ポケ迷宮。

ネッツの端っこにあるヴィオののんびり日記的な旧時代的個人ブログ。大体気に入ったゲームについて語ってます。

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ドラガリ小説13本目。
 7周年おめでとうございます!キリがいい数字ですね!!

 ユリウスとランザーヴ(子供の姿)がメインで、少しだけクラウが出ます。
 それとこの世界に存在するか怪しいファンタジックな輸血注射器が出ますので、そんな物が出ても許せる心を持っている方のみお読みください。

 それでは、「雲上墜ちて、足跡かくして、」です、どうぞ。




雲上墜ちて、足跡かくして、

「……なあ」
 手にした真紅の液体を既に混ぜてあった白濁した粘性の液体の中に注いだ。
「おーい」
 透明な硝子の中では、紅白の二色が鈍い動きながら混ざっていく様子が見て取れるのみで、それ以上の変化が出る様子はない。もし何か反応するなら蒼く光り出して発熱するはずなのだが。
「反応は無い、か」
 独り言ちて思案する。一体どういった仕組みで彼がこんなことになっているのかを解明できないものかとこうしていくつか素材を用意したものだが、今のところさっぱり見当がつかない。
「もしもーし。ユリウスさーん? まだやんのこれー?」
 次の物で何かしら異常が現れてくれると有難いのだが、望みは薄いだろうとも心の端で思ってしまう。ユリウスにも彼に起こっている原理に全く思い当たる節が無い。同じく聖城に籠っている研究者達に訊いてみたい気持ちが強まってしまう。
 一つ小さく息を吐いて、部屋の窓の外へと目をやる。生まれ育った城では見えないはずの植物が、麗らかな陽光を浴びて無数の色合いを表している。昼の時刻を過ぎてこの部屋に直射が刺すことは無いからカーテンは閉めていなかった。落ち込んだ気分を多少はまともにしてくれる。
 穏やかな心持ちで深呼吸をしていると、またしても腰の高さから声が聞こえた。
「聞けよ!」
「ああ、勿論聞いてるよ。ではもう一本お願いできるかな」
「聞いてねえだろ! 注射何本目だよ!」
「ふむ……三本はしたかな」
 特に悪びれもせず事実を伝えると、少年の褐色の肌に乗った口がぱくぱくと水面に顔を出す魚のように開閉している。
 普段は軽装鎧を身に纏っている彼も、今日ばかりは戦装束とは無縁の、白と赤を基調にした服を着ていた。これから土で汚れることが想定される白いシャツは、恐らく本来は礼儀正しく勉学に励むための装いだ。その上に羽織った赤いベストには金色に輝く花型のボタンがついている。胸元に結ばれた薄緑色のスカーフは他の生地に負けず劣らず品質の良いものだった。それは子供だけが通える学び舎で身に着けるべき共通の服装のようである。
 少年は身体が深く沈む真紅のソファの上で靴を脱ぎ捨てた足をぶらぶらとさせていた。床に足は届いておらず、格子柄の半ズボンから覗く丸い膝小僧がこちらを向いている。
 気色ばった顔に、そうでないのはよく解っていながらもユリウスは彼に尋ねた。
「ああ、もしかして眩暈がするとか出血過多の症状でもあるのかい? もしそうなら申し訳ないね」
「心にもねえこと言ってるだろ……」
 錆色の瞳で責めるように睨まれる。流石にあっさりと見透かされてしまい、団長殿のようにからかいがいは無いものだなあと考えてしまう。
 いつも酒や本を乗せているだけの膝丈程度の円卓では適していないため、実験材料は窓際の棚上で乱雑に並べられている中でせせこましく作業している。同室に宛がわれているアルベールはどちらかというと物への執着が無かったり物持ちが悪かったりするが、自分の物は本やら研究用の素材やら酒やらでそれなりに溢れてしまっている。いつか来たる国元に帰る日のことを考えると整理も視野に入れなければいけなくなるのかと思うと少し寂しさが募る。
 ユリウスがそんな物思いに勝手に耽っていたものの、少年の方の文句は止まる様子はなかった。
「っつうかそんな冷静に言うなよ! 痛えよ! 痣になっちまってるだろ!」
「フフ、子供は血の巡りが早いのがよく判るね」
「勘弁してくれ……俺はあんたよか歳上だぞ……」眼の色と同じ錆色の髪を掻き揚げながら、「大体なんでこの身体のこと知ってんだよ。なんかこんな流れになっちまってるけど」
 確かに彼の大人の姿を知っていたところですぐに少年の正体を勘付くものではない。髪や肌の色は変わらないし、言われてみると面影もあるが、そんな突拍子もない考えに辿り着くほど空想主義ではない。
 当然、彼に辿り着くには一つのきっかけがあった。

