ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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オクトラ2小説5作目。……の前編です。
 ヒカリ5章内乱を終えた直後のお話で、8人全員出てきますが、キャスティヒカリが中心です。
 中心どころかカップリング(ヒカキャス)要素かなり強めです。ヒカキャス中心で話が進みます。

 全キャラの最終章及びエピローグまでのネタバレがあるので、クリア後推奨です。
 なおかつヒカキャスの前々作(幕開-Breaking Loneliness-)、前作(残夜の誓い)の要素がちょびっと含まれているので先に読んでいただいた方が良いかもしれませんが、単独でも問題なく読めます。

 前編だけですが、案の定長くて1記事に収まらねえよ!って言われたので2分割にしています。
 字数は前編で2.9万字程です。

 それでは「おわりとはじまり 前編 ~ 二人の夢現」です、どうぞ。


おわりとはじまり 前編 ~ 二人の夢現(1/2)


 その日はよく晴れていた。乾燥した強風が砂を運ぶさまが、城下町を超えて雲の無い空へと巻き上がっていくのがよく見えた。
 戴冠式に集まった皆が諸手を挙げ一人の王の誕生を称えた。
 その場の皆が彼と彼の理想を信じていた。戦ばかりの日常から解放されて平穏の世を歩むことを。
 それは自分達も同じだった。彼と出会い旅をして、彼の人となりを理解しているからこそ、自分達はその希望に満ちる未来を信じていた。


「やっぱりソローネさん、綺麗だなあ……」
 スツールに座り込んだアグネアが熱賛を漏らした。
 キャスティも声に釣られてドレスアップした女性を眺めた。
 紫を主体とした服は身体のラインを浮かせ、表面には緻密に縫われた金色の華がいくつも咲いていた。太腿の辺り、横裾に深く切り込みが入っているのは普段の衣装と大きくは変わらないものの、その切り込みが大胆にも両足にあるドレスだった。綺麗な薔薇に付随する棘のような存在である、ナイフが差さったいつものレッグストラップは左足には無い。彼女曰く祝宴会場では見えない所に武器を仕込むのが鉄則とのことらしく、一緒に着替えていたはずのキャスティやアグネアにも今現在彼女が持っているという武器が何処にあるかは判らない。
「フフ、ありがとう。アグネアだって似合ってるよ。でも髪にちょっと足りない気がするな……お、これ良いんじゃない? この簪ってやつ着けてあげる」
「わ、は、派手過ぎない……?」
「アグネアはスターなんだから、派手なくらいが丁度良いの」
 そう言うとソローネは手慣れた手付きで赤い花飾りがついた金属製の髪留めをアグネアの頭に挿して、彼女に褒められた時以上に満足そうに微笑む。
「うん、似合う似合う」
 腰まで伸びた髪は普段は三つ編みになって纏まっているのだが、今は頭の上で更に巻いて毛先を散らせている。一目では若干とっちらかった印象を受けるが、彼女の小動物を思わせる大きな瞳と小さな口から感じる清楚で可愛らしい雰囲気と、首元から大胆に上げて真っ赤な造花をつけた簪が大人っぽさを作り上げている。それがアンバランスかというとそうでもなくて、様々な側面が絶えず流動していく様は人を強く惹き付ける魅力があった。
 服装も普段彼女が着ているマーメイド型のファルダを彷彿とさせる暖色ベースの絡み織を重ね合わせたもので、普段よりも身体のラインが出ない分、より開放的な印象を受けた。少女から大人になりかけている今しか出せない色艶が身体全体に同居していて、同性のキャスティから見ても愛しく映る。
 事実ソローネが飾り立てた栗毛の少女を見て、隣でアグネアと同じくスツールに座って見ていたキャスティは感嘆の溜め息を漏らした。
「とても素敵だわ、アグネアちゃん。皆の視線を釘付けするのは間違いなしね」
「あ、あたしが釘付けになったってしょうがないべ……今日の主役はヒカリくんとキャスティさんでしょ?」
「私?」
 矛先を返され思わず問い直すと、アグネアは胸の前で両拳を握り締め、「だってヒカリくんとキャスティさんが……」
「あのね、アグネアちゃん」彼女の言葉をキャスティは強く遮った。「私は皆と同じ立場よ。今日はヒカリ君の登極を祝う祝賀会で、私達は彼を助けてきた旅の仲間なだけ」
「それは解ってますけど……」そうして唇を尖らせると、まだ愛らしい少女の顔が覗く。「勿体無いなあ……めでたいことはいっぱい祝った方が、明日も頑張ろうってなると思うんだけど……」
