ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

2024/05    04« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »06
ドラガリ小説11本目。
 5周年ですってよ。長かったような、短かったような。色んな意味で。

 メインストーリー20章までとキャラスト(カサンドラ、アスラム フェスver.、ユリウス)のネタバレを含みます。
 ……この文章もう必要ない気がしてきた。

 それでは、「研究者達のアフタヌーンティー」です、どうぞ。







研究者達のアフタヌーンティー

「ユリウス坊や~?」
 扉をノックするが返事が無い。気配は間違いなくあるので、いつものように本に熱中でもしているのかと再度ノックと声かけをし、カサンドラは特に遠慮もなく聖城で宛がわれたユリウスの部屋の扉を開けた。
「おやまあ」
 確かに目的の人物はいた。壁に向いて置かれた木製の机の上で肘をついて本を広げている。肘の付いた手に乗せた頭は退紅色の癖っ毛が腰まで流れ、彼の顔を隠していた。その頭は不規則に揺れて、こちらを一切見ようともしない。耳をそばだてると静かな呼吸音が聞こえた。
(寝てる……)
 本の山を縫うように置かれたランタンの火がぼんやりと机の上を橙色に染めているが、部屋自体はそもそもまだかなり明るかった。時間もまだ昼過ぎで、部屋に設けられた窓の向こうは曇り空ながらも部屋を照らしていた。
 特に彼と外見が似ているわけではないが、こうして机に向かって舟をこいでいる姿を眺めているとなんとなく懐かしい感情がこみ上げる。アイツときたら本当にいつ休んでいるのかっていうくらい動き回って捕まえられないし、城で見付けたところで結局余暇なんて取っていなくて誰かのために動き続けてた。
 目の前の青年も、過去の贖罪の気持ちがあるからか、余裕を見せた態度の裏では常に思考を働かせているのをカサンドラは知っていた。ただ、それでもやっぱりアイツよりは器用な人間だとは思うけど。
 うたた寝とはいえ貴重な休息を邪魔しては悪いか。本を渡すついでにお茶でもどうかと色々と持ってきたのだがまたの機会にするべきかと、その辺のソファに積まれていた毛布を魔法でそっと肩にかけようとし、
「起きちまったかい」
 毛布の下の長身の丸まっていた背中がゆったりと延び上がる。梅紫色の瞳が宙を泳ぎ、やがてカサンドラの顔に焦点が合った。
「……カサンドラ殿?」
「すまないねえ、休んでるところをさ」
 カサンドラがかけようとしていた毛布を改めて手に取り膝の上に乱雑に置きながら、ユリウスは首を振った。
「いや、今寝ていたら夜寝れなくなる。却って助かった」うっすらと手をついていた痕が残っている白い頬があがる。「わざわざこんな所に来るなんて、何か愉快な話でも?」
「ああ、アンタ好みの本を持ってきたよ」
 腕の中に抱えていた小さな本を手渡す。
「ほう……」ユリウスは古ぼけた表紙を一撫でして本を広げると、感嘆を漏らした。「これはまた……あまり良い顔をしない人もいそうな代物だ」
 彼が開口一番そう告げるのも無理はない。一言でドラゴンに関する書物と言ってもその実は多用だ。
 南大陸は北大陸以上にドラゴンの国だ。大国とそれを支える教会が親ドラゴン派であり、各地の村落に関しても崇めているところも多く、ドラゴンをヒトと同等の生き物であると考える者は多くない。そこから更に下等であるとする者達は『異端者』扱いすらされる。
 渡した本にはそんな通常人達から見れば異端に見えることが書いてあった。それはドラゴンのマナには世界に悪影響があると決めつけ、爪や鱗をその実証実験に使っているというものだった。
 自分にとってもユリウスにとっても気分の良いものではないだろうが、彼の第一に優先すべき研究には役立つ物だろう。彼の身に残る深淵の種の欠片、それは人に寄生するドラゴンの欠片なのだから。
「禁書の親戚みたいなものだからねェ……間違っても教会の人間に見つかるんじゃないよ」
「そうだね。まあレヴィオンとの手紙の中に混ぜてたら誰も読まないだろうさ。仮に見るとすれば団長殿くらいだろうが、目を瞑ってくれるだろう」
「ククク……相変わらず仲が良いね」
「お陰様で」