 昨日のことである。久々に戻った聖城で挨拶がてらに炊事場で菓子を作る手伝いをしていた時だった。
「あーー!!」
 と突然この場の主であるクラウが叫んだと同時に、小さな後ろ姿が炊事場を駆けていった。
「ランザーヴったら、またつまみ食いして……!」
 少女――と言いつつ彼女は三百年を生きているフォレスティアなのだが――クラウは憤りを露わにして頬を膨らませている。両手は小麦粉と蜂蜜とシナモン、そして少量のラードを入れたクッキー生地を練っている最中で今すぐに動ける状態ではないからか、日常茶飯事であるからか、溜め息を吐いただけで自分の作業に戻っている。
 しかしユリウスに今のやり取りは違和感をもたらした。手元で材料を量りながら、ユリウスは彼女の背中に問いかける。
「ランザーヴ、とはあのランザーヴ殿か?」
「ええ、そうです。あのランザーヴです。他に食い意地の汚いランザーヴはこの城にいませんよ」
「だが、今のは明らかに子供だったと思うが……」
「はい。今は子供ですよ」
 なるほど。意味が解らない事象に出くわしていることらしいことだけは瞬時に理解した。
 ランザーヴといえば、この聖城を新アルベリアのユーディル王子が拠点にした頃から携わっている古株の男である。何度も姿を見たことはあるが、傭兵だったというだけあり見るからに歴戦の戦士といった体格は自分より大きかったし、歳も上のヒューマンだったはずだ。
 だが、この炊事場を鼠のように去った姿は子供のそれで、彼女もその事実を認めている。この矛盾を埋める仮説はいくつか想定されるものだが、それでも俄かには信じがたい話である。
「ああ、ユリウスさんはご存じありませんよね」
 ユリウスの熟考による沈黙で、ようやく説明が必要だということに気付いたらしい。クラウは器用にクッキーを花や星の形をした型を使って手を休めることなく、むしろ口調に淀みをこれ以上なく含んだ説明をしてくれた。
「ふむ……」彼女から一連の流れを聞き終え、思わずユリウスは唸っていた。「なんというか、やはり研究者として興味深いと言った方が良いのかな?」
 愛らしい形になったクッキー生地を、既に熱されていた竈に入れる。肌の表面をじりじりと熱い気が撫でていく。
 なんとも擽られるような話である。シノアという聖城にいる女性が研究している時空歪曲装置が暴走し爆発に巻き込まれた結果、肉体のみ時が遡ってしまうのだという。しかも必ずしも全員ではなく一部の者にしか効果を現さないというのだから驚きだ。
「まあ興味深いのは私も同じですけれど……」と言ってから誤魔化すように彼女は咳払いをした。「でも、いくらランザーヴだからって、研究対象にしたりとかしないでくださいね」
 彼女のその台詞を聞いて、ユリウスは思わず唸ってしまった。
 なるほどなるほど。それは妙案かもしれない。