 そう言われ、言葉をのんだ。アグネアの意中は理解できるが、まだ自分の身の振り方を決めてはいないのは本当だ。このままで良いのかという不安だってある。改めてこの国で大勢の先頭に立つ彼を見て、自分がいるべき場所を考えないといけないのだと。
「……キャスティ、頭そのまま」
「そ、ソローネ?」
 不意に頭を斜め四十五度下に向けたまま抑えつけられる。普段の化粧は必要最低限のソローネも、指先の爪にはヘンナの葉の粉を溶かした染料で爪を鮮やかな赤色に塗っていた。背後から伸びる白く細い手と赤い爪の乗った指がキャスティの癖のあるセミロングの髪を弄りだした。
「ソローネ、アグネアちゃんみたいに目立つようにしなくて良いからね?」
「大丈夫大丈夫。目立ったら大変だから控え目にしておくって」
「どういう意味よもう……」
 特段派手な二人に囲まれ結局されるがまま、キャスティは自分の服装を見下ろしながら待った。二枚薄い生地を重ねられてから、更にその上に海の上に広がる青空を彷彿とさせるような薄群青色に染め上げられた、袖が肩ぐらいまでしかない絡み織の上衣を二人に着せられた。
 インナーも上質で落ち着いた配色だが青白磁色のスカートは足元から腰部まで職人技とも言える鮮やかな色合いの花が描かれている。特別派手というわけでも無いが、地味と言い切るには描かれている花が豪奢で、どうにも居心地が悪く落ち着かない。当然だが城に並べられていた衣服なので生地はかなり上質であることが穏やかでない心情に拍車を掛けている。
「うん、良いよ」赤色に塗られた爪が五本、キャスティの眼前でひらひらと泳ぐ。「これくらいならシンプルで良いでしょ。いつもと違う髪型ってだけでぐっと来るし」
「わーすっごく可愛い! ソローネさん、完璧ね!」
 さっきから頭の左側をぐっと締め付ける感覚があったので鏡を見るまでも無かったが、金色の髪が左耳の上辺りで素朴な麻紐で一つに結ばれて、癖のある毛先が左肩に落ちていた。耳元で感じていたくすぐったさの正体は、小ぶりな菫色の宝石がゆらゆらと揺れていてすぐに正体は判った。
 確かに派手さは無いが、この髪型も左耳のイヤリングも普段の薬師としての自分ならしないだろう代物だった。
「で、でもキャスティさんがそれくらいならあたしもこれ外して……」
 呟いて何やら執念を感じる形相で頭に伸ばしかけた手を、ソローネがすぐに叩き落とした。
「アグネアはダメ」
「えー! なんでだべー!」
「アグネアはちゃんとク国にもファンを作ってもらわないと。ほら、パルテティオがここにも蓄音機を売り出そうとしてたでしょ。酒場でアグネアの曲を流し続けてもらうためにもさ」
「ふふ、そうね。私もソローネに賛成」
「うう、キャスティさんまで……」
 味方がいないことを悟ったらしいアグネアは肩を落としながらも、部屋の中を見渡し始めた。いっそ人前に出るための覚悟を決めたらしく、これまた鬼のような形相で装身具の並ぶ机を見つけて駆け寄った。
 その矢先。
「あーーぐねーーーー!」
「うわああ!」
 衣装部屋の扉が盛大に開いて、項垂れていたアグネアが盛大に叫んだ。
 扉から小柄な体格の女の子が入ってくる。さらさらとした銀髪を今日は頭の上に留めて、褐色の肌に乗った大きなコバルトグリーンの瞳が無邪気に三人を代わる代わる仰いだ。
「うおお、皆すっごく美人さんだな」
「オーシュット? まだ着替えてたらどうするの」
「あ、わりい。もうとっくに終わってるかと思ってた」
 そう言うオーシュットは普段の旅装から一枚この国の羽織りを着て髪を旋毛で一つ結びにしただけだ。どうも普段と違う格好を装うことへの興味がとことん薄いらしく、着飾ろうとすると真っ先に逃げ出してしまったのだ。
 そんな彼女がこの部屋に自ら戻ってきたのは、やはり着替えるためではないようだった。
「アグネアちゃんの名前を呼んでいたけど、どうしたの?」
「いやさ、そこでアグねえのステージの話をしたいんで呼んでこいってテメノスとあんちゃんに言われた」
 まるで今日の夕飯のメニューを話すかのような気軽な口調で言ったが、聞いた当人はさっき叫んだ時と殆ど変わらないトーンで返した。
「ちょ、ちょっと待って! ステージってなんの話!?」
「え、言ってなかったの?」
 オーシュットがキャスティとソローネの顔を見てくるのに倣って、キャスティもソローネの顔を見ると彼女も首を傾げていた。言ってなかったも何もこの場の皆、そんな話は初耳である。
