ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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ドラガリ小説8本目。
 短めさっくりなのを急に書きたくなったので。

 メインストーリー5章まで、一部のキャラスト(カサンドラ、ワイス)のネタバレを含みます。

 それではどうぞ。




名残 - gain or…


 廊下を吹き抜ける熱気を魔法でごまかしながら厨房への道のりを歩いていると、カサンドラの鼻孔を甘い香りが刺激した。昼間も過ぎた中途半端な時間帯だから誰もいないと思っていたのだが、もう夕飯の下ごしらえでもしているのだろうかと中を覗き込むと、やや小柄な男性の背中が小刻みに揺れて何やら作業をしていた。
「ワイス、今日はアンタが飯当番かい?」
 青年はいつも目深に被っているフードを外し、短く刈り上げた黒髪を露わにしている。黒を中心とした服の上から、不釣り合いな少し明るめのエプロンを掛けていた。
「チッ」全く態度を隠さずに舌打ちされてしまった。本来彼が生業にしていることを考えれば当然のことなのかもしれないが。「飯当番じゃねーよ。ガキ達にせがまれたんだ」
「せがまれたって」
 何を、と訊く前にワイスは火にかけられた小さな鍋を指差した。廊下まで充満していた甘いにおいの正体はここからのようだ。覗き込むと黒い豆が水の中で揺れている。
「良いにおいだねェ、小腹が空いてくるよ」
「そういうお前は……血のにおいがするぜ。飢えて求める獣のにおいだ」
 彼は視線を手元に落としたまま、今日の夕飯の献立を話しているかのような日常的なトーンでそう言った。思わず自分の掌を見つめたが、身体の年齢相応の柔らかくすべすべとした肌があるだけだ。
 ガリガリと硬い物を砕く乱暴な音が、ワイスの手元から響く。
「別に付いてるわけじゃねえ。プロの勘ってやつだよ」
 ビンゴみたいだな、と呟きながらもワイスは特に追及する気も無いらしく、手元の作業に熱中し続けているままだ。カサンドラも特にこの会話を続けたいわけでも無かったので、話題の矛先をワイスに向けた。
「ところで何作ってるんだい? さっきから氷を砕いて……肉でも冷やすのかい?」
 先程から鼓膜に攻撃的な音を立てているワイスの手元を見ながら、さっきから気になってたことを訊いてみる。言っといてなんだが、肉を冷やすにはやや細かすぎるような気がするし、小さな可愛らしい食器に入れている理由も判らない。実際、出てきた回答はカサンドラには耳慣れないものだった。
「かき氷」
「かき氷?」
「この上に砂糖水とか、ヒノモトの小豆を煮た物を乗せて食うんだと」
「ふーん……フラッペみたいなもんかねェ」
「似て非なるものというか……ま、ヒノモト風フラッペで違いねえよ」
 ワイスは食器を手に取り、煮ていた小豆を氷の上にかけていく。
「やる」
「おや、通りすがりに気が利くねェ」
「氷はまだいっぱいあるんでな。溶けるから早めに食えよ」
 当初の目的だったパンを片手に、かき氷を片手に、カサンドラは厨房を後にした。