「……というわけで実験を始めたものだが、いやはや、とんと見当もつかないこともあるもんだね」
「ちっ、クラウが余計なこと言わなきゃ……いや、言わなくてもどうせ関係なく誰かはいつか来るか」
「フフ……」
「不気味に笑うだけなの止めろ」
 少年は円卓に乗せられたクッキーを親の仇みたいに乱暴に齧っている。もしここに母親や世話役といった存在がいれば、すかさず注意が飛んでくるところだろう。
 手元で目前の彼には判別がつかないであろう薬品類と掛け合わせてみてはいるが、思った通り反応は無い。真っ先に行き着いた何某かのドラゴンの力だという予想は外れただろうか。
 仕方無い、と手元に置いてあった薬品を拭くための白い布切れを少年の前でちらつかせた。あどけなさの残った丸く色素の濃い瞳の中で、空を舞う綿のように泳いでいる。だがその瞳はすっと細められてユリウスを見上げていた。
「なんだそれ」
「白旗だよ」
 無言で布を奪われ、しかも適当に投げ捨てられてしまった。曲がりなりにもレヴィオン王家の印が入っている代物なのだが、目の前の人物にはそんな身分など関係ないようである。元々この国の王子に対して毛ほどの遠慮もなく、時には兄弟同然でいる男だ。ユリウス自身にも特に敬われたい気持ちも無いので、ただ肩を竦めるだけで悪感情は沸かない。
「研究者の端くれとはいえ専門分野はドラゴンだし、それに私もまだまだ若造だ。君よりも年下の、ね」
「この姿の時に言われてもなあ……」
「時間を取らせて悪かった。次はクレイマン殿と――」「それだけはマジで勘弁しろ」「大丈夫、冗談だよ」「あんたは冗談か本気か判りにくいっつーの」実は少し本気だったがそれを言うと完全にへそを曲げてしまうだろうから黙っておく。
「どちらにせよ今日はもうお手上げだ。せっかくの子供ライフを邪魔して悪かった。用があるならもう行ってもらって構わないよ」
 聞けばこの子供の姿になる現象、何日か姿は持つものの、いつ元の姿に戻るかは判然としないらしい。彼のいつもの目線と地位に縛られない悠々自適な貴重な時間を割いているのは事実なので、素直にユリウスは謝罪をした。
 ユリウスは捨てられた白い布を拾って手元の材料を片付け始め、しかしランザーヴは何か話すどころか立ち去ろうともしなかった。ふてぶてしく片側の肘掛けに肘を立てて片頬を乗せ、こちらを見つめたまま微動だにしない。
「おい」と聞く人が聞けば不躾にも聞こえそうな呼びかけを皮切りに、少年は口を開いた。「最初は本当にただの興味心だけなのかなって思ったんだがよ」
「というと?」
「んー……ざっくり言うとさ、あんたも子供になりたいのか?」
 急に降って湧いてきた疑問に、ユリウスは閉口する。
「……それは、どうしてそう思うんだい?」
 彼は部屋を逡巡した。それも気取られない程度の刹那の時間だったが、どうやら自分達以外の気配を探ったようだ。つまり他人にはあまり聞かれたくない話を始めようとしているらしい。
 ランザーヴは肘をついたまま、こちらを見上げた。
「ユリウス。お前、深淵の種絡みでユーディルに近付いてきた時に俺らのことは一通り調べたっつってたな。じゃあ、俺のことだって知ってるだろ」
 長話になるかと、ユリウスは片付ける手を止めて対面に置かれた椅子に深々と座り込む。それでも当然長身の成人男性と年端もいかない少年であることに変わりないため見下ろすことになってしまうが、鋭い視線は無邪気な子供が浮かべるそれではない。彼を知っているとその人の力量を量るような眼差しは納得のいくものだ。
 南大陸有数の都市セントロータスの領主の息子。何を思ってか彼はその身分を持ちながらも街を出て傭兵業に勤しんでいた。その後は何の因果か、アルベリア王国第七位王子ユーディルと共にいる。突如台頭したディアネル帝国の影響により混乱に陥った南大陸で、街に戻った彼は今は特使という任を受けて、また、新アルベリア王国の戦闘隊長として戦果を上げている。
