル二人分の高さにあって、更に鉄格子が嵌めてある。仮に外しても猫か烏かくらいしか通れないような大きさだ。
「っていうかオイラの弓はあんな所通らないだろうしなあ……」
 ふと最終結論に辿り着いた気がしてミゼルは腕を組んで鯱張って唸ってみせる。自分のことを賢い人間だとおこがましいことを思ったことは無いが、こうしていると雇い主のヴェルマン方伯のような人間に近付けるのじゃないだろうか。……亀のような速度で。
 誰もいないのにしょうもないことをしていることに虚しさを感じてきたので、程々に雑草の生えた乾いた土を踏みながら次の手を考えた。自分のあんな弓の行先を考えるのもあまり頑張がいがないと言えばそうなのだが、
(あれってあいつに弓を教えた時の物だったっけ)
 唐突に私兵団に入る前の風景が頭の中に閃いた。ドロミノス湿地帯に拠点を構え、やること為すこと全てにおいて民を苦しめていたバリン公爵の領地で活動していた。そんな時に出会った奴がいた。小綺麗な服を着て、馴れ馴れしく話しかけてきて。今思うとあの人当たりの良さに自分は少し感化されたのかなあなんて思う。
 自分が貴族の傘下に入るなんて塵ほども考えなかったからか、スリをしていたのももう遠い昔のように感じる。あの時に私兵団にしつこく追いかけ回され、彼らの話を聞き入れた。それは自分の良く知る貴族連中と雰囲気が違ったからというのもあるし、金が欲しかったっていうのももちろん紛れもない本音であるのだが、少なくとも決め手は金とは違ったんだろうなと今更ながらに思った。入ってから逃げることも考えていたし。
 ぼんやりと歩きながら団邸の出入口に戻ってくると、
「うぃ~~……」
 青碧の髪の毛を首元で二つに結び、上半身は肌を殆ど晒し胸元の膨らみを隠すように小さな布が申し訳程度にあって、背中には大きな鳥を模した刺青が大胆に晒され、耳や手首にヒレがあり、下半身は魚のそれ……というものが団邸の玄関の階段に転がっていて何やら地獄に引きずり込むような鈍く重苦しい呼び声をあげていた。
 ウンディーネの干物が……ではなく、いつもの酔っぱらってるウンディーネだ。
 うん、無視しよう。自分の平穏のため。
 心の中で硬く誓いをして横を足音を立てずにそっと通り抜け、私兵団邸の扉を開けて中に入ろうとしたところ、
「ひゃあっ!」世にも恐ろしい冷たい感触が右足首に触れ、瞬間ぞわっと全身が総毛立った。何しろこちらは裸足である。自分の直感以外にはズボンの裾から覗く太腿までは身を守る物が無く、その自分の直感が敗れた時点で情けない声をあげるしかなかった。振り向いたが最後、二度と日の光が拝めないのではないかと思わせる。
「おい、あんた!」
「は、はい!」
 こちらが硬直していると格好の的かと狙いを定められたのか、これでもかとばかりに怒鳴り声を浴びせてきた。
「あっしの酒がよぅ……呑めないってーのか!」
「ひっ」
 呂律の回っていない調子で右足首にもう一つ冷たい感触。両手で掴んできている。いよいよ自分を地獄へ落とす気だ。
「お、オイラは酒なんて飲まないっつーの!」
 なんとか喉に力を入れて声を絞り出した。自分の声が私兵団邸の玄関扉にぶつかり跳ね返って、それからあっという間に昼日中の爽やかな空気に消えていく。
 しかし、何秒待っても反応が無い。相変わらず足に冷たい感触が貼りついているが、そろそろ冷たいを通り越して痛みが先行してきた。
 凍傷になってしまうんじゃないかという恐怖感が先走り、恐る恐るぎこちなく首を回してみると、ウンディーネは最初に見かけた姿勢のまま顔を突っ伏していた。
「って、寝てるし!」
 寝息は静かなものだが、酒に酔って赤らんだ顔のまま階段のごつごつとした石畳に頬をくっつけていて、とてもじゃないが口に出しづらい顔貌になってしまっている。傍に転がる徳利が今にも階段を転げ落ちて中身をぶちまけそうになっていた。このままでは最初の印象通りウンディーネの干物が出来上がってしまう。
