ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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当記事はタイトルの二次創作の最後にあたります。
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功罪の秤は誰のために(3/3)


 暴れる可能性もあるけどね、とプリムロゼが言ったので念のため彼女を起こすのは自分がすることになった。だが、アーフェンも離れることを拒んだため、男二人で囲んで少女を起こす形になる。当然だが、アーフェンは血塗れの服からは着替えている。
 シトゲ草には睡眠薬としての効果はあるがあまり強くは無く、力任せに起こしても問題ないらしい。
 実際、肩を僅かに揺らすだけで彼女の瞼は持ち上がった。
「よ! おはようさん」
 柔らかな声色でアーフェンは声を掛ける。その姿を認めた少女はほんの少し笑った。
「悪いお医者さんじゃない人だ……」
 男の子と聞き違う程度に張りのあった声は、喉に張り付いて弱々しかった。
 少女の意識はすぐに明確になる。この場にいる自分達が敵では無いこと、それとヘルゲニシュは捕縛して牢に入れる事になったとアーフェンは告げた。すぐにでも彼が死んだという噂なんて流れるであろうこの街の住人に嘘を吐くいて意味があるのか、それは甚だ疑問であったが、
「……そっか」少女はぽつりと、呟いた。「兄ちゃん、やっぱり良い人なんだね」
 その呟きにアーフェンが返事をする事は無かった。代わりに彼は少女の頭を撫でる。
「おい、止めろよ。なんだよ、子供扱いするなって」
「はは、悪いな」
 慌てて手を振り切る少女にアーフェンは力なく答える。その少女はこちらにも声を投げ掛けた。
「おじさんも、流石俺を捕まえるだけあるね、マルサリムの兵士さんなのか?」
「いや、出身ではないが依頼されてな」
「へぇ」
 自分の語る番になったら、不自然にならないようにオルベリクも嘘を重ねた。あまり人のことは言えないのかもしれない。
「プリムロゼさんも……その、ありがとうございました」
 三人から数歩の間を開けて壁に背を預けて立つプリムロゼは灰色の地味なストールを羽織っていた。ここに来るまでに着ていたコートは当然砂の中に埋めてしまったため、その代わりとして自分の私物を渡した。
「構わないわ。私が自由になりたかっただけだから」
「……そう、ですよね」
 この街で彼女の姿を知らない者はいない、それはこの少女も例外では無かった。そしてその少女も、砂漠の歓楽街の闇に囚われていたのだ。
 それからほんの少し話した後に少女を解放した。家まで送ろうかというこちらの申し出を彼女は断って、煌びやかな灯りもまばらになってきた街へと走っていった。明日から大なり小なり混乱が起こるのだろうあの混沌とした街へ。

