ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

2025/05    04« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »06
ブレイズ小説5本目。

 ブレイズ15周年おめでとうございます!

 『物欲のなせる罠』通過後のAルート、そしてユグドラを経て三年後。
 セリカとミゼルを中心としたお話です。カップリングではありません。
 『奪う者、奪われる者』『それぞれの事情』の話を理解していると、よりスムーズにご覧いただけるかと思います。
 ブレイズ世界から6年も経っていることを踏まえての捏造話であることをご理解ください。

 約33k字、1記事に入らなかったので二分割しております。

 では、「焔に沈むは罪か手向けか」です。どうぞ。

>25.5.28 追記修正・拍手コメント返信






焔に沈むは罪か手向けか(1/2)



 この世界では人が人を害することは珍しいことではない。大きな街なら組織立って動いている場合だってある。傭兵なんていう人に雇われる立場であれば、似たような立場のそいつらは商売敵でもあるし、むしろ抗争相手であることの方が多いかもしれない。荒事を必要とする者と実行する者は大抵別の人物で、だからこそ人の痛みというものを自分では覚えることがない。
 何故こんなことを考えながら歩いているのかというと、森の木々と背の高さまである雑草達に隠れるように停まっている馬車の中身が、木材の隙間から見えたからであった。
 青々と多い茂った無数の葉から零れ落ちた陽光が馬車を斑に染めている。天井にも穴が空いているのか、中が何筋かの細い柱で照らされていた。そのおかげで馬車の中身がちらりと見えたのだ。あれでは街に入る時に都合も悪いだろう。一瞬太陽光と見紛うような明るい物を中に置いているのも注意力が欠如しているし、お金を浪費するところを少々間違っているように思う。まあ、街の近くに停泊してるということはたった今、街で物を調達しているのかもしれないが。
(何処にでもいるんだな……)
 特段感慨の沸かない感想が浮かんではすぐに消えた。この国が隣国の従国となり名前を変えてから少しずつ世情が変わってきており、こういったあくどい行為は減りつつはあるが、零とするにはまだまだ時間が要りそうだ。
「姉さん?」隣を同じ歩幅で歩いていたはずの女性が斜め前に立ち、顔色を窺うようにこちらに振り向いていた。どうやら自分の足が知らずに止まっていたらしい。彼女は涼やかな声で訊ねてくる。「どうしました?」
「あの馬車、やってんなーって思って」
 テンガロンハットの鍔を引き寄せ、改めて歩を進めて彼女――エリシアに追いつきながら答える。彼女からは相も変わらず浅緑の緩やかな癖のある髪からは街で買い込んだ花の香水の香りがしている。稼業で得たお金は殆どが衣食住に消えていくものだが、彼女はその限られた金を工面してこうして自分の趣味に注ぎ込んでいた。彼女曰く、いつか見つけるだろういい男を絶対に逃がしたくはないらしい。男に振り向いてもらいたい心意気は解らなくもないが、いつ会えるかも見たこともすらもない男に対してよくそこまで努力などできるなあと感心してしまう。
「馬車、ですか?」
 彼女に話した時には既に荷車は見えなくなってしまっている。話を受けたエリシアは小首を傾げて、それ以上問うことはしなかった。
 ここは六年前まで、とある伯爵が所有していた領地だった。それが終焉を迎える頃の噂も、当時よく聞いたものだった。
 街の西にあるクレドの森には盗賊が住んでいて、その領地を荒らしていた。それだけなら何処にでも転がっているような話だ。問題なのは、その盗賊騒ぎを収めることが難しくなったと見るや、統治するはずの領主が逃げ出したということである。そのためか、一時期はファンタジニアとの戦争の時よりも食糧難が続いていたとか、あちこちで火の手があがって荒れ放題だったとか、百人を超えていた街の自警団も三人しか残らなかったとか、という本当だか嘘だか判断しにくい悪評が隣街の更に隣街くらいにまで流れるくらい、荒れ果てている時期もあった。
 森を抜けて、セリカ達がその街に辿り着いたのは、太陽が傾き始めていた頃合いだった。木々の隙間から見えていた深い青空も森を抜ければ刻一刻と橙色へと色調が移ろいつつあり、これから仄闇の世界が始まることを告げていた。
 エリシアと打ち合わせていた通り、今夜はこの街の宿に泊まることになった。眠るにはまだ早かったため、荷物を預けて酒場に入って労うことにした。
 道中の家々や舗道を見る限り、六年前にあったらしい傷痕はとっくに修繕され、むしろ新しく整備された分、街は一様に端麗になっているようにすら見えた。
 宿の人に言われた近場の酒場だという店は、数分歩いて辿り着いた。街道沿いに建った木製の建物だが、盗賊被害を受けた後なのかもっと前からの傷なのか、壁の木板が所々割れて光が漏れ出ている。同時に中の陽気な喧騒も聞こえてきていた。まだ夜も始まりかけだというのに、気の早い連中はどんな街でも転がっているらしい。
 開け放たれた扉を潜り抜けると、中は案外とこじんまりとしていた。十程の丸テーブルと丸太を削っただけの椅子がいくつも置かれており、埋まっているテーブルも五分の一。壁に掛かった松明も全てに火を灯しているわけではなかった。
