ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

2024/05    04« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »06
当記事はタイトルの二次創作の後編にあたります。
 前記事(1/2)はこちら


おわりとはじまり 前編 ~ 二人の夢現(2/2)


 アグネアの歌と踊りで盛り上がりも最高潮となった会場は、宴もたけなわと最後にヒカリの挨拶を挟み解散となった。ヒカリは再度旅の仲間と合流し今日泊まってもらう部屋への案内をしようとしたところ、様々な者に止められてしまった。
 もう休めと方々から言われ、その良心に押されるようにヒカリは自室へと足を進めた。まだ城下の領主となる前に使っていた部屋は自分がいた頃と変わらずに掃除が入っていたらしく、寝具も定期的に入れ替えられていた形跡があった。
 部屋の出入口に用意された石畳で出来た三和土で靴を脱ぎ、繊細な織模様の刻まれたラグに足袋を履いた足を乗せる。締め付けが弱まった足の指を押し伸ばして、部屋を進む。
 旅での暮らしに慣れてしまったせいか、一人で過ごすにはこの部屋は広過ぎた。持ち込んだ角灯一つでは部屋の半分も照らせていない。
 着込んでいた上着を脱ぎ衣紋掛けに垂下させる。深緋を基調としたゆったりとした服で、幾何学模様を織り込んだ黄金色と黒色で縁を飾り豪奢に仕立ててあった。今日の戴冠式と祝宴で着込むために直しをしてもらったが、父と体格はそう遠く離れていたわけではなかったので手間はあまり掛からなかったと言われた。多くの者から母に似ていると言われ続けてきたからか、些細な点であっても父に似ていると言われるのは嬉しいものだった。
 しかし、それでもこの服を普段使いするには居心地が良くないとヒカリは思った。
「こういう着物はどうにも慣れんな……」
 袖も裾も長い、履いた靴の底も厚く身動きがし辛い。戦を投げうった国の長に相応しい物であるかもしれないが、ヒカリは全身に、とりわけ肩に重さを感じていた。その重みは物理的なものだけではないのかもしれない。
(オボロ……すまない、そなたは父を助けてくれたのだろうが、俺はそなたに何もしてやれなかった)
 懐に入れていた袋綴じの本は両手にすっぽり収まる程に小さく、表面のなめした皮は柔らかい。だがその過去は決して些末なものではない。国に振り回され、戦に嘆き、世の全てを呪ったこの人物の一生は、あまりにも痛く締め付けられるものがあった。
 ヒカリは深呼吸する。一人分のク国の罪が形を持っただけでこうも狼狽していては、王としては不十分だと頬を叩いて気を張った。
 王としての覚悟は、父を失ったあの日にとうにしている。
 せめてどうか、皆が争わず平和を享受できる国を治めていかねばならない。決して楽な道のりではないのは解りきっている。これからの国政に、正直なところを言うと歓心に堪えないのも事実であったが、この内戦を多くの者達と駆け抜けたように愛すべきこの国にも多くの同志が……友がいる。望む未来を切り開くのは、断じて不可能ではない。
 部屋の中央にある背の低い円卓の上に焼きつけるように手記を置き、また角灯を手にして枕元に向かった。殆ど白い布で作られた簡素な襦袢だけの姿で寝具の縁に座り込もうとし、
「ヒカリ殿」
 呼びかけと共に扉を叩く音がした。ヒカリのよく知る低音の声が扉の向こうから突き抜けて部屋に届く。
 そのまま横になり寝入ってしまってもおかしくなかったので一瞬億劫になりかけたが、なんとか角灯片手に腰を上げて扉を開けた。
 重たい扉の向こうには薄鈍の髪を首元で縛り垂らした中年の男が佇んでいた。祝宴が始まった直後に一度挨拶を交わしたきりだが、盛装を求められたヒカリと違って普段とあまり変わらない配色の閑雅な装いをしていた。
「どうした、何か大事か?」
「ああ、大事だ。大事だとも」
 更に声音を低くして髪色と同じ双眸を猛禽類の如く鋭く光らせる。この時間に一人で軍師が訪れるという事象に緊張感を持って身構えていると、
「城下で是非にと上質な一品をいただいてきたぞ」
 磁器で出来た小瓶をヒカリの前に掲げてきた。即座に鼻腔を刺激する香り、どう考えても中身は目の前の男が好む飲料である。
「おーい、ヒカリ殿。待て、待て待て」無言で扉を閉めようとすると、革靴が強引に差し込まれる。軽くもない扉ががっと中途半端な所で止まった。「何故こうして浅酌低唱しに来た友を追い返そうというのか」
「酒を受け取ったなど……」ぬるい溜め息と合わせて出るのは呆れ声だけだ。「賭けに勝った、の間違いでは無いのか、カザンよ」
 ヒカリとは対照的にカザンは背を伸ばして堂々たる風情で笑い飛ばした。
「はっはっは、そうとも言う。だが今日は手心を加えられてしまって無下にできなかったのだ」瓶とは逆の手には盃を掲げ、「毒見も済んでいるぞ」
「そなたが一刻も早く飲みたかっただけだろう……」
 しかし今回の戦の随一の功労者である彼の誘いをあしらうのも悪いので、観念して「少しだけだぞ」と扉を押し開けた。「流石ヒカリ殿、それでこそ我が新しき王と仰いだ人物」と飄々と言ってのけた。やはりさっさと追い出してしまおうか。
 頭を抱えている間に、カザンは戦場で相対している敵兵よりも余程早い動きで靴を脱ぎ捨て、部屋に置かれた井草の座布団で胡坐を掻いた。
「おっと、これは昨日のことを受けて引っ張ってきたものか?」
