ポケ迷宮。
ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。
「オレも過去は忘れられませんし……
忘れるものでもないと思っています」
ドラガリ小説4本目。
今回は1本目風味に短いお話です。
ノーストンとリナーシュが出てくるお話です。カップリングではありません。
それぞれのキャラストのネタバレを含みます。
それでは、「催花雨」です。
催花雨
「…………ねえ、あなたが描いている絵、なんでヒューマンがいるの?」
「こっちは……フォレスティアでしょ」
初めて出会った彼女は、自分に向かってそう言った。
その日は雨が降っていたので、オレは軒下でキャンパスを広げて絵を描いていた。謂わば閑暇を潰すための趣味の絵だ。
「種族を越えた出会いを描いていたのです」
「こちらはロッカ族ですし、こちらはドラゴンの子供ですよ」
牡丹色の水晶のような瞳が、絵を凝視した。いくつもの星を散りばめたような、不可思議な輝き方をする瞳だった。
「…………この絵、どうするの?」
「特に予定はありませんが――」
こちらが言い切らないうちに、彼女は口を開いた。
「じゃあ、私が貰っても……良い?」
「……構いませんよ」
「ここを塗ったら出来上がるので、待っていただけますか?」
「…………ありがとう」
素っ気なく、彼女は整った顔立ちを一縷も変えずに、感謝の言葉を口にした。
なんとなくオレは……絵がどうなるのかを察していた。
儚げに、陽炎のように消えてしまいそうに見えたその背中は、ただ彼女の背格好が細身なだけではなかっただろう。
彼女は、ひどく虚ろに見えた。
その後、彼女が絵を燃やしたらしいことと、彼女の身の上話をユーディルから聞いた。
自分の絵の結末は、特に関心は無かった。
何しろ以前は、絵を描いては、自身の手で破り捨てる等の行為はしょっちゅうだったからだ。
そんなこと、と言い切れるわけではないが、それよりも――
それよりも、彼女に対して自分は何か出来ないのだろうかと考えるようになった。
あの絵は、彼女に対して何も響かなかったのだろう。
それが少し悔しくて。
自分に彼女の心を溶かす事が出来ないのだろうか。
そんな事を考えるようになった。
+++++
ある時、中庭で刀を一人で振るう彼女を見付けた。
「お疲れ様です。これ……」
「クラウに、訓練してる人にと差し入れを頼まれました」
「…………そう」
彼女は刀を鞘に仕舞いながら、最低限に反応する。
横顔に、続けて言葉を投げかける。
「すみません、あなたのお話を伺いました」
手元のクッキーの包み紙に伸ばそうとしていた細い手が止まった。
無だった面持ちに、明らかに警戒心が広がった。
「リナーシュ、人との別れは、いつか必ず来ます。好意的に捉えろとは言いません」
「けれど、そうして人との今の繋がりを絶っていては、また同時に、断てるものも無いのです」
「埋め合わせることが出来るのは、同じ幸福でしかないんですよ」
それは、かつて自分が抱いた事のある感情だったから。
少しでも『わかる』から。
「オレも――」
「……そんなこと、あなたには関係ない」
彼女はクッキーを手に取ることなく、その場を去っていった。
足早に去る彼女の背を、追いかけるのが正しかったのかもしれない。
でも、駄目だった。細い背中が遠ざかっていくのを見て、足が竦んでしまった。動かなかった。
彼女の立ち去る姿が、陽炎のように消えそうな背中が、死へと向かっていく人のように見えたのかもしれない。それが、まるで失った人の姿を想起させたのだと……後から冷静な頭で考えることが出来た。
結局自分も、未だに人との一線を引きつづけているのだろう。
時折閃く景色に、染み着いてしまった五感に、今なお追われているような気分になるのは、オレも一緒だったのだ。
+++++
結論から言うと、自分は希望にはなれなかった。
当然だ。自身もまだ影に怯えている一人に過ぎないのだから、灯火になんてなれやしない。
そんな事を、彼女が過去を振り切った経緯を、人伝に聞きながら、考えていた。
しかし、この話にはちょっとした続きがある。