「おじさーん、ビール二杯とオススメのツマミね」
 エリシアが酒場の扉を叩いて早々に声を掛ける。鈴を転がしたような彼女の声が他人の声に全く埋もれないことに、団の団長としては羨ましさを覚えたりもする。そんなこと言ったところで自分が同じような可愛らしい声になるわけでもないから特に口に出したことも無いが。「あいよー」と客の少ない酒場の隅で干し肉を切り落としていた四十くらいの細身の男が切り返す。髭も丁寧に剃って髪の毛も後ろで一つ縛りしている、酒場の外観とは裏腹に清潔感のある男性だった。
 空いている椅子に腰を下ろして、被っていたテンガロンハットを頭から外して首にひっかける。早速足を思いっきり伸ばした。朝から歩きっぱなしだったので疲労が一気に伸し掛かる。靴紐を解いて靴を放り出して、ようやく解放されたような気分になった。
「んーお腹空いたー」
「仕事終わった昼からずっと歩きっぱなしでしたからね」
「本当なら往復でお金貰えてたところだったのに」
「仕方ないですよ。向こうで商隊の儲け話が転がってたなら。仕事してないけどお金は貰えたじゃないですか」
「それでも当初の六割よ。契約くらい守れっての」
「まあまあ、その分早く団に帰れますから」
 直前の案件の愚痴を零していると、やがて飲食物が届けられる。木製の酒杯が二杯と小皿が二皿。皿の上には先程切ったと思われる干し肉と切り分けた野菜が乗り、何種類かの香辛料がぱらぱらと撒かれている。
「ま、色々あったけど今日はお疲れ、エリシア」
「セリカ姉さんも、お疲れ様です」
 杯をぶつけ合い、息を吐く。外は比較的温厚な季節ではあるが、やはり歩いているとそれなりに火照っていたようで、冷えた飲み物が身体に染み渡っていくのは程よく心地よかった。皿に置かれた肉は最初は鳥肉かとも思ったが、どうも噛み砕いていると鳥肉よりもだいぶ噛み応えを感じる。その正体についてエリシアと推理していると、
「よお姉ちゃん。ちょっと良いかい」
 大柄な人間の影がテーブルの上に落ちる。話を止めて顔を上げると、声の雰囲気と大きな差はない、粗野な不精髭の中年の男が立っていた。高身長で袈裟懸けのベルトで背中に大剣を刺していて、刈り上げた黄土色の髪に白い髪も混じり込んでいる。漆黒のつり上がった瞳には年相応の目尻が浮かんでいるが、鋭利な雰囲気が和らいでいる様子はない。
「あんたら、見たところ傭兵だろ? ちょいとお仕事頼まれてくんねえかな」
 第一印象で圧迫感を持たせて話し掛けてくる、唇を歪めて余裕を見せてくるような歳上の男にはよくある事案である。傾けていた杯そのまま、セリカは胡乱げに視線だけを向けて続きを待った。
 が、どうも向こうは自分が優位に立っている今の状況を変える気は無いらしい。いけ好かない雰囲気に既に熱量はだいぶ冷えてしまっていた。こういった連中の金払いが良かった試しはない。
「それが頼み事する態度なの?」
 自分も気が長い方ではない。むしろ火打石さながら、打ちこまれたらすぐ火が付くような性格なので口内に含んでいた琥珀色の液体を喉に流し込んでさっさと口を開いてしまった。男の方は憤ることもなく皮肉な冷笑を浮かべたままだ。
「へ、悪かったよ。それはその通りだな」隣の空きテーブルから椅子を引き寄せ腰を下ろしながら、男は言った。「俺はベザってんだ。俺達は今荷物を運んでるんだが、その護衛が足りなくてな」
「何で運んでるのよ」
「馬車二台だ」
「二台の護衛?」こちらの成り行きを見ている二人の男が着くテーブルを横目で見る。ベザが来たのもそのテーブルからだったし、明らかに彼らと連れだって動いている。「アンタ達、どう見ても戦えるでしょ。私達が必要なコトってある?」
「お嬢ちゃんもこの世界長いなら解んだろ」
 なるほど、連れ立った三人共が野郎。こういう手合いはよくある。女性として隣に立って夫婦でも親子でもなんでも演じてくれれば関所も通りやすくなる、という話である。その手の話は何度か受けたことがある。実際今も似たような任を終えて本拠地としている街へ帰ろうとしているところでもある。彼の言う通り、この世界が長いのであればよくある依頼であった。
「セリカ達は確かに傭兵だ。依頼は金の話からにしな」
「ほらよ、銀貨十枚、前払いで隣街ティエラまでだ。成功報酬も同額だ」
 二人分の往復の費用を見積もってもそこそこな金額である。ベザの方もこういった手合いには慣れているようだ。
 ここまで相手のことを知れた。多少横暴でいけ好かなくても問題ないと思えたのは、丁度予定していた任務が白紙に戻ったばかりだったのもあるだろう。
 団に戻るのは予定よりも遅くなってしまうので後でエリシアに頼んで手紙を出しておくか。そう考えながら銀貨を掴みかけた時だった。
 セリカの目に映る。男が話している最中は袈裟懸けのソードベルトに隠れて見えなかったが、銀貨を出そうと男が行動したタイミングで露出したらしい、懐に乱暴に挟み込まれた山吹色の布――目に付いた瞬間に多少は交渉の席にでも着こうかとも思った気持ちが一瞬で霧散した。
「他を当たって」
 無造作にテーブルの上に投げつけられた銀貨を鷲掴みにして男に押し返す。乱暴に扱ったので二枚ほど床に転がり落ちていった。
「おいおい嬢ちゃんよ、金は文句ないだろ」