 ぐるりと周囲を見ると書類の山や薬品類、更に酒瓶といった様々な物が特に整頓もされず散らばっており、そんな中で部屋の隅に特に荷物が固まっている箇所が二つある。いかんせん聖城の敷地は広いが当然限りだってあり、常住しているわけではないレヴィオン国王子と騎士団団長の肩書を持つ二人は相部屋に詰め込まれていた。二人が寝食を共にする程度の物は揃っているが、実際にこれらが利用されていることは殆ど無いだろう。様々な国や種族、異なる立場の者が集まる聖城では決して珍しいことではない。
「ところでそれは……いつものかな?」
 カサンドラの背後を指し示して青年は問うた。
「そう、小腹が空く時間だからさ」昼を過ぎて幾時間、太陽はまだまだ元気な頃合いだ。カサンドラは自分の背後に魔法で浮かせていたそれらの物を、部屋中央に鎮座しているローテーブルの上に乗せる。小気味よい音がいくつも鳴った。「このまま気付かれないんじゃないかと思ったよ」
「まさか」ユリウスは苦笑する。「サンドイッチと紅茶の葉の甘い香りをわざと漏らして言う台詞ではない」
「せっかくだしと思ってさ。ついでに今アタシが研究してる魔法について若者のご意見を伺いたいなって」
「私みたいな若輩者で良ければ」
 ティーポットで既に蒸らしてあった紅茶にかけていた時停めの魔法を解除し二つのティーカップに注ぎながら、ローテーブルの近くに置かれたソファに腰を下ろした。今はアルベールは北大陸に帰っている最中だというのはつい二日前に城ですれ違った時に聞いていたから、持ってきているものは全て二人分だ。
 ユリウスも本や紙束が山になって新しい物の置き場所の殆ど無い机から、ランタンとティースタンドとティーカップが準備されたローテーブルに移ってくる。
 舌鼓を打ちつつ主にカサンドラが持ち込んだ新魔法を中心に話していると、時間もあっという間に過ぎ行く。ユリウスの知識は旧アルベリアの中でもトップレベルだった、あの頃の王宮の術士達と比べても遜色がない。
 それにいくら隣接しているとはいえ、やはり南グラスティア大陸で得られる記録とは差があった。同じ物事を見ていても見地が異なればそれが同質であるとは限らない……お互いの知識に刺激され、いつも以上に雄弁になってしまう。
「ふむ」話し込んでいる最中、ふと視線をあげてユリウスが声をあげた。「そろそろお開きかな」
 釣られて窓の外に目をやると、高く昇っていた太陽が傾きかけ空が赤みを帯び始めている。
「おや、もうこんな時間かい。いつになっても楽しい時間はあっという間だねェ」
 ティーカップに注がれた互いの紅茶はとっくに空になり、サンドイッチやスコーンが乗っていたはずのティースタンドも寂しくなりいつしかテーブルの端っこに避けられ、中央で広げられた紙には二人でそれぞれ書きこんだ跡が残っていた。何度も書き加えられた字やら絵やら魔法陣やらで、議論を進めていた自分達で無ければ把握できないような不整な物が出来上がっている。この紙は自分の部屋に持ち帰って情報を選別しないといけないだろう。
 ティーセットを畳み、手元の紙を丸めて八割方帰る準備が出来たところで、
「そうだ」と急に青年が声を上げた。「貴女に渡す物があるんだ」
「なんだい急に、仰々しいね」
 こちらと同じように本か研究資料の類かと少し待ってみれば、上品に染め上げた藤紫色の布が、掌よりもやや大きな直方体の何かを包んでいた。ローテーブルの上にことりと乾いた音と共に置かれる。
「こりゃまた……お洒落に飾っちゃって。突然なんだい?」
 再度ソファに座るよう誘導されたので、またユリウスとはテーブル越しに対面する。テーブルの向こうの青年は口の端を上げて笑った。
「つい先日、誕生日だと聞いたよ。普段世話になっているからその礼のようなものだ」
「……はあ」
 久しく頭の中に存在しなかったその単語に、カサンドラは曖昧に返答するしかない。
 カサンドラの誕生日を知っている者なんて旧アルベリア国の自分と同年代の、高齢の者しかいないだろう。歳を取ってから誕生日なんてものは切っても切り離せない呪いのようなもので、自分でも意図的に意識の端に追いやっていた。事実、目の前の青年に対して話題にしたことなど無いはずだし、確かに彼は『聞いた』と言っていた。
「全く……ライムンドにでも聞いたのかい?」
「いいや」
 カサンドラの頭に真っ先に浮かんだ推測は、しかし明確に否定される。
「じゃあなんで。人から聞いたんじゃないのかい?」
 彼はすぐには答えなかった。一度言葉を切り、唸った。
