ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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オクトラ小説3作目。

 オクトラ一周年おめでとう!

 テリオン主人公で右回りに回った人が経験したであろう、1人目の仲間ハンイットとの出逢いSS、の後のちょっとしたSSです。

 テリオンとハンイットの1章の話を知っていて、なおかつ

 【オクトパストラベラー】枷の男はアルテミスに出逢う【小説】

 を先に読んでいただけた方なら大丈夫です。
 ネタバレはありません。
 カップリング要素はありません。

 では、「咲けるは淡い夢」です。

 ではどうぞ。


※21.11.11 拍手コメント返信


☆オクトラ小説1作目 テリオン主人公ハンイットとの出逢いSS
 【オクトパストラベラー】枷の男はアルテミスに出逢う【小説】

☆オクトラ小説2作目 オフィーリア一章中心のトレサとの出逢いSS
 【オクトパストラベラー】聖女の道、輪廻の導き【小説】





咲けるは淡い夢


 小川に架かった簡素な丸太橋を渡ったところで、ハンイットは焚火の跡を見付けた。
 三歩ほど後ろを歩く同行者に声を投げかけながら振り返る。彼の瞳と視線が交差したかと錯覚したのは一瞬で、彼の視線は緩慢に流れる小川に向いている。
「今日はここで野宿にしようか」
 轍の跡から少し外れ背負った鞄を草むらに置く。木々の隙間から覗く空の色が少しずつ明度が落ちていっており、そろそろ明かりも必要になってくるだろう。
「……そうだな」
 必要最低限の短い応答が返ってくる。
 当初はフロストランド地方に入り宿で一泊する予定だったのだが、道中で怪我人を発見し再度シ・ワルキに戻ったため、思うように旅路が進まなかったのである。
 彼はやはり旅については慣れているようで、野営の心得をきちんと備えていた。
 肩に引っ掛けていた巾着袋を下ろすと、こなれた手つきで準備を始める。
 ハンイットが食事を作ると言い出した時には「借りは作らん」と言って目の前の小川で魚を捕ってきた。料理はと尋ねると「俺は簡単な物しか作れない」とだけ言った。どうやら最初からテリオンが素材を集め、ハンイットが料理をするのが一番適任だろうと思っていたらしい。自分が狩人であることを何だか隅の方に追いやられている気がするが、彼が積極的に動くのを咎めても仕方無いので受け入れることにした。料理は昔から良くしているし、他人に振る舞うこともむしろ好きな方だ。
 そんな流れで夕飯は捌いた川魚と茸に少しの調味料を垂らしたホイル焼きが出来上がった。
「どうだ、テリオン?」
 脂ののった魚は口に入れるとぽろぽろと崩れて独特の甘みを引き出している。少々の生臭さを調味料が中和させていて、尚且つ茸の風味が魚と絡み合っている。中々に良い出来ったので自信満々で彼に問うてみたが、
「……まあまあだな」
 今朝肉巻おにぎりを渡して感想をもらった時と時と全く同じ台詞とトーンで返された。まあまあというのは非常に曖昧な表現であったが、ハンイットはそれでも反応を貰えることそれ自体が嬉しかった。
「そうか、やはり少し香辛料を入れた方が良かったかもしれないな」
 と自己評価を添えて、それからは夕餉の時間は静かに流れていった。