「あーもう……仕方ねえな……」
 頭を掻きながらもミゼルはしゃがみ込んで徳利をまず退かして、それから寝転がっているウンディーネを背中に乗せようとする。「おもっ……」女性に対して大変失礼なのは承知の上だが、元々そんな力仕事が得意でもないし筋肉がつくような環境でもなかったんだ。せめて起きててくれりゃ……と思考が流れかけたがそれはそれで暴れそうだから、きっとまだマシなのだろうと思うことにした。
 兵が多いにも関わらず普段から比較的綺麗に砂埃が払われている私兵団邸を一人のウンディーネを背負いながら、出入り口に一番近い部屋に向かった。皆がよく出入りする部屋だから物も散らかってて掛けられる布くらいもあるだろうし、彼女を寝かせられるくらいの場所もある。
 きっと団長とかレオンならこんなにかからないんだろうなあと思う時間をかけてようやく部屋の入口に辿り着いた。あの唯我独尊なレオンがこんなことをやるかはともかく。
(よく考えりゃ、こいつもあのバリンの犠牲者なんだよな……)
 スレイプを一度寝かせて、それから玄関に放りっぱなしの徳利を拾いに行きながらそんなことを考えた。ミゼルはバリン公爵の領地で貧富の差に喘いできたものだが、こともあろうにあんな軍拡ばっかりして民を顧みない皇帝に貢ぐためにバリンはウンディーネを乱獲したらしい。貢物として船に乗せられていたウンディーネは口にするのも抵抗がある程に酷い仕打ちを受けていた。それこそ自分が貧民街で受けていた暴力なんかよりも余程。その中でも唯一の生き残りがスレイプなのだ。こうして酒を飲んで何かを忘れたいと思う心情も解らないではない。
 自分が弓を持って曲がりなりにも誰かの上に立ち始めたのは、そういう鬱屈した感情があったからだ。今探してる弓は……曲がりなりにもそういうものを抱いていた頃の物だ。着る服も食べる物も無い、荒み切って世の中で蟻んこ以下だった頃の――
 あまり乗り気ではなかったけど、やっぱり真面目に弓を探そう。
 徳利を適当に木箱の上に乗せて、ぼうっと考え事をしながら部屋を出た。
「あれ、ミゼル」
 不意に声をかけてきたのは剣を腰に提げた青年、ジェノンだった。相変わらず戦に携わるような雰囲気を持たない柔らかい雰囲気を纏わせているが、人は見かけによらない、という言葉がしっくりくる。彼の剣の腕は団の中でもかなり高い方だ。
「よ」ほっと胸の中で安心しながら短い返事でミゼルは応対する。ミゼルが認知している限りこの団でもまともな……かなりまともな人種である。そんな彼は布で包まれた何かを脇に抱えていた。ティエラの街中から帰ってきたばかりのようだ。「買い物帰り?」
 ジェノンもこちらの視線を察したのか、脇に抱えた物を指し示した。
「うん、ちょっと本をね。ミゼルは何してたの?」
「うーん……酔ったウンディーネの介抱……」
 自分の背後を指差しながら答える。寝転がっている酔っ払いの存在を認め、ジェノンは憐憫を塗り固めたような苦い顔をした。
「んー……飲まされなかった?」
 お気の毒様とか不運だったねとか彼の態度で理解できる言葉を全部すっ飛ばして、とりあえず本人が一番確認したいだろう用件だけ端的に訊かれた。
「その前に向こうが落ちた、そこで」
 ジェノンに閉じられてしまっていた扉の向こうを指を差す。団邸に入ってくる時に既に階段部分が濡れていることに疑問を持ったからなのか、彼は何度か頷いた。
「まあ……セーフだったね?」慰めになっているのかなっていないのか微妙なことを言われ反応に困っていると、ジェノンが思い出したように口を開いた。「ってことは、更にその前にシスキア達といたってこと?」
 全く別方向から飛んできた言葉のボールに、多分眉をこれ以上ないくらい顰めていたと思う。
「……え? なんで」
 シスキアと言えば今目の前にいるジェノンや私兵団長ガーロットの幼馴染で、私兵団の創設からいるらしい快活な少女だ。今日は顔を合わせた覚えはないので、彼女の名前と結び付けられるのは寝耳に水だ。
