ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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※画像はSS名刺メーカー様を利用させていただいております。


 ブレイズリマスター発売おめでとう!!

 ブレイズの小説は10周年、10.5周年に引き続き3作目です。
 10周年いつだったっけって思ったら3年前で驚きだよ!

 チャプター5が終わってルート分岐に差し掛かろうか、というところのジェノンが中心のお話です。


23.7.8 追記

 それではどうぞ。








たまゆら


 その日、私用の買い物から帰ってくると、なんだかティエラ郊外にあるグラムブレイズの本拠地の庭が凄いことになっていた。
 年中何かしらの花が萌芽している花壇の傍で団員の何人かが集まり、手に持った物に空気を吹きかけて奇怪な泡を飛ばしていた。昔絵本で読んだ浜辺で泡を吹く蟹が、六本の足で砂煙を巻き上げながら頭の中を走っていったのは不可抗力だったと思う。
 頬をつねってみるが……痛い。残念ながら現実のようである。
 塵のようなサイズから拳大のサイズのものまで透明な無数の球体が、ふわふわと無秩序な軌道を描きながらも、木々を越えて青い空へ向かって飛んでいく。
「えーっと……何、してるの?」
 とりあえずジェノンは一番近くに立っていた裸足の青年に声を掛けることにした。彼は振り返るなりいつも通りの快活な声を投げかけてきた。
「あ、ジェノンもやるか?」
「やるやらないの前に何してるか訊いてるんだけど」
 急に空いた手に謎の筒のようなものを渡されそうになり、咄嗟に手を背後に逃がした。いくらはだしのミゼルが素早い人物だからって正体不明の物を預かる程、自分は気の抜けた人間ではない。
「見りゃ判るだろ?」
「判んないから訊いてるんだけど……」
 なんだか馬鹿にされそうな雰囲気ではあったが、実際に知らないものを知っていると言ったところで得することも無いので、素直に言っておく。
 案の定というか、やっぱり微妙に含みのある声でミゼルに言われた。
「アンタ、子供の頃やらなかったのか?」
「やるって?」
「シャボン玉」
 頭の中の引き出しをひっくり返してみるが、やはり知らない言葉だ。玉が浮いているのは理解出来るが『シャボン』とは何なのかが判らない。あのふわふわ浮かんで飛んでいく玉を形成している物のことだろうか。
 そんなことを考えていたら、ミゼルが手にしていた筒の片方を口に咥えて、頬に入れていた空気をふうと筒に息を吹き込んだ。
 筒の先からいくつも形作られる丸い何かが、その表面を淡く虹色に光らせながら右へ左へ、とにかくでたらめに飛んでいく。地面に落ちたものは跡形もなく消え、ジェノンの鼻に落ちたものはほんの少し液体を残して弾ける。
 それが今目の前に広がっている、本拠地の一幕に過ぎない光景である。
 全くもってなんなのか解らない。
「で、飛ばしてどうするの?」
「眺めるだけさ」
「それだけ?」
「それだけ」
 気の抜けた会話を交わす二人の間に、大なり小なり丸い透明の玉が飛び交っている。陽光に照らされた薄膜の上には、奇怪な紋様のような数限りない色が横たわっている。
 何処かでこういうのを見た事あるなと思ったらユーディの研究室でのことだ。本人に訊いたら油と水を混ぜたものだけどどうも油は溶けないだのなんだのと言っていたので、可燃物がある、どころか爆破で建物が吹っ飛びかねないと慌てて対処したのをよく覚えている。