「うっさい、話は終わりだ」
「そういうこと言わずによ」
「帰れ、バカ」
 眼中に入れるのも面倒くさくなってきて、ビールに手を伸ばして無視を決め込んだ。一方的な応対に、男は顔を歪める。
「調子に乗りやがって……説明無しに一方的に話を切られるのはこっちだって納得いかねえよ」
「ちょっと、何すんだよ!」突然ベザがエリシアの腕を掴んで捻り上げた。「離せって……っ!」
 エリシアを掴んでる腕に思い切り斧の柄頭を叩き込んで骨でも砕いてやろうと手を伸ばした時、セリカの背後から風切り音が唐突に聞こえたかと思うと、甲高い金属音が鼓膜を震わせた。丸テーブルに飛来したそれは上に乗っていた銀貨を一枚弾いて、ベザの二人の連れのうち片方の額まですっ飛んでいったらしく、「たっ!」意味を為していない間抜けな声が聞こえた。
 テーブルに乾いた音を立てて飛び込んだのは、一本の矢だった。
「女の子をしょうもない理由で苛める奴ってのは何処にでもいるんだな」
 矢が飛んできた方を振り返る。そこには片足を椅子の上に乗せて矢束から次の矢を引き抜いている一人の青年がいた。まだ十代後半から二十代前半くらいか、セリカと対して歳が変わらないようにも見える。一番に目に印象深く映るのは、白味がかった黄緑色を中心に毛際から毛先まで濃淡が表れている不思議な髪色だった。ミディアムヘアをヘッドバンドで留めているが、遅れ毛だけは垂らしたままで、幼気な印象がより強くなっている。
「若造が大人の交渉に割り入ってくるんじゃねえよ」
 青年の挑発に口を真っ先に開いたのは、ベザである。口よりも雄弁だった顔から感情を削ぎ落として殺意を滲み出しているが、青年の方は態度を変える素振りはなく弦に矢を番えた。
「へえ、おっさんの言う交渉ってのは人に対して暴力を働いても成り立つわけだ。じゃあオイラの矢がアンタの二の腕を打ち抜いても、それは交渉に入るよなあ?」
 口の端を釣り上げて弦を引く。青年の矢尻は正確にベザの肘を狙っていた。べザよりも先に連れの男二人の方が乱暴に椅子を引いて立ち上がる。
 自分達以外の客も黙り込んで張り詰めた空気が食堂を支配する。店員だけは相変わらず干し肉を切り落とす作業を続けているのが場違いみたいだ。
 睨み合いはそう長く続くことはなくやがてベザの方が舌打ちをしながら、「やだやだ、俺だってこんなくだんねーことで怪我は負いたくねえよ」とエリシアの腕から手を離し、
「だが兄ちゃん、」
 言下、男の影が消え失せた。いつ手に取ったのか――テーブルの上に置かれていたセリカのフォークを手にして、青年の喉元へと突き付けている。「兄貴!」青年の背後から聞こえる掛け声は連れの者なのだろう。弓矢で両手を塞がっている状態では、そのフォークに対して青年が対処できることはなかったのかただの挑発だと理解していたのか、臆することはしていないが矢を番えた姿勢そのまま、ベザを睨みつけている。横に並ぶと身長や体格は、黄緑髪の青年の方はベザと比べて心許ない。
「お前、背中には注意しといた方が良いかもな」
「……ご忠告どーも」
 互いに一歩も歩み寄らないまま、ベザはフォークを投げ捨てて酒場の扉を押し開けて出ていった。その様子を見ていたベザの二人の取り巻きは、慌てて手元の酒を空にして金を置いて後を追いかける。
 その男達の背中を見送ってから、青年は矢尻を軽快に回して腰元の矢束に仕舞い込んでいる。一つ肩で息をすると、歯を見せて快活に笑いかけてきた。
「悪ぃな、勝手に間に割り込んで」
「別に。断る気だったから」
 頼んでも無いのに女だからって助け船でも出したのだろうか。どちらにしろ真意は知ったこっちゃないのでぶっきらぼうに返して、酒を煽ろうと手を伸ばして顔を上げた時だった。
 緩んでいた空気に僅かに緊張が走る。殺気とは程遠いものだったが、思わずはっとして視線を持ち上げた。
「お、お前……」
 何故か青年が絶句していた。青丹色の丸い瞳がこちらの顔を凝視してきている。
 しかし当然、見知らぬ人間にずっと見られているのはいい気はしない。「何よ」と必要最低限に返しても、青年の方はぶつぶつと独り言を言っている。
「生きて……たんだな……いや、そりゃそうだよな……」
「何よ、さっさと用件言えよ」
 無視されている上に勝手に納得までされている。セリカの大して長くもないストレスゲージは早々と振りきれそうになって、早くもベザに放ったのと同じ荒っぽい口調が出る。しかし青年の方はそんなセリカの愛想の無さに憤ることはせず、露骨に眉を寄せて困惑した表情を浮かべた。
「……お前、本当にオイラのこと覚えてないわけ?」
「ナンパはお断りなんだけど」
「ちげーって。ま、覚えられてないのも無理ないか……」とまたこっちには解らないことを呟いている。「あの時は団長にしか眼中に無かったわけだし」
 そろそろ本格的に無視を決め込もうかと身体ごと露骨に逸らしてエリシアに雑談でもと口を開いたその時。
「セリカ」
 と名乗ってもいないのに青年から名前を呼ばれた。いや、ここまでならさっきのベザとのやり取りでも自分の名前を言っていたので、まだ盗み聞きしていたのではという可能性はあった。掛け値なしのナンパな野郎だったのかと蔑みすら持ち始めていた。
 ……次の一言を、聞くまでは。
「オイラはミゼル。元グラムブレイズの弓兵だよ」