 ジェノンの方もこちらの反応が意外だったようで、首を傾げてきょとんとした顔で続けた。
「訓練場でシスキア達が弓の練習してたから」
「なんでそれでオイラが?」
 確かに彼女は自分と同じく弓を扱う。だけど実態としてはジルヴァと同じクロスボウを使っていて厳密には自分とは違う。一概に彼女が弓の練習をしているからといって自分と結び付けられる理由は無い。
「だって使ってたの、ミゼルの作った弓だったように見えたけど」
「はい?」
 声が跳ねあがって蛙のような素っ頓狂な声が出た。ネシアから言い渡された問題が大変なのかそうでないのか、当事者としても考えあぐねていただけに、急に物事が着地したせいで感情の行き所を失ってしまった。
「えっと……違った?」
 ジェノンも全く予想だにしていなかったので戸惑い気味に訊いてきた。態度に出過ぎて挙動不審になってたのもあって、もう隠している理由も無いし相手が相手だから問題ないかと事情をジェノンに話すと、なんでか少し楽しそうに言い出した。
「なるほどね。それはシスキアが何も言わなかったのが悪いね。物資管理は子細にっていうのは団共通認識だと口を酸っぱくしてるんだけどさ。僕が言ってこようか?」
 せっかくの休日だというのにのんびり過ごせなくて残念がるかと思いきや、この小さな事件の結末をジェノンは見届ける気しかないようである。
「別に、オイラも行くよ。半分当時者みたいなもんだし」 
「そうだね、その方が早いかも」
 弓で訓練場と言えば一ケ所しかないが、ジェノンに案内してもらう形で移動を始める。
「でもやっぱり、ミゼルはあの弓が大事なんだね」
 二つの異なる足音に被さるようにジェノンは得心がいったとばかりに言われる。何を知ってるんだかとミゼルはやや乱暴に石畳を蹴りながら答えた。
「別に大事って程じゃねーけど。大事なら武器庫に突っ込まないだろ」
「そうなの? でも君が方伯に誘われて団に入る時、ドロミノスから持ち運ぶ物を減らさなきゃいけないって言われても、あの弓を迷わず持ってたから手離したくはないのかなって」
「そりゃまあ、」そんな昔のことなんて覚えていない。言われてみればそうだったような気もする。後頭部で手を組んでやる気のないテンションで答えた。「武器は持たないと格好つかねえじゃん」
 もっともらしいことを言ってみたが、自分より頭の回転が速い奴の波状攻撃は続く。
「でも他にも弓はあったじゃない。僕達と戦った時に使ってたやつとかさ」
「あれはあの時アンタらに盗られた」
 シスキアが持っていたタクティクスカードで手にしていた弓を盗られた時の苦い記憶が蘇る。スリ師がスラれる側になったら面目丸つぶれだ。
「そうだったっけ。でも君のアジトを見る限り他にも弓はあったよ」
 ジェノンの好奇心に言い逃れるのに疲れてきて、というかそもそも舌戦を避ける理由もよく考えなくても特に無いなあと頭で手を組んだまま、「……別にさ、大した思い出じゃねえんだ」人が何人か往来している団邸の敷地に落とすように続けた。「ただ、あんな公爵様が幅を利かせてるしょうもない町でオイラみたいな貧乏な家の奴でも友達になろうとしてくれる小さなお貴族様がいて、ちょっと仲良くなった時に作った弓ってだけさ」
「へえ……その子は」
「ああ、もういねえよそいつ」
「……そっか」
 断続的に飛び出していた彼の興味という矢も本数が尽きて止んだ。それはそれで気持ちが悪いし自分の過去を語るばっかりなのも癪に障るので、「そういやさあ」と後頭部で手を組んだままミゼルは乱暴に切り出した。「ジェノンもなんか同じ匂いするんだよな」
「……えっと……同じって?」
 今度は言葉を濁してくるのは向こうの方だ。
「オイラは金のにおいに敏感だからさ」