「……そうだな、人伝に聞いたのは正しい。私と同年代の男から聞いた、のだが……」再度ユリウスは言い淀み、不思議そうに首を捻る。「すまない、やはり睡眠が足りていないのかもしれないな。どうもその時の記憶が曖昧だ」
 ――ああ、そういうことか。
「その男、金髪じゃなかったかい? 瞳は蒼くて、気難しそうな顔をしてて……」
「あ、ああ……確かに。それで長剣を佩いた細身の男性だった。その、カサンドラ殿がよくご存じな者なのかな」
 こちらの勢いに気圧されながらも、ユリウスは答える。思わず、溜め息が漏れていた。
「よく……知ってる奴だよ。そっか……アイツがね……」
 こういうことへの甲斐性は欠片も無い奴のはずなのに、どうしたってこんな変なところで気が回るんだか。忘れてない上に何か思うところがあるのなら本人から何か直接言ってくれれば良いのに何も無かったし……いっそ恨めしい気持ちも出てくるが、目の前の青年には関係無いのだからと心の中のアイツへの矛は今は収めておく。
「それで、受け取ってもらえるかな。あまり気の利いた物では無いかもしれないが」
「開けても?」
「どうぞ」
 丁重に包まれた藤紫色の布を剥がすと、今度は表面が滑らかに削られた桐箱が現れた。鼻腔を擽るのは独特の木の香りだ。蓋を開けてみると、木毛に埋もれた四つの白い磁器が現れる。ティーカップとソーサーが二つずつ。それぞれに緻密な青い薔薇の柄が描かれていてきめ細かな花弁、それを束ねる花床から伸びる花柄はしなやかで職人芸が光っている。
「これは……新しいティーセットかい。アタシの好みの柄だ」一つ手にし、カップを撫でると滑らかな曲線が指の腹を滑っていく。やはりお互いに王宮育ちのせいか、この辺りは目が肥えているのかもしれない、かなりの上等品だ。「気が利くんだね。流石、一国の王子様」
「それは気が利かない誰かさんと比べてのことかな?」
 思ってもみなかった返答に閉口する。気が利かない誰かさんがさっきから頭の中をちらついているせいで、咄嗟に言葉が出なかった。きっと彼が言っている人物と自分が考えている人物は違うということが判っていたとしても。
 そのだんまりをどう捉えたのかは判らないが、青年はこちらの戸惑いを埋めるように何処か自嘲気味に話しだす。
「私も気が利く人間とは程遠いが、この城に来て様々な人と接して変われたんだ。前までこうして一個人に何かをしたいなんて考えもしなかった。だから私のためを思って、その第一歩だと思って受け取ってほしい」
「人を祝っといて自分のためって、随分な言い分だねェ」
「フフ、だが安いものじゃないか」
「良い性格してるよ、ユリウス坊や」木毛の中にカップとソーサーを戻しながら、カサンドラはくすくすと笑った。「アンタ、レヴィオン継ぐんだろう? こんなお婆ちゃんを口説くよりも早く嫁さんを探した方が良いよ」
「おっと……これは思わぬ反撃」
「若者の恋愛話がアタシの一番の御馳走だからさ。そろそろ紅茶のお供にそういう甘ったるい話が欲しいねェ」
「やれやれ、アルベリアの宮廷魔術師の好物は随分と俗っぽいね……」
 青年は肩を竦めた。どうやらまだその手の話は無いらしい。我が国の坊ちゃんといい、昨今の王族は何かと苦労がかかるものである。
 ユリウスがソファから立ち上がり、部屋の扉を押し開けた。カサンドラもティースタンドを左手に、貰い物を右手に乗せて、残りは魔法で浮かせながら扉へと向かった。
「今日はありがとね。これは次のお茶会に使わせてもらうよ」
「こちらこそ。是非楽しみにしておくよ。私もいただいた本を熟読させてもらおう」
 簡単に挨拶を交わし、部屋を後にする。胸の辺りが暖まったような、背筋がすっと伸びるような感覚がある。少し前までは森の中で隠遁生活をしていたというのに、今なお自分はこうして誰かといる方が性に合っているのだなと実感する。
 彼と同じように、カサンドラだって今は己のためだけに魔法の研究をしているわけではない。旧アルベリア国から広がった事件の一端は自分が城を逃げ出した事にもあり、負うべき責任がある。互いに向かうべき先がある限り、誰かのための研究を続けていくだろう。誰だって、後悔を増やしたくはない。
 常に清潔に磨かれた聖城の廊下には、四十年前と変わらない自分の姿が淡く滲んで映っている。
 こつ、とヒールが硬い音を鳴らす。カサンドラは研究棟へと歩を進めた。
 次のアフタヌーンティーは、そう遠くない未来に。