 一通りの経歴は頭の中で羅列できる。ユリウスは首肯して、彼の続きを促した。
「お前も父親と確執があるって聞いてる。一国の王子っつうのも窮屈だっただろ。碌なもんでもなかった子供時代を感じたいと思うことは、俺は悪いことでは無いと思うぜ」
 まだ髭の生えていない玉の頬に、子供には不釣り合いな不敵な笑みを浮かべてクッキーを頬張っている。
 思えば直接彼と父親の関係を聞いたことはない。今の口ぶりだと、ランザーヴは父親と蟠りがあったらしい。その事実を知れば彼が何故傭兵業をやっていたのかはすとんと納得がいった。破天荒かつ勇猛果敢。城の皆からも、とりわけ彼と親しいユーディル王子にも慕われている男だが、そんな彼にも、一人前の悩みがあったというわけである。
「驚いた。君は私と違ってもっと前向きな人間だと思っていたよ」
「俺だってそう思ってたぜ。今まで子供に戻りたいとか思ったことなんてまっ……」さらさらと流れるように話していたかと思うと急に一しきり溜め込んで、「……ったくねえしな!」と断言した。円卓に置かれたクッキーに手を伸ばしながら、彼は続ける。
「知ってるだろうけどよ、俺は逃げたんだ。何かを切り捨てなきゃならねえっつう政治が俺には理解できなくてよ。ま、今はなんやかんやで結果的に外堀埋められて逃げられなくなったわけだが」
 それからランザーヴはこちらの話はもう良いと誤魔化しで手をひらひらとさせながら声を一トーン落として続きを促した。
「で、どうなんだよ、お前さんは」
 どう、と言われてもユリウスの頭の中にすぐに答えは浮かばない。
 レヴィオンの華やかで格式ばった城の中を、ユリウス自身明るい気分で歩いたことは無いに等しい。それは子供の頃から変わらず、自分の目に映った景色にはいつも灰色だった。
 唯一の肉親とも言える国主の父が息子のことを完全に見離していたのだ。この国と違い自分の生まれ育った国は国王に絶大な権力がある。父の落胆は国の落胆そのものだ。
「君と同じく、なってみたら意外と楽しめるかもしれないけれどね」曖昧にも取れる前置きをしておいて、ユリウスは心臓に胸を当てる。鼓動は落ち着いていて平常と変わらない。「子供らしい子供時代を送ってこなかったのは私も間違いない。だからこそ、なのかもしれないが、無力な頃に戻るのは……どうも抵抗があるんだ。何者でもない自分を思い出してしまうからね」
 その時と比べて、今の国でのユリウスの待遇は悪くはない。息子に期待を持たない国主は変わらないし、無責任に数年不在にしていた事実もあるが、深淵の種という災厄に大きな打撃を受けて未だ国の再興を掲げているレヴィオンには、余分なことを考えるという余裕がない。
 そんな今、ユリウスが南大陸にいることは祖国にとってもむしろ都合が良かったのである。南は資材も食糧も豊富で、まさに必要な物が揃っている。交渉材料に軍事国の団長、そして英雄という称号を持つアルベールの支えもあり、レヴィオンで少しずつでも理解してくれる者がいることを実感している日々だ――父はともかくとして。
 アルベールにこの話をするとそれはお前の手柄だろうと不機嫌になるのだが、自分に出来ることなどささやかなことでしかない。そもそもこの国のように身分や血筋に縛られ過ぎない国を目指したいのは、自分の独りよがりの願望によるところが大きい。
「戻りたくない、というよりも今が一番、充実していると思えるからだろうね」
「へえ、例えばこうして可愛らしい子供を捕まえて実験するのがか?」
「当然。自分の知識を高めて、そしてレヴィオンに持ち帰るのは楽しみだね」
「持ち帰る?」