 特にこれまでミゼルから話を振ったことは無いが、ジェノンはそこそこの身分出身じゃないかと思う。これは色んな人物を見てきた自分の勘で彼自身が口にしたことは無く、今でも彼の家庭事情はよく知らないけれど。
 突きつけた問いに対してジェノンはミゼルのことを鋭く一瞥だけして淡い苦笑を浮かべた。
「やだな、それって僕が……」
「ジェノンお兄ちゃーん、ミゼルお兄ちゃーん!」
 ジェノンの声を遮って甲高く愛らしい声が飛んできた。二つ結びにした真っ赤な髪を揺らして小さな少女――エイミが無垢な笑顔を満面に浮かべ、純白なワンピースを翻して駆け寄ってくる。後から「あら、ほんとだ」と別な金髪の女性、シスキアが特別関心があるわけでもない調子で振り返った。
「うわっ」あっという間に目前に走り寄ってきたエイミにあっという間に抱きつかれ、少し前を歩いていた痩躯の男がよろめいたが、一歩よろけただけでなんとか姿勢を保っている。しかしその赤髪の少女が抱きついてきてよろめいた事実に嘆くよりも、先程のミゼルとの話が中断してちょっと安心している風に見えた。
 ミゼルも人の素性に特段興味があるわけでもないので、話を蒸し返したりはしなかった。それよりもミゼルの視線はエイミでもシスキアでもない、もう一人の紺色の髪を持つ少女の手に向いていた。
「げ、ほんとにある」
 お世辞にもかっこいいとは言えない簡素な作りの弓が、紺色の髪の少女の手に握られていた。足元には殺傷力の無い訓練用の矢が入った矢筒が置かれている。拾った枝で作られた弓は少女に手にはそこまで大き過ぎず、案外と馴染んでいた。
「なあにエレナの胸見てるのよ、ミゼル君?」
「え……」
 ジェノンの幼馴染であるシスキアが含みのある笑みで視界に割って入ってきた。その向こうで咄嗟に紺色の髪の少女――エレナが反応して身体を捩った。弓ももちろん身体に隠されてしまう。
「いやいやいや、見てねえよ!」思わずひっくり返った声をあげると、元々礼儀正しいお嬢様然としている少女が恐々とミゼルを見上げている。悪いことをしていないのに居た堪れなくなって、すぐ傍に立っているシスキアをきっと睨んだ。「だ、大体な、開けっ広げにし過ぎなお前に言われたくないね」
 肩を出し、腹を出し、太腿を出し、見れば見るほど薄着な女性がミゼルの言葉に肩を怒らせる。
「これはね、スカーフをかっこよく、そして可愛く見せようとしたらこうなったの!」
「前は戦うのに身軽なのが一番とか言ってたのに……」
 先程赤髪の女の子に抱きつかれていたジェノンがミゼルの後を追って会話に入ってくる。
「うっさい! 女の子は日々変わっていく生き物なの!」
「僕に女の子を説かれても、『よく知ってるよ』しか言わないよ僕は」
「む。ジェノン、本当にめんどくさい」
「ジェノンお兄ちゃん、またシスキアお姉ちゃんを怒らせてる」
「えー……」
 また痴話喧嘩かとミゼルは肩を竦める。この幼馴染二人は何かにつけて言い合っていて、こんな光景も日常茶飯事だ。だからといって決して仲が悪いとかではなくて、なんというか、仲が良い故のどつきあいみたいなものなので、誰もが呆れて口を出そうとはしない。大体、彼らと付き合いの長い団長ガーロットが一番手を出したがらないのだからしょうがない。
 気を取り直して自分の目的を果たそうかとも思ったが、しかし紺色の髪の少女をちらりと見るとまたしても視線を逃がされてしまった。どう見てもたった今シスキアから被った濡れ衣で避けられている。しかしまだ私兵団に来たばかりの少女のことをよく知らないし、そもそも控え目な女子の扱いを心得ていないのでどうしたら良いか判らない。
 残念ながら話しかけるタイミングを失っている間に痴話喧嘩も終わったようで、シスキアが話をまともな方向に持っていってくれた。
「っていうか休みの日にしては珍しい組み合わせね。どっか出掛けるの?」
「いや、僕は帰ってきたところなんだけど。ミゼルがシスキア達に用があるって」
「なに? もしかしてミゼルが弓の手解きしてくれるってこと? 助かる~!」