 嫌な思い出と共に背中に冷や汗がつっと流れた。もしあのぽわぽわ浮いてる玉に火がついて爆発なんてしたらこの本拠地が跡形もない瓦礫の山になってしまう……のではないだろうか。
「えっと……あれ、燃えたりしないよね?」
「燃える? ムクロジの実の粉を溶かした水だから多分燃えないぞ」
「ムクロジ……って、樹のムクロジ?」
「その指の先くらいのかたーい実をつける奴だよ。割るの大変だけど火を通して食う中身は美味いんだ……って、良い匂いするからって舐めるなよ?」
「いやいや、そんな野生動物みたいな男に見えてるなら心外なんだけど」条件反射で言葉を返しながらも、確かに言われてみると甘酸っぱい匂いがしなくもない。それにきめ細かな泡が浮いているそれはまるで、「あーもしかして石鹸水、ってことか……」
「石鹸~!? そんな高価な物の話されてもわかんねーけど……まあ、使い道は一緒だから、そうなのか?」
「訊かれても……そうだと思うよ。というかグラムブレイズ来てから君も使ってるよ、石鹸」
「ん? ……言われてみると、まあ、確かに。となると、あの塊売ったら金になる?」
 ミゼルが目をお金にしている。ジェノンは肩を竦めながら諌める。
「女性陣からしばかれたいなら止めはしないけど」
 ミゼルと軽口を叩き合っていると、今度は丁寧に結われた三つ編みを翻しながら金髪の女性が駆け寄ってきた。
「ジェノンさん、お帰りなさい。朝から姿が見えませんでしたが、買い物に行かれていたんですか?」
「うん、ちょっと本をね」
「聞いてくれよアイギナ~、ジェノンの奴、シャボン玉知らないんだって!」
 裸足の男がさっき自分が石鹸を忘れていた事を棚に上げて、揶揄を込めてアイギナに話し掛けている。
「あ……」彼女は一度口を止めるが、その後に出てきた言葉はジェノンが予想していた通りだった。「なんか安心しました。ジェノンさんもなんですね」
「え、アイギナもか?」
 アイギナが貴族の元にいた事をほんの少しでも思い出せば良かったのだと思うというか、話している相手が悪いなあと心の端でぼんやりと考える。
「石鹸使っている時にこういう泡が出るのは知ってますけど、それを遊具として使うっていう発想が無かったというか」マイペースに話していたアイギナは、そこまで話してから口を開きっぱなしで動かない青年に気付いたようだ。「あれ? ミゼルさん、どうしました?」
「なんかお前らと話してるとオイラの子供時代が破壊されてくぜ……」
 墓穴を掘ったミゼルを置いておいて、会話は結局ジェノンの一番最初の問いに戻ってくる。
「それで、そのシャボン玉が私兵団で流行ってるってこと? なんで?」
「流行っているというか……ニーベル街区やネザー地区の復興もだいぶ進んでて、最近は手透きの時間は子供達とよく遊ぶようになったんです」相好を崩しながら彼女は続ける。「で、今度また向かう時に少しでも楽しんでもらいたいたくて色々と試しているんですよ。もっと大きく、とか、もっといっぱい、とか。ふふ、シスキアが言い出して」
 なるほど、ジェノンはどちらかというと現場作業というよりかは資材管理や調達に回っていたので、現地の情況は把握していても彼らと密に交流をしているわけではないから、そういう事態になっている事を知らないのも当然ではあった。そしてこうした娯楽を楽しむだけの余裕が出てきたことはとても良い知らせだと、心の底から思う。