+++++

 引っ掻き回したせいでごちゃごちゃになっていた鞄の中から金属製の物を掴む。手袋をしていても刺さるような冷たさを感じる。
「これ……あんたのだろ?」
 地下水路という狭い空間に自分の声が反響する。
 この夜の冷気が支配する砂漠を出ることも、街へ戻ることも選ばなかったアーフェン達は地下水路で一晩過ごすことにした。凍えるとはいえ、ここは普段持ち歩いている毛布でなんとか耐えられる程度の気温である。比較的綺麗な水が流れているので異臭を感じる事も無く、疲れた身体を休めるのには十分だった。
 ランタンの明かりを頼りにアーフェンが薬師の鞄から出したのは薔薇の花の装飾が柄に彫られている短剣である。
「これ……!」
「睨むなよ。あんたが酒場で落としたんだぜ」
 檀上では蝋燭の光を照り返して極上の宝石のように見えていたペリドットの瞳も、闇の中月明かりを映す猛獣の瞳に見えてくるのだから、アーフェンは思わず目を逸らしてしまった。実際ここに月明かりは届いていないが、脳内に展開する光景はいつまでも消えない。
 お互い顔も見ず、不自然に会話が途切れる。さーっと流れる水路の音だけが耳にこびりつく。
「元々、アーフェンはその落とした短剣を届けにここまで来たのだ」
 少し離れた所で腰を下ろして槍を磨いていたオルベリクが助け舟を出してくれた。
「……そう、ごめんなさい」
「いや……」どういう謝罪なのかを察することが出来ずになんと返答したらよいのか言葉が浮かばず、話題から逸らすように短剣の鞘を指し示す。「結んでた紐が切れてたから、もうちょっと頑丈なものにしておいたぜ」
 旅に出る時、何か不便な事態に出くわす事を考えて家から持ち出していた紐だが、まさか物理的にではなく精神的に紐に助けられる日が来るとは思わなかった。こいつもそこまで感謝される時が来るとは思っていなかったろう。
「……ごめんなさい」
 自分の手の平よりも小柄な手が短剣を宝物のように握る。彼女の手の中で輝くその短剣は、元の持ち主の元へ帰ったのを喜ぶように一際美しく見えた。
 先程まで殺気立っていた彼女は、まるで水に濡れた猫のように大人しく、かえってアーフェンにとっては不気味に見えていた。
 それからまた誰も口を開かない時間が続いた。気まずい空気の中で我ながら緊張感も無いが身体も精神もだいぶ落ち着いてきて、少しずつ睡魔がやってきた。普段なら宿で熟睡している時間なのだから無理も無い。
「……この短剣、父の形見なの」
 毛布に身を埋めて顔は背けたままくぐもった声が聞こえた。
「だから……」
 それ以上先の彼女の声は聞き取れなかった。
 端的な言葉だったので、自分の中で都合よく解釈するならば感謝の言葉なのだろうか。彼女から会話を拒絶するような空気が流れていたため、アーフェンは安易に話しかける事も出来なかった。
 アーフェンも瞼を閉じる。サンシェイドに来てからの感覚が目紛しく脳内を駆けていく。口に入った砂の味と、酒場でかっくらったエール。細い骨の浮いた少女の腕と、お金を渡した女性の白く細い腕。砂漠で根こそぎ採られた薬草と悪いお医者さんという言葉。
 そして、殺された男と自害した男。昏い世界に赤黒い血が飛び散る。
 今までだって薬師として人の不条理な死を見てこなかったわけではない。縋った手が落ちていくことなんて何度もあった。だが自分の思う不条理というものは、積極的に手繰り寄せるものではないはずだ。望んで死の舞踏を踊るなんて、どうしてできようか。その答えは今のアーフェンの中からは生まれてはこない。
 毛布の中で、アーフェンは落ち着きなく寝返りを打った。
 長い一日に終止符を打つと同時に、これからどうしようか、という思案が頭の中にあった。
 彼らは他人なのだから、目が覚めれば疑いようもなく別れとなるだろう。プリムロゼはこの街一番の踊子だし、オルベリクは有名な剣士らしい。プリムロゼがこの街に居残るにしろ外へ出ていくにしろ、自分みたいな田舎出の見聞を広げているだけのただの薬師と相容れるはずもない。
 そしてそれ以上に彼らとは相容れない。だって彼らは人を斬り殺す事に躊躇というものが無い。人を生かす為に薬師の勉強をしている自分とは、やはり違う世界にいると思わされる。わざわざ思想の異なる者と歩みを共にする必要なんて無いのだから、このまま道を違えていくのはごく自然だろう。
 ではこの街に留まるか? この街のシステムを根本から覆すことはアーフェンには出来ないが、今日の件で遅かれ早かれ多少の決断を強いられはするだろう。環境の変化に耐えられない者を一人でも救うことは出来るはずだ。
 ……だが。
 だが、本当に彼らとの関係をこのままにして良いのだろうか。
 そう言って、目前の二人を知らないから、理解できないからと関わる事を止めてしまって良いのだろうか。
 そうして逃げた先に自分が目指す人物の背中があるとは思えない。
「俺はさ――」
 聞いているかも判らない、独り言のようにアーフェンの口から言葉が漏れる。
「あんたが酒場で踊っている時、思ったんだ。綺麗で、楽しそうに踊る人だって。あの舞台、すげー良かった。俺はあれが嘘だっただなんて、今でも思ってない」
 かしゃん、と離れた所で鳴ったのはオルベリクが槍を置いた音だ。プリムロゼの反応は相変わらず解らない。
「そしてあの酒場の支配人を殺した時、あんたは酷く悲しそうだった。俺は、それも嘘だったなんて思ってない」
 答えは返ってこなかった。水流がアーフェンの言葉を流して沈黙を引き寄せる。
 どうしても放っておけなかった。
 舞台で踊っていた彼女が、言葉にならない悲鳴をあげているような、そんな気がしたから。
 苦しむ人がいたから助けた。当たり前のことだ。
 そう言った人を、俺は知っている。

