ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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バテンリマスター発売おめでとう!!!
 9月発売かあって思ってたらあっという間に9月になっていた……。

 バテン・カイトス2のEDから5年後のお話で、サギとミリィの一幕です。
 びっくりするくらい2のネタバレしかないです。
 必ずクリア済みの方だけ読んでください。

 それでは「優しさの継承」です、どうぞ。





優しさの継承


「わ、ほら、サギ」床に座り込んでいると椅子に座る彼女に腕を引き寄せられる。「今蹴った! お腹を蹴ったわよ!」
「ほんと?」
 そっと頭を彼女のお腹に寄せる。淡い花のような甘い香りと共に、ほんの僅かにマキナのにおいが鼻腔を通り抜けていく。まだ一部に硬い肌が残っている彼女に近寄ると、うっすらとにおいがする。
 だがサギの嗅覚に刺激は届いても、聴覚に触れるものはない。
「本当なの、ミリィ?」
 さっぱり判らないので念押しして訊き直すと、頭上から突き刺さるような視線がサギを貫いていた。
「ふん、お父さんは薄情ねぇ~」
「薄情って……」
 お腹に語り掛けながら、不貞腐れた声でそんなことを言われてしまった。少し納得はいかないが言い繕うと墓穴を掘るだろうと思ったので、サギは彼女に寄り添うように床に座り込み先程まで読んでいた本に視線を戻した。
 部屋の外はまだ明るいが斜陽が差し始めている時間帯だった。紙に落ち反射する光は強く、サギの目に鈍い痛みを与える。眉を顰めながらも本を読み進めていると、上から消沈した声が落ちてきた。
「……ねえ、サギ」
「ん?」
「わたし、不安なの」
「不安?」
 本に下ろしていた顔を上げて、ミリィを見る。愁いを帯びた表情は、最初に出会った頃よりもより端麗だった。自分よりも二歳上の少女であったあの時の彼女はぐいぐいと戸惑いがちな自分を押してくれていた。
 そんな彼女は、時折こういう表情を見せる。これは自分の中だけで抱えているものと葛藤している時の顔だ。そういう時、決まってサギは彼女の言葉に耳を傾けるようにしている。
「ちゃんとこの子の母親やっていけるのかなって、思ったの」
 自信無さげに呟く声は、サギの頭上に届く前にミリィの胸元辺りに停滞してしまっている。温和な口調で、サギは答えた。
「ミリィは面倒見が良いじゃない、心配要らないよ」
「そう、かな……」
「うん、カナンだってそう言ってる」
 己の内に住まう意識もサギと同意見だと伝えてくる。しかし包み隠さずにミリィに伝えても、彼女の心は晴れた様子は無かった。
 またしん、と静まり返る。部屋に置かれた掛け時計が無遠慮にも一定の感覚で音を刻んで空白を埋めていく。
 それからしばらくして、またミリィが口を開いた。
「……わたしの世界に母親って言うのがいなかったから。母親って、どうやって振る舞うのが良いんだろうって、そういうのが解らない……」
 母親、という単語を聞いて、サギはすぐに自分の母ジーナを思い出した。サギが笑った時、泣いた時、必ず傍にいてくれた大切な母。ミリィと出会う前は自分の世界の領域の大部分を締めていたし、手紙のやり取りを今でも定期的に行っている。最近はチックとワッチョの悪戯もだいぶ大人しくなってきたらしいが、その代わりか、また孤児院で面倒を見ている子が増えたそうだ(身体を壊さないか心配になってしまう)。
 ミリィは幼い頃に母親という存在を失っている。彼女の不安も解らないでもなかった。
「それってさ、多分誰でもそうだと思うよ。だって赤ちゃんの頃の記憶なんて無いじゃない。その時に母さんがどう振る舞ってたかなんて知らないもの」
 物心がついた時、なんて言葉があるように覚えている記憶は、何も産まれた頃からのものではない。
 頭上を仰ぐと椅子に座った彼女がこちらを見下ろしている。外出する時にはもう少し丁寧に結われている癖のある栗毛を、今は簡素に首元で結んでいた。
「……それに、僕だって同じだよ。父さんがどんな人だったかは母さんから聞かなかった。訊くと決まって泣きそうな顔をするから。だから……僕もミリィと同じだよ」
 そう言うとミリィが目を見開いて視線を僅かに逸らした。彼女が見た方向の先には、彼女の父が使っていたという本等が積み重なって置かれていた。彼女の父も、きっと自分の母と同じで伴侶のことを子供に語りたがらなかっただろう。ミリィの身体の多くをマキナとしなければならなかった事故で亡くなったのだと言っていた。それは間違いなく凄惨なものだっただろうから、彼の生活と思想を変えてしまう程に。
「でも僕は不安じゃない。これまで色んな人達の思いやりを見てきた。色んな人達のこころを見てきた。僕はミリィがその誰よりも負けない強さと優しさを持ってるのを知ってるから。……少しずつ僕達の関係を築いていけば良いんじゃないかな。僕達が出会った時みたいにさ」
 視線をサギに戻したミリィは唇をきっと結んで小さく頷いた。そうして強気な表情をすると、いつもの彼女だと安心する。
 サギも頷き返し、また手元の本に視線を戻そうとして、こころの中を擽るような呟きにサギは思わず声を上げていた。
「ちょ、ちょっと! それは流石に恥ずかしいよ!」
「なあに? またカナンの意地悪?」
 突然の大声に驚いたミリィもからかい口調で便乗してくる。話すまいか躊躇していると、こころの中でざわざわと追い立ててきた。
「意地悪っていうかなんていうか……あーもう判った、判ったから」
 こころの中の知人の声は、サギが口にしない限り他の誰かに届かない。性質の悪いことに、どれだけ騒ぎ立てようがサギにしか聞こえないのである。しっかり一言一句言うまで黙りそうにないので唇を尖らせて従った。
 一度大きく息を吸って吐く。もう一度吸ってから、
「……僕が出会った誰よりも、僕が好いてる人だから心配無用、って」
 途端にミリィの頬から蒸気が立ち上り、「……も、もう!」「いたっ」背中を蹴られた。言わなければこころの中で責められ、言ったら外から責められ、なんだか理不尽である。
 サギ自身も身体が火照った感覚があったが、軽く見上げるとミリィの耳も赤く染まっていた。しかし今度はミリィの方から顔を逸らされてしまったため、彼女の感情は読み取れない。
 僅かな沈黙を、また時計の針の規則的な音が埋めていく。衣擦れの音がして、彼女が立ち上がったため、サギが慌てて制止する。「何か取りに行くなら僕が」「ちょっとお花摘みに行くの」と乱暴に言い捨てた。「そ、そう……」浮き上がった腰を下ろしていると、
「……ねえ、サギ、カナン」
 彼女が部屋の出入口で一度立ち止まった。
「ん?」
「……ありがと」
「ん」
 ぱたりと背後で扉が閉まる。ミリィの気配が遠ざかるのを背中で感じて大きく息を吐いた。
「……もう。一回限りだからね、あんなの」
 今ので満足したのか、こころの中で擽ってきていた感覚が唐突に失せて静かになった。それからぽつり、ぽつりと落とすような囁きにサギは微笑んでゆっくりと応えた。
「……うん、無事に産まれたら母さんにも……、ギロやミリィのお義父さんにも……それからマルペルシュロの皆にも伝えてあげないとね」
 斜陽がサギの手元に置かれた本を橙色に焼く。サギはその本を閉じて、窓へと歩み寄った。元々バアルハイトの所有物だったその本には新しく出来る家族との付き合いをどうするべきかが書かれていた。
 誰もが家族の有り様に思い悩み、ああでもないこうでもないと試行錯誤している。
 その悩みは、他人を思いやる優しさから生まれるもののはずだから。
「僕達は……幸せだよって……伝えないとね」
 こころの声が、サギの声に小さく応えた。