 あの戦火の中で崩壊した瓦礫に混じった死体や脱ぎ捨てられたサンダル、燃えて黒ずんだ服等を見た時には絶望も感じたが、こうしてネザー地区とニーベル街区、それだけではなくティエラという一つの街の者が手を取り合って一つの目的を進めている……雨降って地固まるとはこういうことを言うのだろうな、なんて思えるくらいには前向きになれていると思う。
「それで君達は子供達に見栄を張りたいってわけか」
「そういうこと!」項垂れていた男が唐突に声を張り上げる。「せっかく遊ぶなら刺激があった方が良いだろ? 四角いシャボン玉とか作れねーかな?」
「良いですね、ワイヤーを四角にしてみましょう」
 誰が命名したものかはともかく、シャボン『玉』というからには四角くはならないんだろうと思うのだが、そんなこと野暮な事で口を挟む前に、ミゼルもアイギナもジェノンから遠ざかってしまっていた。
 普段は訓練での掛け声や汗に塗れた泥臭い修練の場も、メルヘンチックな風景が広がっていると、どうもその差異で頭が痛くなってくる。
 とにかく中に入って逃げるか……と組み立てていた今回の休暇中の予定を反芻させながら中庭を突っ切っていこうとして、
「ジェノンー!」
 やっぱり捕まった。さっきから視野の先にいたので何となくこの展開を察してはいたが、あえて触らないようにしていたのは、自覚しきりにしきった複雑な想いがあった。
「ちょっとジェノンー! 無視すんなー!」
 これからの積み上げていた予定ががらがらと瓦解していくのを感じるのと同時に、やはり声をかけてもらって嬉しいと叫びそうになっている自分の姿をしたものがその瓦礫の中から這い出てきていた。
「はいはい、無視してないよ」
 レンガ造りの花壇の縁に座り込んでいる彼女の姿を、今度は視覚と意識の内にきっちり捉えながら歩み寄る。すると彼女は得意げに背筋を伸ばし、整った顔に自慢気な表情を乗せる。
「ふふーん、頭が来たわ頭が」
「何その悪い顔」
「私が一番インパクトのあるシャボン玉作れるように、ジェノンも手伝って!」
 ふーっと一息、針金で作った円に向かって息を吹きかける。桃色の唇から吐き出される息は、虹色に輝く泡をいくつも作り出し、ジェノンの視界を覆い、そのうちの何個かはジェノンの顔に当たって弾ける。手伝ってと懇願されてはいるが、勢いのある口調で捲し立てられて殆ど強制的である。
 ジェノンの斜め下から注がれる上目遣いの視線の攻撃も相俟って、ジェノンは肩を上下させて溜め息を吐いた。
「はあ、僕今日はこれを読もうと思ったんだけどな」
 当て付けるように脇に抱えていた布に包まれた物体を彼女の前でひらひらとさせる。
「げー、まさかまたムズカシイ本?」
「そのまさかだよ」眉を顰める彼女にジェノンは続けざまに言葉を投げる。「んーそうだ、僕がシスキアの用に付き合うんだったら、シスキアが僕の用に付き合う権利も得られるってことで良いのかな?」
「ぐわあ」なんともうら若き乙女が出すものとは思えない悲鳴をあげながら顔を盛大に逸らされた。「ダメ、その本から出てくる何かでもう目が潰されて何も見えないわ」
「そっかーじゃあ僕もシャボン玉で何を手伝えば良いか判らないからこの辺で……」
 乾いた声でそう言ってのけると、「それはダメ! もう決定事項だから!」と本から溢れていた何かで潰れていたはずの浅黄色の両の瞳をこちらに向けられてしまう。
 もちろんジェノンにそれを振り解けるだけの信念があるわけでもなく、しかし表面上はやれやれと肩を竦めながらジェノンはシスキアの隣に腰を下ろした。
 それは本当にささやかで牧歌的な日常の一幕で、反乱分子の鎮圧化の功労者であり帝国で確実に影響力を増している貴族の私兵であることを忘れられるような、そんな時間だった。