+++++

 研究室まで戻ると、ケージの中に入れていた黒い鼠がケージに歯を当ててカタカタと音を立てていた。
 その隣のケージでは同じ大きさ、同じ色の鼠が寝そべっている。しかし寝ているわけではない。近付くと息はしている、瞬きもしている、動物として生体を維持しているだけの体温もある。しかし、ぴくりとも動く様子はなかった。ケージを開けて手に取っても、どれだけ突いても反応は無い。大きな黒い瞳は何も映していない。
 容器を造ることは容易だが、やはり問題はその先だった。
「においか……」
 扉を開けて空気を入れ替えようかとも思ったが、結局閉めた。ワイスの言ったことは直接的な話では無いのは理解している。ただ、生の灯火が消える瞬間を多く見てきた彼だからこその、本当に文字通りの勘というやつなのだろう。
 テーブルの上に置いたそれは、受け取った時には砕いたガラス片のようにきらきらと輝いていたはずなのだが、うだるような暑さの中ですっかり形を無くしていた。水溜まりの上には小豆豆が身体を滲ませて浮かんでいる。
 カサンドラはパンを千切って鼠のケージに投げ入れた。落ち着きのない方はすぐにがっついたが、もう片方は微塵も動かない。遅かれ早かれ死んで『元に』戻るだろう。
 カサンドラは目を瞑った。一つ呪文を唱えると、ぐったりとした鼠の周囲の空間がレンズ越しに見ているように歪む。だがそれも一瞬のことで、奇妙な現象はすぐに収まった。
 改めて鼠を突いてみるが、やはり思ったような反応は無かった。かつて自分に使った魔法の改造は思ったよりも難航している。
 大きく溜め息を吐いて、また食器を手に取り窓際へとゆっくりと歩いていく。
「今日は……よく見える……」
 雲一つない青空の下、変わらない王城が霧の森の向こうに見える。長い時を過ごしたあの城。瞳を閉じると脳裏に鮮やかに景色が浮かんでくる。
 変わらない。何も変わらない都に見えるが、今はあそこは帝国と名乗り、玉座には誰もいない。
 真に永遠なんて無い。無限なんて無い。だが、それでも自分はそれを願ってしまいたくなる。
「うん、美味しいねェ」
 甘くて温かく溶けるような小豆とひんやりとして心地よい食感を持つ氷を口の中で転がしながら、カサンドラは窓の外を見つめ続けた。







※ここから言い訳エリア
・かき氷何年も食ってないなぁ……
・筆者は小豆食えません……和菓子+お茶がダメなので本当に日本人か?って言われた事あります。でも洋菓子もダメなの多いようん……
※ここまで言い訳エリア

 いやぁ、世の中本当に暑いから涼しくなりたいよね(挨拶)。
 2000字くらいの小さな話を書きたくなった結果がこれである。ちなみに字数は2000字±10に収まりました。そこまで計算したわけではないのだがマジか。
 タイトルは一つ仕掛けがあったりします。って書かないと自分も忘れそうなので書いておきます。

 カサンドラ何連チャン書いてるんだと我ながら思ったが、解像度の高いキャラはカロリー低く書けて楽なのである(ちなみに三連チャンでした)。
 いつも書いている簡単プロットも「カサンドラと初夏」だけでした。書き始めたのも夏至の時にあー今日夏至かぁ逃したなーって二十四節季の次を目標で出すか、というそれだけ。
 これを公開した22年7月7日は「小暑(しょうしょ)」です。丁度梅雨が明けて、蝉も鳴き始め、本格的に暑くなる頃合いのことを言います。今年はなんだか色々すっ飛ばして既に暑いけど、確かに蝉は鳴き始めた。


 前書いていたユリウスとアルベールのお話でもカサンドラはかなりの優待ポジションで出していたけど、自分はそこにこういう一文を書きました。
「きっと彼女には振り向き続けた過去があり、歩み止まった未来がある。」
 今回のお話はこの一言に尽きます。
 通常カサンドラのキャラスト4話は「前を向かせたもの」ってタイトルだけど、自分はカサンドラが前を向いているとはあんま思っていない。ただ、「アローラスが死んだ」という事実を噛み砕けているだけ。まあその辺りはルグレが全部言ってくれているので……。

 後、ワイス君もかなり好きなキャラです。キャラストも良いが、キャッスト「ハロウィン仮装コンテスト♪」でツッコミ役を頑張っているワイス君面白くて好きです。暗殺者か本当に?

 そろそろドラガリのメインストーリーも終わりが見えてきましたね……。
 なんで某ゲーム3と時期が被っているのか。時間が……切実に足りねえ……!!
 ドラガリの小説もネタはいくつかあるんですが、さてどうなるやら。今はちょっと別のゲームの溜めてたというか放置してたのに触っているのではいすいません……。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。
 拍手やコメントをいただけると嬉しくて飛び跳ねます。

☆こちらもよろしくお願いします
cry sky cring(ユーディル・ゼーナの真面目なちょっと短いお話)
小さな小さな夜の華(スオウとソフィのちょっと真面目なお話)
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