「…………話、良い?」
先に話しかけてきたのは、彼女の方だった。
その日は燦々と降る空の光を浴びるのも億劫になるような天気で、オレは木陰で魔法の練習をしていたところだった。
構わない、と頷くと、
「…………ごめんなさい」
リナーシュは絵を焼いた事に対してどこか後ろめたさを感じ、自分を避けていたらしいことを、ぽつぽつと告げてきたのだった。
「……あなたも、大切な人を失ってるって……場所を失ったって……聞いた」
「…………私、訊いても良い?」
「あなたが過去を……、上手に……思い出に、出来た時のこと…………」
胸元に着けた深紅のリボンの結び目をぎゅっと握り締めながら、俯き気味に問うてくる。
そこに虚ろだと感じたあの日の姿はいなかった。
彼女は、前進しようとしている。
その気持ちを咲かせたのは、きっと彼らだろう。
自分には『わかる』からこそ、泥濘から引っ張り上げる事なんて出来なかった。彼女を引っ張り上げたところで、オレもまだ同じような所にいるのだから。
でも、『わかる』からこそ、伝えられることもあるはずだ。
「上手に思い出になんて……オレも出来ていません」
「孤独じゃないことを恐れたこともあります。今でも、失う事の惨苦を二度と感じたくもありません」
「オレも過去は忘れられませんし……忘れるものでもないと思っています」
「ですが、自今の幸福を捨ててしまうことは、また別のお話ですから」
「……そう」
相変わらず言葉少ない返答ではあったが、口角をほんの僅かにあげて笑顔を浮かべていた。そんな表情をすると、彼女は何処となく愛嬌があって幼く見えた。
照り付けている太陽が、木の葉の間を縫って、彼女の横顔に射し込む。実際には牡丹色である瞳が、何重にも輝いて形容し難い神秘的な色を持っているように見えた。
瞳を眩しそうに細めて、彼女は呟くように、でもはっきりと聞こえる声で。
「…………あなたの言葉、今なら、わたしにも解る」
不幸という巨大な穴は、簡単には埋められない。
それでも、少しずつ、自分の手で修復していくしかない。
「こんなこと、言えた立場じゃないけど…………」
「あの時のような絵を、描いてくれる?」
「わたし……あなたの絵を、部屋に飾りたい」
遠慮がちにそんな言葉を彼女は零し、気まずそうに顔を逸らした。
その言葉に、オレは強く頷いた。
「ええ、もちろん」
八面玲瓏とは言えない、瑕のあるオレ達だから。
小さな心の支えを、少しでも増やしていくのだ。
「…………ねえ、あなたが描いている絵、なんでヒューマンがいるの?」
「こっちは……フォレスティアでしょ」
初めて出会った彼女は、自分に向かってそう言った。
その日は雨が降っていたので、オレは軒下でキャンパスを広げて絵を描いていた。謂わば閑暇を潰すための趣味の絵だ。
「種族を越えた出会いを描いていたのです」
「こちらはロッカ族ですし、こちらはドラゴンの子供ですよ」
牡丹色の水晶のような瞳が、絵を凝視した。いくつもの星を散りばめたような、不可思議な輝き方をする瞳だった。
「…………この絵、どうするの?」
「特に予定はありませんが――」
こちらが言い切らないうちに、彼女は口を開いた。
「じゃあ、私が貰っても……良い?」
「……構いませんよ」
「ここを塗ったら出来上がるので、待っていただけますか?」
「…………ありがとう」
素っ気なく、彼女は整った顔立ちを一縷も変えずに、感謝の言葉を口にした。
なんとなくオレは……絵がどうなるのかを察していた。
儚げに、陽炎のように消えてしまいそうに見えたその背中は、ただ彼女の背格好が細身なだけではなかっただろう。
彼女は、ひどく虚ろに見えた。
その後、彼女が絵を燃やしたらしいことと、彼女の身の上話をユーディルから聞いた。
自分の絵の結末は、特に関心は無かった。
何しろ以前は、絵を描いては、自身の手で破り捨てる等の行為はしょっちゅうだったからだ。
そんなこと、と言い切れるわけではないが、それよりも――
それよりも、彼女に対して自分は何か出来ないのだろうかと考えるようになった。
あの絵は、彼女に対して何も響かなかったのだろう。
それが少し悔しくて。