「あ、ああ……」思わずカザンの酒への情熱を糧とした俊敏さを眺めているだけとなってしまったが、声を掛けられて金縛りが解けた。先程置いていた手記を咄嗟にヒカリは拾い上げ、カザンから見えないように彼の対面の座布団の上に置きかけ、そのままの姿勢のまま口が開いていた。
「……カザン」
「ん?」
「そなたは父ジゴに添い何年になる」
「急に想い出話か? ……そうだな、二十と余年程か……」
 カザンの年齢を考えればヒカリが産まれた頃から軍にいたという話は間違いではないだろう。つまり同時にウ国が戦で敗けた頃……この手記の通りであれば、持ち主が父の下についた頃のことだ。
「知らないなら知らないとだけ答えてくれ。オボロ、という人物を知っているか?」
 こちらを見上げるカザンは眉を顰め思案した。「朧とはぼんやりと霞んでいる様を表すが……」そう呟き、再度ヒカリに向いた。
「知らないな。ジゴ様の近くにいた者なのか?」
「……はっきりとは判らぬが、その可能性が高い」
「なるほど、となると暗部の者かもしれないな」
「暗部か……」その可能性は未だ捨てきれない。オボロは頭が回り、そして意志の強い人物だった。諜報や暗殺の腕を買われ、その姿形を棄てていたのかもしれない。それは既にヒカリが達していた解の一つであり、結局何も判らないという事実だけが手元に残った。「すまない、変な話をしてしまった。忘れてくれ」
「なあに、これからこちらをいただくのだ、忘れるなど容易い話だ」
 瓶と盃を掲げて、いかにも飲むための口実を作ったと言わんばかりである。
「……調子が良い奴め」相変わらずの男にヒカリは微苦笑し、話を戻した。「だが、そなたの知恵を借りられて助かった。限られた時間のうちで書庫全てを見ることは叶わなかったから、何度か足を運ぶつもりだ」
「そうか。ヒカリ殿の希望に添えたようで何よりだ」
 カザンは満足そうに笑んだ。自分は幼い頃から彼に世話になりっぱなしだ。昨日の準備も殆どカザンに任せきりだった。
 昨日、ごく一部の者で兄の納棺を終えた。戦場では面で顔を隠し、日常では接点が殆ど無かった兄の面貌は、それでもはっきり覚えているはずだった。父に似て切り立った鼻梁と沈み込んだ黒目には何者も近付けさせない威風が備わっていた。
 だが死に顔を見て驚愕した。それは全くの別人にすら見えたからだ。肌は枯れ果て皺が深く刻み込まれた様は、父を超えた齢六十程の老人のそれに近かった。
 不気味なものを感じた。例えばヒカリ自身が自分の血に眠るあの衝動に呑み込まれていたのだとしたら、同じ道を辿ったのか。よく考えると、自分はクの建国は知っていてもなぞってきた軌跡を深く追及したことはない。それは今まで心の底で抱いてきた己の血への恐怖があったからかもしれない。
 ムゲンは言っていた、“暗黒”によりク家は強大となったと。“光”の血はその“暗黒”を消そうとした血族……自分はその両者の血を継いでいるのだと。
 “暗黒”とはテメノス達が追っている謎でもあった。ムゲンがかの知識を持っていたことからも、このク国に何か手掛かりがあるのではないかと、まずこの国で比類なき知識量を持つカザンに訊ねたのが数日前のことだ。だがカザンも概略だけで多くは知らず、ク家の興りが含まれたものならば限られた人物のみが入ることを許される書庫にあるのではと助言をくれたのだった。結果としてヒカリの胸に強く残ったのはオボロの本ではあったのだが。
 ヒカリは棚から常に清潔に保たれた盃を引っ張り出し、背の小さな円卓とその上に乗せた角灯を挟んでカザンの対面に座り込んだ。鼻歌交じりに瓶を横向きに揺らしている男の前で盃を傾げると、白濁した酒が注がれる。
「これはにごり酒か?」
「左様。より米の本質が味わえるにごり酒こそ至高。芳醇な香り、深みのある味わい、さっぱりとした喉ごし、実にク国の誇る素晴らしい酒だ。敢えて醪を絞る時に目の粗い物を用いて澱を取り除かずして作るなどと……」
「解った解った。そなたが酒を語ると長くてかなわん」
 盃を掲げながらいつまでも続きそうな蘊蓄を遮った。若干不服そうにするも、朗々と見せびらかしてきた瓶を下ろし、カザンも自らの盃も掲げる。
「私の一番の友の門出を祝して」
「鞠躬尽瘁の働きを見せた我が国の鷲の功績を讃えて」
 向かい合った男と自分の衣擦れだけが響く中、白く濁った酒を喉へと流す。先程のキャスティの薬が効いているので悪酔いはもう無く頭も冴えてはいるが、無茶な飲み方だけは避けようと口の中に流し込んだのはまずほんの一口だ。さっさと飲むと勝手に注がれるのはもう既に学びきっていた。
「うむ、実に美味だ。これぞ西に大河を持つ我が国の宝なり」
 三年前……南との争いを終えた三年前に鷲と交わした契りを、ヒカリとて忘れてはいない。全ての戦を終えたら共に飲もうと言った、あの英雄の丘でのことを。長い時を経ての実現となってしまったが、自国の軍師が満足そうにしているのを見てなんだかんだで自分自身も心の底では気の休まりを感じていた。
 いくつか城での喫緊の話を交わし、それらも落ち着いた頃合いに、
「ところでヒカリ殿」既に数杯目かの注いだ酒を飲み下したカザンは髭を扱きながら、「ヒカリ殿ももうすぐ二十二になる。そろそろお相手が必要なのでは? 平和な国にこそ明るく民の好奇引かれる艶聞が相応しいものだと思うが」
 と唐突に話題を斜め上の方から切り出したので、思わず口の中で味わっていた酒を吹き出しそうになった。
「何を言う。だとすればまずはそなたの方はどうなのだ」
