ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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ドラガリ小説12本目。
 6周年おめでとうございます!!!

 色々とネタバレ含みますが、もう特に文章書きません!

 それでは、「n回目のはじめまして」です、どうぞ。




n回目のはじめまして


 その小さな物音が鼓膜を捉えたのは、単に自分の耳がヒューマンよりも良かったからだろう。
 手にした紙束を脇に抱えて、足元に落ちている布を拾い上げる。破れて元が何なのかもよく判らない小さな布の切れ端は、落としたと表現するものなのかも悩ましいものだった。掌の中に収まるくらいの赤い布の切れ端……と言っても、純粋に赤色一色ではない。形の整っていない朱色が模様の一部かのように染み込んでいる。
 外から飛んできたのだと勘違いしてもおかしくない程にか細い代物だったが、何故か――
「ゼーナ、すみません、ゼーナ!」
 何故か奇妙な話だがこの布切れから感じ取れるマナが、呼び掛けた彼女のものと同一だった。
 十数歩も先、呼び止められた少女は、廊下に敷かれた華美なタイルを踏んでいた素足をひたと止める。
「はい、なんでしょう?」
 彼女の元へと駆け寄る頃には、透き通った水晶のような両の瞳がこちらを認めていた。
 ノーストンは手に取った布の切れ端を彼女に差し出した。しっかり握り締めていないと、廊下を通り抜ける風に流されそうだ。
「これ、落としましたよ」
「あ……」その所在に今気付いたらしく、ゼーナは小さく声を漏らした。「ありがとうございます、ノーストンさん」
 控えめだけど廊下の端から端まで聞き取れるような透明な声がノーストンの耳に届く。端然とした所作は滑らかで、彼女の育ちの良さが出ていた。
 だが、そんな彼女の様子が引っかかった。どうも他人への興味を持たないといけない職業柄か、殆ど無意識にゼーナが伸ばした白い腕を避けるように、ノーストンの手は動いていた。
「……あ、あの……?」
 愛らしい人形を彷彿とさせる白い玉のような肌と整った顔立ちに困惑した顔を浮かべて彼女はこちらを見上げる。傍から見たら年下の女性に意地の悪いことをしているのだが、幸いにもと言うべきか、不幸にもと言うべきか、城の廊下を行き交う人はそう多くは無く、皆、自分のすべきことを行っているようで、ノーストンの行いを非難する者はいない。
「ゼーナ……渡す前に一つだけ、オレの質問に答えてくれませんか」
 そう付け足しても、彼女の表情は変わらない。先程から見上げている顔は心なしか自分の瞳からずれている。意図的に目を合わさないように、そしてそれを勘付かれまいようにしているのは、きっと彼女の優しさなのだろうと自然に考えた。
「どうしてオレの名前を知っているんです? あなたが聖城に迎えられた時に紹介は受けましたが、オレはまだゼーナと直接話したことはないはずです」
『今日から聖城の仲間になるゼーナだ』
 城の大広間にそうして彼女が紹介されたのが王子達が帝国決戦を終えて帰還して数日後、つまり昨日のこと。彼女の容姿を見て、人々はそれぞれに驚嘆の声をあげた。王子が帝国から、魔神から妹であるゼシアを取り戻したのだと、真っ先に上がった声を、即座に兄である第七位王子ユーディルが否定した。
『彼女は確かにゼシアだが、この世界のゼシアじゃない。別の世界の俺の双子の妹であるゼシアなんだ。彼女も……ゼーナもこの戦いに協力してくれる』
 そう、自分は遠目にしか彼女のことは見ていない。彼女からしてみれば聖城に集まる大多数の人間のうちの一人であって、だから彼女がまだ名乗ってもいない自分の名を知っているのはおかしな話だった。
 しかしそう言いながらも、ノーストンの頭の中には一つの仮定が浮かんでいた。彼女がどうしてこの聖城に来ることになったのかを考えれば、自ずと見えてくる答え。
 彼女は僅かに躊躇いはあったものの、
「私のいた世界でも、ノーストンさんにお会いしたことがあるんです」
 もうこうして訊かれるのは何度目かと言うようにすらすらと口にした。それは脳内で導き出された答えと同じだった。するとそこに付随しているだろう彼女の態度への答えを、やはり口に出さねばならないだろう。
「もしかしてそのオレは、あなたに何か酷いことをしたのではないですか?」
 結果、ノーストンの予想に反して彼女は首を振った。
「いえ、そんなことは……私の世界のあなたも、異界で会ったあなたも、人のことを気にかけてくださる素敵な方でした」
「他の世界も……?」
「ええ、私はいくつかの異界でノーストンさんに会っています」
「……なるほど」
 どうやら自分の想像よりも、彼女は遥かに多くの物事を経験しているらしい。
 自分のことを驕るつもりはないが、彼女が嘘を吐いていないのもその言っている事実も納得そのものは出来た。だからきっと返す言葉は『オレが迷惑をかけていなくて良かった』という安堵が、きっと正しい。
「オレは物語を創る人間ですから、人並みに人を観察する力はあると自負しています。その上で、あなたからオレに向けられる感情に戸惑いが見られることを伺っても良いですか」
 しかし、彼女の態度を見て、やはり本当に必要なのは謝罪なのかもしれないと思わずにはいられない。踏み込み過ぎたかもしれないと後悔もあったが、ゼーナはノーストンが二の句を告げる前に口を開いた。