「はーん、あの二人が勝手に仕組んでるねこれは」それを真っ先に察したソローネが、赤く塗られた唇の端を釣り上げ、「ま、話を進めるにしろ終わらせるにしろ、とにかくアグネアが話をつけていった方が良いよ」
「むむ……そ、そうかも……」
 唸りだしたアグネアを他所に、オーシュットはあっけらかんと続ける。
「じゃあアグねえ借りてって平気?」
「私はアグネアでやりたいことやったから平気」
「私も今の感じでとても良いと思うわ」
 妙にずれた返答にオーシュットの方は特に追及することはせず、獣人らしい素早い動きでアグネアの手首を掴むと、
「うし! じゃあ行こ、アグねえ!」
「う、うええーー」
 言葉として成立していない呻き声が尾を引きながら扉の向こうに消えていく。騒がしかった空間が一瞬にして静かになり、相対的に扉の向こうで慌ただしく人が往来している雑然とした物音が部屋の空気にうっすらと煙のように滲んでいく。
「ま、アグネアが何言おうがこのまま事は進んでいくような気がするけど」
 さっきまでアグネアが座っていたスツールに、今度はソローネが腰を下ろす。深くスリットの入ったドレスがふわりと揺れた。
「確かにね」キャスティは苦笑した。「アグネアちゃんはもっと自分に自信を持ってくれたら良いのだけれど」
「まだ自分が上にいるんだって自覚が足りないんだよ。そろそろチャンスを生かして貪欲さを表に出していくことを覚えないと」
 檳榔の実から染め上げたような艶やかな黒髪を梳きながらぼやいた。
 そうして彼女を心配する姿は独り立ちしない妹を心配する姉のそれに近かった。片や森の中の長閑な村で夢を見て旅立った少女、片や建物が建ち並ぶ都下で自由を手に入れるために旅立った女性。生まれも育ちも全く異なる二人が姉妹のような関係を築けている……彼女らを含む七人がキャスティの今の旅の仲間達だ。
 素直に言うなればキャスティはこの場を心地よい、とは思っている。しかし村里で夢を見た少女は今や大舞台で大女優との共演をし拍手喝采を浴び、都で自由を望んだ女性は様々な葛藤がありながらも首元を縛っていたチョーカーを断ち自由になった。目的は一区切りついていると言っても良い。
 それでもそれぞれの旅の終着点を超えてここにいるのは、偏にヒカリのためだった。彼の熾烈な旅の目的が、自分達八人の旅の終着点を形成していた。
 別れを迎えるのだとすれば、きっとそれはこの祝宴の後だろう。誰も口にしてはいないが、漠然とその思いは抱いているのだと思う。全ての者では無いが、帰る場所が確かにあるのだから。
「……キャスティ」
 歯切れの悪い調子で、ソローネが突然切り出す。きょとんとして彼女の方を見ると、さっきまでキャスティを映していた鏡をいつの間にやら目の前に置いて耳の辺りを弄り、普段身に着けている雫型の翡翠のピアスを化粧台の上にそっと乗せていた。
「心配なことがあるなら、ちゃんと言っておいた方が良いよ」
 普段と変わらないこせつかない仕草ながら、声の抑揚が乏しい。木製の箱に収められた様々な形の耳飾りを探っては満足いかないようで、箱の横に次々と並べている。
「話せる時に話しておかないとさ、絶対に後悔する。後悔って二種類あるんだ。やって後悔するパターンと、やらないで後悔するパターン。私は何度もしてきたよ、やらない後悔っていうやつを。いつも後悔の前にあるのは誰かの死で、だから二度と取り戻せない」
 ソローネは楕円に削られた無色透明のトパーズのついたピアスを目前で揺らして、自らの耳元へと持っていく。
「私達のおふくろがそんな顔してたら、心配になるよ。なんなら私に言ってくれても良いし。嫌なら無理には訊かないけど」
「別に嫌ってわけじゃないの。ただ……」
「ただ?」
 彼女の良心を断っているわけではないと即座に否定する。しかし雲を掴むようなでたらめな違和感をどう表現したものか。
「戴冠式でのヒカリ君、少しおかしくなかった?」
「おかしい?」ソローネは首を傾げた。「王冠取って演説したところ……とかじゃなさそうだね。どちらかというといつものヒカリだし」
「少しって、本当に少しだけね。その、不安そう……というか……」
「不安……このタイミングで? まあこれからを考えたら違いないとは思うけど」ぴんと来ていないらしく、しかしさっぱりした性格の彼女は悩むのも一瞬だった。「うん、じゃあやっぱり尚更本人に言って訊いてみないと」
 彼女の迷いの一切無い物言いに、確かにその通りだと思った。遠くとも明日には会って話す機会があるのだから、その時に問いかけてみよう。そう思うと、なんだか気持ちが軽くなった。