 キャスティとのことは国の者には口外していない。その関係も旅の仲間が知っている程度なのでカザンが知らないのも当然なのだが、この話を続けられても正直いい気はしないのでそれとなくヒカリは問い返す。
「私は……もう半ば諦めているのだ。だから若人の、そして未来明るい国の王の話が聞きたいのだよ」
 一回り上の男の、髪と同じ薄鈍の瞳がふと細くなる。頬は少し赤らんでいるが、まだ酔った様子は見せていない。
「カザンよ、そなたは確か城下の生まれであったな」
「その通り。決して裕福では無い家だ……下民の下の名を聞いても何も出まい」
「そういう物言いは許さぬぞ」
 声音を低くすると、男は肩を竦めた。
「失敬。ヒカリ殿の前で言うべきことではなかった」
「ああ、俺は母や友たちをそんな言葉で纏めるつもりは無い。それで家族はどうしている」
「……ヒカリ殿が求めるような面白い話は無いが……」
 カザンは先程まで雄弁だった口を盃で閉じる。
 角灯一つでは照らしきれない部屋の隅は暗く、自分達の姿見も何処か幽暗でかそけきものだった。そんな中で互いに喋るのを止めてしまうと、時間の流れから取り残されたのではという錯覚に陥る。
「あまりこういった話は聞いていなかったと思ってな。俺ばかり知られているのも不公平だろう」
 一瞬感じた寒気に押されるように意図的に我を通した物言いをすると、自嘲を浮かべカザンは端的に話した。
「妹が、一人いる。両親はいない」
「ほう。妹君が」
 初めて聞いた情報を復唱しただけだったのだが、カザンは先程よりもよっぽど敏感に反応した。
「おや、ヒカリ殿は私の妹を狙っているのですかな? あれは可愛げはあるが一ところに収まるには少々じゃじゃ馬なのだが」
「まさか。友の妹君に手は出さぬ。カザン、酒に酔っているわけではあるまい」
 勝手な勘違いをはね除けると、また我が意を得たりをいった顔で、
「ふっ、意地になるとは。やはりヒカリ殿には他に相応しい方がいるとお見受けするが」
「茶化すな、」先程と同様に苦い顔で返した。「しかし妹君とは内戦の最中で中々会えなかっただろう。それもこの国の罪だな」
「……先程、城下へ下った時に妹には会ってきた」
 ヒカリの二乗の後ろめたさを含んだ精彩を欠いた応答に被せるようにカザンは告白した。
「……息災であったか?」
「それはもう。相変わらずのじゃじゃ馬だった。だが……」言いかけ、途端に渋い顔になる。まるで梅干しを丸ごと一つ口の中に入れたように口をすぼめて、「……うむ、私よりは先に良い異性を見つけたように見えたな。前よりかは女性っぽくなっていた」
 賭け事で負けたってこんな顔はしない男だ。ク国の鷲の新たな一面を見た気がして楽しくなってしまう。
「ふ、兄として複雑か?」
 からかうと、男は髪に手を突っ込んで後頭部を掻いた。
「喜ぶべきことなのかもしれないが、確かにこの感情は複雑、なのだろう。世の親御の、娘を嫁に出したくないなどという傲慢な気持ちを悟ってしまってはな」
 両親はいない、好きな者はいないと語った男が渋面を作ってそんなことを言う。会ったことは無いが、余程その妹とやらは愛されているのだろうと思った。血の繋がりを既に失ってしまったヒカリには眩しくすら見える。
「だがこうとも言えるぞ。王の門出を祝うのが軍師の務め、妹の門出を祝うのが兄の務めだろう?」
 盃を揺らしていた手がぴたりと止まる。かと思いきや、次の瞬間には甘味の強い酒を一気に呷り酒臭い息と共に破顔した。
「はは、こりゃ一本取られましたな」
 カザンは片手間で瓶を傾け、「おっと、売り切れだ」「この部屋に酒など無いぞ」先手を打って男の心の声を遮る。「まだ何も言ってないのだが……」とぼやきながらも口惜しそうに小瓶を引っくり返して最後の一滴まで堪能しようとしている。
「なあ、カザンよ」
 ヒカリはがっくりと肩を落としたカザンの両の瞳を真正面に見据えた。
「ク国が侵略を止めたとて、当の国や部族が安寧を得られるとは限らぬ。様々な混乱も起きよう。他国との和平には繊細な手腕が必要だ。そなたにはこれからも手を貸してほしい」
 こちらが話している間にカザンはお調子者の面を徐々に引っ込めていく。その世故に長け、頼りになる男にヒカリは頭を下げた。
 いくら瓦礫を片付けて新しい家を建て町を直したところで、過去を精算したことにならない。失った人も時間も唯一無二なのだ。己も親を失い、多くの友を失った。彼らの顔を憶えているからこそ、理解している……。
 頭を上げると、カザンは雨に打たれた猫同然に丸まっていた背中を今は伸ばし、獲物を前にした猛禽類の眼光をヒカリに送り返していた。まるでこちらの思考や行動を透かし見るような視線と交錯し、やがて肩を竦めながら普段と変わらない柔和な顔つきに戻った。
「新たな国の王に真っ先に頭を下げられては、どうも心地が悪い。私は一介の軍師でしか無いのだ」
「俺は一度しか言わぬぞ、カザン」
 雄弁に取り繕っていた男が緘黙した。薄明りの部屋で顔を合わせた上で生まれている妙な沈黙は、やがて酒臭い男の失笑で破られる。
「……参った。いかんな、ジゴ様と同じことをおっしゃるとは。やはりヒカリ殿は正統にジゴ様の尊慮を受け継いでいる」
 三年前、戦を止めた際にこの国を去った男は唇の縁にふっと微笑を浮かべた。ヒカリも、自然と笑みをこぼした。
「これからも信じているぞ、ク国の鷲を」
「助力させてもらおう、新たなク国の王を」
 もう白濁したにごり酒も無くなり、空になった盃を虚空でぶつけ合った。