「私の世界であなたとお会いしたのは魔神が私の元を離れ、世界を徹底的に壊し始めて間もなくの聖城でした。北大陸から何人かの避難民と共に聖城の場所を聞きつけたと言われました。その時からノーストンさんに良くしてもらったのは本当です。気配りが出来て、今みたいに、人のことを良く見ていらっしゃいます。一緒に来た避難民にも、特に親を亡くした子供にとても親身になっていただいていたのをよく覚えています」
 彼女は一頻り語り終え、小さく息を吐いた。そこから先を言うべきかを躊躇しているようだったが、ノーストンの訊きたい答えはきっとその先にあるのだろう。そう長くない空白の後に、彼女は話し始めた。
「でも……いつもあなたは空っぽだった。自分が無くて、いつも捨て身で……あなたのその黄金色の目は……虚ろでした。それで……」
 そこでようやく、恐る恐るといった様子で彼女はこちらの瞳を覗き込んだ。今度こそ目が合った、と明確に思えた。遠目で水晶のように見えた空色の瞳は双子の兄であるユーディルと同じものだが、清浄、と一言で言いきれない夢幻的な奥行きを感じた。見ていると世界の果てへと吸い込まれてしまいそうになり一瞬眩暈すらも覚えてしまう。廊下の窓から差し込む日光が実体の無いという彼女の存在を写し取らねば、すぐにでも霧散してしまいそうな危うさがある。
「驚かないのですね」
 そう言われて、自分が特段何の反応も示していないことに気付いた。脇に挟んだままの紙束と、まだ手の中に収まっているゼーナが落とした布の切れ端が、風に煽られてばさばさと鳴っているだけだ。
 脇に抱えた紙束を抱え直しながら、ノーストンは沈黙を破った。紙束の隙間から、自分が描いた景色が見え隠れしている。この城に来る前ならば、無残な姿にしていただろう。
「正直、身に覚えはありますからね。あなたはもしかして別の世界のオレにもこの話を何度も?」
「いいえ」再度肯定されるだろうと思った問いに、今度は彼女は首を横に振った。「この世界のあなたが初めてです。他の方に訊かれたことはありますが」
「それは……」ノーストンは、小さく頷いた。「それもまあ、意外では無いのかもしれないですね。きっと気にかける余裕が無かったのでしょう」
 元々他人に見せる感情は激しい方ではないが、凪いだ海のように特に波風立った感情は湧かない。事実を淡々と受け止めて苦笑していると、ゼーナの雰囲気は少しだけ和らいだようだった。
「あなたは私の知るノーストンさんとは……だいぶ雰囲気が違う気がします」
「そう、でしょうね。オレは一人では何も出来なかった人間です。オレはユーディルに会って変われた」
「お兄さまに……」
 現実も空想も、全てが灰色に見えていた時があった。どれだけ手にした絵の具に無限に色があったとしても、紙に乗せた途端に色が失せていく。自分の描く物語から見えるもの全てからあの頃の戦禍の音や誰かの泣き声が鳴り響いてくる。希望を見出だすために描いていたはずの物語が完成に近付くにつれて悲劇を産み出し、現実へ浸透していく。
 そんなどうにもならない底無し沼から救ってくれたのは、外部からの光だった。自分の光で他人を照らすことができる太陽のような存在の彼がいなければ、きっと彼女が今まで見てきたノーストンという人物と同じ道を歩んでいたのだろう。いつまでもどうにもならない現実を、空想を、絵本を、心の何処かで憎んでいたのかもしれない。
「この世界のオレが謝ってあなたの心が晴れるかは解りませんが、辛い経験をしているあなたに暗い影を落としてしまっていたことを詫びさせてください」手にした赤い布地を少女に改めて差し出した。「これ、返します。意地悪をしてしまってすみません」
 強風が吹けばあっという間に飛んでいきそうなそれを、彼女は大事そうに手に取る。僅かに触れたマナで形成して実体を得ているという細い指は、自分の指よりも冷たかった。
「いえ。こちらこそ、失礼な態度を取ってしまったみたいで」
「謝らないでください。ゼーナに非はありませんよ」
「えっと……」布の切れ端を胸元に抱えながら、彼女は口元に人当たりの良い笑いを湛える。「では、ありがとうございます、にしておきますね」
「それを言うべきはオレの方かもしれませんね。こちらこそありがとうございます、ゼーナ。それと、改めてこれからよろしくお願いします。何かあったら気軽に言ってください」
「はい。その時は……頼りにさせてもらいます」
 何処かぎこちないながらも彼女は返答する。その理由を、今度は訊くことはしなかった。
 彼女は丁寧な所作で頭を下げ、振り返って華美なタイルの上を歩き始める。廊下に射し込む日光が異世界からの訪問者という希薄な存在である彼女を照らし続けている。そうでないと見失って元の世界へ帰ってしまうのではないかという錯覚にすら囚われる。
 疑懼の念を抱えている時、他人に打ち明けることにどれ程の勇気が必要なのかは今のノーストンだって理解しているつもりだ。ゼーナのあの目……ゼーナは自分の世界のノーストンを虚ろな目をしていたと言っていたが、彼女自身も遠からず近からず同種に見えるのは決して間違いではないのだろう。
 ゼーナがどうしてこの世界に来てユーディル達と共に行動をするようになったか、ノーストンは聞いてはいない。今後知ることになるのかもしれないし、むしろそうならない可能性の方が高いのではないかとすら思える。彼女からしてみれば、聖城に集まったうちのただの一人に過ぎないのだから。
 彼女がこの世界にいる間に一歩の前進だけでもいい……夢を叶え、心からの笑顔を取り戻す手伝いをしたいと、小さくなる背中を見ながらノーストンは紙束を力を込めて抱き抱えた。