+++++

 荒野の乾いた風に段々湿り気が出て、それから幾ばくか歩き続けた頃、波の音に紛れて子供の笑い声が耳にまで届いてきた。
「お、見えてきたな!」
 常磐色の外套をはためかせながら、声色を明るくして先頭を歩く青年が叫んだ。両手を上げた拍子に手にした地図が潮風に浚われそうになり、慌てて引き寄せる。ベージュ色の鞄から軽いガラスのぶつかった音が漏れる。
 ゴールドショア。コーストランド地方にあり、赤茶色のレンガを積んだ家が点在している、少しこじんまりとした街のようだった。
「いやぁ、良いねぇ、港町ってのはさ。開放的だ」
「私は髪がパサつくから、長いこといるのはごめんね」
 潮風に煽られる髪の毛を撫でながら、プリムロゼは冷めた口調で返す。
「そりゃあんたの美貌には気を付けなきゃいけねえとは思うけどよ。あ、この前渡したウツクシ草のクリームは使ってくれてるだろ?」
「ええ。お陰様で旅の中でも手間が少なく化粧出来ているわ」
「だろだろ。潮風くらい大丈夫さ」
 看板に倣って街へ足を踏み入れると、石畳に舗装された道路が姿恰好がちぐはぐな三人を迎え入れた。
 太陽が空を真っ赤に焼く頃に辿り着けたのは幸いだった。プリムロゼは野宿は嫌いなわけではないが、余計なはみ出し者に絡まれないという意味でも、身だしなみを整えるという意味でも、街の宿に泊まれるのは都合が良い。
 外に出ている人もそう多くは無い。ほとんどの住民は家で食事をする時間だろう。プリムロゼ達も宿泊出来る場所を探しに、街の奥へと進み始めた。
「――聞いたかよ、ジークさんも倒れたってよ。これで十人目だぜ」
 民家の際で、そんな会話を聞いたのは、丁度宿が見えて来た辺りの事だった。男二人が家の壁に寄りかかりながら暗い声音で会話を交わしている。
「熱病が流行ってるからな……薬師でもいてくれりゃ……」
「そういや、ちょうど旅の薬師が町に来ているらしいよ」
 青年の眉がぴくりと動いた。感情を隠すことが苦手であるのか、彼は非常に判りやすい。彼の顔には興味という字がでかでかと書かれている。
「凄腕だそうで、その薬はあっという間に熱が引いちまうんだと」
「……ほうほう。珍しいな、他にも旅の薬師が来てんのか」
 それどころか言葉に出てしまっている。彼は長生き出来ないだろうな、と心底同情してしまう。そのうち危ない人間に余計な事をうっかり口にして簀巻きにでもされて海に放り出されるような気がしてくる。
 しょうもない思考を頭の中から取っ払ってると、その中心人物となっていた青年が振り返った。
「悪い、旦那、プリムロゼ。今日は遅いから……明日になっちまうが、ちょっとだけその薬師に会いに行っても良いか?」
 案の定というか、当然というか。
 それでも多少は申し訳なさそうに提案をしてきた。
 隣に立つ男はプリムロゼを一瞥してから、ほんのひと時思案した。気遣い、という感情がその瞳には宿っていた。プリムロゼに対してだけではない、両者への、という言葉が頭につくものだ。
「そうだな。せっかく来たのだ、ずっと気が張っていてはここぞという時に動けないだろう。……プリムロゼ、半日だけでもどうだ?」
 半日だって、待っていられない。本心はそうだ。気持ちだけは急いてもうフロストランドに着いてしまっているように感じる。
「半日だけよ。それ以上は待たないから」
「へへ、ありがとな、プリムロゼ。旦那も」
 だが、彼らを置いて目的地に着く、それ以上に自分には彼らと共に行動することに利はある。腕の立つ剣士と薬師、彼らといる事で選択の幅は何倍にも広がっていくのだ。手放さないようにしなければいけない。特にオルベリクの方は自分への拘りのようなものも感じるので、突き放したとしても勝手についてくるだろうが。
 いや、アーフェンもそうかもしれない。何を思ったか、命を救う薬師という人種が復讐鬼についていくなんて言い出した。相容れないとあの砂漠の夜を過ごした時に感じたはずなのに、翌朝には頑なについていくだなんて言いだした。
 だったら利用するまでだ。自分の復讐を果たす旅を確実なものとさせるために。
 プリムロゼは小さく頷き、石畳をワラーチの底で踏む。その両隣を、彼女よりも背丈の高い男性二人が歩んでいた。
 彼女らに、どんな運命が待ち受けているのか……いまは誰も知らない。