+++++

 結局のところ、特に進展はしなかった。
 確かに洗濯や食器洗いの時にふわふわと飛んでいるのを見た事あるなとシャボン玉に対してそれなりの愛着は沸いてきたものの、手元に何かしら実験するための道具があるわけでも無く、息の速度の調整だとかそんな誰でもやってそうなことをするくらいで無為に時間だけが過ぎていった。最初の印象から何も変わらない丸くて透明で、でもその透明な膜の上はうっすらと無限を思わせる色が張り付いている。
 しかしそこから進展することはなく、なんかすごいシャボン玉を作るために始めたはずの話はあっという間に隅に投げ出され、他愛ない閑談はすぐにグラムブレイズの日常を笑うものとなった。
 そう。結局のところ、特に進展はしなかった。
 シスキアは会話の合間を埋めるように、膝に乗せた木彫りの皿に針金で作った四角を沈めては淡い桃色の唇から息を吹き込んで丸い泡を出している。さっき裸足の男が駄目だったからやると乱暴にこっちに手渡して来た針金だ。
 お互い意識の端にあるからか視界に映り続けるからか、一通り話が落ち着くとお互い顔を上へと向けながら、結局話はまたシャボン玉に戻ってきた。
「あの大きいのはガーロットかな。隣のはシスキアかも」
 なんとなく思ったことを呟くと、シスキアが話題に便乗してきた。
「じゃあその横のがジェノンだ、ふらふらしてるから」
「ふらふらって、一言余計だなあ……」
 そう言っている間にもシスキアが指したシャボン玉は一団からどんどん離れていく。
「あーらら、見えなくなっちゃった」
 青空に吸い込まれて殆ど同化するように視界から失せていく。彼女は言い捨てながらまた針金に新しい息を吹きかけていく。
 彼女の目はそこまで先程のシャボン玉の行先を真剣に追いかけてはいないようだったが、ジェノンの目にはかの行方は見えていた。一つ遠くで、弾けて消えていくのを。
 なんとなく、そこまで自分らしいなどと我ながら他人事のように考えてしまった。自分が家を出た時もあんな感じだった。父と母……というよりかは殆ど父とだけだが、産まれてこの方折り合いが合わず、とうとう最後の喧嘩でも溜めてきた鬱憤を晴らす事も無く静かに家を出てきた。
 その行為を逃げた、という言葉を当て嵌めるのは正しいと思っている。自分は対峙することを諦めたのだ。
 そんな情けない感情は今でもジェノンの踝辺りに漂っていて、取り除けないままジェノンという人物を構成するものの一部になってしまった。彼女と二人きりで話していても特に物事が進むわけでも無いのが、その確たる証拠である。
 そんな意気地の無い自分を認識したのはこれまでの人生という道の上でも結構前だと思うのだが、改善されるどころかどんどん根っこが伸びて頑丈な大木へと成長している。
「……ジェノンが何考えてるか当てたげようか」
 隣に座っていたシスキアが少し身体を前に倒し、こちらの顔を見上げて悪戯っぽく笑った。太陽に照らされた金色の細い髪の毛が彼女の丸い頬をかたどっている。
 次にシスキアが何かを発するまで、まずい事でも口にしてただろうかとジェノンは多分相当にとぼけた顔で彼女の顔を見つめていたように思う。
「――やっぱりこの本読むのに部屋に真っ直ぐ戻ってりゃなーとか思ってるでしょ!」
 自分の脳内でぐるぐると停滞していた気持ちとは全く別方面からシスキアの言葉が飛び込んできた。
 ジェノンは身体の中で止まっていた空気を吐き出しながら、からっと笑った。一瞬でも感じた心配は全くの杞憂だったようだ。
「いやーバレた? 休日をこんな泡のためじゃなくてこの本を読む時間で埋められてたらさぞ有意義だったのになあ……って考えてたんだよね」
「むーーー。そーですか。良いもん、私一人でやってるから」
「一人じゃなくても、そこにアイギナとかミゼルとかいるじゃない」
「あそこはもう敵だからダメ」
「敵って……」口を尖らせてつっけんどんに言う彼女に苦笑しながらジェノンはそれとなしに訊いて見る。「じゃあ僕はシスキアの味方ってことで認識されてた?」
「うん」
 間髪入れずにあっさりとそんなことを言われた。
 手元の液体が尽きかけているから少し容器を斜めにしながらもシスキアは針金を漬けて、それからめいいっぱい頬に溜めた息を、バイフーも一息で吹っ飛んでいくんじゃないかというくらい乱暴に吹きかけ、殆ど玉を形成する前に崩れ去ってしまった。
「でも本よりも興味がないって言われて考えを改めたわ。ジェノンも敵!」