自分に彼女の心を溶かす事が出来ないのだろうか。
そんな事を考えるようになった。
+++++
ある時、中庭で刀を一人で振るう彼女を見付けた。
「お疲れ様です。これ……」
「クラウに、訓練してる人にと差し入れを頼まれました」
「…………そう」
彼女は刀を鞘に仕舞いながら、最低限に反応する。
横顔に、続けて言葉を投げかける。
「すみません、あなたのお話を伺いました」
手元のクッキーの包み紙に伸ばそうとしていた細い手が止まった。
無だった面持ちに、明らかに警戒心が広がった。
「リナーシュ、人との別れは、いつか必ず来ます。好意的に捉えろとは言いません」
「けれど、そうして人との今の繋がりを絶っていては、また同時に、断てるものも無いのです」
「埋め合わせることが出来るのは、同じ幸福でしかないんですよ」
それは、かつて自分が抱いた事のある感情だったから。
少しでも『わかる』から。
「オレも――」
「……そんなこと、あなたには関係ない」
彼女はクッキーを手に取ることなく、その場を去っていった。
足早に去る彼女の背を、追いかけるのが正しかったのかもしれない。
でも、駄目だった。細い背中が遠ざかっていくのを見て、足が竦んでしまった。動かなかった。
彼女の立ち去る姿が、陽炎のように消えそうな背中が、死へと向かっていく人のように見えたのかもしれない。それが、まるで失った人の姿を想起させたのだと……後から冷静な頭で考えることが出来た。
結局自分も、未だに人との一線を引きつづけているのだろう。
時折閃く景色に、染み着いてしまった五感に、今なお追われているような気分になるのは、オレも一緒だったのだ。
+++++
結論から言うと、自分は希望にはなれなかった。
当然だ。自身もまだ影に怯えている一人に過ぎないのだから、灯火になんてなれやしない。
そんな事を、彼女が過去を振り切った経緯を、人伝に聞きながら、考えていた。
しかし、この話にはちょっとした続きがある。
「…………話、良い?」
先に話しかけてきたのは、彼女の方だった。
その日は燦々と降る空の光を浴びるのも億劫になるような天気で、オレは木陰で魔法の練習をしていたところだった。
構わない、と頷くと、
「…………ごめんなさい」
リナーシュは絵を焼いた事に対してどこか後ろめたさを感じ、自分を避けていたらしいことを、ぽつぽつと告げてきたのだった。
「……あなたも、大切な人を失ってるって……場所を失ったって……聞いた」
「…………私、訊いても良い?」
「あなたが過去を……、上手に……思い出に、出来た時のこと…………」
胸元に着けた深紅のリボンの結び目をぎゅっと握り締めながら、俯き気味に問うてくる。
そこに虚ろだと感じたあの日の姿はいなかった。
彼女は、前進しようとしている。
その気持ちを咲かせたのは、きっと彼らだろう。
自分には『わかる』からこそ、泥濘から引っ張り上げる事なんて出来なかった。彼女を引っ張り上げたところで、オレもまだ同じような所にいるのだから。
でも、『わかる』からこそ、伝えられることもあるはずだ。
「上手に思い出になんて……オレも出来ていません」
「孤独じゃないことを恐れたこともあります。今でも、失う事の惨苦を二度と感じたくもありません」
「オレも過去は忘れられませんし……忘れるものでもないと思っています」
「ですが、自今の幸福を捨ててしまうことは、また別のお話ですから」
「……そう」
相変わらず言葉少ない返答ではあったが、口角をほんの僅かにあげて笑顔を浮かべていた。そんな表情をすると、彼女は何処となく愛嬌があって幼く見えた。
照り付けている太陽が、木の葉の間を縫って、彼女の横顔に射し込む。実際には牡丹色である瞳が、何重にも輝いて形容し難い神秘的な色を持っているように見えた。
瞳を眩しそうに細めて、彼女は呟くように、でもはっきりと聞こえる声で。
「…………あなたの言葉、今なら、わたしにも解る」
不幸という巨大な穴は、簡単には埋められない。
それでも、少しずつ、自分の手で修復していくしかない。
「こんなこと、言えた立場じゃないけど…………」
「あの時のような絵を、描いてくれる?」