「ふふ、ありがとう。ソローネは面倒見が良いのね」
 素直に称賛すると、彼女は何故か気圧されたように閉口した。
「うちで一番面倒見の良い人に言われてもねえ……」
 知らず止めていた手をまた動かし、ソローネは残った片耳のピアスを付け替えることに集中する。キャスティもソローネが触れている小道具箱を弄り、薄くではあるが爪を飾ろうかと小筆と小瓶を手元へ寄せて作業を始めながら考える。
 ヒカリは暴虐の限りを尽くした兄を討ち、戦を終わらせた。血を血で流す終わりのない戦ばかりを強いてきた国は、今大きく転換しようとしている。それは誰よりも、ヒカリが強く望んできたことのはずだ。
 だが戴冠式の時の口上の合間のほんの刹那だったが、噤むような、揺らぎのようなものがあった。

+++++

「ヒカリ様。王位継承、祝着至極に存じます」
 丁度ベンケイと話し終えて彼が背を向けたところで、ヒカリは呼ばれた方へと振り返った。歳が二回りほど異なる男が、こちらに頭を垂れている。ベンケイが大入道のような大柄な体格であるのに対して、彼は優形だった。ヒカリが子供の頃は彼がもう少し大きな存在に見えたのは彼我の年齢だけでなく、戦から内政へと身を投じたというのもあるだろう。
「ヤマ大臣。頭を上げてくれ」ヒカリも胸元に手を当てて礼を返した。「俺の力ではない、友たちやそなた達のおかげだ。皆の働きに感謝している」
 丁度手にしていた彼の猪口に酒を少し注ぐと、ヤマ大臣は再度頭を下げる。肩口で一つに結ばれた黒髪には白い髪が幾本も混じっていた。
「痛み入ります」
「特にそなたの御子息ツワは、朱玄城奪還戦の際に指揮していた准士官も顔負けの活躍だったと聞いている」
 ヒカリが告げると、それまでやや固かった男の顔がようやく緩んだ。
「ヒカリ様率いる反乱軍に倅がと伺った時ご迷惑をおかけしていないか気が気でなりませんでしたが、いやはやいや、身に余るお言葉です」
「やはり元々槍術の指南者だったそなたの教えが良いのだろう。俺もさんざ絞られたからよく解る」
 言いながら幼い頃の記憶が蘇る。愛想の良い顔で吐かれる訓練内容は中々に苛烈なもので、彼の息子のツワとは音を上げたこともあった。
「御謙遜を。ヒカリ様は覚えが良かったので私などすぐに超えられまして」
「それこそそなたの謙遜だな」
「ヤマ、いつまでヒカリ様を囲っておる」やおら、ヤマ大臣の後方から気配も無く影が動いた。そう錯覚させるほどに、色素の薄い灰色の装束に灰色の髪と瞳、冷厳とした態度と何処となく作り物めいた男が二人の間に割って入る。「ヒカリ様はお疲れなのだ。お前の調子で話すと夜が明ける」
 ヤマ大臣とは殆ど歳は変わらない男であるモズ宰相の手腕は鋭く、昔から父にもよく用立てられていた。外面上冷たく見えてもこの国を想う感情が一際強いのをヒカリのみならず国政に携わる者はよく知っている。
「モズ宰相、俺は気にしてなどおらん」
 ヤマ大臣の方はモズ宰相の熱を吸っているのかと思う程朗らかに笑った。
「ほら、ヒカリ様もこうおっしゃっておられる」
「お前は少し黙っておれ」眉一つ動かさないことの多いモズ宰相の氷の顔に珍しく罅が入った。その顔のままヤマ大臣を押し退けヒカリに身体ごと振り向き、「ヒカリ様。ですが、顔色があまりよろしくありませんよ。一度夜風を浴びられた方が良い」
 相変わらず人をよく見ている男だと内心で苦笑した。宰相もここ数日の激務で疲れているだろうにと言い返すのは簡単だろうが、今この場ではモズ宰相の私案を呑み込むのが彼のためでもあるだろう。
「そうだな。そなたの言葉に甘えるとしよう。ありがとう」
「警備の者をつかせましょう」
「構わん、皆は酒の席を楽しんでくれ」
 まだ七割ほど中身の残っている猪口を宰相に渡し、ヒカリはその場を後にした。

 角灯で足元を照らしながら石造りの階段を踏みしめる。子供の頃から耳に馴染んだ、多量の砂粒が踏面を滑る音を聞いていると、改めて祖国に戻って来たのだなと考える。
 朱玄城の中でも程々の高さの露台は、風に浚われた砂が端々に積もっていた。
「……誰も、来ておらぬのか」
 この露台から眺めて見えるのはせいぜい城下町まで。その向こうを見渡すことは城下町の建物のせいで不可能だった。戦場の中で視察するにはあまりにも向いていない。
 三年前に城下町を任されてからは城を訪れることも大きく減ってしまったが、町を囲う城郭に上れば朱玄城を眺めることは可能だった。その時ふと見上げると、ここに一人の人物が立っていることがあったのだ。遠目だったが、ヒカリにはその人物が誰なのかは判った。戦を止めてからはここからよく町を眺めていた、父の姿だった。