+++++


 木々の隙間から覗く空の色は濃藍色をしていて、そこには色合いも大きさも様々な星がぺたぺたと張り付いていた。
 星はいつも同じ場所にある。
 その事をハンイットは不思議に思っていた時がある。昔読んだ絵本では星達は会話をするためにきらきらと光っているのだと書かれていて、ということはお空の星は自分たちと同じように生きていて、ならば何故彼らは動かないのだろうか。いつも同じ場所にいて退屈では無いのだろうか。両親が死ぬまでは朝起きてから夜眠るまで常に動き回っているようなやんちゃな子供時代だったため、心底不思議に思ったものだった。
 星空から方角を導いている今では勝手に動かれてしまうのは困るが、今でもふとした時に思う事がある。彼らが動かないわけを。
「……」
 下ろした髪の毛を梳きながら、ハンイットは一人と二匹の姿を見やった。
 小さな火の向こうで幹に寄り掛かり眠る彼の寝息はとても静かだった。息をしているのかと疑ってしまう程に身じろぎ一つしない。銀色の蜘蛛の糸のような細い髪の毛が瞼の上に影を落としていた。こうして見ると顔立ちは稚くも見える。
 盗賊というものは誰かの持ち物を強奪する野蛮な人間である。商人が何度も襲われたという話を聞くし、自分も弓の腕を買われて護衛として商隊と共に行動し、実際に馬車が襲われて衛兵に渡した事もあった。
 テリオンも最初はそうだと思っていた。リンデが伝えてきた時には縄ですぐにでも縛ろうかとも思った。
 だが青年と目を合わせて、その考えを変えた。目は口ほどに物を言う、という先人の言葉がすぐに脳裏をよぎった。
 彼の瞳には生きること以外の欲が無い。ぎらついた光が無い。抑揚が無い。
 そして彼は孤独だった。
 今まで見てきたどの盗賊とも、どの人間とも違った。
 互いに武器を交えて彼を試した時に彼は己が出来る姑息な手を使うことは無かった。それもまたどの盗賊とも違う。彼ほどの腕前なら手段はいくつかあっただろう。例えば彼は懐に数本の短剣や強い臭いを放つ煙玉を持っている(それは恐らく人間だけでなく獣の嗅覚を麻痺させるものだ。雪豹のリンデや狼のハーゲンが真っ先にくっついて離れない理由は間違いなくこの臭いが彼らにとって好物なものだからだろう)。
 不思議な人間だった。人間は野生の獣程単純では無い屈折した生き物であることは理解しているが、それでも彼の人間性は未知数だった。
 彼の右腕に付けられた枷のような金属の物体がじゃらりと重たい音を立てたのはその時だった。
「……テリオン?」
 呼吸の乱れを感じて、ハンイットは立ち上がる。起きたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
 物音と気配を消しながら近寄ると、先程まで微動だにしなかった彼の寝顔が曇っており、眉を潜めて息苦しそうにしていた。
 起こすべきか起こすまいか一考し、ハンイットは一度自分の荷物まで戻り桔梗のポプリを入れた麻袋を手にしてそっとテリオンの毛布に乗せた。
「何故星は動かないのか……か」
 昔幼い頭で考えた事がある。
 きっと彼らは自分たちの家から動けないんだと。動いてしまうと隣の星の家に踏みこんでしまうことになって、その星に怒られてしまうのかもしれないと。だからみんな礼儀正しくいつも同じ場所にいるのだ。
 自分達人間も、他人の領域には決して踏み込めない。幼い頃に亡くした両親の代わりになってくれて、そして誰よりも自分の事を知っているであろう師匠ザンターも、自分の奥底なんてきっと知らないであろう。
 それでも誰かを抱くための腕がある。歩み寄るための足がある。
 自分は、テリオンという人間がどういった人間か、少し興味があった。それはただの興味本位では無く、歩み寄りたいと、そう思ったのだ。
 彼との旅はすぐに終わってしまうかもしれないが、それでも。
(慢心だろうか)
 彼から目を離したくないと思うその心は。星のように動かない自分でいたくないと思うその心は。


+++++


 その日は夢を見た。内容を言えと言われても全く思い出せない。ただ自分がいつか望んで手に入れたいと思っていたお宝が手元に流れ着いてきたような、そんな夢だった。
 目覚めは寸刻であった。
 深閑な森に高らかに響き渡った鳥の囀りが鼓膜を震わせた。テリオンの意識を覚醒させるには十分であった。
 鼻を刺激するのは青々とした土の香り。木の葉の隙間から見える空は真夜中のそれではない。
 空白だった脳内にすぐに昨日の光景が流れ込む。水際で掴み取った川魚の感触は今でも手に残っている。茸も今いる森から調達し火を囲んで……。
「あいつ……!」
 寝ずの番は交代するから夜中に起こせと言ったのに、一緒にいたはずの人間はどうやら交代を持ち掛けなかったらしい。
 まさかこんな道の傍で何の警戒も無く雁首揃えて就寝したのかと目前を見ると、煌々と焚かれていたはずの焚き火は潰えており昨日うっとおしくなる程にぴったりとひっついてきた二体の獣の姿が、そして彼女の姿も無かった。
 ――波のように、さーっと自分の中の何かが流れていく感覚がした。
 ただただ足が動かなかった。思考が停止した。
 ああでも、これはいつもの光景だ。これが、ここ数年の光景だったのだ。頭の中で瓦解しかけていた何かが歪に組み上がっていく音がする。
 立ち上がろうとして掛けた毛布を退けた時だった。草むらへ転がった手のひら大の麻袋の存在に気付いた。初めて目にする物で少なくとも自分の物では無い。拾い上げると自分が想像しているよりも軽かった。握ってやると中で乾いた音がする。強く握り締めるとすぐに中身がばらばらに砕けてしまいそうな柔な代物だった。
(……香りがする)
 顔に近付けると甘い香りが鼻孔を刺激した。だが決して濃厚では無い、正にあの昨日足を運んでいた素朴な村を思い起こさせる。
「起きたのか、テリオン」
 何も無いと思っていたところからふいに自分の名前を呼ばれた。
「……俺の背後に気配消して立つな」
 自分の声が喉の奥で張り付いて思った。振り向く事も咄嗟に出来ず、屋敷に置かれている銅像のように一指も動けなかった。
「どうした? 何をそんなにピリピリしている? 気が立っているならその手にあるものやるから、匂いを嗅ぐと良い」こちらの緊張とは打って変わってあっけからんとした口調でハンイットは背後から回り込むように歩きながら手にした物体を顔に近付けてきた。力無く垂れた細長い耳が顔に当たりそうなところで重力に従って揺れている。「兎が見えてな、少し狩りに行ってたのだ」
 なるほど、それは確かに小脇に抱きかかえるくらいの茶色い毛をもった兎であった。足に怪我を負っており、そしてそれが致命傷であることが解った。
 ただ……それだけなのか。
 そんなことを何故か思った。安心、しているのか?
「突然姿が見えないと驚くだろうからハーゲンを傍に置いていたのだが」
 どうやら頭に血が上っていたらしい。冷静になると、確かにその闇に溶け込む毛を持った黒い獣は数メートル背後の木陰で他人事のように四肢を伸ばして、こちらの事を尻目に尻尾を左右に振っていた。その向こうには彼女の荷物も置いてあった。
 夜の闇の中にいるのならまだしも、夜が明けてこの存在感の生物が視界に入らなかったとは、自分の感覚を疑いたくなる。
「すまない、心配掛けさせたな」
「いや……」胸中でその後の言葉が形になる前に消えていき、実際に発したのはほんの一言だけだった。「別に」
 別に、心配なんてしていたわけでは無い。昨日の時点で彼女の腕前はよく知っているのだから。そういうことでは、きっとないのだ。
「……俺は夜中に寝ずの番を変わると言ったはずだが?」
「ああ、言われた。だがその目的は私の就寝時間を確保するためだろう? 私もきちんと休息は取ったぞ。リンデやハーゲンがいるからな」
「……はぁ」
 寝ずの番ですら頭数は二人と二匹で四つと数える必要があったようだ。確かに人間よりも優秀な嗅覚や聴覚を持つ彼らだ、その役割は最適なのだろうが……いや、その考えに至らなかった自分をまず悔いるべきだろうか。
 この短い時間に十日分の気力を使い果たしたような気分だった。
 そんなテリオンを気にかけた風もなく、ハンイットは胸を張りながら切れ長の瞳を細めて、
「テリオン、今朝は私が食材を持ってきたから貴方が食事当番だな」
 などと言うので、即座に反論する。
「だから俺は料理は苦手だと」
「食べられないような物が出なければ何だって良い」
「そんな段階の物を出す気は無いが……そもそも俺は兎なんぞ料理したことが無い」
「捌くのと何処が美味いのかなら教えるぞ、素材担当だからな。それに変に捌かれて無駄にされては困る」
「じゃああんたがやれよ……」
 狩人という連中は少し、いや、だいぶ変わっている人種なのかもしれない。
 自分に常人の感覚があるとは到底思っていないが、こんな盗賊という身分の人間にくっついてきているのだから今更か。
「変な奴……」
 手の中にある麻袋をそっと懐に仕舞う。右腕に巻き付いている無骨な金属の塊が音を立てる。
 盗んだものじゃなくて、貰ったもの。それは心なしか熱を帯びているようにも感じた。