+++++

 朝食は旅で出会った八人でと話し合っていたのだが、約束の時間になってもヒカリの姿が見えなかった。
 ク国の城ではあの戦いを終えた日から毎日丁寧に部屋を用意されてはいて、仲間達は皆、日中の殆どを復興の手伝いに費やしていた。キャスティは城の薬師団が設けていた何部屋かに詰めて怪我人や病人の治療の手伝いをしていたため城内は殆ど歩いておらず、まだ両手で数えるほどしか城を見ていない。
 ク国の城は元々聞いた通り赤くて派手、というのがとにかく印象深かった。ここ数日就寝していた部屋は少し……いや、かなり広い宿場の部屋といった程度で済んでいたが、廊下に出ると一気に身が引き締まる。床に敷かれた緋毛氈が均衡美を意識した文様を浮かばせながら長い廊下と階段を華やかにしている。一定周期で赤く塗られた力強い柱が城を支えていたり、その表面は細長い胴を鱗でびっしりと埋めた竜の彫刻が削られていたり、とにかく何を見ても煌びやかだった。
「珍しいな、ヒカリが寝坊なんてよ」
 昨日の着映えする衣装から一変、すっかりいつもの様相に戻ったパルテティオが黄金色の外套のポケットに手を突っ込みながら言った。
 朝食は水入らずで話せるようにと城下にある領主の館でとヒカリが気遣って言ってくれたのだが、案内人がいないのでは自分達も動きようがない。城内の廊下の端の方で七人で輪を作って待つしか無かった。
「昨日は引っ張りだこでしたし、立場というものがあるからじゃないですかね、社長」
 シニカルな笑いを浮かべて答えたのは萌葱色の神官服に身を包んだテメノスだ。
「おいおい、まるで俺が何もしてないみたいなこと言うなよ。こないだだってヒカリに商談の話してたんだ。なあ、旦那」
 充分身体の大きいパルテティオを更に上回る体躯を細かな図形が刻まれた壁に預けながら、オズバルドは眼鏡の奥で瞳を小さく輝かせる。
「うむ、あれは有意義な時間だった。実際に使う時になったら呼んでくれ」
「先生がすごい乗り気。一体どんな話だったんだか」
 ソローネが呆れを込めて言うと、パルテティオが「聞いてくれるかーソローネ! 俺は世紀の発明だと思うわけでな!?」と身を乗り出した。「近い、別に良い、興味ない」彼女の方はにべもなく一蹴し天井の梁を仰ぐ。
「でも本当にどうしたんだろうね。うちで一番生真面目な奴だから、遅れるにしても何か寄越しそうだけど」
「うーハラへった……もうひかりんの部屋に突撃しちゃおうよ~」
 輪の中でも一際体格の小さいオーシュットが頭に乗せたふわふわの耳をぺたりと折り畳んでしまっている。くりりとしたコバルトグリーンの瞳は一人の少女の三つ編みを弄るのに忙しそうだ。足元では夜行性の梟であるマヒナが眠そうに目を閉じていた。
「でもヒカリくんの部屋って何処か知らないよね? 城の人に訊いたら判るのかな?」
 オーシュットの手元で髪が弄られているのに気を揉んだ風もなく、むしろ踊りの才能を活かしてリズムよくアグネアが揺らしている。昨晩も祝宴会場で飛び入り公演という形で『きぼうのうた』をメインに何曲か披露していた彼女は小首を傾げる。
「まあもう少し待ってみようぜ。慌てたところで今日はまだ朝なんだからよ」
「私はそれでも構いませんが……オーシュットが我慢できないというのであれば、先にアグネア君とソローネ君で一緒に食べてきても良いですよ。レディーファーストと言うことで」
 女性のくくりから省かれてる事実に不満を感じつつ(自分が省かれているのは彼なりの心遣いなのだろうが)、その案にはキャスティも賛成だ。
「朝と言っても、もう日が出てだいぶ経ってるものね」
「いつもだと街道に出てたりする時間だよね。あたしは良いよ。オーシュット、一緒に行く?」
「どっちにしろ、今日は八人集まらないと始まらねえしな」
「ええ、逃げるのは時間くらいですしね」
 皆で後押しするも、オーシュットはもう一度耳をぺたりと折って、
「……ううん、ごめん。もうちょっと待つ。皆と一緒に食いたいし」
 と言った。オーシュットの心遣いが皆の胸を暖かくさせる。壁に背中を預けながらソローネはまるでオーシュットがそれを選ぶのが当然だったと言わんばかりに淡泊に、
「そっか。じゃあ、暇つぶしにしりとりでもする?」
「良いね良いね、じゃあニク!」
「グラーシュ」
「シュウマイ!」
「お、昨日食って美味かったヤツだな! えっと……い、い、……イワガメのパエリア!」
「あ、ね。あ、あ、あー……ってなんで朝食待ってるのに食べ物限定しりとりなの」
「オーシュットのお腹が大合唱してるせいでつい……」
「えへへ、ごめんごめん」
 オーシュットではないが、昨晩から何も口をつけてないのでキャスティのお腹も気を付けていないと鳴りそうだ。
 城の廊下を見渡しても女官の人達が掃除道具や書物を持って忙しなく往来しては、異色な七人組と一羽から曖昧に距離を取って通り過ぎていく。時々各々が見知った顔を見かけるが軽く挨拶を交わしただけで、自らのやるべき仕事をこなしていた。何度か繰り返して、それでもまだヒカリの姿は見当たらない。
 段々とただ待っているだけの行為に居た堪れなくなってきたところで、
「あ、」オーシュットが頭の上の耳をぴんと立てた。「ひかりん来たかも」
 指を指した先の曲がり角、赤い柱の陰からほどなくして同色の赤い装束に身を包んだ痩躯の男が息を切らして現れる。
「すまない、友たちよ。遅くなった」
「別に構わないよ……ってあれ」
 脛まで締まった黒地の足袋は砂除けのためのもの。腰に反り返った片刃の武器である打刀と脇差を腰帯に差して打飼袋を身体に巻き付け菅傘を抱えて持つ様は、キャスティ達が見慣れた旅装束だった。