 ジェノンに向けていた首を振り、浅黄色の両の瞳が碧空を仰ぐ。つんと尖った唇は幼童が拗ねた時のそれと同義で、遠い昔に出会った男勝りの少女を思い起こさせた。いつも顔や身体に怪我をこさえていた男の子と、そんな彼の傍にいた男の子……のような女の子。ジェノンが最初に会った時は二人とも捨て犬みたいに他人への警戒心が強くて、近付くだけでもとても苦労したものである。
「……はは」
 なんだかそんな幼い頃の思い出が面白くて、笑いがこみ上げてくる。あの時から変わったものも変わらないものもある。
「な、何よ急に笑っちゃって気持ち悪いわねー」
「いや、その、ごめん」額に当てた手はほんのりと温かい。高揚した感情と共に血流が活発になっている。「ここ最近、反乱軍絡みでちょっとひりついてたから……こうやって何も実の無い話出来るのがなんかさ、懐かしいなって。数年前に戻ったみたいだ」
 義賊団をしていた頃から自分達の世界はあっという間に変わっていった。メデューテと出会い、ヴェルマン方伯と出会い、私兵団に所属し、鉄と血に塗れた戦場を次から次へと巡り、それぞれ一個隊を任されるような立場になってここにいる。
 言われるがまま、ただ情況に流されるまま場当たり的に生きていたあの時を脱し、今は役務という責任がある。だからこうして個々人の無気力な時間というものは確実に減っているのは事実だ。
 でも理不尽を無くすという志は、あの頃と変わらずそのまま、隣には幼馴染みがいて、仲間がいて。
「実の無い話ってのはなんか突っかかるけど、確かにそうかもねー。前はもっともっと自由気ままだった」シスキアはジェノンを一瞥して、また雲一つない青空へと視線を向けた。「でも今も悪くないよ。ヴェルマンのことは正直まだ時々……いや、結構? やっぱり嫌いってなることもあるけど、でも、信じられるし」
 彼女の貴族嫌いを知っているからこそ、彼女がこうして雇い主の貴族のことを褒めているのは数年前の自分だったら信じられないだろうな、と思う。
「だから私はここから帝国を変えていきたいって、それは本当の気持ち」
 こうして穏やかに壮大な夢を語ることも信じられなかっただろうな、とも思う。
「そうだね、僕も同じだ。方伯が目指す帝国にグラムブレイズが手を貸せるなら……」
 それは本当に、自分が子供の頃に夢見たことなのかもしれない。帝国に住む人の生活に少しでも寄与し、そして身近にいる人が幸せで……それは子供の頃に父の背中を見て何度も思い描いた未来。
 まあ、親元を離れてしまったし、将来自分の隣にいる人は初恋の人であるというところは違うんだろうけれど。
 そうしていくつか形は変わってしまってはいるが、子供の頃の夢を叶えられるというのはとても幸福な事なのだろう。
「っもう、急に真面目なこと言うから辛気臭くなっちゃった」煙を払いのけるようにシスキアは手首を思いっきり振った。「ほらジェノン、貴重なお休みなんだから時間は大切に! 付き合ってくれてありがとね」
 一刻前に敵だと追っ払おうとした態度とは思えない温顔と柔和な口調で、彼女は言った。
 ――深い意味は無い。彼女がジェノンに向ける想いと、ジェノンが彼女に向ける想いは似ているようで非なるもの。そんなことはとっくに解りきっていて、きっとこれからもそれは変わる事は無いだろう。ふわふわと空へ飛んでいくシャボン玉は自由で、気ままで、離れていくことはあってもくっつくことはない。シスキアとはそういう関係なのだ。
「うん、じゃあ後で……」
 花壇から立ち上がってシスキアに返事をしようとしたところで、彼女の視線が自分をすり抜けていることに気付いた。釣られて後ろに振り向くと、背丈と同等の斧を背中に背負った女性が私兵団本拠地の入口付近から小走りで駆けてきている最中だった。
「メデューテだ。なんか慌ててる?」
「そうだね、何かあったのかな?」
 シスキアに続いて疑問を口にする。お互いまた顔を合わせて首を傾げていると、脇目も振らずにこちらに向かってきて、神妙な面持ちでジェノン達の前に立ち止まった。
「メデューテ? どうしたの、なんかあった?」
「シスキア、ジェノン。方伯がお呼びだ、作戦室に行くぞ」
「え、何? 今日はヴェルマンは……」
「出掛けたよ。でも戻ってきた」シスキアの声を遮る声は何処か切迫している。「これは公には発表されていないことだから、絶対に他言無用で」
 そう言われながら、ジェノンとシスキアは強引に本拠地内の作戦室へと連れられた。後に続いて戻ってきた普段よりも何倍も厳めしい顔をしたヴェルマン方伯と、らしくなく口を噤んでいるガーロットと、今朝以来の再開の挨拶をする間もなく告げられることとなる。
 ソルティエ皇帝が病臥に伏した、と。