「ミゼルお兄ちゃんの武器、弓だもんね!」
「そうそう」
 なんとなくそうだと思っていたが、やはりあのミゼルが作った手作りの弓は藍色の髪の少女――エレナの弓の練習に使われているらしい。彼女は非戦闘員で武器の練習などする必要ないので、どうしてこんな状況になっているのかは解らないが、彼女のことを大切に囲っている兄レオンに知られたらどんな激しい落雷で辺りを焦土にさせるか、考えるだに恐ろしい。
 しかし、女性三人から注がれる眩い期待という光線に刺されて身動きが取れない。そりゃあれは自分の弓だしなあ自分の……。
「……はぁ、別に構わないけどさ。でもオイラがここに来た用はそれじゃないってことだけ耳に入れ……」
「エレナ、やったね!」ミゼルの呆れ声を遮って、青空の元で高らかに女性の声が響いた。「流石はだしのミゼル、スリ集団の親分してただけの甲斐性があるわね」
「え、スリ……!?」
「余計なこと言わなくて良いから! っていうかオイラの話を聞け!」
 開きかかったエレナの心の扉が閉まっていく音が聞こえた。ただでさえ女の子の扱い方は解らないのにこれ以上拒否反応を示されると困る。そしてそれ以上に兄貴に何されるか判らない恐怖心が降り積もる。
「何よ、アンタの話って」
 ようやく話の進行役がこちらに興味を持ってくれた。腕を組んで唇を尖らせて、何故か不服そうだけど、彼女の中で自分の存在のグレードが下の方に設定されてないか。
「あのな、そのエレナが持ってる弓。それ武器庫から持っていったやつだろ?」
「そうだけど」
「持ってく時は少しの間でも出入口の管理表に書いてくれ」
「あ、忘れてた」
 軽い調子で言われて、ミゼルはがくりとうなだれる。武器確認をしていた時以上に疲れが溜まってきた。自分も正直きっちりした性格とは程遠いが、これからはもう少し周りに気を配って生活しようと思った。今みたいな二次災害を防ぐため。
「シスキア」ジェノンが一歩前に出て、シスキアに耳打ちし始めた。「ミゼルのその弓は……」
「へえ……そうなんだ……」
 意味ありげに頷いて彼女は色っぽく視線を泳がせた。理解できない奇妙な行動にミゼルは思わず身構える。
「な、なんだよ……」
「エレナが言ったことは正しかったのかもって思っただけ。ね、エレナ」
「え……」エレナは可愛らしく小首を傾げた。木立の隙間から流れるそよ風に藍色の髪が僅かになびく様は、やはりお嬢様然とした少女のそれである。「この弓はその……あったかいって言ってたことですか?」
「うん、そうそ。ま、あんなところに雑に置かれてた物だったのは減点だけどね」
「ミゼルお兄ちゃん、何か悪いことしたの……?」
「悪いことっていうか、……残念なこと?」
 内容からして褒められてるのかなあと思って聞いていたのだが、どうやら貶されているようである。斜め下から正に残念そうな視線が真っ直ぐにミゼルを貫いてきている。
「なあ、オイラもう帰って良いのか? 弓の手解きは良いのかよ」
「それはダメ! 男なら、一度言ったことは曲げちゃダメだから!」
「どの口が言うんだよ……」これ見よがしに溜め息を吐いたが、大体ジェノンとシスキアが悪いだけでエレナに何も非は無い。「まあいいや。一回手本見せるから、それ貸して」
「あ、はい。ミゼルさん、お願いします」
 今度は忌避的な態度は取られなかった。何故かエレナの中で多少は接触するためのハードルを下げてもらえたらしい。弓があったかい、の意味は正直よく判らないままだが、悩んでいても時間の無駄だ。
 エレナから弓を受け取り足元の矢筒から練習用の殺傷力の無い矢の矢筈を取って引き抜きながら、的の正面に立つ。足を肩幅に開いて一度呼吸を整えて弓を引き絞った。

「はぁー、疲れた」
 自分自身のしょっぱい弓を回収するだけで色んなものに巻き込まれてしまった。