+++++

 暗闇のただ中で、幻想的な青白い炎が揺れていた。音も無くその場に存在するだけ。虚空にあるだけのそれは、しかし多くを照らしていた。周囲の人、家、物、岩、樹、地、海、空さえも、あらゆるものを暖かく包み込む青い炎。
 威厳を超え畏怖すらも覚え、反射的に身が竦み上がった。圧倒的な力を前に身体中の血が沸騰するような、凍り付くような感覚に囚われた。手が震え、足が竦む。それは聖なる恩威を感じているからか、魂に刻まれた怨嗟であるのか。
――炎を……消せ……――
 何者かが青い炎の前に立っている。顔は見えない。背格好すらも判別できなかった。ただ何かはそこにいる……それだけは明瞭に判る。
 忽焉と、変化が訪れる。混じり気の無い青い炎が、のたうつように大きく揺らいだ。辺りを包む暗闇そのものが激震する――

「ん……」
 閉じていた瞼をゆっくりと開く。天井の升目に組まれた角材が目に映る。梁だ。馴染み深い部屋に遠い昔に母が作っていた小豆粥の香りを感じたような気がし、現金な話だがそれですっかり目が覚めた。頭痛といった症状も残っておらず、既に昨晩の時点で効果はあったが改めてキャスティの薬の偉大さを痛感する。
 身を起こし首を窓に向けると、外からの太陽光が日覆を透して部屋をぼんやりと明るくさせている。寝具の上で強張った身体を大きく伸ばして素足のまま窓へ近付き日覆を捲ると、とうに夜も明けた空が城下町を煌々と照らしていた。赤い提灯が数多くぶら提げられていて、昨晩の祭りの余韻が残っていた。
 最近は太陽が昇り始める頃合いに起きていたので浅い色の空を見て、旅をしていた頃の起床時間とあまり変わらないなとまず考えた。よくよく考えれば、砂漠の空は空気中の砂塵で若干黄味がかっているので、太陽が昇って少し時が経ってからでもこんな色をしているのだったと着替え始めてから気付いた。
(……今日が最後だろうな)
 誰かが明確に始まりも終わりも言ったわけではない。だが最初に自らの旅の目的を終えた仲間が「世話になったから」と漠としたまま共にいることを選び、それは一人、また一人と伝染していった。ヒカリは今回の中心を担っていたカザンの入念な準備が必要だったのもあり気付けばその番が最後になっていたわけだが、それはある意味自分も含めた仲間達に大きな一つの区切りを生むことになった。
 自分は兄を倒し王となる。それは暗にこれ以上の旅が不可能であることを意味している。
 だが、一番心残りだったキャスティとの意思確認も昨晩終えたのもあり心は晴れやかだった。
 別にこれが今生の別れというわけではない。アグネアやソローネは各地を回るだろうし、パルテティオは一企業の社長になったと言っても机の前にずっと座っているという性質でもないだろう。テメノスもまだ教会に戻るつもりは無いと、オズバルドもまだ各地を回るのだと言っていた。となれば会う機会はいくらでもある。それにオーシュット、キャスティも腰を落ち着けるのであれば手紙のやり取りだってできる。絆は、明日はこれからも繋がり続ける。
「行くか……」
 小声で自分に発破をかけて、部屋を出る準備を始める。今日は旅装を着る必要もない。しかし町に下りるのに護身として刀は必要だと手を伸ばしかけ――ヒカリの視界に一葉の紙が止まった。
 一切記憶にない折り畳まれた紙が、何故か鞘の下げ緒に結ばれていた。


