ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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グノーシア小説6本目。

 グノーシア5周年、おめでとうございます!
 5年……え?もう5年なの!?


 レムナンとセツが出てくる短めなお話です。
 カップリングではありません。

 字数は約5.8k字あります。

 では、「信ずる先」です、どうぞ。





信ずる先



 白く血の気の無い肌が露わになった右手で壁を伝いながら、硬質な階段を下りていく。一段下りていく度に、エンジンが奏でる鼓動がレムナンの鼓膜を打つ。今この船では危機的な状況に陥っているというのに、この場にいると子供の頃から、それこそ物心がつく前から慣れ親しんできたものたちがレムナンに無償の安心感を与えてくれる。
 自然と目を閉じて壁に頬を当てていた。ひんやりと冷え切った、しかし何処か心地よいとすら思える感触に、続けて右手も押しつけた。掌に伝わる硬い感触の奥から、船を動かし続けていることの証明にと振動と音を感じ取る。
 見る人が異なれば武骨だと言われかねないような機械にも、人間と同じように血が通っていて、無数のシナプスから命令信号が分かたれて、そうして動いている。決められた動きを一秒と欠かすことなく行っている機械が、正直羨ましかった。
 今この船の中は、この機械音が織り成す規則的なものとは掛け離れた事態に巻き込まれている。レムナンがあの人から逃れ続け、いい加減持ち出したお金も底を尽きかけて、仕事を探そうとルゥアンに寄港した矢先、想像し得なかったグノーシアの騒動に巻き込まれてしまったのである。咄嗟に逃げて誘導されるままに辿り着いた船にも、二人のグノーシアがいるというではないか。異性体グノースに触れた汚染者がこの世の人間を消していく……その方法も、理由も何も解っていない、恐ろしい存在。理解できないものはただただ……怖かった。
 それでもこうして機械に触れていると多少は落ち着いてくる。肩から一度深い呼吸をして、再度階段を下り始めた。
 しかし、その時レムナンの耳に規則的な機械の音とは異なる音が届いた。下層の方からたったと早歩きをする、誰かの足音だ。コールドスリープ室や格納庫といった誰も訪れることは無いだろう部屋しかない下層に誰かいる、その事実に身体が竦んでしまう。
 薄明りに照らされた鈍い人影が廊下の向こうから現れた。若草色の癖のある髪を持った頭が真っ先に目に入った。空気の循環は僅かな空間であるはずなのに、柔らかい綿のように揺れている。彼女(……は後天的汎性なので、この呼称は正しくないのかもしれない。確か、名前は……)……セツはこちらを認めるなり、
「レムナン……! 良かった、部屋にいないから探してたんだ」
 紅緋の瞳を細め、人当たりの良い、世の中の定義づけで言うなら可憐とでも分類できるだろう笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
 セツは自分と活動年齢はあまり変わらないながらも、この船に乗っている人物の中でもとても真面目な人、だと思う。船に乗り込んでしまったグノーシアに対して的確な対処方法で場を捌ききった。その手腕は手慣れてるとすら言えるほどで、軍属だと名乗った時にも非常に納得がいった。
 そんな人が自分を捜していたって、な、何か悪いことをしてしまっていたんだろうか。
 考え事をしている間にも乾いた靴音と共にセツが近付いてきている。階段を数段上り始め、いよいよセツの身体が腕を伸ばせば届きそうな位置までやってきた。な、なんだろう。なにかよくわからないけれど、べ、弁明する用意をしとかなきゃ……、「あ、」
「レムナン、これ」こちらが喉から絞り出した声はあっさりと上書きされて無かったことにされた。セツは何かを握った手を伸ばしてこちらに差し出している。「君の手袋だろう?」
「……あ、」
 思わず受け取って、さっきと同じ口の形のまま今度は声がぽろりと漏れ出ていた。よくよく見ると、セツの手の中にあった物はとても見慣れた物だった。間違いなく自分が普段身に付けている革製の手袋、の右手の分だけ。それを握り締めていたせいか、受け取った手袋はほんのりと暖かい。
 また固まってしまったこちらが動き出すよりも早く、セツが態度を見て察してくれたようで「良かった」と呟いて安堵の溜め息を吐いた。その息は僅かに熱量のあがったもので、もし第三者がこの場にいたとしたら、探し物をしていたはずのレムナンよりもセツの方が嬉しそうに見えると言われそうだ。自分が物理的にも心理的にも感情が表に出難いこともあるだろうが、それ以上にセツの喜びようは手に取るように判るものだった。たかが落とし物の落とし主を見つけただけなのに。
「じゃ、じゃあ私はこれで」