 父は何を思ってここに立っていたのだろう。
 父がこの世から去ってしまってから幾月と経つが、露台で感じる時の流れがそれ以上にも感じるのは、決して砂が降り積もってしまっているからだけではないだろう。
 普段よりも底の厚い靴と裾の長い服で歩を進め、絢爛な彫刻に飾られた欄干に手を置いた。少し触っただけで指先が白くなるのに構わず、ヒカリは空を仰いだ。
「今日は月が遠いな……」
 薄暗い夜空だった。岩肌に擦りつけるような低い位置にある月は地表の巻き上がった砂でけぶってしまっている。辛うじて見える三日月、その面積の多くが暗闇に染まった月は地上を照らすにはあまりにも心許ない輝きを放っていた。
 ――まるで自分の心の内を表しているかのようだ。
 人知れず溜め息を吐いた。自覚できる程に酒臭い息が風に流されていく。身体の中で蓄積された酔いの元が浄化されるはずもなく、喉元で見えない網に淀が引っかかって咳込んだ。
 何度目か、ようやく収まったところで胸に手を当てて呼吸を落ち着かせると、今度は不快感と頭痛がしてきた。これは明日にかなり残るかもしれない。
 刹那、背後から気配を感じて振り返る。腰に提げた懐刀に手を伸ばしかけ、しかしその手は柄を握る前に下ろした。普段なら振り返らずとも判断できるはずだが、足音を含む彼女の空気感がいつもと異なっていたからだと、そう思う。
「……やっぱり、普段よりも飲んでいると思ったわ」相当に酷い顔をしていたのか、得心のいった顔で彼女は続ける。「これ、酔い醒ましのお薬よ」
 胸郭の中で収まりかけていたものが暴れて喉から出そうになるのを飲み下すように、ヒカリは唾を呑み込んだ。そのまま、呼吸を止めてしまう。
 ヒノエウマ地方出身ではない旅の仲間は、当然だがこの地方の服装を身に着ける事態は訪れたことがない。特にこういった綺羅を飾るような場に立ち合うなんて。
 だから、幼い頃から見慣れた長襖がこれ程鮮やかに見知った彼女を変えるものだとは想像もしていなかった。
 絡み織の上衣はトト・ハハ島の停泊所で仰いで見た、澄んだ青空と同じ薄群青色。控えめな青白磁色の下衣には赤と桃の椿がいくつか咲いている。
 セミロングの金色の髪は左耳の上で一つに結ばれ緩やかに波打ち、足元に置いた角灯の僅かな明かりを一本一本が受け止めて淡く煌めいている。左の耳たぶには絵を描くように複雑に削られた金属に菫色の宝石が一粒揺れていた。
「えっと……大丈夫、ヒカリ君?」
「……いや、」酒と情動に焼かれて掠れた声が出てしまい、ヒカリは衝動的に口元に手の甲を当てた。「普段見慣れぬせいか、ついな」
「あら……ふふ、とても嬉しいけれど。でもまずはこの手の上に置かれた物を受け取ってもらえると嬉しいわ、赤い服を着た蒼い顔の王様」
 やや強めの口調で行動を急かされる。誉め言葉を投げるよりもまずは薬を飲めと言うやり取りはいつもの調子で、なんだか妙な安心感があった。どうやら会場で様々な者に揉まれている間にもキャスティはこちらのことを配慮してくれていて、ヒカリの体調を把握していたらしい。全くもって、頭が上がらない。
「いつもすまないな」
「どういたしまして」
 普段よりも化粧の乗って攻撃力の上がった仁愛の笑みで返され、物を受け取るなりそそくさと薄紙に包まれた粉薬を飲んだ。旅の途中でも何度もパルテティオやオーシュットと共に並ばされてこれを口にしたが、水ですぐに飲み下してもいつまでも残る口当たりの悪さは慣れない。薬師の彼女曰くこれでもだいぶ研究して緩和してるらしいので、改良前の物は正直想像したくはない。
 決して冷えきっているわけでもない水を呷り、吐いた息は先程よりもどの程度か清浄な気息だった。こめかみの辺りを押さえつけられていたような頭痛が少しずつ引いていく。
「落ち着いた?」
「苦味で意識が冴え渡ってきた」
「それは良かった。これ、念のためもう一つ渡しておくわね」
 文字通り渋い顔で言うと、にこにこと笑みを返される。見慣れた彼女の笑顔のはずなのに、変な話だが面を一枚被ったような薄い笑みだった。化粧のせいなのか、片手間で懐に粉薬の入った紙を入れながらその正体を掴もうとしていると彼女は話を戻した。
「ヒカリ君も戴冠式かっこよかったわ。衣装もとても素敵」
「ありがとう。これは元々父の物なのだ、世辞でも嬉しい」
「お父様の」キャスティは感嘆の情を素直に漏らしてから、一拍置いて薄く紅の乗った唇を尖らせた。「って、お世辞に聞こえたの? ちょっと心外だわ」