 執拗なくらい丁寧に研磨された、でも普段多くの人間が出入りしている証拠として細かな砂粒が端々にある廊下の床板の上をぺたぺたと裸足で歩きながら、ミゼルは第二武器庫へと戻ってきた。
「あれ、ジルヴァ」武器庫に入るとランタンを手にした銀髪の女性が部屋の隅でしゃがみ込んでいた。「どうした? 忘れ物か?」
 つい半刻ほど前に別れたはずの銀髪の女性の姿を認め、ミゼルは問いかけた。
「……さっきウンディーネの女が酒のつまみと勘違いしてウィッチ達の箒を食べようとしていた」
「なんだそりゃ……おっかねえ女だな……」
 ミゼルが団邸に戻る時にスレイプの姿が消えていたのは見掛けたが、まさか屋敷を横断してこんな僻地にまで来ていたとは。そして何をどうしたら箒を肴と間違えるのか、酔っ払いにのみ展開される奇想天外に創造される世界の理解に苦しむ。ジルヴァも表情は大きく変えないものの、黄金色の切れ長の瞳をすっと細めた。
「だから念の為、個数の再確認だ」
 端的に抑揚のない声で言うと、ジルヴァはまた手元の作業を再開させる。
 特にこの後予定もないので手伝うかとミゼルも思い至り、まずは手を開けようと弓を元の場所に持って行こうとしたら、背後から声をかけられた。
「……その弓」
「ん?」
「お前の大切な物だったんだな。無くなったのに気付かなくてすまない」
「ん? いや別に」中身の無いいい加減な応対をしてから、弓を持った姿勢のまま足早に数歩後退してジルヴァのすぐ傍に戻った。「ってか何、誰かから訊いた?」
「ああ、シスキアが、」さっきまで鋼の表情だったのに、何故かそこで一度言いづらそうに口を何度かぱくぱくさせ、首元に巻かれた桃色のスカーフに隠されてしまった。「お前の大切だった身分違いの女の形見だと」
「…………ちょおっと待て」
 頭を抱えてジルヴァの隣にしゃがみ込む。何故だろう、今言われた要素のうち合ってるのは一つくらいだけなような気がする。全く知らない情報が何処かから生えてきてるような。自分の弓にいつからそんな壮大な物語が出来たのか。
「オイラの、えっと、大切だった女の、なに、形見?」
 回らない頭なりにジルヴァの言った台詞を整理すると、あの弓はミゼルが知り合った女の物で、その女の子が今はこの世に存在せずこの弓だけが手元に残った……という感動話らしい。
 よく見知った顔は確かに細身であるが華奢というほどでは無いし、「ぷっ、ははは」あいつ、勝手に殺されてて笑えてきた。
 訝しげに見ていたジルヴァに「ごめんごめん」とミゼルは説明をする。
「これ作ったのは確かに人に教えるためだけどさ、別にそいつ死んでない」
 ジルヴァは僅かに目を見開いた。
「そう……なのか。でももういないって言ってたと」
「そら随分前に……アンタらと会う前にはとっくに引っ越しちゃったからな、シャーミネルに」
「シャーミネル……反乱軍が以前蹂躙していた雪山の……」
 以前、私兵団任務の一環で雪の降り積もる山岳を上ったことがある。安定しているとはとても言えない帝国の中でも自然が広がってばかりの、所謂田舎と呼ばれるような西部で反乱軍が力をつけてきた時、拠点として選んでいたのが山岳都市シャーミネルだった。切り立った岩壁、その上に積もる雪ととにかく天然の要塞という言葉がぴったりな場所ではあるが、その分暮らしていくには相当に厳しいところだ。年中積もる雪で作物は育ちにくく、訪れることの少ない商隊には吹っ掛けられる。国境付近なのに背後は川だから守る必要性も薄く、軍拡ばかりする帝国から重要視されないのも無理はない。そこを反乱軍に目を付けられた。
「そう、だからそん時に再会したよ。貴族っても殆ど力なんて無いって言いながらもさ、負傷兵や町の人に炊き出し出したりしてた。変わってねーって思ったぜ」
「……ああ、確かにお前と仲良くしていた男がいたな」
「そ、男。女じゃないって。ったく、ジェノンの奴だな、絶対あの時勘違いした……」