「わたし……あなたの絵を、部屋に飾りたい」
遠慮がちにそんな言葉を彼女は零し、気まずそうに顔を逸らした。
その言葉に、オレは強く頷いた。
「ええ、もちろん」
八面玲瓏とは言えない、瑕のあるオレ達だから。
小さな心の支えを、少しでも増やしていくのだ。
※ここから言い訳エリア
・リナーシュの「…」の使い方が独特過ぎてよくわかっておりません……ナディーンとのイベント、見返そうにも見返すものも無いし……
・また絵本作家ですみません。シリアスで書きやすいこの人……後本当にこのキャラが好きなだけ……
・タイトルの「催花雨」とは「春雨。花の咲き出す頃に降る雨」のことを言います。
※ここまで言い訳エリア
詩的なのを書きたかったんだけど、案の定長くなっていきました(挨拶)。
本当は文庫ページメーカーで4枚に収まるようなものを書きたかったのに7枚になっちまった……。
今回勢い任せで書いたりなどし、逆にその大雑把さに身を委ねたりなどしました。でも実は書き始めてから公開まで一か月以上かかってます。なにゆえ?しかも大体そろそろ公開しよ~って読み直してると大幅改修が入ります。なにゆえ……。
雰囲気的にはドラストのイメージの軽さです。多分。
この二人を真面目に長々と書いても面白いかもしれない、と思ったりはしていた。
リナーシュとノーストンって結構類似点があったりするキャラなんですよね。
大事な人等を亡くしてる、その事がトラウマになっている、未来に希望を持っていない、と。
王子はリナーシュの事を「危うい」と言っていたけど、ノーストンだって結構「危うい」人でした。それを本人たちは自分じゃどうにも出来ないところまで追い込まれていたのです。
ていうか☆3や4のキャラって案外重たい過去持ってる人いるよね。過去話聞いてると気軽に人が死んでる……。
リナーシュはキャラの説明文で結構気になっていたキャラだったんだけど、えーっと、その前のガチャのトールで死んだので……それどころじゃなかったんだよね。と言いつつ今は手元にあって、その半年後にバレチェル狙ってる時に降ってきました。欲しかったけど違うそうじゃない、と思ったり思わなかったり。でもキャラスト読めて本当に良かった。うーむ、複雑。
いつも執筆最初に書いたりしている超簡単プロットですが、
リナーシュのストーリーが進む間のノーストン視点
端的な感じで
ここまで読んでいただいた方へどうでも良い小ネタ。本当は前の小説の時に紹介しようと思ったことなんですけど。
耳にピアスしているフォレスティアはノーストンだけなのである。しかも折れてる左耳にしかしていないので意識しないと見えないという。ちゃんと水着でもピアスしてるよ。
……リュカのあれはピアスじゃないよね?
そんなわけで。最近のドラガリ創作。
トークスクショで遊び出したりして(これもいくつか溜まったらブログに纏める予定)、相変わらず創作熱自体は止みませんが、本当に書きたかったものはプロット書いてる時点でうおおお無理だあああってなって大体一ヶ月以上進んで無いという哀しい事態に陥っております。これお蔵入りかもしれない……。
でも別の書きだしたりしてるので、やっぱり熱はまだあります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
拍手やコメントなどいただけますと嬉しくて飛び跳ねます。
☆こちらもよろしくお願いします
cry sky cring(ユーディルとゼシアの短めなお話)
小さな小さな夜の華(スオウとソフィのちょっと真面目なお話)
爪痕を覗いた日(ノエルとノーストンのちょっと真面目なお話)
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HN:ヴィオHP:性別:非公開自己紹介:・色々なジャンルのゲームを触る自称ゲーマー
・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり
【所持ゲーム機】
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