 思わずセツの顔を眺めていると(と言っても明確に目を合わせていたわけではなくて口元辺りを見てたのだけど)、やや躊躇いがちに柔らかい声がかけられる。言われてから、沈黙に耐えられなかったんだと気付いた。
「あ、あの……!」
 金属製の踏み板を踏み鳴らす音が下層に、そして上層に連なる廊下に丁寧な残響を残して響き渡る。その後を追うように、レムナンは自分なりに声を張り上げた。セツの規則正しい足音がぱたりと止んで、代わりにこちらを振り返る衣擦れの音が聞こえる。
 これから言うべきことに対して顔を会わせないのはやはり失礼だと思い至り、足元から勢いをつけて振り向いた。
 セツは身体を腰から振り返り、紅緋の瞳を丸くして不思議そうにこちらを見下ろしている。
「す、すみません。僕、なんかに……その、時間、を……」
 なんとか口を開いたものの、喉元に自分の臆病っぷりが形を成して異物となってレムナンの言いたい言葉を遮る。擬知体と話す時は何も思わないけど、人と話す時に相手が何を考えているんだろうって、その到底他人には知り得ない心中というものを、身体が勝手に思考してしまう。元々人間と関わるのが不慣れな中で輪をかけたのがあの人との出会いなのは間違いない。あの頃から、他人は無干渉から恐れの対象になった。
 でも、そんな考えを持つのはレムナン側の勝手な都合だ。今、この目の前にいる人物は自分が落とした物のために自分を探しに来てくれていたのだ。
「……良いよ、続けて」
 先程よりも更に親身さを表に出した穏やかで柔らかな口調でセツは続きを促す。そこには敵対心も、打算もきっとなくて。それを信じ切れる根拠は全く無いんだけど、ただ人間を何処かへ消し去るグノーシアが搭乗していると判明してからのセツの対応を見て、この人の誠実さを信じても良いのかも、というのはずっと思っていた。何より汎軍に所属する軍人であることはレムナンにとっては大きな信頼要素だ。
 頭の中でセツのことを再認識しながら大きく深呼吸し、レムナンは口を開いた。
「僕なんかの、ために……すみません……これ、丁度探して、いたんです。何処にあったんですか?」
「ここの階段の下に落ちてたんだ。少し汚れていたから洗濯したんだけど、その間にレムナンに無駄足を踏ませてしまっていたなら申し訳なかった」
 そんなことまでしてくれていたなんて。言われてみると左手のつけっぱなしの物と比べると色合いが明るいような気がしなくもない。それに受け取った時に温かいと感じたのは、セツが手にしていた以外にも乾燥させたからという理由もあったのかもしれない。
「いえ……僕も、ついさっき、気付いて……」
 わざわざありがとうございます、という言葉を続ける前にセツがふっと笑んで空白を埋めた。
「そっか。でもレムナンはどうして下層に? 動力室にでも用があった?」
 いいきっかけだとばかりの急な平凡な好奇心に心持ち仰け反りながらも、話すことになんとか慣れてきたのもあって、応対する決意をする(自分の部屋に戻るにしても階段を上って上層へ行くにはセツの横を通らなきゃいけないのに抵抗がちょっと……いや、かなりあったけれど)。
「え、ええ……その、特に大きな理由は、無いんですけど」
「うん、知ってる」
「……?」
「あ、その、レムナンがこの船に興味がありそうなのは、見てて判ったから」
 そんなに顔に出ていただろうかと気恥ずかしくも思ったが、実際指摘されている通り事実ではあるので、レムナンは小さく頷いた。
「僕……その、擬知体に囲まれて育ったので……、こういう所が……落ち着く、んです……」
「擬知体に……じゃあ、エンジニアになったのも機械に詳しいから?」
 そう言われ、レムナンは口を噤んだ。
 今この船に乗っていて、人間のステータスを確認できると自称しているエンジニアは二人いる。一瞬でも心強いと感じたものだが、この船に乗っているエンジニアは一人だとこの船の擬知体であるLeViが言っていたこと、自分の測定の結果との間に矛盾が生じていることから明らかに相手は嘘を吐いている敵であることは解っている。
 だからといって自分以外、つまり他人から見ればどちらも怪しいのは事実なわけで、セツがレムナンのことをエンジニアだと確定口調で話してくるのは意外だった。
 こちらの驚嘆を汲んだのか、セツは首を横に振りながら、
「あ、ごめん。警戒させてしまったかな。船に乗り込んでるエンジニアは君とジナで、ただその結果が矛盾していて議論を惑わせてるのはどちらかではあるけれど……レムナン、私は君の方が本当のエンジニアだと信じているから」
 直接的な発言に、レムナンは眉を顰めた。出会って二日目の自分なんかにそんな信頼されるようなところなんてないだろうに。……もしかして、ジナにも同じことを言っているんじゃないだろうか。目の前の人物が誠実な人間だと解っていても、その考えは拭えない。軍人というラベルだけで信頼していたのは間違いだったのか。
 懐疑的な視線をセツの足元に投げていると、向こうもそれを感じ取ったのか抑えた声で、
「そうだな……レムナン、これから言うことは他言無用でいてもらえるかな?」