「うちの国はどうにも古臭くて無駄な慣習が多いから、その膿を取り除くのがしばらくの私の役目かな、と勝手に思ってはいるよ。人を見返す方法は色々あるということさ」ユリウスはソファから立ち上がり、少年に声を掛ける。「ところで、クッキーだけでは喉が渇くだろう。レヴィオンの茶葉で入れた紅茶はいかがかな」
「確かに丁度飲み物が欲しかったところだが……入れるのかここで?」
「もちろん、魔法でお茶の子さいさいだよ」
 壁掛けの燭台の下に置かれた棚を開けて、カップとソーサーを引っ張り出し、今日飲もうとしていた飲料水の入った瓶と陶器でできた壺を並べて両方の封を開ける。
「魔法でんなことできんのか? まさか今炊事場であっためてるお湯を!?」
 何やら邪な期待を込めた眼差しで見つめられてるが、そんな物質を瞬間移動させる類の魔法があるならユリウスの方が知りたいものである。瓶に入った水を壺に注いで魔法をかけながら、ユリウスは冷静に答えた。
「湯を沸かす魔法をサニア嬢に教えてもらってね。試してみたいんだ」
「湯を沸かす……!? だけ?」
「だけだね」
「ぐ……調理室で作ったクラウの食事をこっそり拝借できるかと思ったのに……!」
 握り拳を作って判り易く悔しがっている。冗談の一つかと思ったらかなり本気だったらしい。やはり彼は面白い人物だと苦笑した。
「君は大人と子供の部分を上手に使い分けてるんだね。見ていて飽きないよ」
「別にそんなつもりはねえけど……飽きないってお前の言い方怖えよ」
 水を沸かしている間にサニアから教えてもらった魔法を唱えて、木製の小箱に入れた茶葉も用意する。開ける前から鼻孔を擽る良い香りが漂った。
「君は十分に特使の役割を果たしているだろう? 私がまた何かしでかさないかこうして色々訊いてきてるんだから」
「む……そ、そんなつもりはねえぞ?」
「それだけ思われることを私はやったのだから、君は正しいことをしているさ」
 壺を触ると既に体温くらいに温まっている。小箱を開けて白い布に包まれた乾燥した漆黒の茶葉を匙で掬って、壺に浮かべる。茶葉が香りを漂わせながらぱらぱらと雪のように水面に浮かび上がり、次第に沈んでいく。
 沈黙を埋めるように外で子供の笑い声があがったのと同時に、ソファから呆れを多分に含んだ大きな溜め息がこれ見よがしに吐き出された。
「あんた、やっぱ性格悪いな。ま、ユリウスの言う通りだぜ、……なーんて言ってほしいのか?」にっと生え揃った白い歯が吊り上がった口の端から覗く。但しそれも一瞬で、「でも間違っちゃいないな。そりゃその気も無いわけじゃない。あんたにはそれだけの力があるし、他国の王族と揉め事を起こすなんて繊細な情勢の北グラスティアとの国交問題にだってなりかねない」
 表情を消して彼が語るのを見ながら、清潔な布で壺を蓋して蒸らしの段階に入る。お茶を淹れる作業の中でも特段することはない時間である。ユリウスは棚に背を向けて体重を掛けた。ここから見ると横を向いているソファの上で、少年は相変わらず片方の肘掛けに全体重を掛けている。
「別に、私は好ましいと思うけどね。厄介事を避けるのは君の肩書きを踏まえれば自明のことだろう」
「でもよ、」と、その時彼は吠えるようにこちらの声を遮った。驚いて思わず口を噤むとその隙間に捩じ込むようにランザーヴはソファから背を浮かべて前のめりになりながら、「でもよ、俺は本当にただ一人の人間として心配してるんだぜ。同情とかじゃなくってさ……うーん、親父と一悶着あったとか家を出てきたとかで同情みたいに見えなくもねえけど……もっと……もっとこう、単純な話なんだよ!」
 ランザーヴは顔を上げるやいなや、握り拳から人差し指が伸びて思い切りこちらを指した。
「大体な、お前が考え過ぎなんだよ! 俺がユーディルみたいに他人のこと気にかけてたら変か? 知ってるだろ? 俺は考えるより先に身体が動くタイプなんだ。そういうのはあんたみたいな奴らの仕事だ。小難しいことなんて俺には出来ねえし、力だって借りたいと思ってるんだ。俺はあんたが王子だろうが関係ない、その前向きさに期待してるんだぜ」