【長文なあとがき】

※ここから言い訳エリア
・オクトラには特徴的なモブが沢山いますが、全く参考にしていません
・途中までカラスの入れ墨を入れた男達の腕には蛇の入れ墨が入っていました。別のゲームだからそれ……
・ユースファとプリムロゼの絡みが好きな方、一ミリも無くてすいません……
・Q.いつから書き始めたんですか? A.オフィーリアトレサを書き終えた前後だったので4年位前ですかね……
※ここまで言い訳エリア

 えっと……オクトラ界隈お久しぶりです(挨拶)。
 オルベリクが左回りに、アーフェンが右回りに旅路を進んだ場合のプリムロゼ1章で旅のお供になるお話でした。
 間違いなくボリュームは増えると思いましたが3分割になるとは……。


 当小説は実は発売に程近い18年の秋くらいに殆ど9割書き上げていたにも関わらず何故かお蔵入りしました。しかし未練だけはたらたら残しており、4周年という今日にあげようと決起したのが去年の秋くらいのことでした。
 しかししかし、その時にはまた別のゲームのお話も書いており……ようやく手が出せる~って時には時期も近付き、今度はゲームで大変忙しい時と完全にぶつかり……すごい大変でした。大変でした。大事な事なので。タイトルもなんならアップした日に決まってます。功罪という単語だけは一週間前から存在してましたが……。
 なんとか向き合うのにオクトラのサントラをよく流してたんですけど、本当に良いサントラだ……西木さんのサイン入りのCDをTGSで手に入れたり、コンサートに行ったりしたのが懐かしいね。


 まずこの小説の構想は真っ先にオルベリクとプリムロゼが書きたかったというものなのだが、ここに全くの正道を行くアーフェンを入れて引っ掻き回してみたいなと思った。はず。
 元々自分のオクトラ小説の執筆理由が、ゲーム中ではどうして彼らが一緒に旅をしているかが物語的に明言されていないので、妄想は自由だ!!のテリオン&ハンイットから始まっているので、今回もそんな感じです。
 プリムロゼとオルベリクのコンビは人気があるようで、公式ノベライズでも選ばれてましたね。各々のストーリーで対象的な行動を取るキャラクターなので、その気持ちはよく解る。というか自分が結構好きなのです。

 何気に一番悩んだのが、ヘルゲニシュをどこまで気持ち悪くするかという……。
 明確にゲーム中では言ってないけど、多分寝たこともあるんだろうなとか……まああるわけじゃないですか。娼婦とも言ってないけど、多分してたと思うのよね。「とっておきだった」だの「満足させれば」だの明らかにその台詞でしょ……。
 この辺りの加減をどうするかっていうのにまた悩んで。ヘルゲニシュ関連は噛み砕くのに時間掛かりました……。


 てなわけで。
 えらい時間がかかったというか放置されていましたが、何気に8人中7人の出会いを書きました。貴方がプレイした時はどれが近かったでしょうか。
 うん? ああ、そう、そうなんです。1人足りないんですよね。

 実は群像劇のようにその人も何処かのパーティに入ってくるまでのお話も考えていて、そのネタだけはある形です。でも今後のゲームスケジュールの過密っぷりや、他の小説ネタなどなどに押され、いつ放出出来るやら。当然ながら一文字も無い本当にまっさらな状態ですし。
 ただオクトラはずっと追い続けます。今日発表されたLPももちろん買いますはい。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 もしよろしければ拍手やコメントなどいただけると嬉しくて飛び跳ねます。


※こちらもよろしくお願いします
枷の男はアルテミスに出逢う(テリオン主人公でハンイットと仲間になるお話)
聖女の道、輪廻の導き(オフィーリア1章を中心、トレサと旅の連れになるお話)
咲けるは淡い夢(第1作目のその後。アンサー的なもの)

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    ・どんなゲームでも大体腕前は中の下~上の下辺りに生息
    ・小説(ゲームの二次創作)書いたり、ゲーム内の台詞まとめたり

    【所持ゲーム機】
    ・SFC GC(GBAプレイ可) Wii WiiU NSw NSwlite PS2 PS3 PS4 PS5
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