※ここから言い訳エリア
・記念すべき周年でなんでこんなくらい話書くんですか?自分でもよくわかりません
・メインストーリーをまともに振り返ることが出来なかったので時系列おかしいだろとかなったらすみません
※ここまで言い訳エリア

 今回のためにゼーナのストーリーと25章振り返ったんだけど、胃に穴が開きました(挨拶)。
 ゼーナは1作目、2周年の時に書いた「cry sky cring」以来、ノーストンは3作目のノエルとペアの「爪痕を覗いた日」、4作目リナーシュとペアの「催花雨」以来です。

 これもう何度目なんだろうって言うくらい言ってるんですが、どうしてもやっぱりあのエンディングが頭から離れなくて。
 ユーディルに心を救われた人達は、第七位王子ユーディルのいない世界でどうなっているんだろうって。代表格はムムだと思っているのですが、そこにはノーストンも含まれていると思っています。きっと王子と出会わなかったノーストンは何に対しても希望を持てないんだろうなあ、とか。死に場所すら探してそう。

 ゼーナはある意味色々なゼシアに会って吹っ切れたところもあるけど、まだ不安とかを内に秘めてるのはそのままだし、特に城に来たばかりの時は警戒心もあったのかなと。
 打ち解けていって一緒に戦って、それなのに結局あの25章なのはしんどい。そして本当に最後の最後はユーディルがいなくなるから正直どうなんだってなるわけですが……あれ、話ループしてる?


 で、それはそれとして。
 実は元々他の話を書いていたんですね。6周年自体は7月末辺りから取り組んではいたんですが……。
 そんなに長い話を書いてたわけではないんですが、どうにもばたばたとしていて書き終わる気配がなく、急遽今の話を書き始めたのが10日前くらいだったかと思います。もう3000字くらいで収まる話書こ……って。
 その7月末から書いてる話も、本当の原案はドラガリのストーリーが終了するタイミングで出そうか考えていたものだったので、だいぶ長いこと眠っていることに。一体いつ出来上がるのか~。

 微々たるものですがこれからも周年にきちんとお祝いしていきたいです。うおー!

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