※ここから言い訳エリア
・シャボン玉を人に向けて吹かないでください
・ジェノンの家は家事を行う使用人がいると思うので、ジェノン自身は家事出来ないし勉学ばかりの子供時代だったのではないかという捏造
・ジェノンが二人に出会った時のお話や家を出たきっかけのお話は作中に一切無いので捏造
・ソルトロードは暴いてません
・もちろん向かう先は某Cルートです、ごめんなさい。前置きではチャプター5終わってルート分岐するところと言いましたが、正確には「Cルートの『残り火』の後」でございました。なんてこんな話の内容で言えないので……
 と、思っていたのですが。
 どうやらCルート前の歴史~BFでもうソルティエ帝の病の話があったんでもうなんかちょっとifの話って思っておいてください!!結構恥ずかしいぞ!
※ここまで言い訳エリア

 頭抱えてアアアア ジェノンサン オマエ ト イウヤツ ハとか言われるようなものが書けていれば幸いなんて思う次第でございます(挨拶)。
 よくある公式アンソロジー漫画みたいな雰囲気です。そういえばユグドラは公式アンソロ出てきゆづき先生も描いてたけど、ブレイズは出なかったんだよね。つらいね。

 ブレイズのリマスター発売おめでとうございます!!やったー!!
 今年に入ってからせっかくだし発売までに何か書きたいなってなり、これが出来上がりました。
 9割5分は2月に出来ていました(残ってたのは校正とタイトルくらい)。そう、それくらい前から待ってたのよ。いつ来るんだって……。そしたらさ、他のゲームとぶつけてきたりしてもう……もー……!っていうか他もぶつかってきてもー!
 こんだけ待つならもうちょい登場人物増やしたりとか足しても良かったかもだけど、まあいつ投下されるか判らなかったですし。

 というわけで。

 ジェノンメインだけど某ルートです。AとBは見てて辛くなります、主にヴェルマン方伯のことで。内容的にAやBだともっと切ないから良いんだ……ジェノンすまん……でもブレイズで一番ジェノンが好きなんだよ……可愛い子には旅をさせよ……。

 でもね、このルートのあのジェノンのシーンでぐっと来た人も多いでしょう?自分は一番あそこが好きなんですよね。あそこがジェノンがジェノンさんたる由縁なのかなと。なあネシア?聞いてるか??生と死のチャームぺしぺしするぞ!(※ネシアも好きです)
 改めて今回書くために本編見直したんですが、Cルートがあまりにハッピー過ぎて直視できませんでした。おかしいな、どのエンドも辛いなこのゲーム。


 いつも書いてる簡単プロット公開コーナー。
「グラムブレイズの一コマ ずっとこの時が続けば的な
 Cルートパンドラ後 シャボン玉」
 以上です。短めのお話でワンシーンしかないので、特に脱線する事も無く……。
 タイトルは数日前に決まりました。「たまゆら」は漢字では「玉響」と書き、意味は「ほんのしばらくの間」「少しの間」「一瞬」というものです。


 改めて。
 ブレイズの移植はユグドラ移植の初報から長い事待ち続けました。そらもう感情を揺さぶられる紆余曲折がありましたが、念願叶って本当に嬉しいです。遅れてる理由がまさか過ぎましたけど……。
 手を出すのは諸々のゲーム事情で後になるとは思いますが、久々のブレイズのプレイを楽しもうと思います。っていうかスマホ来たらすぐやるんですが……いつですかね……。

 また、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

☆良ければ過去に書いたのもどうぞ
残響の行方(Aルート後のジェノンとメデューテが今後を考えるお話。下記の「未知の行方」の前日譚)
未知の行方(Aルート後のジェノンとメデューテが今後を考えるお話)

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    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

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    ・SFC GC(GBAプレイ可) Wii WiiU NSw NSwlite PS2 PS3 PS4 PS5
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