 さながら銃弾が放たれるが如く、ユリウスの耳に届く。直情的で言葉選びが下手で……だが誰よりも他人を想い見据えることのできる強さがある。それは決して彼がセントロータスの領主の息子だから手に入れた思考ではない。むしろ種々雑多な傭兵稼業をしてきたからこそ得たものなのだろう。傭兵は選ばれた者がなるわけではない、努力を重ね経験を得続けた者が生き残る世界だ。
 相容れない、と言ってしまえばそれまでだが、補い合える、とそんな経歴を持つランザーヴが言っているのである。
「まったく……。私のことを前向きだなんて言ってきたのは君が二人目さ。君が私のよく知る幼馴染と同じ人種ということがよく解ったよ。君の方が野性的だがね」
「おいおい、レヴィオンの英雄と並べてくれるとは光栄だな。……ってなんだよ野性的って!」
「そのままの意味さ。完熟したベリーの濃密な果肉感が口の中に残るようなワイン、とでもいうようなね」
「余計に解んねえよ! ……ったく、俺が恥ずかしいこと言ったのに流しやがって」
 ランザーヴも手持ち無沙汰になったのか、流石に飽きが来たのか、ソファを立ち上がって隣へとやってきて様々な瓶や巾着が並ぶ棚上を見つめる。彼の身長からだと丁度目線の位置にそれらが建ち並んでおり、錆色の瞳に好奇心を浮かべて訊いてきた。
「これなんだ?」
「それは魔獣と話せるようになる薬、と見せかけて言葉尻ににゃんがつく薬だね」
「は? じゃあこっちは?」
「それは元気を取り戻す薬に見せかけて声だけ大きく張りが出る薬だね」
「……こいつは?」
「緊張を直す薬と見せかけて胃薬だよ」
「何言ってんだお前」
 呆れの混じった鋭い指摘を投げつけてから、また棚を舐めるように瞳が流れる。「ん?」と呟きを漏らしてから、「おいおい……こいつぁスワナメラニじゃねえか」と感嘆を漏らした。
「さっすが王子様。こんな高級ワインをお持ちとは」
「他国の城の中でそんな煽りを言われるなんて思ってもみなかったな……それは確かセントロータスの薬舗で見かけた品物だったと思うよ」
「はー……セントロータスに」
 自分の出身地の名前を聞いて目に見えて渋い顔色になったが、あったところで買えるわけないしなあという率直な感想が漏れている。
 ユリウスは内心苦笑しつつ、
「君が飲みたいというのであれば開けようか」
 と提案した。ユリウスの腰元で唇を尖らせていた彼だが、とにかく勢いで振り向いて今までで一番大きな声をあげた。
「ま、マジか!?」
「マジだよ。但し、君が大人の姿に戻ったらね」
「ぐ……こんな時だけガキ扱いかよ。……ま、しゃあねえか」
 少年も生え揃った白い歯を浮かべて軽口を叩いた。犬歯の覗くその笑いは純真無垢とは程遠いものだった。だが多分、自分も同じような笑みを浮かべているだろう。
「さて、そろそろ紅茶の蒸らしも終えるし、そろそろ飲もうか」
「お、良いねぇ。おかげでクラウのクッキーももっと美味くなる。これ持っていけばいいか?」
「ああ、頼むよ」
 カップとソーサーを二セット持ち、跳ねるような身軽さでソファへと戻っていく彼の赤い後ろ姿を自然と追いかけていた。無尽蔵に出てくる体力を見ていると子供姿も悪くないのだろうなとも思うし、やはり研究するには自分が対象になるのは一つの手かもしれない。彼との話を終えたら後でシノアの元を尋ねてみるのも悪くはないだろう。自分がその選ばれた者になる自信はあまりないものだが、まずは試してみなければ研究者とは言えない。
 まだ諦めたわけではない。国での自分の立場も、彼の身に起きている事象の解明も。
 きっと踏み出し続けていれば、また新しい景色が見えてくるだろう。たった今、彼がユリウスの道の先に光を差してくれたように。
 ユリウスは紅茶を入れた壺を手に、少年の後を追った。