 ジェノンにしかこの弓の経緯を話してないのに、あっという間に伝染している。すぐ男女の仲にしたがるのはジェノンの方かシスキアの方かこの際どっちでもいいが、あの意味深なジェノンの耳打ちとシスキアの反応を見る限り、あの時点で錯綜してるから多分ジェノンのせいだ。はた迷惑なものである。仮に好きな女が出来ても絶対にジェノンにだけは言わないでおこう。
 この場でジルヴァを恨む要素なんて全く無いわけで、はた迷惑な二人組はさっさと頭の中から追い出してジルヴァに向き直った。
「ともかく、これをシスキアが持ち出してエレナが使ってただけだったから良かったさ、侵入者なんていなかったわけだし」ジルヴァに取り敢えず事実を伝えて、そのままさっきなんとなく考えてたことを特に考えなしに口走った。「あ、そだ。エレナがな、結構弓のセンスがあってさ」
 あの後シスキアに役目を押し付けられて半分渋々半分びくびくしながらミゼルも指導したが、戦いとは無縁なところに置かれていたはずのエレナにはかなり才能がある。基礎を教えただけで飲み込みはかなり早いのは軍役についていた親から継いだ血のせいなのか。彼女の筋力そのものは足りてないものの、小半時で一度的にも当てている。彼女自身の守られているばかりなのが嫌だからせめて護身に武器を教えてほしいなんて言っていた、その小さく揺るがない決意も、彼女の唯一無二の腕前に加担しているのかもしれない。
「普通の弓よりも力が要らないし、今度ジルヴァがクロスボウ教えるのも良いんじゃないかなーって」
「私が……? 何故……?」
 ふと思い浮かんだ内容をそのまま口走ったら、すくっとジルヴァが立ち上がった。首元のスカーフの尻尾がミゼルの鼻先を泳いで視界を一瞬遮った。次の瞬間にはもうジルヴァは余所を向いていて表情は見えなかった。
「ほら、シスキアとも話せるし」
「な、なんでその名前がなんで出てくる」
「いや……シスキアのこと好きだろ?」
「す……好き……?」
「ん? 違うのか?」自分も勘違いで話を進めてジェノンのこと責められないのかもしれない。「まあオイラのただの思い付きだから気にしなくても――」
「け、検討しておく……」
 小さくはあったが、明確に返事があってミゼルは目を丸くした。話ながらも断られるのかと思ったら意外にも肯定的な意見で、ミゼルも一瞬反応が遅れてしまった。
「ん? お、おう。あ、絶対にレオンには内緒でな。見つかったらオイラ達が八つ裂きにされちまう。今回のことはエレナたっての希望みたいだから」
 言いながら背筋が僅かに冷えていく感覚がある。あんな剥き出しの刃物みたいなおっかない男を怒らせたくはない。宥めてもらうにも団長かヴェルマン辺りでないと収まらなさそうで厄介なことになる。もとより波風立てないのが何より生きていく上で優先すべき事項であることは幼い頃からよく知っている。
「……ありがとう、ミゼル」
 頭上から雨粒のように零れて落ちてきた呟きに脊髄反射で返してしまう。
「え?」
「ほ、ほかほかしたから……その礼だ」
 言うだけ言って逃げるようにジルヴァが武器庫を去っていった。彼女が持ってきたランタンも持っていかれてしまったので、天井近くの鉄格子の嵌まった窓から刺さる僅かな採光のみの暗い部屋に一人で取り残された。ジルヴァの手伝いをしようと思ったのだが、彼女自身がいなくなっては何もやりようがない。
 悪いことでも言っただろうかと天井を仰いで、それから頭をわしゃわしゃと掻きながら、
(ほかほか……)
 半刻前に自分が言ったことを思い出した。
(それにミゼルって……)
 名前も初めて呼ばれたなあ。
 彼女と本当に最初に会った時なんかは敵同士で、感情なんて一粒の砂程も無いようにすら見えていたのに、そう見えていた彼女だってちゃんと血が通ってて喜怒哀楽があって、今ではミゼル達の大切な仲間だと思えるくらいには関係を築けているのだろう。少なくとも今の一言はこちらの想いが一方的なものではないということだと思うと、ほんのりと胸が温まった。