「はは、冗談だ」
「もう、からかって……最近テメノスに毒されてない?」
「かもしれん」
 ヒカリの隣に並ぶように歩を進め、砂の積もった欄干に手を置いた。普段薬品や水を扱っている些か荒れた手はいつも短く爪が切り揃えられているが、今日はその爪が口紅と同じ桃色で塗られていた。「キャスティ、砂が」「こんなの気にしないわ。借りてる服が汚れるわけじゃないんだし」どれだけ着飾っていてもさばさばと答えるのはいつも通りだ。ヒカリからしてみればせっかく化粧をしているというのに大変勿体無い。
「でも、刀を持っていないあなたはなんだか新鮮ね」
「懐刀はここにあるが……流石に酒の席に無粋な物は持つわけにはいかん」
「ええ……それが本当に平和が来たことの証だなって思って」こちらに向けていた顔を、薄い月のある方へと向ける。「城だけじゃなくて、城下もお祭り騒ぎね」
 三日月の昇る空から岩肌をなぞるように眼差しは下へと流れていく。先程から人のさざめきが断続的に聞こえてきていた。楽器を打ち鳴らす音や人々の無数の喧騒が、海岸で聞こえる波音のように遠く微かに響いている。多くの者が生きている証が、そこにはあった。
「あのランタンみたいなの、提灯って言うのよね。火をつける前、真っ赤な紙の貼り付いたのを町の人が沢山ぶら提げているのを見たわ」
「俺もこれだけ提灯が掲げられるのを見るのは去年の豊穣祭の時以来だな。見ていたのはここではなく城郭からだったが……」
「城郭!」急に声音を上げてキャスティが食いついてきた。「そうそう、ヒカリ君がよく上っていた城郭ってどの辺りなのかしら?」
 突然降って湧いた彼女の関心に面を食らいつつも、ヒカリはよく父の姿を確認していた城郭を指差した。
「それは……あの辺りだ」
「えっと、……」
「あの旗が……丁度、人だかりができている所だな」
「……あ! 何か食べ物みたいなのが書いてある旗がある所かしら?」
「ああ、そうだ。今日は出店が出ているようだな」
「そうなのね、ふふ」
 合点が言ったように彼女が短く呟き、そして無邪気な笑いを浮かべた。
 そういえば彼女には伝えていたのだった。あそこでよく笛を奏でていたことと、笛は母から教わったものなのだと。
 今ここに笛があれば冷たい、しかし城壁で幾ばくか緩和された夜風を浴びながら彼女の横で気持ちよく吹けただろうが、普段と異なる服装なのもあって置いてきてしまったことに後悔が残る。幼い自分は母の横笛の音色に包まれていただけだったが、時折母のように諭してくれる彼女に、今の自分の音色を届けられたらどんなに良かったか。
 ……どうも、この露台に来て父や母を思い出してしまう。こういった感傷はもう止めにしなければいけないのだろうなと漠然と思った。父の背を追いかけ続けていた時とは違う、これからは自身と皆が望む道を先導して創っていかなければならない。もちろん兄のように王という肩書で独善的なことをするつもりは毛頭ない。聴許のための場を広げ、皆が笑い合っていけるような、そういう国にしていかねば――
「……ねえヒカリ君」
 突然斜め下から名前を呼ばれ、巡っていた思考が停止する。先程明るくにこやかに、ある種子供っぽさすら垣間見えたはずの顔は、すっかり引っ込んでしまっていた。今、表に出ているのは腹の底でどっしりと構えた、幾度と旅の仲間の支えになってきた母親の顔つきだ。
「普段のあなたならあれだけお酒を飲んでても耐えてたわよね」棘のある声音のまま、追及してくる。「何か気になる事でもあるのね?」
 アイラインの引かれたいつもよりもくっきりとした空色の双眸は、ヒカリの感情をつぶさに読み取るかのように覗き込んでいた。町の背後で巻き上がる砂煙が薄く光る月の灯りを散らす様が、キャスティの瞳の中で蠢いているようにも見えると同時に、そこに映る自分の姿も揺らめいているように見えた。
 見透かされている。数秒見つめ合い、結局ヒカリの方が根負けして喉の奥で小さく唸った。
「キャスティに秘め事はできぬな」
 降参だと両手を掲げると、キャスティの強張っていた顔が緩む。他人に、殊更自分には人一倍敏感な彼女にはやはり頭が上がらない。
 良い機会なのかもしれない。自分の決意を改めて言葉にするための。今日機会が無ければ明日になっていただけのことだ。
 ヒカリは懐に仕舞っていた物を取り出した。掌よりも少し大きく、根元を紙縒で通した袋綴じの本だった。表紙はなめした動物の皮のようで、手触りは柔らかい。
「気になることがあって城の書庫で調べ物をしていた時、これを見つけたのだ」