 突然の申し出で。あちらはこちらの何かしらの事情を知っていて提案しているのかもと考えると、ますます警戒を強めることになる。今目の前、階段の数段上から話し掛けてくる小柄な体格の軍人を見上げ、洗ったばかりだという手袋を強く握り締めて、レムナンは返答する。
「……それは……は、話を、聞いてから、です……」
「……解った。それでも構わない」声色を固め、セツは続けた。「君を信じる根拠は、ジナがラキオと言い争いしていたのを聞いたからだ。私は彼女らがグノーシアらしい会話をしていたのを聞いた。少なくとも今夜の標的は私達じゃないようだったこともね。だから私が信じられないのならラキオを……いや、違うな。私を調べてくれて構わない」
「そんなの……」
 もしセツが人間側の立場で無かった場合、教唆とすら言える言葉。
 セツの言う通り、調査対象をセツにしても良い。それで人間と出たら確かに安心できる可能性は限りなく高い。
 そう。限りなく高いだけで確実に信頼できるわけではない。
 たとえ今のセツの話が事実であろうとなかろうと、今のこのグノーシアの騒ぎにおいて警戒すべきことがある。
 世の中にはこの宇宙そのものを否定するアンチ・コズミックという思想を持った人達だっていると聞いたことがある。彼らは異星体グノースを信仰する。グノースのためなら文字通り命を張れるオカルト集団らしい。仮にエンジニアの技術を持ってしても、調べられるのはグノーシアか否かだけでなのである。人の心はそんなもので記号化できるほど単純で甘くはない。セツを調べ人間だと判断したところでアンチ・コズミックでないことの肯定にはならない。完璧な信頼要素足り得ないのだ。
 セツの言う通り、ジナは自分からも偽物だと理解しているからともかく、ラキオまでもがグノーシアであるのであれば、セツではなくラキオを真っ先に調べるべきなのだ。明確な黒が特定できるのだから。だからどうにも怪しい提案だった。
 しかしセツの引き締まった唇を見ていると、どうしてだか、他人のことを信頼しきれない自身を彷彿とさせる。相手の顔色を窺って、一つ一つの行動も言動も全部頭の中でシミュレーションしてもなお、思い通りにいかないという怯えが僅かに伝わってくるような気がした。レムナン自身のあるかないか判らない勘でしかないのだが。
「もちろん調査如何は君に任せる。それに今、私がレムナンに訊きたいのは……君がこの船に興味を持ったきっかけだけ。だから本当にただの世間話――」
 セツが言い終わる前に船内にアナウンスが響き渡る。一日の終わりを告げるアナウンス。グノーシア汚染者が船にいる場合、空間転移を迎える時は一人で自室にいなければならない。その取り決めの実行を告げるアナウンスが流れたということは、必然的にセツとの会話はここで終わることになる。
「……部屋に戻ろうか。貴重な自由時間を割いてもらってごめんね」
 金属製の階段を打ち鳴らし去っていこうとする背中に、何か衝動的な感情に駆られレムナンは声を張り上げていた。
「セ、セツさん……!」
 セツを呼び止めるのは二度目だ。一度目の時よりも大きな声が出た。また何段かあがった足を止めて、そして同じように静かに振り返る。でも、先程より表情は乏しく硬い。その表情を見て、レムナンは後悔した。相手方が信頼できるかはともかく、不安を抱かせてしまったのだと理解した。自分が他人にやられたら怖いことを、自分の手でやってしまっている。
「僕も……グノーシア、に……消されたく……ありません。生きていても、やりたいこと……何も出来て、なくて……エンジニア、の仕事……もっとやりたいって……そう、思っているんです。だから……その……明日……また、話してください」
 レムナンの言葉足らずな話を受け、セツの顔にぼんやりと火が灯っていく様が判った。口角を上げて、紅緋の両の瞳を煌めかせている。それは手袋の持ち主を見つけた時と変わらない喜びようだった。
「うん、ありがとう」セツは穏やかに、「必ず生き延びよう。色んなことを話そう」
 言葉短かに応えると、あっという間に階段を駆け上がって去っていった。鮮やかで、それでいて柔らかい色を持った若草色の髪が最後にふわりと揺れていたのが見えた。信頼できるかはまだ解らないけど、受け取った言葉を思い出すとなんとなく幸せという感情に近いものを抱いているような気になった。
 足音も遠ざかり完全に聞こえなくなって、知らず知らずに強く脈打っていた心臓の辺りを抱き抱えるように握り締めていた手を緩めた。
 理解できないものは怖い。他人というものは怖い。消極的な考えが消化されるにはまだまだ時間がかかるだろう。
 胸を張れるかまでは難しいだろうが、少なくとも前を向けていると思えるような選択をしていけたら、人間がいっぱいいる何処かの宇宙系でもレムナンが安心できる居場所がそのうち見つかるのかもしれない。希望的観測を多分に含んではいるけれど。
 右手の手袋をはめ直し、その手で冷たくも暖かみを感じる壁を一撫でしてから、レムナンも階段を上った。