 休みだというのに慌ただしい日だったけれど、今まで生きてきた中で執着というものが殆ど無かった自分にも、無意識ながらもそんな心があったのだと知ることができた。産まれてこの方、折り合いをつけ続けててきた生きてくのに必要のない感情に、団に身を置いている今は向き合っても良いのかなあなんて人生の道の先を見据えていられるようになった。
 下を向くと自分の両足が見える。曝された足が土に汚れて、爪の間にも砂が入り込んでいる。豪遊している貴族連中と、明日生きるための水や食糧すらままならない貧民と、その間に確然とある埋まらない溝を忘れないためにミゼルは今も裸足のまま生活を続けている。
 それでも国を変えていくなんて大それた思想を持ったヴェルマン方伯についていけば、そんな帝国の腐った仕組みも変えていけるのではないかというのは、ミゼルだって願っていることだ。実際、反乱軍に襲われて大きな被害を受けてしまったティエラは確実に変わってきている。
 貴族ばかりのニーベル街区を巡回している時に町を守ってくれているお礼だなんて言われて貰った新品の靴も、昔の自分ならすぐさま金にしていただろうに、今は自分の荷物の所に置きっぱなしにしている。
 ジルヴァが変わってるように、町が変わってきているように、自分も国も少しずつ変わってきているのだろうか。それもきっと良い兆候なのだろうなと受け止めた。それは不思議でもなんでもなくて、必然なのかもしれない。
 殺風景な小暗い部屋の中、自分の拾い物で作り上げた拙い弓をもう一度目に焼き付けて、ミゼルは武器庫を後にした。








※ここから言い訳エリア
・ミゼルの出身地がイマイチ判らないので、彼と出会ったバリン公爵領という態で作ってます
・ミゼルと仲良くしてくれた小貴族さんは捏造
・未成年にお酒を薦めてはいけません
※ここまで言い訳エリア


 ユニオンシリーズのパッケージ版発売おめでとうございます!!
 最初にケムコのバンドル発表された時に「大丈夫?スティングの作品だよ?」と思ったスティングファンです。でも本当にありがとうございます。

 ミゼルのことをずっと何処かで書きたいと思っていました。前回のジェノンのお話でいるにはいるんだけど、あちらはジェノン中心だったので。
 今回はわいわいがやがやとギャグ強めで書いていきました。ずっとこんな幸せが続くと良いですね、ええ。

 仲間になるキャラの中で唯一デメリット持ちの武器を持ってくるミゼルという男。今回はその弓をモチーフになんとなく話を書いてみました。ミゼルが貴族に対して悪感情を強く抱いてないきっかけのようなお話として書いてます。実際ゲーム中でもヴェルマンに私兵団に誘われた時に嫌悪感とかは無かったから、その辺彼はだいぶとドライなんだと思います。


 ミゼルはなんで好きになったのかよく覚えてないけれども、多分最初は声からとかそういう単純な理由じゃないかな……ウィングの声が好きなので。
 ただブレイズやってそれから改めてユグドラやって、なんか彼に対して色々と思うところが増えてきて。変人ばかりのグラムブレイズの中でも凡人と言われがちなミゼルのことが気付けばかなり好きになっていました。毎回ちゃんと育てないと気が済まなくなりました。
 実際ブレイズでのハンター強いしね……Aは昼固定、B表は対杖、B裏は対グリフ、Cは森&対書。全てで勝利してるよミゼル君。まあ仲間にするためのBFは面倒ではあるけどね。


 というわけで何度も言いますが、本当に令和の時代にユニオンシリーズのパケ出してくれてありがとうございます。
 エクシズ来るのをずっと待ってます。

 また、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

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