※ここから言い訳エリア
・本当は別のドラガリ関係のを二つくらい書きかけてたんですが、何故かこれが一番最初に出来上がりました。どうしてこれを書き始めたのかさっぱりわかりません。だってプロットすら無くて勢い任せだしこれ……
・筆者は紅茶が飲めません。ここに同席する時にはココアを持っていきますよろしくお願いします
※ここまで言い訳エリア


 ドラガリ5周年おめでとうございまーーーーーー!!!!

 どうしても、どうしてもどうしても何時かアフタヌーンティーコンビのアフタヌーンティーを書きたくて。
 前にレヴィオンのお話書いた時にカサンドラも出してたんだけど、その時はアルベールとの絡みしか無かったから(既にカサンドラ→ユリウスにユリウス坊やとは呼ばせていたけど)。

 その後で、プロフ公開にて二人の特技がどちらも「魔法の開発」だったり、苦手なのが「堅苦しい雰囲気(カサンドラ)」「席次のある食事(ユリウス)」、好きなのが「紅茶(カサンドラ)」「サンドイッチ(ユリウス)」と来て、頭の中でアフタヌーンティーコンビとして組み上がりました。
 書き始めたらすっすと筆が進みまして……楽し過ぎた……これくらいの字数だと気軽に書けて良いですね。じゃあもっと書けよって話な気がしますが……書けないんですよね……。

 さて、ドラガリの●周年でのお祝いは2周年のcry sky cringから毎年1000~5000字の小さな話を書いてきてなんだかんだで続いています。自分がこうして毎年祝い事を祝うというのはドラガリでしか出来ていません。本当にありがとう。これからも祝わせてください。毎年言ってる気がしますがネタだけはなんかいっぱいあります……ぷ、プロットから詰まってるだけで……。

 本音としてはオフライン版かリダイブください。未だにドラガリの無い生活が辛いです……処方箋を出してください……。

 というわけで、先日Googleドライブに自分が録ったドラガリ動画は全て納めたし、書きたいお話だってあるし、まだまだドラガリ熱は自分の中で残り火が燻っている感じです。
 燃料があるわけではないのでここから大出火することは(今のところ)ありませんが、細々と火を絶やさない程度に今後も生きていきたいと思います。
 まだよろしくお願いします、ドラガリ。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 拍手やコメントなどいただけると嬉しくて跳び跳ねます。



☆これまで書いたお話はこちらからどうぞ。

拍手[1回]

お名前
タイトル
メールアドレス
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集用パスワード
管理人のみ閲覧
ブログ内検索
カテゴリ一覧
プロフィール
  • HN:
    ヴィオ
    HP:
    性別:
    非公開
    自己紹介:
    ・色々なジャンルのゲームを触る自称ゲーマー
    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

    【所持ゲーム機】
    ・SFC GC(GBAプレイ可) Wii WiiU NSw NSwlite PS2 PS3 PS4 PS5
    ・GBAmicro GBASP DS DSlite 旧3DS PSP PSV
    ・ミニファミコン ミニスーファミ PSクラシック
    ・PCは十万円くらい。ゲーム可だがほぼやってない
最新コメント
バーコード
<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- ポケ迷宮。 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri / Material by もずねこ
 / Powered by
☆こちらもどうぞ