※ここから言い訳エリア
・Q.皮の手袋洗って乾燥までさせるのやばない? A.ここは現代ではなく未来なので何かしらのテクノロジーで解決してます。素材か洗濯機か、どっちもかもしれない
・セツの元の性が男だったらすいません
・セツの役職が無いのかあるのか、実は嘘吐いてないかとか、その辺は想像にお任せします
※ここまで言い訳エリア

 当日にあげられなかったーーーっっうわーーっっ(挨拶)。
 いやもう20日にあげる気満々でスケジュール組んでたんですけどもう慌ただしくて全然それどころじゃありませんでした……っ。

 グノ界隈、お久しぶりです。お久しぶりではありますが、この作品を忘れたことはありませんでした。部屋にコレクション棚を作った時も真っ先にグノ棚作ったりもしておりました。

 しかしそれはそれとして、小説自体は本当にお久しぶりなので、原点回帰(?)してセツとレムナンの簡単な話を書こうと思って書き始めた次第です。で、今まで実は5本書いたんですが全てセツ視点だったりするわけで(自分の書くものは完全なる一人称ではなく、三人称一元視点というものではありますが)。
 よし、レムナン視点にチャレンジするしかねえな!となったわけです。見て判る通り、まだ微妙に議論に不慣れなせっちゃんと生きる希望を持っている光のレムナンでお送りしております。

 でもセツが相手の話って……彼彼女という呼称が使えないのでとても難しい……。


 字数も一番最初に書いた「私と君のオルゴール」と同じ5千字程度を目指してそちらは達成はしたものの、思ったよりも書く時間が取れなくて。推敲も全然かけられず……いつも以上に稚拙な文章で申し訳ないですがやはり当日に出したかった。



 改めて。
 グノーシア5周年おめでとうございます。もう5年経ってるなんて信じられない……。
 発売してこのゲームを遊んで、本当に色々なことがあったなーって感慨深い気持ちになりました。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 もしよろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。

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