+++++

 小さな丸テーブルに二人きりで腰を下ろして場を設けさせてもらった。ミゼルとセリカの部下は別の、元々ミゼルがいたテーブルを囲ってもらっている。
「あー思い出した」ぶっきらぼうに彼女が口を開いたのは、ミゼルがパワーフルーツ入りのサラダを店員に頼み終えた時だった。「はだしのミゼル、賞金首だったでしょ」
 思わず細く長く唸りそうになる。私兵団にいた時の話より、先にそちらの話をされるとは思わなかった。というかやはり記憶には残ってないのか。
「懐かしい二つ名だなあ。でも、それそれ。私兵団入った時点で手配は無くなったけど」
「ふーん……」
 そばかすを浮かべた頬を膨らまして、切り落とした肉を口に突っ込む。色っぽさとは離れた粗暴な動作だったが、癖のある灰茶の毛は普段からなのか食事の邪魔になるからか後ろで一つに纏めており、記憶にある彼女の姿よりもより大人っぽい印象を受ける。実際大人にはなったわけだが、あの時の鬼気迫る彼女のことは今だって忘れられるものじゃない。
 相容れない過去が彼女との間にあったが、ミゼルはそんな思い出でも郷愁を感じていた。
「なあ、セリカは今でも傭兵やって……るんだよな?」
「……まあ」
「そっか。オイラも似たようなもんだよ。賞金稼ぎしてんだぜ」
「ふーん……」
「まあ最近はこのご時世で高額の賞金首も減ったんで狩りもしててさ、そのお前が食ってるその肉もオイラが狩ってきたグリフォンの肉だよ」
「へぇ……」
「美味いだろそれ、鶏肉みたいでさ。三日前の狩りたてほやほやだぜ」
「まあ……」
「……」
 打てども打てども会話が響かない(それでも肉の正体にちょっと興味は見せてたが、すぐ引っ込んでしまった)。このままミゼルから提供できる話題を切り崩していったところでろくな答えは返ってきそうにないのではないか。ただ、半ば強引だったとはいえセリカが同席を許してくれたということは、何かしら確かめたいことが彼女にもあるのだろうと、なんとか飲み物で会話の空白を誤魔化す。
 自分の席に置きっぱなしのパンとシチューを自分の部下である男に持ってこさせるように合図をしているうちに、
「アンタはさ、生きてたんだね」
 ようやく彼女から切り出された話題は、ミゼルが先程彼女に出会い頭に投げかけたものと同じものだった。しかしミゼルのそれよりも、更に重みが増しているように聞こえた。
「……オイラは帝国軍に残らなかったから」
 暗に帝国軍に残った連中の実態を語っているようなものだった。その時の仲間も、その時の部下も。多くは隣国との戦乱の中で消えていってしまった。
「へい、兄貴」肩を小突かれ、手元に食事が置かれる。小声で「頑張ってください」と意味ありげなエールを送られる。誤解を解くのも面倒なのでひとまず放っておく。
 自分が帝国……今は旧帝国と言うべきだが、商業都市ティエラに住むヴェルマン方伯の私兵団についたのは六年前。その時には既にセリカは自分の育ての親を殺された復讐者として団長ガーロットを執拗に追いかけていた。当時聞いていた話では、その育ての親というのは傭兵団を束ねていて、お金のためならば手段を択ばず、雇い主を捨てることも厭わなかったらしい。セリカにとっては自身を拾い育てた肉親のような存在なのかもしれないが、世の中から見たら褒められる人間じゃなかったと。あの頃の団長達と自分の感覚はかなり近いものだったので、恐らくミゼルから見てもまともには映らなかったろう。
 セリカとは、それ以来の仲なのである。仲、と言っても良いのか疑問であるくらいの。
 まあ実際に、セリカは黙っていれば愛らしさはある。丸みを帯びた頬に乗った髪色と同じ灰茶の瞳は透明度が高くて、貴族の子供が持つような人形みたいだなあと思う。
 その瞳は睫毛が伏せられていてミゼルの位置から満足には見えないが、幾つもの表情がないまぜになっていた。自分達のいた傭兵団から飛び出して直情的に動いていた、ある種幼稚でもあった彼女が、こんな表情を見せてきているのは、意識せずとも緊張はする。
「やっぱ雰囲気変わったな、セリカ」
 自分もさっきまで食べていたコッペパンにクリームシチューをつけて口に放り込む。さっきの騒ぎのせいで熱々だったはずのシチューの表面に薄い膜が出来てしまっていた。
「あれから何年経ったと思ってるのよ」
「……六年……かな」
「人が変わるのに充分でしょ」
「そうだな……」
 その言葉の裏で言いたげにしている感情は、ミゼルにも解る。変わったのはセリカよりもそっちの団長の方だろという意味が込められていた。
「国だって……変わった」
 セリカがジョッキを爪で弾きながら出た呟きは、少しずつ人が増えてきた酒場に掻き消えそうになる。それが沈黙を程よく満たしてくれ、ミゼルはそれに甘えたまま口を開くことが出来なかった。
 彼女と会った頃の帝国は腐りきっていた。金を持った人間だけがうまい汁を啜り、貧しい者達は今日の飯すらありつけない、そんな村街はいくつもあった。今いる街だって統治するはずの伯爵が逃げ出して盗賊が蔓延っていたし、その賊だって重税に喘いで盗みをやっていたのだという。
 ミゼルも私兵団に入る前は人々を苦しめるお偉いさんの懐を狙う窃盗、端的に言えばスリを生業にしていた。スリ師からヴェルマン方伯の私兵団に転身して、国をより良い方向にするために動いて、その最中で様々な街を遠征して回り、国の実情を知った。道中でそのヴェルマン方伯に切り捨てられてしまったが、当時のガーロット団長が魔竜の力を手に入れて躍進し、革命を成し遂げた。自分達の歩んだ道により、結果として新生ブロンキア帝国の旗を掲げられたのだ。
 自分はその時に一団から離れることにした。要因は色々ある。その時選べる最善を、ミゼルは選んできた。
 だが、彼女は?
「セリカは、さ、後悔、してんのか?」