「本? ……新しくは無いけれど、古くは見えないわね」
 それは彼女の言う通り若干隅が縒れていたり表紙の皮の隙間に砂がこびり付いていたりと決して清新な物では無かった。
 あまり気は進まないが、彼女の手に渡し中を見るように促した。キャスティは壊れ物を扱うように本を広げる。
「これは自伝……なのかしら」
 最初の一文を見て、呟いた。こちらを一瞥するがヒカリは答えなかった。まるで幽霊でも見るように慎重に中身を確かめながら、キャスティは頁を繰っていく。一画を疎かにしない、まるで執念すら感じるような筆跡で書かれた手記を。
 恐怖心と興味心が入り混じったかのように薄い紅を引いた唇を引き締めて、殆どまじろぎすらせずにいたキャスティの表情が徐々に読み取りにくくなる。困惑、哀苦、痛心とが混沌とした顔で、
「ヒカリ君……そういうことなのね」
 本を半分ほど広げ終えたところで、ぽつりと呟きを落として彼女はそれを閉じた。彼女が読むのを止めたわけではなく、それ以上先に記された文言が無い……この手記は全ての頁に辿り着くことなく筆記を終えてしまっているのだ。
 中身は一人の人間の半生が綴られていた。戦の最中の貧しい暮らしの凄惨たる有り体をこうして形に残している物は決して多くはない。この地方で文字を習う場は数少なく、多くの者は識字力を持たない。その時点で目を見張るものがあったが、ヒカリの心に留まったのはその内容だった。
 一つは二十年前に滅びたウ国の者を父が誘ったという下り。
 一つは戦ばかりのク国に絶望し、この世の全てすらも呪っているかのような文面で終わっている事実だ。
「このオボロっていう方は……」
 キャスティがそう切り出すのは当然だった。ヒカリの手元には一つの回答しかなく、絞り出すように答える。
「それが心当たりが無いのだ」
「無い? でも……」
「ああ。父に重用されていたとあるから顔を合わせていてもおかしくは無い。先の戦で亡くなったのか、秘匿されていた者だったのか。俺も真っ先に会うことを考えたが生きているのか、それに生きていたとしても歳どころか男か女かも判断がつかぬ状況では……な」
 ウ国に攻め入ったのは二十四年前、ウ国が滅んだのは二十年も前になる。その間に父の元へと下ったという文面があることを考えると、何人か考えられる人物がいないわけではない。だがそのヒカリの頭の中に浮かぶどの者も、出身はク国で事実と合致しない。
「ヒカリ君はこのオボロさんを探す気でいるのかしら?」
 細い指で手記を示して彼女は静かに問うた。
 喉仏が上下する。一人一人に真摯に向き合い解決法を探っていく薬師のように物事に立ち向かえたらそれは間違いなく理想的だ。しかし同時に、統治者にとってはやはりただの理想に過ぎないのも事実なのだ。理想は心を豊かにするし充実感を届けてくれるが、事実として腹が膨れるわけではない。ヒカリの必要な役割はそこでは無い。
「……いや」彼女に訊かれている今こそ意を固めなければいけない。手渡された手記と同時に意思を受け止める。「この国は多くの者を不幸にしてきた。オボロのような者は数えきれぬ程いるだろう。特定の一人を特別視することは新たな火種に繋がりかねん」
 聞く者が聞けば冷酷と言われるだろうか。だが視野を狭くするのは国の頂点に立つ者の役割ではない。まずすべきなのはク国という大船の舵を切ることなのだから。
「良かった。探しに行くつもりなんて言ったら……」
「キャスティ……そ、その拳は下ろしてくれ……」
 何故かファイティングポーズを取り出す彼女を宥める。本気でないのは解っているが彼女の力を考えるとあまり生きた心地がしない。
 拳を形作ったまま、肘を曲げたまま、キャスティはヒカリに一歩近付いて二の腕を小突いた。その手を、ヒカリは握る。自分の手よりも白くて柔らかくて、そして薬や水を普段から使っているせいでやや荒れている指先を感じ見つめながら、
「大事なのはこれからこの地方で同じ過ちを起こさぬことだ。このオボロや……リツのような境遇の者が出ないようにしなければいけない」一度、自分の中で咀嚼するように息を継いだ。「一人でも多くに救いの手を差し伸べるため、俺は国王として腰を据える」
 一時、風が強く吹く。砂漠を赤く染め続けた一族の果てが馬鹿げた話をしているとせせら笑い砂を巻き上げ、そして降り積もり、循環する。
「ええ、応援してる」
 そんな中でも、彼女の穏やかな声が追い風に乗ってヒカリの耳に明瞭に届いた。風の先で、下衣に描かれた赤と桃の椿が彼女の背後を彩っているようにすら見えるほどに、キャスティは臈長けた微笑みを浮かべる。