※ここから言い訳エリア
・精霊を空欄にすべきか悩んで中性的なお名前にしました……自分が使ってた名前でもなく……性別やどんなこと言ってるかは自由にご想像ください
・発売日になんでこんなネタバレ全開のお話書いたんですか?なんででしょう。自分でも書いててヤバイなこれって思いました。なので画像投稿は自重しました……
・とりあえず父親のことは知らない方が良かったねサギうんうん
※ここまで言い訳エリア

 バテンリマスター発売おめでとーございます!!

 せっかくの機会なので、3000字程度の軽いものを書きたいなと思い筆を執った次第です。自分があまりにもサギが好きなのでサギが中心のお話になりました。
 兼ねてより書きたいなと思っていたネタだったので、このめでたい日に出せて大変嬉しく思っております。

 自分がバテンと巡り合ったのは発売当時!……ではなくだいぶ後ではあり、その時1はともかく2はプレ値で買うのに決断が必要だったんですよね。それがまさかリマスターで復活するとは……感慨深いものがあります。

 書き始めたのは発売日が決まる前からなので結構な熟成期間があったりします。その間に他のを書いていたりはしたのですが、下地に造形をつけて発売日まで練っていった感じです。タイトルは二日前くらいにな、なんとか……。


 というわけで、去年にバテン1→2をしていたし(ついでに「#ヴィオバテン」でネタバレいっぱいで叫んでます)、今週末から月末までさっくり2だけ遊ぼうかなと思っている。流石にストーリーすっ飛ばさないと月末までのクリアは間に合わなくて……。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。本当に発売おめでとう!
 もしよろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。

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    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

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