 我ながら歯切れの悪い問いをしたものである。だが、彼女を目の前にして、一番初めに浮かんだ、訊きたかったことでもあった。席を設けた一番の目的であると言って良いかもしれない。
 セリカの方はつまらなさそうに串で肉をつつきながら、降って湧いたこちらの疑問に一瞥だけして、反射的に切り返してきた。
「は? どういう意味よ」
「その……団長の、ガーロットを殺せなくて」
 言下、セリカが持っていた串がばきりと派手な音を立てて折れた。ミゼルもシチューの中身をつつくのに同じ串を手にしているが、そこそこ太めに削られていてミゼルの握力で同じことは為せそうにない、とんだ馬鹿力だ。
 再度声をかけるのも躊躇われるような鈍い視線を今しがたへし折った串に向け、
「解んないわよ、そんなの……」感情が抜け落ちた声を落とした。「武器だってぶつけ合ってた、本当に殺そうと思ってた。でも段々と手が届かなくなって、セリカから出来たことなんて何も無いんだ。一体何を思えば良いのよ」
 悲痛な想いをぶつけられ、ミゼルはその好奇心を出したことを少し後悔した。
「アイツ、言ってたのよ……世界を変えてセリカみたいな、戦いで稼ぐ傭兵や賊まがいのことをする奴が出てこないようにしたい、それまでは死ねないって……戦いの目的が無くなったら私に殺されるって……。戦いなんて、アイツの前から無くならなかったじゃない……」
 肘をついた姿勢のまま、それは酒場の喧騒に消え入りそうな声で吐き出された。
 緊張感のある機微を読み取ってか、四十代くらいの痩躯の顔馴染みの店員が隣の空きテーブルにサラダを置いていった。去り際にミゼルの肩を叩いて合図をしていく。というかサムズアップまでされてしまった。なんかまたしても勘違いされているが、流石にこの最中で立ち上がって修正する気にもならない。次に肉を持ってきた時にその肉と引き換えに黙らせよう。
 ミゼルはセリカに振り返り、
「なあ、セリカ……」
 声をかけた瞬間に、折った串をこちらに投げ捨てられた。
「うるさい、もうどっか行って」
 どっか行ったらもう彼女と話す機会というのは無くなるだろう。だが今のセリカに何を言うべきかなんてすぐに出てくるわけもなかった。
「セリカ、その」
「バカ、消えて」
「その、な、オイラここの酒場に馴染みがあるんだ。もしまた連絡取れるなら……」
「どっか行け、私の前から消えて」
 取り付く島もない。結局一口も味わってないパワーフルーツ入りのサラダを置き去りに、パンとシチューを両手に敗残兵よろしく元の席に戻った。
 ミゼルのいた席にはセリカと一緒にいた女性を座らせてある。その席にはここ数日一緒に動いていたファミリーの一員である男が座っている。
 セリカの連れを元の席に返そうとすると、向こうの席でセリカが物憂げな表情をしていたせいか、害虫でも見るような目付きで睨んで戻っていった。別にセリカを泣かせたりしたわけではない、とも言い切れないので甘んじて受け止める。
 席に座ると、女性らしい甘い匂いがまだ残っていた。が、目の前にいる奴は厳つい男なのが情緒の欠片も無い。ヒュイというファミリーの仲間の男は、自分よりも筋肉も体格もあって正に男らしい好漢といった態であるが、性格はよく言えば陽気、悪く言えば粗雑な男である。ミゼルも細かい話は得意ではないので、話すのは気が楽だ。そもそも自分の仲間は自分に賛同する人種が集まっているので、リーダーと言っても気楽なものである。
「兄貴、ナンパ失敗っすか? 僕はあの女の子と良い感じだったっすけどね。攻めたらイケるっすかね!?」
 ヒュイがセリカの席に戻っていった女性を、人の頭の上を超えて下心丸見えで見つめている。
「お前って能天気だよなあ……」
「へへっ、そうっすかね!?」
「褒めてねえよ」
「で、どうなんすか兄貴の方は」
 わざわざ小声にしてまでヒュイが浮足立って訊いてくる。こちらの深刻な悩みなど全く気にした風もない。こういう時は流石にもうちょっと気を遣える奴がいる方が良いなあとファミリーの連中の顔が何人か浮かんでは消えていく。
「別に、ただ昔ちょっとあったってだけだ」
 串を歯で何度も噛みながら雑に答えて、昔のことはもう頭から片付けておくのが無難だろうと判断した。ただでさえ脳みそなんてすかすかなのに、考えることが増えていけばいくほど自分の動きが鈍ってしまう。
 一呼吸してミゼルは明日からの予定を組み立てた。明日は西の方の隣街にもう一度行って、そこで情報が無いならばドロミノスにあるアジトに戻ろうと思っていた。
 そもそもこの街に来た理由はどうも人売りがいるらしいという情報を嗅ぎ付けてきたからだった。子供を浚ってどこぞに売り飛ばす。親から引き離された子供がどうなるかなんて想像に難くはない。
 当然こういった賞金首は可能であれば生け捕りにして軍にでも突き付ければ報酬が貰えるわけである。ミゼルはそれを狙って旧帝国西部まで来ていた。
 三日程滞在して情報はある程度集まってきた。といってもそんなに多くはないが、子供がいなくなるのはある程度の周期があるようで、何ヶ月か置きにここ旧帝国西部の周辺の街をとっかえひっかえしているようだった。突発的でその規則性は無く、尻尾を掴むことが中々出来ないでいるらしい。
 唐突に表に出ては消えていく煙のような存在に撒かれているとのことで、賞金もそれなりに高めに掛かっている。
 だけど結局ミゼル達の調べでも大した情報は出てこなかった。前にいなくなった子供の人数から試算してそろそろ動き出さないとそいつらの資金繰りが難しくなる頃合いだと思ったのだが、大体は行商ついでの手合いが殆どなので、一概にも言えないのである。
「あ! ……ま、まさか……」ヒュイが唐突に心臓でも止まったかのような驚愕に歪んだ顔で零した。悪夢に出てきそうな顔に思わず口の中で噛み潰した串を口から落としそうになりながら身構えていると、「実は……昔の女だったとか?」
 無言で目の前の男は殴りつけておいた。