 城下の領主を務めていた時の館は、当時の従者だったツキの親友だという女性が手入れを行っており、今日の朝食もヒカリから直接準備を頼むと「任せてください」と楽しげに返してくれた。約束の時間には遅れてしまったが、こちらの姿を認めるとてきぱきと鮮やかな手付きで準備を進めてあっという間に八人分の料理を座卓に並べてくれたのだった。
「――あなたが旅に出る、ですか?」
 ツキの親友が去るのを待ってから、ヒカリは話を切り出した。城から受け続けてきた仲間達の測りかねたような視線を受け止めながら告げるのは抵抗が強かった。特に真横に座るキャスティからは説明を求めるような鋭い気配を感じてまともに目を合わせることができない。
「ああ。良ければテメノス、そなたに付いていこうかと考えている。今朝城の者に話はつけてきた、ムゲンの残党が道理に反する行為を国外で行おうとしていると」
 それならば仕方ない、と和らいだ空気を、またテメノスが締め上げた。
「嘘を吐いてまで今この時に国を出る理由があなたにあると?」
 ヒカリは迷わず認めた。
「そうだ」
 ヒカリがテメノスの名を出したからか、仲間達の注目は机を挟んで座るテメノスとヒカリの間を右往左往していた。
 一方でテメノスは落ち着いた様子で自分と同じく正座で茶を啜り、揃えられた銀髪の下の目を細める。
「……丁度良かったのかもしれません。私もヒカリに相談したいことがありました」
 顎を引き、そう切り出した声は冷たい。彼の顔立ちは幼いが、引き締めると三十という年相応の凄みというものがあった。
「あなたの兄君のことです」
「……ムゲンか」
「ええ。正確には私達がムゲンを相手にした時の、彼を異形へと変えたあの力……“暗黒”」
 温かな朝食の場が一気に冷える。まだ全く慣れない箸を掌で握って玄米をかき込んでいたオーシュットも空気を読んで手を止めた。
「カルディナ、ハーヴェイ、ジュバ殿。これらの人物も口にしていました。……あなたの兄君も繋がっていると思ったのですよね? ヒカリが求めるのもその答えなのですか? だから私と行くと?」
 問いかけるというよりも、それは確認だった。ヒカリももちろん彼の言い分は察している。特にテメノスは旅立ちの中で得た謎を未だに追い続けており、主にオズバルド相手ではあったが正体を考察し続けていた。本来ならこの話も奪還戦の後にすべきだったが、じっくりと彼らと話し合う機会が無かったためにこうして今に表面化している。
 だが、彼の指摘した内容それだけならヒカリは国を離れるつもりはなかった。解を求め旅立つであろう友たちに託す気でいた。
 何処から話を切り出すべきか、何処まで話すべきか、ヒカリは思案してしまう。混乱した頭を静める術をヒカリは見出だせずにいた。
「……それは、判らぬ」
「ふむ。それは私が持っていない手札を持っていて、それで悩んでいるということですか」
 声を落として答えると、テメノスが畳みかける。刺すような詰問口調は異端審問官の一端が見えていた。流石の読みだと思うと同時に、ヒカリの喉は鳴らない。乾燥した砂漠の空気がこれでもかと跳梁する。身体の内で喉を焼き、神経質に五臓六腑を叩く。昨晩、悪酔いした時もこんな感じだった。
「どちらにせよ、言ってくれないことには私も協力はできませんよ」
「テメノス」誰もが口を挟むのを止めていた中で、非難めいた声を真っ先に上げたのはヒカリの隣に座っているキャスティだった。「昨日の今日なのよ。もし何かあるにしても考える時間を……」
「先程私は言いましたよね、時間は逃げます。それにもし繋がっているのであれば、敵は実に狡猾です。ここから先は半端な者を巻き込むわけにはいかないのです」
 テメノスは微動だにしない。キャスティも落ち着いた態度ながらも窘めるような口調で返した。
「半端って……そんなことしないのは私達がよく知っているはずでしょう?」
「私は態度ではなく感情の話をしています」
「おいおい、二人ともちょっと落ち着けって」テメノスの隣に座っていたパルテティオが彼の肩を掴む。「二人の言い分は解るがよ、周りもよーく見ろよ。せっかくのあったかくて美味い飯が冷めちまうぜ」
 冷静なパルテティオの指摘にテメノスは口ごもり、キャスティも複雑な顔で浮かしかけていた腰を下ろした。
 先程から温かな食卓を包むはずの空気も食器を動かす音も文字通り消し飛んでしまっている。足元を漂う沈殿した空気が毒を振り撒いてこの場にいる生物の動きを残らず止めていこうとしている。
 友たちにこんな顔をさせたいわけではない。
 だがテメノスの言う通り半端な気持ちであるのは事実だし、パルテティオの言う通り皆を不安な気持ちにさせてしまっているのも間違いない。こんなところで揉めてしまうのは本意ではなかった。何より庇ってくれたキャスティにまず謝らねばならないというのに。
「すまない、持ち出した俺が語らないのが悪かった。時間に焦っているのは俺の方だ。必ず皆には正直に話すと誓う。だがまずはパルテティオの言う通りに朝食をいただこう。皆、ク国の料理を味わってくれ」
 周囲は戸惑っていたが、ソローネがオズバルドに「先生、もしかしてその雑煮っての嫌いなの? いつも避けてるよね」「……これは甘過ぎる。俺の口に合わん」「こういう甘いもダメなんだ……」と笑いを誘うような閑話を皮切りに、食卓に明るさが戻ってくる。
 隣に座っていたキャスティも毒気を抜かれたように小さく息を吐いて、手元の料理に手を伸ばし始める。
「ここ何日かはク国の料理を食べてきたけれど、お雑煮って本当に色んな物を入れるのね」
「今日のはニクが入ってるの最高だよね!」
「ああ、雑煮は家庭によってもかなり色が出るからな……」
 仲間達の団欒の様子に、本来ここで噛み締めるはずだった目的が帰ってくる。沈んでいた何もかもを吹き飛ばしてくれる。
 だからこそ、言い出しづらい気持ちは拭えなかった。