「あなたはいつも言っていた。ク国の美しさと、凄惨な過去を。リツ君やライさん、そして奪還戦で、皆が辛い目に遭ってきたのは私達にも痛いほど解ったわ。だから見せてちょうだい……ヒカリ君の生まれ育った国の美しさを」
「……ああ」
 彼女の声を確かめるように首肯する。
 キャスティがそれを確認すると何故か俯きがちに一笑して、次の瞬間には和らいだ口調と共に城下町へと顔を向けていた。
「と言っても、今の景色もとても綺麗で……尊いものだと思うけれどね」
 彼女の空色の瞳に映るいくつもの光点は戦の時の明光鎧が照り返す閃きとも、目に刺さる赤い血の色とも違う、一つ一つが自らの力で柔らかく橙色に光る提灯が整列し、風に揺られ無秩序に揺れている。風向きが変わると町のざわめきがより鮮明に聞こえてくる。
 ……そうか。
 月が普段よりも遠いのは、城下の明かりも多く灯っているからだとはたと気付かされる。
 砂と共にあるこの町が、ヒカリは好きだ。
 確かな感情が形作られるのを再確認して、ぽっと胸の内にも提灯の火が灯った心地がした。
 慈愛に満ちた横顔を見つめ、今度はヒカリの方から彼女に問いかける。
「キャスティは薬師団を再建させる決意は変わらないか?」
 キャスティも準備していたであろう答えそのまま、ヒカリにぶつけてくる。
「そうね。薬師のいないような小さな村から拠点にしていくつもり」
 その答えを聞いて、寂しく思う自分と安堵している自分がいた。彼女のしたいこと、すべきことを何よりも尊重すべきであると頭の大半で埋まっているはずなのに、それでも往生際の悪い、寂しく思っていた自分が囃し立ててくる。
 緩やかに癖のついた金色の髪を左耳の上で結び、菫色の石の耳飾りをし、唇や爪に紅を引き、普段よりも何倍も異性であることを意識させてくる彼女の横顔に、気付けば捨てきれない気持ちをぶつけていた。
「俺達が出会ったばかりの頃……かつてサイで言ったことを覚えているか」
「……もちろん」
 ……我が軍の薬師になってくれたら心強い。
 ……ク国に必要なのはそなたのような薬師だ。
 まだ彼女と出会ったばかりの頃、それこそ三日や四日程度の浅い接点の時にヒカリが口にした言葉だ。キャスティの起こした行動ともたらした結果を、ヒカリは乾いた砂漠の地を潤す水源のように感じた。怪我や病気をしている者がいれば、その人物がどんな者であれ薬師として治療を施すその心に。
 ヒカリの見てきた薬師といえば、戦の最中の自国の薬師団。当然ク国にも抱えの薬師団は存在するが、他の国の者の治療など論外だ。征服するための戦で敵対国の者を助けることは、巡り巡って自国の者の犠牲を増やすことになる――苦い話だが、ヒカリですらその理論は解していた。だからこそ自分は人を無力化させることを重要視した戦いをしてきたのだ。互いに犠牲を減らす術はそれしかなかった。
 だから彼女が諍いを起こした両者に対して治療を施し始めた時、惜し気もない愛他こそが手を取り合うのに当然で必要な道筋だと見せつけられた。サイで発生していた先住民と移民の諍いは勝敗という結果でではなく、一人の女性の献身で幕を引いたのである。
 ここ三年、父が築き上げた戦の無かったク国が目指したもの。その理想の片鱗はこういうものだったのだと、強く理解した。
 ク国に必要なのはキャスティのような薬師だと、その時はただ彼女のことを薬師という枠に当て嵌めて言った。薬師としての志に胸を打たれて放った言葉だった。
 だが、今はそれだけではない。
「あの時と今では俺達の関係も、背負っているものも違う。それでも……」
「それでも……待っているって、言ってほしい」頭の下から、震える声が届いた。柔らかな手が祈るようにヒカリの手を握り返す。「私はその時の言葉を覚えてるわ。一年か、二年か、まだ判らないけれど……」
「当然だ。応援している……俺は待っているぞ、キャスティ」
 彼女の言葉を全て聞く前に、ヒカリの方から彼女を肯定した。
「……ありがとう」
 少し顔を俯かせていたキャスティは照れくさそうに桃色の唇に微笑を浮かべた。
 以前から幾度と話し合っていたことだった。いつか来る旅の終わりは、それぞれの物語の始まりを意味している。その時を迎え、自分達はどうするのか。
 決して歩む道を否定しないこと。
 二人の間に浮かんだ答えは、互いを納得させるのに十分だった。
 自分達は互いの背中を好きになったのだから。

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