 今日も快晴だ。
 一面が水色で塗られた空に、直視が不可能なぎんぎんに輝く太陽が地上を満遍なく照らしている。
 宿の部屋の中を四顧するが寝てる間に昨夕セリカに絡んでいたでかい図体の男に押し入られる、なんてことはなく平和な朝である。
 ミゼルはベッドの縁で大きく伸びをして、一度頬を思いっきり叩いてから着替え始めた。今回一緒に行動しているヒュイはまだ隣で爆睡している。荷物が床に散らばっていて、彼の武器である斧もその辺に適当に置かれていた。
 胸当てを付け、床に転がした靴を履こうとして無意識ながら深い溜め息を吐いていた。
 靴を履くことを決めてから、もう六年が経つ。ティエラで貰った靴を皮切りにいくつもの靴を履いてきたものである。しかし覆うものが無いと、裸足で駆け回っていた痕跡の残る皮の厚い足がそこにはあった。だが一方で、生え変わり整然と並んだ爪が、時の流れを感じさせる。
(六年、か。そうだよな)
 思いもしなかった過去との邂逅に、自分も感傷的になっているのだろうか。
「……兄貴? どうしたんで?」
 矢庭に声を掛けられて、思わずびくりと身体を動かしてしまった。振り向くと、さっきまで目を閉じていたはずの男が横に向いて眠気眼でこちらを見ていた。
「お前……滅多に朝早く起きないくせに脅かすなよ」
「兄貴が……ふわぁ……珍しく溜め息吐いてるからですよ。恋の病っすか?」
「そりゃお前の方じゃねえのか」
 思えばスリ師だった頃からの仲間は数人しかいないし、なんかの拍子にぺらぺらと過去の話をするわけでもない。今目の前にいるヒュイは一年は共にいるが、やはり賞金稼ぎを始めてからの仲間だ。この男は自分が元帝国皇帝と肩を並べていたことは知らない。相談はできないし、そもそも誰かに相談するような内容でもない。
 ミゼルはぶらぶらさせていた足に靴を履かせ始める。「起きたんなら、出る準備しろ。飯食いに行くぜ。今日は西に行くんだからな」
 この街に来た当初の目的を忘れてはいけない。賞金の掛かってる人攫いとやらの尻尾を掴むつもりで来ているのだ。今のところ情報としての収穫もあるので、これを妥協した値段で売るか、本人を捕まえるまで抱え込んで賞金をごそっといただくかはまだ検討の余地はある。少なくとも今日終えた段階で決定を下そうと考えていた。