 食事を終え、片付けをツキの親友の女性と共に皆で行う。手伝わなくて良いとは言われたが、押しの強いキャスティを中心にあれよあれよと流れるように終わってしまっていた。ヒカリに対しては反対の声が格段に大きかったが、つつがなく物事をこなすのを見て驚きを隠しきれない様子だった。旅暮らしでこういった雑事にもすっかり慣れてしまったのだなと、思い返すと城でも城下でもこういうことは周囲が許さなかったので、これもこれで郷愁を覚えた。
 八人で足の短い木製の直方形の机を囲い、各々楽な姿勢で井草の座布団に座る。こういう床に腰を落とす席では、特に母からは背筋を伸ばし顎を引き足先を揃えて座すことを求められてきたので、仲間と比べて頭一つ分ほどの差が生まれる。そういえばヒノエウマ以外ではそもそも正座そのものが存在しないことにも驚かされたものである。テメノスは正座を気に入って使うようになったが、他の仲間は足を崩したり立てたりしていた。
 ヒカリは自身の荷を解き、一つの本を取り出して机の上に乗せた。もう既にその所在を認知していたキャスティは眉根を寄せた。
「テメノスが指摘した通り、俺はムゲンが言っていた“暗黒”という言葉を探ろうと城にある書庫を調べた。ク家が関係あるのだとしたら何か手掛かりがあるのだと聞いてな。そこでこの手記を見つけたのだ」
 右隣にキャスティがいたので、自然と左隣にいるオーシュットに手渡すことになる。少し開いて字ばかりなのを見ると更にその隣のオズバルドに渡っていき、仕方なく彼が読み上げるものの脳内で咀嚼された内容で話すので余計に難解になり、結局その隣に座っていたパルテティオが手記の内容をそのまま読み上げた。
 テメノスを始め、昨晩キャスティがヒカリに投げかけた問いは同じ、この人物は何処にいるのかというものだった。同様にこの人物の性別や生死すら不明であるという会話を交わして、ヒカリは続ける。
「話が本に書かれた内容だけで終わりなら、それは俺だけの問題だった。このオボロのような国に振り回される者を生み出さぬように治世を築くのが俺の務めだと、いっそ決意を新たにしたのだ」
 仲間達が神妙に小さく頷く。ヒカリの顔を見て、続きを待っていた。
「……だが、今朝起きると俺の部屋に一葉の文が置かれていた」
 懐から一枚の紙を取り出した。元々小さく折り畳んであった物なのもあり、破いてしまわないように慎重に広げる。折り目を伸ばすと達筆に走る字が明瞭に見えてくる。
 先程の流れと同様に、パルテティオがその紙を読み上げた。


 ヒカリ殿

 こうして文での挨拶と相成ること、大変忝い。

 昨夜の語らいは実に充足していた。
 だが、やはり今日という日は来てしまうものなのだと、私は実感する。

 さて、餞別に私からもお祝いをさせていただこう。
 僭越ながら昨日、祝宴でヒカリ殿が着ていた服の裏に置かせていただいた。
 どう用いるかはヒカリ殿の自由だ。きっと我らが王のことだ、使い道は読めるというものだが、私が目にすることはないだろう。