※ここから言い訳エリア
・普段よりテリオンが無愛想でごめんなさい。気が立ってるんです。野生の猫みたいなやつだと思ってください
・シ・ワルキから東に行っても小川は何処にもありません
・このゲームに野営はありません
・兎って食べる前に熟成期間がいるとかいらないとか。きっとハンイットが捕ってきた兎は要らないんでしょう(適当)

 うおおおお一周年ーーーー!
 ぎりぎりだったーーーー!!

 書いているうちにハンイットがおかんみたいになりました。歳は4つしか違わないぞ4つしか!それだけ育った環境に差があるのだということなんです。ハンイットには立派(?)なお師匠がいるし、村でも慕われてるから、コミュ力はやっぱりあると思うのです。

 会話少なくてごめんなさい。題材的に少なくなるのは仕方なかったでござる。何故ハンイットはテリオンと共に旅をしようと思ったのかというアンサー的なのを書きたかったので、独白が多めになりました。


 自分は中身書く前にダイジェストを書きますが、今回は、

キャンプ始め。料理を作るハンイット。「借りは作らん」と食料を探すテリオン→就寝。「良い寝顔をしているな……」とリンデを枕に寝てる。→テリ視点。その日は夢を見た。幸せな夢。起きたら朝だった。「寝ずの番で起こせと言ったのに……」

 と製作時間短かったおかげで特に紆余曲折無く進みました。
 短かった割になんで3シーンも書いた???
 自分が聞きたい。

 普段より稚拙な文章になってしまいましたが、書きたいことは書いたからいいやって思うことにします。勢いって大事です。
 後日色々修正入ってたらごめんなさい。

 タイトルは相変わらず全然決まらずほぼ出来上がってから、どころか今回は終わってから決まりました。ご想像にお任せします。


 以上、「咲けるは淡い夢」の執筆感想でした。

 実は去年の8月くらいから3作目を書き始めていて、積んじゃってる小説があったりするわけですが、いつか公開したいっていうのは本当に思っているので、……本当よ本当。

※21.11.11追記
 読んでいただき、また拍手ならびにコメントありがとうございます!
 文章が素敵と言っていただけてとても嬉しいです……!あまりにも嬉し過ぎて胸のあたりがほわほわしています。
 来年の発売日にまた新作を上げる予定ですので、ハードルを上げるわけじゃないですが、楽しみにしていただければと思います。本当にありがとうございます。

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