 すっかり膨れた腹から大きく深呼吸をして整備された街路を歩く。付近の森から吹き抜ける風は冷たく肌の表面を撫でていく。青々しい緑樹の香りが鼻の奥を刺激した。
 日が昇って時間もそんなに経ってはいない。建ち並んでいる過半の家は活動を始めたばかりらしく、眠たげに目を擦りながら桶で水を運んでいる娘とその背を押しながら野菜を抱える母がミゼル達の脇を通り過ぎていったり、その向こうの路地では中年の男が積み重ねられている薪を拾い上げようとして雪崩掛けているのを必死に止めている。昨日昼過ぎに着いた時と同じくらい華やかになっていくには、まだ時間は必要だろう。
 それでもこの平穏で平凡な風景はミゼルにとっては感慨深い。今現在の街並みを形成していった過程を見ているので、陽光を反射する水面のように眩しく見える。
 街の東にあった宿から西の出入り口へと向かうには必然的に中心地を通る必要がある。街の中心地、謂わば心臓部には立派な領主の館が置かれていた。街中を警備していることを示す黄緑色の腕章を付け腰元に剣を佩いた、自分よりも若いだろう青年に爽やかに声を掛けられる。
「おはようございます」
 歩を緩めないままミゼルも会釈を返す。敷き詰められた石は丁寧に磨かれており、軽快で規則的な足音が街路に響いた。
 そろそろ街の外壁に近付いてきた辺りで、風に乗って何処からか甘い香りがしてきた。今ミゼルの口の中で執拗に暴れているスウィートベリーと同じ香りである。今からまたあの森を突っ切るのかと思うと少しうんざりもしてくる。
「もう少し水飲めば良かったな……」
 舌をひらひらと風に晒して独り言をぼやくと、隣を歩いていたヒュイが目を丸くして訊いてくる。
「兄貴、まだ引き摺ってるんすか?」
 ミゼルの背が低いことを差し引いても、隣の男の方が背も高ければ体格も良い。そんななりでこの男は甘味が大の好物なのである。
「お前はよくあんな甘ったるいのを何個も食えたな」
「あの美味しさを解らないとは、兄貴は人生の八割は損してますよ」
「人生の配分でか過ぎだろ甘々ベリー……」
 自分も甘いものが苦手なわけではないしむしろ好きな方ではあるが、ただでさえ胸焼けしそうな果物をこれでもかと敷き詰めたケーキを朝から食すのは、人生の失敗の中でも上位にあたる気がしてくる。
 早朝の気怠い空気に充てられてぶらぶらと歩いていたが、
「……兄貴」
「ああ」
 街の出口と背後の方向から挟み込むように何者かの気配がした。どうも先程からつかず離れずくっついてきている。街中で騒ぎになるのはまずいので放っておいたのだが、徐々に距離を詰めてきているのを感じる。
「森、逃げられそうか?」
 ミゼルが訊ねると、ヒュイはにかりと笑って、力こぶを作ってやたらと自信ありげに返事された。
「余裕っすよ。ベリーパワー百二十パーセントで余裕っす」
「期待しておくよ、その未知のベリーパワーとやらに。無茶は……」
「しませんよ」
 前からファミリーの中で甘党代表な奴であったが、今回の調査にやたらと積極的だった理由が理解出来たような気がした。
 ミゼルは腰元に差したナイフを確かめる。掌に張り付けるように握り締めると、指先が滑り止めの細かな凹凸にあたる。頭の隅に残っていた僅かな眠気もそれで吹っ飛んだ。
 数はそう多くはない。恐らく三人。だが自分の主な得物は弓矢である。飛び道具であると同時に懐に飛び込まれると弱いし、不意討ちは得意だがされるのは苦手分野だ。仮にこれらの悪条件をクリアできる状態で誘いに乗ってもこちらの人数が二人しかいないのでは、向こうの土俵からは下りるのは難しい。
 平然とした足取りのまま門を潜り抜け、街路の舗装が途切れた瞬間にミゼルは道を外れて草むらに駆け込んだ。
 目を付けた枝に手を伸ばし、走った勢いそのまま一回転、枝の上に乗る。ミゼルの体重でしなった枝の反動で更に上の枝へ身軽に飛び乗った。ちらちらと木の葉の隙間から漏れる日光で視界が眩まないように目を細めながら、背中に掛けた弓を右手で掴み取る。