 契りを反故にする事態、書面での披瀝となってしまったことを詫びさせてほしい。

 戦の世に必要であった鷲も、羽やすめの機会をいただこうと考えている。
 鷲の眼も傍に必要ありますまい。あなたには多くの友がいるのだから。

 ヒカリ殿、そなたの今後を遠くの地で耳にするのを楽しみにしていよう。
 たとえ明日が暗闇であろうとも。

 カザン


 読み終えるとパルテティオは机の上に文を置いた。皆はそれに怪訝な目を向ける。アグネアが何度も眼を瞬かせ動転した様子で口を開いた。
「こ、これってカザンさんはもう他の国に行っちゃったってこと? でもこれから一緒に国を立て直すんじゃ?」
「ああ。俺はあやつを復興の杖柱のように考えていた。だがこの手紙には問題が三つある。一つはアグネアが言った通り、誰にも……俺にすら何も言わずにこの国を出たらしいこと」
 文に書いてある一つの単語に指を伸ばした。
「そして一つはここに書いてある餞別とやら……これはクレストランドの闘技場でカザンが勝ち取った三十億リーフが俺の部屋に置かれていた」
「さ、さん……!?」
 アグネアが叫びかけすぐに口を押さえた。そういえばモンテワイズでの闘技場のときにまだアグネアはいなかったので、突然そんな大金が出てくることに吃驚するのも無理はない。
 しかし改めて言葉にして、常人の反応を見て、ヒカリの中に生まれた黒い渦が更に大きくなっていく。
「……了察はできるのだ、あそこで得た金をク国に宛てる意味は。だがこれでは」
「なるほど、それで『餞別』ですか」口元に手を当てながらテメノスは手紙を睨めつける。「餞別とは旅立つ者に贈る物です。まあク国の新たな門出という意味では間違ってはいないのでしょうが」
 そこまで言って不自然に言葉を切った。どうやらテメノスには三つ目の問題はもう辿り着いているらしい。
 門出、か……僅かな空白の間にヒカリは昨日の小さな酒の席を思い起こす。
「旅に出る必要を鑑みた、というわけか」
 オズバルドも行き着いた答えがあるようだった。キャスティとソローネにも動揺が見え始めていた。
「どーいうことだ? 三十億リーフは確かにすげー大金だけどよ、」と自分がつい最近まで八百億リーフを動かしたことは気にも留めずに「それとヒカリが旅に出るかもっつーのとどう繋がるんだよ。俺とかオーシュットとかにも解るように説明してくれよ旦那」
「厳密には金自体は一つ目の問題と称した、軍師が出た理由なのだが……」求められ話し始めるも、語ると饒舌になるオズバルドらしくもなく中途半端に言い淀んだ。「……これは俺が言うべきでは無いとは思うが」
 と眼鏡の奥からヒカリの方をちらりと見やる。全く持ってその通りだ、これは自分の口から言うべきことだ。ヒカリが視線を受けて言葉を繋いだ。
「ああ、三つ目の問題がその二つの問題の解を出すものだ。この手紙の最後の行。ここの一文の筆跡が……」
 紙をなぞった人差し指が乾燥で滑りきらず、達筆とは無縁の、一画すら疎かにしない字体で書かれた暗闇という字のすぐ傍で止まった。
「――オボロのものと同じだ」








※ここから言い訳エリア
・ソローネだけ急に現代風チャイナ服着せてすいません趣味です
・ヒカリ以外の男面子の祝いの席の衣装がどんなだったかはご想像にお任せします……
・というかお祭りとかしないってヒカリ言ってたろって思われるかもですが、せめて戴冠の時くらいは……
・日本な雰囲気と中国な雰囲気ごちゃまぜファンタジーですいません趣味です
・ヒカリに正座させたいがためだけに自室で靴脱がしました。ゲーム中はどう見ても土足です
・再度になりますがアカラ派の皆さま、大変すいません
・思った以上に長引きまくって前後編になってしまいました
※ここまで言い訳エリア

 さて、あまりにあまりなところで止まってしまっているのでどういうテンション感で書けば良いのかわかりません。うぃー、こんちゃ、ヴィオです(挨拶)。

 オクトラ大陸にヒカキャスが同時に来るんですってよ!書いたら!出る!!もうこれ三か月以上書いてるからもう限界突破で呪いみたいなものになっているはずだ!


 さて、中身のお話少しだけ。
 割と自分の執筆エネルギーは「こういうシーン書きたい」というものと「きっとここでこういうことがあったんだろうという補完」の二点があるのですが、今回は後者が八割くらい満たしている感じです。
 ネタ自体は前の話を書いた時からあったのですが、ピルソロ書いてたり、他作品の二次創作をしてたり、お得意の亀執筆だったりで、気付けば外界も寒いです。前は暑かったのに……世界の時間、いつの間にか加速してます?

 後、八人(+一羽)を今回はかなりがっつり書きましたが(前回も出てましたが少なめだった)、お、多いな……ってなってました。自作パーティーチャットで書き慣れてるとは思ったのだけれど、やはりここに字の文を入れるのは簡単ではない……世の中の文字書きはすごいな……。

 っと……後編でもあとがきがあるので、この辺りで。
 後編の投稿は……翌日、めでたい元旦です。大陸にヒカキャスが来るめでたい元旦です。これできっとうちの旅団にも来ますね~安心して年を越せますね~。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 もしよろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。

 また、後編もあげましたのでどうぞ。
おわりとはじまり 後編 ~ 八人の旅路(1/2)


※24.1.1 拍手コメント返信 まろさん
 うおおこちらこそとても熱いコメントありがとうございます!やっと新作出せました!!
 自分もヒカキャスは他の方のを拝見して栄養を取ってますが、自分のもこうして他の方の栄養に少しでもなれているのかと思うと嬉しいです……!

拍手[5回]

お名前
タイトル
メールアドレス
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集用パスワード
管理人のみ閲覧
ブログ内検索
カテゴリ一覧
プロフィール
  • HN:
    ヴィオ
    HP:
    性別:
    非公開
    自己紹介:
    ・色々なジャンルのゲームを触る自称ゲーマー
    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

    【所持ゲーム機】
    ・SFC GC(GBAプレイ可) Wii WiiU NSw NSwlite PS2 PS3 PS4 PS5
    ・GBAmicro GBASP DS DSlite 旧3DS PSP PSV
    ・ミニファミコン ミニスーファミ PSクラシック
    ・PCは十万円くらい。ゲーム可だがほぼやってない
最新コメント
バーコード
<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- ポケ迷宮。 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Material by もずねこ
 / Powered by
☆こちらもどうぞ