※ここから言い訳エリア
・ランザーヴについて拾いきれてないネタがあったらすみません
・ランザーヴの年齢がよくわからないですが、勝手に20後半~30前半かなと思ってます。ユリウスは他作品設定では20半ばなので、多分ランザーヴのが年上、という雰囲気で書いてます
・ショタザーヴに対してユリウスが「私も君みたいに愛らしい見た目をしていたよ」みたいに言ってランザーヴに鳥肌を立たせるシーンをカットにしたのが悔やまれるのでここに供養します
※ここまで言い訳エリア

 ショタザーヴがあんな可愛らしかったんでショタユリウスもきっと可愛かったに違いない。将来マッチョになろうとも子供時代は可愛かったに違いない。だって母親似って言ってたもん!実際グラブルでは父に似てなかったし!!妄想は自由だ!!!(挨拶)


 どうしてこの二人なのかというと、やっぱり久々にユリウスが書きたくなったのが一つ。
 やっぱり他のニュルおじを介してからドラガリに帰ってくるとちょっと幼くて安心します。ネタもおいしいし、成長の余地がね、まだまだまだまだいっぱいあるのよ……。


 そのパートナーで誰を書こうか考えて二人の案がありました。そのうちの一人がランザーヴ……ではなくショタザーヴだったのです。
 二人とも父親に確執があり、故郷を出ているという側面が似ているなと思いまして。そこを中心に話を書きました。

 ただ、ランザーヴを書くのにも躊躇があって、ストーリーキャラということはつまりストーリーを読み返す必要があるわけで。
 キャラストだけじゃなく最初からセントロータスまで改めて聞き直したんだけど、いや~~~面白い~~~~。なんで終わってしまったのこのゲーム。

 それはそれとして、ランザーヴは性能が本当に好きで好きで(剣ではなくて斧の方)。攻撃と仲間のサポート同時に出来るのが好きだったんですよね。6層解放されてバフ解除や毒付与ついてエンドコンテンツでも十分通用できるキャラでした。

 そんなわけで元々愛用してたんですが、突然エミュール学園と共に殴りかかってきたショタおじさん。

 はい、こっからとても長文を書きます。


 いやなんでこのおっさんはショタに?転生でもした?はともかくとして、 キャラ紹介やガチャよりも先に実装されるスタンプという存在。それでボイスが流れるわけです。

 女 性 声 優 じ ゃ ん !
※CV女性声優の男キャラが好きな人 そしてこれ。
 いやちょろいな自分。
 怪物事変の夏羽で強く意識しだした方ですが、いまやアニメで誰かの幼少期に少し出るだけでもテンション爆上がりしています。藤原さん検定2級くらいあると思ってるので、今ならスタンプだけでも把握できたろうにと思ってます。

 なおこの子の性能。

 以上、長文終わり!

 ところで、クラウと一緒にクッキー焼いてるのは自分のネタから引っ張ってきました。良ければこちらもどうぞ。 気付けばドラガリも7周年。
 2周年から地道にお祝いし続けられているので、これからも続けていきたいと思います。 こういうことしてくれるならリダイブしてくれーーー!!!!

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