 腰元の矢筒の中身が遠心力に引かれて纏まっているのを咄嗟に三本引き抜き、金属音がした方へと集中する。緊張感と咄嗟の運動で跳ね上がった鼓動音を意識から跳ね除け、矢を番えた。
「ヒュイ!」
 声を合図に引き絞った弦から手を放そうとし、「うわっ」一本目の矢はあらぬ方向へと飛んでいった。どうやら地上にいるヒュイに全員向かったわけではなく、三人のうち一人はわざわざ草むらを掻き分けてまでミゼルの方に来てるらしく、樹に身体でもぶつけてきているのか、枝が大きく揺れる。
「あぶねーな、おっさん! そんな陰湿なことしてると嫌われんぞ!」
「陰湿はどっちだ弓使い!」
 下から叫んだ声は比較的若かったのでおっさんは訂正した方が良さそうだ。陰湿と言ったのを差し戻す気は無いが。
「……でもよ、今のでよく見えたぜ」
 三人共剣使いらしい。はっきり言って自分もヒュイも相性は良くない。懐に仕舞い込んであるタクティクスカードは雷の加護を持つ剣士達には通用しない。それにヒュイの得物は斧だから、取り回しの良い剣に対して非力とすら言える。
 揺れる枝を利用して隣の樹の枝へと飛び移りながらミゼルは思案する。はっきり言ってかなり不利な状況だ。
 だが、そもそも何の得もないこの諍いに、付き合ってやる必要もない。
 選ぶべきは敵前逃亡、ただ一つ。
「――天空を駆ける雷神ルキオン……」言下、手にした二本の矢の矢尻から焦らすような、森の中では不釣り合いな火花が散る。「雲を裂き閃光となりて応えよ!」
 熱量に堪え切れなくなる限界の手前で矢を放ち、風切り音が耳元から瞬時に空へと消えていく。しかし瞬く間に轟音と共に稲妻が炸裂した。
 通用のしないカードの力を借りて、少しでも隙を作る。五感を一瞬でも麻痺させることが出来れば、二人を惹き付けてくれているヒュイへの手助けにはなるだろう。
 雷に驚いてくれたのか、自分の足元の男と、ヒュイを襲っている剣士が声を上げた。そこでミゼルは襲撃者の正体に気付く――昨日セリカに絡んでたおっさんのようだった。どうも昨日のミゼルの舐めた態度が余程気に入らなかったらしい。本当に憂さ晴らしで襲ってくるなんて強面な見た目と違って、随分と幼稚な行動を取るものだとミゼルは面食らってしまった。
 しかしそんな私怨に構っているのも阿呆らしい。今回の賞金首には縁が無かったと思ってさっさとトンズラしよう。
「ヒュイ、ゼッタへ行け!」
「はい!」
 足元から張りのある低い声が聞こえる。力だけは十分にある男だし、自分と一緒で足は速い。今ので必ず逃げ切れるはずだ。
 枝を伝い、時には草むらに潜り込んで移動する。口の中と同じ甘い香りがする森の中を通るのは少しうんざりはするが、そんなことも言っていられない。太陽の位置を確認しながらミゼルは北西へと向かった。

拍手[2回]

お名前
タイトル
メールアドレス
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集用パスワード
管理人のみ閲覧
ブログ内検索
カテゴリ一覧
プロフィール
  • HN:
    ヴィオ
    HP:
    性別:
    非公開
    自己紹介:
    ・色々なジャンルのゲームを触る自称ゲーマー
    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

    【所持ゲーム機】
    ・SFC GC(GBAプレイ可) Wii WiiU NSw NSwlite PS2 PS3 PS4 PS5
    ・GBAmicro GBASP DS DSlite 旧3DS PSP PSV
    ・ミニファミコン ミニスーファミ PSクラシック
    ・PCは十万円くらい。ゲーム可だがほぼやってない
最新コメント
バーコード
<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- ポケ迷宮。 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Material by もずねこ
 / Powered by
☆こちらもどうぞ